徒手空拳の軍神に寄す
平和な世ほどなよやかな美を求めるものだと言う。であれば戦乱の世はどうか、その答えを僕は今まさに目の前にしているのだと思う。
ベルセルクマシンの肖像だと聞いたから、いかにもな機械を想像をしていたのが正直なところ。でも、額縁の中の青年はその血色も、しなやかな筋肉の隆起も影も、並み居る人類よりもよっぽど生命力に満ちているように思える。その体躯が、居住まいが、存在感が「其処に在る」、それだけでもう圧倒的に強者の風格を醸し出しているこの趣。
生物として圧倒的な上位者感を示すこの彼がその実機械であると言う矛盾、それも元々は人類の敵性存在であったと言う皮肉——でも、だからこそ僕はこの彼に一層に人類の希望を見出しているのかもしれないね。即ち、彼のこの今の姿は誰かあの絶望の世界に於いて人類が希望を紡ぐためにこそ創り出したものなのだろうから。
僕がこの彼の目にした時に思い浮かべた言葉は益荒男だ。そうしてつぶさに眺めるうちに至った言葉は軍神だ。生の躍動感に満ちた造形が招いたものが前者であって、よくよく見れば生命がそう易く辿り着けない奇跡の如き諸々を見出した末が後者なんだと思ってる。
美しいヒトだ。鍛え抜かれた体躯の精悍さを語る間すらも僕に惜しませるほどに、ありとあらゆる造詣が雄々しい美しさに溢れた美青年だ。首から上だけに目を向けたって、しっかりと力強い骨格に眦高い涼しげな目元、それでいながら余剰なく凛々しく整った貌にはまさしく男前の二文字を奉りたい。生物が自然における交配で辿り着くにはおよそ奇跡めいたこの造形。イケメンだとか美形だとか、他の言葉では決して表しきれないこの風情。異性はもちろんのこととして、むしろ、同性ほどより深く見惚れるのではないかと思ってしまう。たとえば今の僕みたいにね。前述の雄雄しさに加え、この曇りないアイスブルーの瞳を見つめていると、このヒトこそは誰もが忠誠を誓うべき指導者なのではないかと思えてしまう。それはきっと、そう創られているのだろうから、それを創った誰かに敬意を払うと共に、でも、そうは言ってもそれに相応しく堂々と振る舞うこの彼にやっぱり敬服してしまう。
そうしてその肉体美の背景、或いは|光背《ヘイロー》? 硬質に光を返して流れる豊かな白銀の髪もこの美を一層に盤石なものとしている。内から発行する様な蒼い光を宿しつつ、金属質なこの銀髪は何処か刃にも似てこの彼に一層に硬派な印象を添えていた。
嗚呼、それで、刃と言う言葉のついでに言うならば、僕がこの彼の最高に格好良いと思うところは、|武装していない《・・・・・・・》ことだと思う。たとえば戦にか関わる神々の像を作るとしたら、きっと何かの得物を手にさせたくなるのが人情だと思う。それが軍神だとするならば尚の事、重厚な鎧兜や、何なら勇ましく重厚な戦車も共に添えたくなるのが人のサガではないだろうか。でも、そうしたものを一切排して、肌も守らず露わなスーツを身に纏い、籠手すら除いた黒手袋で、徒手空拳でいるのがこの彼だ。そうして、その装いで居ながらも、軽く握った左の手にも掲げた右の掌にも、はたまた踵を浮かせた左脚にも、つまり、あらゆる一挙手一投足が向かい合う誰かにとっての脅威と思えるこの立ち姿。
だからこそ僕がこの彼を表す言葉は冒頭のとおり、『軍神』に至る。この圧倒的な強さ勇ましさは彼を知らない僕にさえ確かな希望を与えてくれた。勿論それは、僕が彼と同じ陣営に居るからこその、ある種の高みの見物ではあるのだけれど。
この彼が紡ぐ物語はきっとめでたしで終わるのだろう。そんな期待を抱きながら、僕は肖像を眺め入る。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功