シナリオ

レモンの受難、あるいは(自称)天才魔王の大発見

#√EDEN #ノベル

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√EDEN
 #ノベル

※あなたはタグを編集できません。


 ピンポーン。ピンポーン。
「んん……?」
 徹夜明けの皮崎・帝凪がようやく味わっていた睡眠は、騒がしい警告音で妨げられた。
「この音は……我が発明品の耐久テストスイッチだな。はて……」
 帝凪は傍に置いていた|片眼鏡《モノクル》を掛け、警告音を黙らせる。基本的に帝凪が耐久テストを行う時以外は鳴らないが、たまに掃除用ロボットが誤って作動させてしまうことがあった。
 ピンポーン。ピンポーン。またしても音が鳴り響く。アラームのスヌーズ機能と同じだ。スイッチを入れた原因を取り除かないと、一度音を切ってもこれが続く。
「さては掃除ロボが乗り上げたまま停止したか? 仕方がない」
 帝凪は白衣を羽織り、手袋を装着すると、欠伸を噛み殺しながら歩き出した。


 しかし現実は帝凪の予想と違っていた。
「ふぎゃーっ!?」
 情けない|鳴き声《ひめい》を上げ逃げ回る一匹の白猫。ぴょんと跳ねたところへ矢が突き刺さり、びよよんとシャフトが揺れた。
「に、にゃあああ……」
 勿論床は硬いタイルである。つまり避けていなかったら……青ざめる猫の動物的な本能が危険を察知した。ひゅぱぱぱぱ! 風切り音を立て、大量の矢が弓なりの軌道を描いて迫る!
「んにゃーっ!!?」
 猫は全身の毛を膨らませ、慌てて駆け出した。当然ながら鏃は全て床に突き刺さる本物かつ威力のある代物だ。無我夢中で逃げる・逃げる・逃げまくる!
「うにゃにゃ~! にゃんにゃにゃにゃ~~!!」
 まるで助けを呼んでいるかの如き鳴き声を上げ駆けずり回る猫……はて? 何か妙だ。外見もよく見ると普通ではない。毛先と目、そして前肢がレモン色になっているのである。

 ……レモン? まさか!
「|にゃんにゃにゃにゃ《ダイナ様》ぁ~~~!!」
 そう、実はこの猫はただの猫ではない。帝凪の知己である茶治・レモンが、初めての変身魔法に成功した姿なのだ!
「|にゃんにゃにゃぁ《助けてぇ》~~~!!」
 しかし何故こんなところに? その理由は、変身魔法にあった。
「|にゃ《えい》! |にゃんにゃあ《えいえい》! にゃあ~~~|にゃっにゃにゃうにゃにゃんにゃ《やっぱり戻らない》~~~!!」
 ……変身魔法に成功した、まではよかった。だが、未熟なレモンでは、元の姿に戻る=魔法を解除することが出来なかったのである。
 そこで帝凪に助けを求めて|魔王城《巨大ラボ》を訪ねた――と、ここまではよかった。

 つい先程のレモンの様子を振り返ってみよう。
「|うにゃにゃにゃ、にゃにゃんにゃあ《魔王城、大きすぎないですか》……?」
 名前の通りファンタジーに出てくる魔王城のような入口を抜けると、そこはあっという間にSFものの研究所じみた風景が続く。そして、広い。とにかく広い。
 外見は縦にでっかい(※城だから)のに中は横に広い。ご近所さんとのトラブル待ったなしだ。
「|にゃんにゃにゃ《ダイナ様》~……?」
 あるじを求めてとてちて歩き回るレモン。その時……カチリ。
「にゃ?」
 何かを踏んだ。そう思った時には遅かった。ウィーン、と音を立てて目の前の床が左右にスライドしたと思うと、潜望鏡のように顔を出したのは散水用のホースのようなノズルだった。レモンのヒゲがぴくりと動いた。猫に変身したことで鋭敏化した嗅覚が、ノズルの中から漂う刺激臭を感じ取ったのである。それは冬場にガソリンスタンドの近くを通り過ぎたり、ストーブを使うとほんのり漂う臭い――すなわち!

 ――ゴォオウッ!!
「にゃあああああ!?」
 反射的に横へ跳んだのが功を奏した。ノズルから噴き出したのは、炎! 火炎放射器である!
「|にゃ、にゃっにゃにゃんにゃ《ちょ、ちょっと待って》!?」
 ブオオオオ! 火炎放射器はその場でスプリンクラーめいて回転! レモンは慌てて近くの棚に飛び移った。猫でなければ避けられなか……あっダメだ尻尾焦げてる。
「にゃーーーーーー!?」
 レモンは棚の上でジタバタと転げ回り、慌てて尻尾の炎を消した。そしてまた、かちり。
「にゃ!?」
 次に壁のスリットから猛スピードで降ってきたのは、ギロチンだ!
「うにゃあああああ!!」
 あわや真っ二つというところをなんとか跳んで躱したのはいいが、レモンは奥へ奥へと進まざるを得なくなっていた。

 とまあ、このような顛末があって、今に至る。
「おおっ!? 掃除ロボではなく猫であったか!」
「にゃっ!」
 ガシュウン……緊急停止スイッチを押した帝凪が姿を見せると、レモンはとてててと駆け寄った。
「うにゃにゃにゃあ! にゃんにゃにゃ!」
「おうおう、すまんなあ。怪我はないか?」
 帝凪は……赤ん坊を高い高いするような感じで、レモンを思いっきり抱き上げた。
「にゃあ!?」
「うむ! どこも問題なさそうだな。いやあ、このダイナ様の発明品で貴様のようなネコちゃんに何かあったら大変だからな!」
「にゃ! にゃ!」
 ぺしぺし。レモンは猫パンチを繰り返した。いくら猫になっているからといって、こんな大の字で色々丸見えになるようなポーズは恥ずかしい!
「はっはっは、そう怒るな。愛い奴愛い奴!」
(「……しまった! 今の僕ではダイナ様に言葉が通じない!?」)
 当然と言えば当然だが、猫語(?)しか喋れないレモンは意図を伝えることが出来ない。ちゃっかり猫パンチもしてしまっていた。

「まあこれでわかったろう! ここはネコちゃんがウッカリ足を踏み入れてよい場所ではないぞ! そら、出口まで運んでやろう!」
 もちろん帝凪はただの迷い猫としか思っていないので、せっかく目的地に辿り着いたレモンを抱え、入口まで取って返そうとする。
(「嘘! わかりません!? 割と僕っぽいのでは!?」)
 などと訴えたところで通じていないので無駄だ。レモンはとにかく追い返されないよう必死で鳴きまくった。
「にゃ~! にゃあ~!」
「んん? なんだ? 何か伝えたいのか? 妙なネコちゃんだな」
 帝凪の天才的頭脳がその片鱗を感じ取り、訝しむ。
「よかろう! このダイナ様が力を貸してやろうではないか!」
(「ホッ……後は元に戻してもらえば……」)
 くるりと踵を返し、休憩室へ案内されると、レモンはようやく胸をなでおろした……。


 丁度休憩室のテーブルの上には、飲みかけの紅茶のカップが置かれていた。
「おっと、いかんいかん。俺としたことが片付け忘れていた」
「にゃ!」
 抱きかかえられたままのレモンは、しゅっしゅと猫パンチを繰り返す。
「ん? なんだ、これが気になるのか? ダメだぞ、ネコちゃんにカフェインは危険だからな!」
「にゃ! うにゃにゃ!」
 レモンは前肢をペロペロ舐めた。
「にゃ~」
 そして、おもむろに帝凪に見せつけた。
「んん? お茶……そして、舐める……?」
 帝凪はレモンを椅子の上に座らせ、再び天才的頭脳を働かせる……!

 ちなみに、どういうつもりでやってるかというと。
(「そうです! お「茶」に、唾を付けて「治」す! これなら伝わりますよね!」)
 なかなか高度な連想ゲームで名前を伝えようとしていたようだ。
(「ダイナ様ならきっと、いえ絶対に分かってくれるはず!」)
 と、レモンは期待を抱いていたが……。

「そうか、わかったぞ!」
 帝凪は掌をぽんと叩いた。
「喉が渇いたのだな! 待っているがいい、今冷蔵庫から牛乳を出してやろう!」
「|にゃあああ《伝わってない》!?」
 がっくりしている間に帝凪はキッチンへ。戻ってくる間にレモンは考えた。打開策を……!

「ほーら、飲みやすいよう平らな皿に入れて……おや?」
 帝凪が見たのは、休憩室を出て別の部屋に向かうレモンの背中だ。
「おい、待て! どこへ行く! そっちは倉庫だぞ!」
 また何か変な罠が作動してはいけない。帝凪は皿をテーブルの上に置き、慌てて後を追った。
(「ここならきっと……あった!」)
「待てネコちゃん、ここは危……なにィ!?」
 レモンが飛び乗ったのは、埃を被っていた人体模型だった。
「にゃ! にゃんにゃにゃ!」
 レモンは人体模型の頭をぺしぺし叩き、くるりと後ろへ飛び降りた。
「うにゃ!」
 そして、模型の影から現れ、後ろ足で立ち上がると手を広げるように前肢を広げた。
(「これで伝わりますよね! 人間の姿から変身しちゃったんです!」)
 ごとり。音を立てて棚から植物図鑑が落ち、レモンのページを開く。何もかもが完璧……!

「……なるほどな、分かったぞネコちゃん! 来るがいい!」
「にゃ!(ネコじゃないけどありがとうございますダイナ様!)」
 再び抱え上げられたレモンは、だるーんとloooongな感じで伸びながら運ばれた――実験室へ!
「貴様の本当の望みを叶えてやろう! さあ、ここに立つのだ!」
 レモンは巨大な機械装置に繋がれた、円形の足場に立った。いかにもテレポーテーションとか変身とかが出来そうな感じの見た目だ!
(「やっぱりダイナ様を頼って正解でした……!」)
「行くぞ! スイッチ・オン!」
 ダイナは勇ましく機械を起動した。レモンは光で覆われ、そして視界の高さがぐんぐんと高くなっていく!
(「やった! これで元に……ん? あれ??」)
 ぐんぐんと高く……高く、なりすぎている! 30cmは上の帝凪すらも見下ろす高さに!
「にゃあああ!?(なんですかこれ! っていうかまだ猫の鳴き声だし!?)」
「ふはははは! 見るがいい、己の願いが叶った姿を!」
 どん。姿見が置かれると、映っていたのは――さらにLooongになったレモン!
「どうだ! これぞデッカクナル・マシーン! これで貴様は四体合体した敵に負けないほど巨大になりたいという望みが叶って」
「ふぎゃーっ!!」
「グワーッ!?」
 3m級の巨体から繰り出された猫パンチは、極楽のようなぷにぷにと結構ガチめな痛みが合わさっていたという……。
 なお、この衝撃でなんか頭の回路が噛み合い、元に戻してもらえたようだ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト