煙管と烟、それから駄菓子
|狗枷《くがせ》・ほどろ(雲遊萍寄に揺蕩う獣・h06023)は、"犬のおまわりさん"である。
彼は今──困っていた。
彼のもふもふの尾にしがみついているのが、失せ物に泣く人の子だということが|違う《ヽヽ》けれど。
大切なものなのだと、いただいたものなのだと、おまわりさん、おまわりさんとしゃくり上げ聴きづらい声で訴え続ける童に見えぬよう、ほどろは、あァ、と嘆息をひとつ。
昔色々あったから、もう頑張りたくはないのだけれど。
のらりくらり、己の好きに仕事すら選んでいきたいのだけれど。
「……仕方ねぇ……」
泣く子を放っておけない程度には、ほどろは善良な──あるいは彼自身は認めないかもしれないが──性質を棄て切れないでいたから。
やや倒れていた瞑色の毛に覆われた耳をぴるりと払い、ほどろはちいさな小瓶を取り出した。本日の駄菓子は小瓶の中でひかる星。金平糖だ。
「おいお前さん、もう泣くンじゃねぇ」
日々日々補充されるその駄菓子は、甘味好きの己のためと彼自身は嘯くけれど。童のてのひらに星を転がしてやってから、彼は紺瑠璃の羅宇の煙管を懐から取り出した。
マッチを擦り、一服。戦いのさ中ならば必ずしも実際に煙草を喫む必要はないが、今この時はこの一服も必要だ。
空へ吐き出す紫煙は見る間に翼を得て、二羽の鳥となって舞い上がった。
ひとつは鴉、もうひとつは雀。
紫煙の鳥はまるで窺うようにほどろの頭上をゆるりと泳ぎ、ほどろは童の失せ物について伝える。これも特に口に出す必要はないが、金平糖と煙の鴉と雀に目をまるくしている童への説明も兼ねた。
「行って来い。"わからない"とは言ってくれるなよ」
ほどろが言えば、煙の二羽はそれぞれの飛び方で空の彼方へ姿を消す。それらはもちろんただの鳥ではないが故に視力ばかりが頼りではないから、ほどろは童を振り返る。
「後は待つだけだ。……その間、お前さんのとっときの駄菓子でもあれば教えてもらおうか」
そうして悪戯っぽく琥珀色の瞳を和らげるのだった。
●提案
【煙管】
煙草:愛用の煙管。鴉と雀の形、又はそれ以外の形の煙で索敵や攻撃を行う。
【|烟《けむり》】
どろん煙幕:煙管から放つ煙。鴉と雀の姿模すことが多いが別の形も可能。
【駄菓子】
駄菓子:日によって種類は色々。己への補給用。あるいは童へ分け与えるための。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功