爆弾魔の真実、愛憎の果てにあるものは
●陥穽の残響
その日は夜に雨が降った。雨に濡れた路地裏で、カシム・ディーンは羽織っている濡れたコートを翻した。背後には、銀髪をなびかせる美少女メルクリウスが、傘も差さずに不敵な笑みを浮かべている。彼女の瞳は、まるで星屑を閉じ込めたような輝きを放っていた。
「おめーはいいよな? 念動力で雨粒を寄せ付けねーんだからな?」
「メルシー式の雨合羽だぞ☆ というかご主人サマもメルシーともう繋がってるんだから、同じ技能が使えるよ? コツは想像力だぞ☆」
「マジか!?」
カシムが言われるがままに念じると、なんと自分の体の周りに磁場のようなエネルギーを纏うことができた。
「すごいな……本当に雨粒が避けていくのな……物理エネルギーのベクトルを受け流しているのか?」
「メルシーも考えたことないや。難しいことわかんない☆ それよりも……やっぱり許せないよねぇ!?」
憤慨するメルクリウスが拳を握り、空を睨む。
「襲撃事件は無事解決したけど、結局あの教授と愛人のことはスルーされちゃってるよ!」
「だーかーら、こうやって報酬も出ねーのに自主的な捜査をしてるんだろうが……」
カシムの手には、奇妙な存在――超越魔獣召喚機構『鉱』で呼び出した召喚獣が握られていた。
「やあ、カシム。メタルヴァルガー君だよ。魔獣戦士●●・ヴァルガーもよろしくね? 僕の原典はネオ・ヴァルガーだけどね?」
カシムの手のひらから飛び出したのは、ワイヤーで形作られた掌サイズの目玉の魔獣だった。気の抜けたイケボで喋るその姿に、カシムは眉をひそめる。
「いや伏せ字ィィィッ!? おめーは何言ってんだ!? とりあえず手伝え。調査だ」
この魔獣は誰かを傷つけるような内容以外の願いを叶えてくれる。最終的な目的は件の教授と愛人への復讐だが、調査自体は誰も傷つけることはないのでセーフである。ということでカシムは魔獣へ事情を説明する。優秀な学者……佐藤・悠真(プライバシーほごのため仮名とする)が、ライバル教授の仕掛けたハニートラップで学会を追われ、研究内容を奪われた事件。カシムとメルクリウスは、佐藤の名誉を回復し、黒幕である教授こと山岡・達也(仮名)とその愛人である美里・玲奈(仮名)を断罪すべく動き出したのだ。
「大丈夫だよ、ご主人サマ☆ メタルちゃんはメルシー同様にインテリだからね☆ なにせ魔獣王オリジナルヴァルガーとの戦いでも模倣できたからね☆」
メルクリウスがキラキラした声で応じる。
「まぁ、メルクリウスはそれ以上に頭おかしいんだよねぇ…」
魔獣が呆れたふうにぼやくと、メルクリウスは舌を出して笑った。
●ハニートラップの真相
佐藤・悠真(仮名)、38歳。生物工学の分野で、次世代医療を可能にするナノマシン技術の研究者だった。彼の研究は、がん細胞をピンポイントで破壊する技術で、学会で脚光を浴びていた。だが、2年前、山岡・達也(仮名)教授の策略により全てが崩れた。
きっかけは山岡の愛人、美里・玲奈(仮名)との出会いだった。彼女は28歳の元モデル。彼女は佐藤に近づき、偽りの愛を囁きながら彼を誘惑。ある夜、砂糖の研究所の一室で密会している写真が匿名で学会に送られ、スキャンダルとして大々的に報じられた。佐藤は潔白を訴えたが、既に山岡の手で証拠は捏造され、訴えは握り潰された。マスコミはこぞって佐藤の印象を悪く報道し、世間を煽り立てた。まるで誰かに指示されたかのように。ほどなくして佐藤は学会を追放され、研究の特許は山岡に奪われた。
「手慣れてやがるな、この手口……」
カシムは魔獣がかき集めてきた調査資料を睨みながら呟く。
「こいつら、食い物にしたのは佐藤だけじゃねえぞ。ぜってー他の被害者がいる」
カシムの推理にメルクリウスが目を細める。
「なら、さっさと洗い出そうよ。玲奈の動き、山岡の裏、全部暴いちゃうぞ☆」
うぇへへへへ☆と独特な気持ち悪さを醸すメルクリウスの笑い声が、降りしきる雨の夜に溶けていった。
●魔獣の追加調査
カシムとメルクリウスは、メタルヴァルガーの情報収集能力を駆使して更に調査を進めた。メタルヴァルガーは、ときにネットの奥深くや闇サイトに潜り込み、データベースをハック。魔術的ハッキングによって瞬く間に、愛人玲奈の過去を掘り起こした。
「ほぉ、こいつ、5年前から複数の研究者をターゲットにしてやがる。学会の重鎮や若手研究者、計8人が似たようなスキャンダルで失脚。裏にはいつも山岡の影が……」
メタルヴァルガーの調査内容にカシムの片眉がつり上がった。
「8人……ふざけやがって! まさかこれほどの人数が被害にあっていたなんてな!」
カシムの激昂。メルクリウスも怒りで拳を振り上げる。
「こいつら、ただのクズじゃないよ。組織的な犯罪だよ!」
さらに調査を進めると、山岡が政界の大物議員と癒着している事実が浮上。その議員は科学技術振興の予算を握る要職に就いており、山岡の研究に多額の裏金を流していた。更に山岡がライバル研究者を排除する際に大物議員の一派が手を貸していたことが明らかになった。愛人の美里・玲奈は、そのための「道具」として暗躍していた。無論、彼女にも莫大なカネが流れていた。
「これでマスコミが偏向報道をしていた理由も分かったな……大物議員が各報道局へ圧力を掛けていたんだ!」
カシムが叫んだ。
「だから佐藤の訴えも、全部握り潰されたんだ。そう考えると司法にも山岡とその議員の息がかかってる彼奴らが大勢いそうだな……おいおいおいおい、想像以上に根っこが深いぞ、この案件……?」
困惑するカシム。まさかこれほどの闇が足元に広がっていたとは思わなかった。無報酬でやるような調査ではない。
「でも許せないよ……!」
メルクリウスが歯を食いしばる。
「ご主人サマ! こいつらまとめて幼女祭りで掘っていいよね☆」
「何を言っているか分からねーけど、おめーが犯罪を起こそうとしていることだけは理解できた!」
腰を前後にカクカクさせるメルクリウスに、カシムは全力で彼女の頬へビンタを食らわせた。
●証拠の収集
カシムとメルクリウスは、佐藤を含む被害者たちと接触を開始。被害者の一人、物理学者の田中(仮名)博士は、当時に様子を涙ながらに語った。
「私の量子コンピュータの研究も、山岡に盗まれた……。あの玲奈に騙され、家族まで失った……私も愚かだったのは認めるが、奴らはむしり取れるところが全て奪っていったんだ……!」
「復讐したいか?」
カシムが静かに尋ねる。田中は頷いた。
「だが、証拠がない……」
「証拠なら、俺たちが揃えてやる。喜べ、『お仲間』も他に7人もいるぞ」
カシムは不敵に笑う。
「復讐は楽しむものだぞ? 気楽にいこうぜ……?」
メタルヴァルガーの調査能力で、山岡の研究室のサーバーを魔力でハッキング開始。するとそこには、捏造されたスキャンダル写真の元データや、盗まれた研究資料が山のように眠っていた。さらに、大物議員と山岡の金銭取引の記録も発見。そしてやはり、美里玲奈の銀行口座には、大物議員から多額の送金があった。
「これだけ証拠があれば十分だ。こいつら、詰んだな」
カシムが笑う。その笑みは獲物を狙い定める鷹のように鋭く悪魔的だ。
「後は、これをどう料理するかだ」
「メルシーにいい考えがあるよ☆」
ここめメルクリウスが研究所のパソコンのデータベースにアクセスして、何かを調べ始めたのだった。
●対決の準備
カシムは佐藤と田中ら被害者を集め、かき集めた証拠を提示した。
「これで裁判を起こせ。俺たちが裏で動いて、議員の影響を受けないマスコミにリークする。例の議員の汚職も、山岡のこれまでの悪事も、玲奈のハニートラップも、全部明るみに出してやる。お前達の自由を……取り戻してやる」
佐藤は震える声で言った。
「本当に……私の名誉を取り戻せるのか?」
「約束する」
カシムは力強く頷く。
「カシム・ディーンは、約束したことは護る時もあるってな。ただ……『謝礼』は来た逸してるからな?」
無報酬でここまでやったのだから、大団円の際には少しばかり『お小遣い』をねだっても角は立たないだろう?とカシムはやんわり圧をかけるのだった。
だが、メルクリウスがウズウズしながら怪しい笑みを浮かべていた。
「ご主人サマ、ただ裁判するじゃつまらないぞ☆ 山岡と玲奈、ちょっと『話したい』気分だよね?」
これにカシムは目を細める。
「お前、今日はなかなかキレッキレだな。……まぁ、いいか。それを被害者達が望むなら、僕もその2人への『インタビュー』はやぶさかでないな」
カシムはこの事件に関わってきたかなで最高に悪い笑顔を浮かべていた。
●闇の尋問
深夜、山岡の別荘に忍び込んだカシムとメルクリウス。今日は玲奈の誕生日で、山岡と2人きりだということは既に把握済みだ。
「おらァ! 邪魔するぞこらぁ!」
どがーん!と扉を全力で蹴り倒すカシム。踏み込んだメルクリウスが見た光景は、だらしのない全裸の中年男性がこれまた全裸の女性の上にまたがって腰を振っている真っ最中の様子だった。
「きゃああぁぁぁ!?」
「な、なんだね君達は!」
「キモいんじゃワレェェェェッ!」
パニックになる2人をカシムは殴り飛ばして、一撃で失神させた。そして山岡と玲奈を拘束すると、メタルヴァルガーに周囲の監視カメラをハックさせて映像を改竄。完璧なアリバイを構築する。
明かりをすべて消し、月明かりだけが頼りのリビングルームにて、全裸で縛り上げた2人にメルクリウスが魔法で生み出した氷水をぶっかけた。
「「ギャァァァ!?」」
凄まじい冷気で一瞬で目が覚める2人へ、カシムが歩み寄る。
「やぁ、目が冷めたか? 僕達は佐藤の事件の原因になったオメーらを調べてたんだ。さぁ、全部ゲロってもらおうか?」
カシムがナイフを手に玲奈に近づく。
「お前が何人の人生を壊したか、全部吐け」
だが月明かりで鈍く輝く凶刃を前にしても、玲奈は震えつつ強気だった。
「何!? 証拠なんてないでしょ!」
「想定されたリアクション、ありがとな? 証拠なら、ここにあるぜ」
カシムがタブレットを突きつける。そこには、彼女のハニートラップの全記録が映し出されていた。ご丁寧にハメ撮り動画を撮影させて、なにかあれば家族や親戚に送りつけると脅していたのだ。勿論、警察へ証拠として出していた。被害者達に無理やり撮影されたと嘘の証言をしながら。
「あ、あれは……この人とあのヤバい議員の命令だったのよ……! 私、ただそれに従っただけ……! でないと、私が殺されるから!!」
玲奈が泣き崩れる。
「そ、そうだ、玲奈は悪くない! むしろ、わたし達は『先生』に脅されていたんだ! 信じてくれ!!」
山岡もまた、高橋との取引を白状。全ては金と権力のためだった。そして彼もまた大物議員の使い勝手の良い駒のひとつに過ぎなかった。
「腐ってやがるな……」
カシムが嫌悪感を隠そうもせず言葉を吐き捨てる。
「お前らの罪は、裁判で裁かれる。被害者達が団結して、今頃集団訴訟の準備をしてるところだろうな? だが、その前に……オメーらには被害者たちの怒りを少し味わってもらうからな?」
メルクリウスが笑う。
「ご主人サマの恐怖を刻めば、すこしは自戒になるかもだぞ☆」
「そーだな? つーわけで……メルシー? 幼女祭りとやら……やっていいぞ?」
「えっ? 掘っていいの?? この2人の自尊心を修復不可能になるまでぶっ壊していいの???」
目を輝かせるメルクリウスに、カシムはその祭りの内容を知らぬまま頷いた。
「ああ、やれ」
「ひゃっはー☆ 今夜は寝かさないぞ☆」
いきなりメルクリウスは全裸になると、ものすごい速度で分裂と小型化を繰り返す。
「「花びら30,000大回転あざーっす☆ レッツ☆ドッキングダンス☆」」
股間だけ異様に発達したままのふたなり幼女化したメルクリウス3000人が、山岡と玲奈を気絶してもなお凌辱し続けてゆく。酒池肉林なんて言葉では到底生ぬるい地獄絵図が展開される。
「ンゴーッ!? デカすぎぃ!? ひぎぃぃっ!!」
「オッホ……ッ! らめぇ! しんぢゃうぅぅぅ!」
こうして山岡と玲奈は3日間飲まず食わずで突かれ掘られ続けて、尊厳をズタボロになるまで踏みにじられたのだった。
●正義の裁き
カシムは集めた証拠を、信頼できる独立系メディアにリーク。翌日、そのニュースは全国を駆け巡った。
「科学界の闇! 議員と教授の癒着、ハニートラップで研究者失脚!」
見出しが踊り、山岡と玲奈の顔写真が晒される。大物議員の汚職も明るみに出し、彼は辞職に追い込まれただけでなく地元の支援者からも見限られ、程なくして自宅で死亡しているのを近所の住民に発見された。なお他殺か自殺かは公表されていないが、現場には血塗れの包丁が残されていたらしい。
佐藤と田中らはカシム達が与えた証拠を元に裁判を起こし、心に深いトラウマを負った山岡と玲奈は有罪判決を素直に受け入れた。
『次やったらコレだぞ☆』
メルクリウスの意味深なジェスチャーの脅しが2人を震え上がらせた。
佐藤のナノマシン研究は彼に返還され、学会での名誉も回復。田中ら他の被害者も自由を取り戻すことが出来たうえに、それぞれの研究を取り戻した。
●新たな夜明け
雨が止んだ都会の夜、カシムとメルクリウスはビルの屋上で夜景を眺めていた。
「まぁ、ちったぁマシな世の中になったかな?」
カシムが有名ハンバーガーチェーン店の新作バーガーを齧り付きながら呟く。
「でも、まだまだ悪党はたくさんいると思うよ? もしならなかったら?」
メルクリウスがポテトを口に加えてカシムに迫る。端から一緒に食べ合おうと誘ってるのだろうか。カシムは差し出されたポテトの真ん中を指でへし折り、ちぎると、口に放り込んだあとに答えた。
「そうだな……だったら、その悪党どもを見つけ出して、もう少ししばき倒せばマシになるか? とはいえ、いつ果たされるか分からねえが」
カシムは空を見上げる。雲ひとつない夜空に星々が瞬く。
「その時は、またメルシーが幼女祭りで――」
メルクリウスがウインクすると、カシムが全力で彼女の顔面を殴り抜いた。
「ばっきゃろー! 三日三晩寝ずにおめーらに魔力を供給し続ける身にもなりやがれ!」
カシムは憤慨すると、残りのハンバーガーを喉奥へ押し込んだ。
「つか、 楽しいもんだろ、復讐ってのは。あいつらのスッキリした顔が物語ってたな?」
被害者達の晴れた笑顔に、カシムは満足でに口角を釣り上げた。メルクリウスもつられて笑った。二人は夜の街を見下ろし、次の戦いへと歩を進める。
「メルシーも次が楽しみだよ、ご主人サマ☆」
悪をもって悪を制す。二人の新たな行動指針が生まれた瞬間であった。
(了)
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