シナリオ

夢でもいいから、あなたに逢えたら

#√汎神解剖機関 #クヴァリフの仔

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 #√汎神解剖機関
 #クヴァリフの仔

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 その花の花言葉は『追憶』。
 ――あなたには、逢いたい、逢えなくなってしまったひとはいますか?

 そこは地図に載らない場所。地図から消えた場所。
 だれもその場所を、あなたを、わたしを覚えていない。
 けれど私は、私だけはあなたを覚えている。忘れずにいるから。
 人は忘れ去られたときに、二度目の死を迎えるのだという。
 ならば私はあなたを忘れない。
 永遠に、あなたの夢を見続けましょう――。


「√汎神解剖機関にて、クヴァリフの仔による騒動が起きるようなのです」
 否、騒動といっていいものか――と神代・ちよ(Aster Garden・h05126)は苦い顔をした。
「とはいっても、騒動……事件自体はとても静かなものなのです」
 それは、とある廃病院で眠りに落ちると、もう逢えない逢いたい人に会えるという都市伝説。
 しかし、それはクヴァリフの仔によって怪異が引き起こしてしまった、その地に沁みついてしまった呪いのようなもの。
「廃墟で眠ってしまった人はどうやら目覚めず、そのまま衰弱していってしまうそうなのです。迷い込みづらい場所にあるとはいえ、怪異も呪いもとても危険ですし、何より廃墟で眠るのはあまり安全とは言えないので、どうにかしてあげて欲しいのです」

 その廃病院はN県Y市の山奥にあるのだという。彼女の云う通り人の迷い込みづらい立地ではあるが、廃病院というのは人気の廃墟対策スポットだ。
 迷い込む人こそ少ないかもしれないが、自ら噂を聞いてやってくる輩はいるかもしれない。
 呪い自体は能力者たちが実際に廃病院で眠り、その地の呪いのエネルギーを消耗させ、元凶となっている怪異たちを叩けば自然とおさまるだろうという。

「あなたには、逢いたい、逢えなくなってしまったひとはいますか?」

マスターより

ふわふわ
 こんにちは、MSのふわふわと申します。
 二本目のシナリオとなります、お手柔らかにお願いいたします。

 プレイングが送信できる状態の時は受付中です。
 廃病院に侵入し、都市伝説を実行してみてください。あなたはどんな人と逢うことになるでしょうか――。
 2章では進行によって、夢から覚めても夢の中の人が消えない、奇妙な空間に突入します。あるいは、夢を見せる奇妙な怪異との戦いとなります。
 現実に染み出した夢に、あなたはどう対処するでしょうか。
 1・2章は心情寄りになるかと思われます。
 3章は元凶となる怪異とクヴァリフの仔とのボス戦となります。

 同行者がいらっしゃる場合は【お相手さまのID】、3人以上の場合は【グループ名/人数】をご記入ください。

 みなさまのプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『病院に潜む怪異』


POW 医師を装って診察器具を調査する
SPD 業者を装って薬品を調査する
WIZ 患者を装って医師や看護師を調査する
√汎神解剖機関 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マギー・ヤスラ
ネコ【h07071】と一緒に

会いたい人…わたしだったら誰になるんだろう
産んでくれたおかあさん(マギーの出産時に死亡)の顔は知りたいけど…
|彼《ネコ》が傍にいてくれればさみしくはないし
でも、誰かを忘れたくない、忘れさられるのはつらい、そういう気持ちはよくわかる
静かだし、どこか綺麗だけど…見過ごしちゃいけない事件だと思うわ
わたしでよかったら力になりたい

廃墟ってあれこれ散らかっていたりして危険だろうし、障害物は【異形化】【インビジブル融合】でどけたりしながら進むわ
身体が弱かったから、病院の雰囲気ってなんだか懐かしい感じ
ベッドがあればそこで横たわって夢をみましょう
ネコ、手を握っていてね
寧・ネコ
マギーさん【h07070】と一緒に

ぼくより彼女の融合体の方が詳しそうな案件ですね(事件そのものへの興味は薄い)
会いたい人物もなにも、ぼくは幽霊の寄せ集めみたいなものだからなぁ
彼女の夢にお邪魔する形になるでしょうね

廃墟探索しているような人間と鉢合わせた時に備えて人間形態で同行します
彼女みたいな年若い子が独りだと妙な気を起こされてもいけない
【忍び足】であくまで静かに、人もそうでないものも刺激しないように
狭い隙間なんかに入る必要があるなら猫の姿で対応しますよ
…あとマギーさん、この姿でいる時はできれば匡兄さんと呼んでほしいんですが…
あなたが眠ったらぼくも追いかけますからね

「会いたい人……わたしだったら誰になるんだろう」
 マギー・ヤスラ(葬送・h07070)にとっては小首をかしげ思いを巡らせる程度には、思い当たる相手が浮かばなかった。
 廃病院を見上げる彼女の表情は、辺りの木の落とす陰に隠れ見えないが、
(しいてあげるなら)
(産んでくれたおかあさん……かな)
 そうしてマギーは、顔もおぼろな、写真で見ただけの母親の顔を思い浮かべてみる。
 母親は、自分を産んだ時に亡くなっていると聞かされていた。逢えなくなった人――という条件には当てはまるが、果たして記憶にもない人に会えるのだろうか、とマギーは思う。
 それに。
「ネコが傍にいてくれれば、さみしくはないし」
「……マギーさん、この姿でいる時はできれば匡兄さんと呼んでほしいんですが……」
 ふわり、と今までマギーの方にいた白い影、寧・ネコ(鎮魂・h07071)が地面に降り立った。名前の通り白猫だったその姿は、地面に足をつけると同時にヒトの姿をとる。
 かと思うと、そうぽつりとこぼした。どうやらそこは譲れないラインだったらしい。
 本来ならば猫の姿の方がマギーの護衛はしやすい。しかし今回は山にある廃病院である。廃墟巡りをするような人間にうっかり遭遇してしまったら、マギー一人の力ではどうにかできるとは思えない。そういった輩のへの威嚇のためにも、同行は人間の姿の方が良いと思ったのだった。
「まあ、ぼくよりあなたの方が詳しそうな案件ですね。ぼくは逢いたい人、っていうのも思い浮かばないし……マギーさんの夢にお邪魔するかたちになるかと思いますが……」
「いいわ、別に。ネコだもの、夢の中を見られるぐらい」
「そうですか」
 それを聞いたネコは安心したような表情を見せた。それすら、ヒト姿の演技かもしれないが――少なくともその笑みはマギーに安らぎを与えた。

 誰かを忘れたくない。
 忘れ去られるのはつらい。
 どちらもマギーは覚えのある感情だった。誰からも期待されず、贄となるのを待つばかりの日々。それは、忘れ去られるのと何が違ったというのだろう。
 能力に目覚め、寄り添ってくれたネコたちがいなければ、今頃自分はどうなっていただろうか。そう思うと、この事件を放っておくことはマギーにはできなかった。
「さて、それじゃ、廃墟探索といきましょうか」
「はい。とりあえずぼくが前を歩きますね」
「お願いね。……病院って、なんだか懐かしい感じ」
 こういったところにも、もちろんインビジブルたちは存在している。
 おそらく静かな場所を好んでここにいるであろう彼らを脅かしてしまわないように、ネコが忍び足で先行し、どうしても散らかっていて進めない場所はマギーがインビジブルの力を借り道を切り開き、そして入院病棟と思わしきところへたどり着いた。
 場所が場所だけに、ところどころ傷んではいるが、眠れそうなベッドがいくつか置かれている。ほかの病室を覗けば、そこにも。
「ここならだいじょうぶそう。……ネコ、手を握っていてね」
「あ、ちょっと待っててください」
 ネコは羽織っていたジャケットをベッドの上に敷いた。これすらもネコを構成するインビジブルの変容体ではあるが、廃墟のホコリからマギーを守ってはくれるだろう。
「あ……ありがとう」
「いえいえ。あなたが眠ったら、僕もすぐに追いかけますから」
「ええ、待ってるわ」
 横たわるマギーを護るように、ベッドに腰かけネコは彼女の手を握った。
 そうして、二人はあいまいな眠りの中へと落ちていく。

 ――その刹那、やわらかな温もりが、二人をつつんだ気がした。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

史記守・陽
足元に気をつけながら廃墟を進む
…逢いたい人か

想い浮かぶのはただ一人
俺が高校生の時に亡くなった
…大好きだった、父さん

俺の父さんは刑事で凄く忙しい人だった
子どもの頃は年相応に特撮ヒーローとかも好きだったけど
でもいつだって俺にとって一番のヒーローは父さんだった
忙しくて逢えない日が多くても
その分沢山の人を守ってるんだと思ったら寂しさなんて平気だった

…ねぇ、父さん
俺、父さんと同じ刑事になれたよ

夢の中で逢えたら、褒めてくれるかな
それとも叱られるのかな
俺は父さんみたいな立派な刑事になれていない
早く立派にならなきゃいけなくて
理想に手が届いてないのに甘えたこと言うなって

…逢えるなら、逢いたい
喩え夢だったとしても

 足元の瓦礫を乗り越え、史記守・陽(|夜を明かせ《ライジング サン》・h04400)は廃病院を歩いていた。
「逢いたい人……か」
 確か星詠みは実際に眠って夢を見てみるように云っていた。ちょうど入院病棟にたどり着いたようで、目に着いたベッドに横たわる。――少しほこりっぽいが、そこは我慢、だ。コートはどうしようか、と迷って、そのまま寝ころんだ。後でしっかりブラシ掛けをしておこう、と思いつつ。
 そうだ、とコートに思い至って。やはり思い浮かぶのは、ただ一人。
 時を止めたままの、懐かしいあの顔、あの大きな背中。
「――父さん」
 大好きな、刑事だった父。
 テレビの中の特撮ヒーローにだって負けやしない、陽の、家族の、この街のヒーロー、だれよりもかっこいいヒーロー、だった。陽が高校生の時、殉職するまでは。
 否、|だった《・・・》、ではないのだ。今でも彼は陽のヒーローだ。その背を追い続けて、ここまで来たのだから。

 はたして、眠りに落ちた陽の前に、その姿はあった。
「……父さん」
 あの時と寸分違わぬ姿。けれど、自らの視界が上がった分、少しだけ縮んだように見える、その姿。
「俺、父さんと同じ、刑事になれたよ」
 夢の中の父は、ただ笑っている。あのまぶしく優しい笑顔で。
 本当は期待していた。褒めてくれるだろうか。それとも叱られるだろうか。父に未だ追いつけていない自分を。『立派なおまわりさん』になりたいのに、未だなれていない自分を、甘えたことをいうなと。
 けれど、陽が望んだように言葉を掛けてくれることがないのは、きっと。
(わかってる、父さんはもういないんだから)
 これは自分の記憶の中の父なのだ。そして、褒めることも、叱責されるのかもわからないほどには――自分はまだ、迷っているのだと。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ハリエット・ボーグナイン
会いたい人、か……。父さん、母さん……。ふたりに会えたら謝りてえけどよ、でもそれは結局おれが楽になりてえだけ。結局こんなのは自己満足なんだ。いつかちゃんとあの世に行ったらしっかり謝るからさ。

……ああ、でも。……幻だったとしても、会いてえな。ひとりで食うピザはでけえけど味気ねえんだ。ガキのころは独り占めしたかったのにな。

【暗殺】者らしく、夜の闇を【迷彩】のごとく纏いながら廃墟に踏み入る。障害物は脳内麻薬による【ドーピング】をキメて【怪力】で排除。とりあえず寝られればベッドだろうが階段の踊り場だろうが物置だろうがどこでもいい。とりあえず何かあれば咄嗟に身動きできそうな空間を見繕って寝床にするぜィ。

 夜の闇を、何かが過ぎった気がした。それほどに静かな進みだった。
 迷彩を纏ったハリエット・ボーグナイン(“|悪食《ダーティー》”ハリー・h00649)は廃病院へと向かっていた。猫背にふらふらとした歩みは相変わらずだ。
 廃墟は静かだった。時折建物が軋むのは廃墟に立ち入る者として肝が冷えるが、みたところそう古いという訳でもなさそうだ、倒壊の心配はないだろう。邪魔な瓦礫は脳内麻薬をきかせた怪力でうち払い、進んだ。
 ときおり足音のようなものが響くのは、依頼を受けた他の能力者か。
 しばらく歩くと、入院病棟らしきところにたどり着いた。ドアは空いたり閉じたりとまちまちだが、あたりをつけたのは病棟の端にある物置だった。
 ここなら狭く、出入り口も一つしかない。敵襲があったときでも咄嗟に身動きができ、周囲の気配にも気づきやすい。資材も多いから、咄嗟に何かを投げることもできる。
 適当に棚からシーツを引っ張りだし、置かれた箱に背をもたれるように座り、思うことは。
「会いたい人……か」
 ここに来る際に聞かされた噂話。ここに来たのは、それに少しだけ期待があったからだ。
 逢いたい、逢えなくなってしまったひと。
(父さん……母さん……)
 それは、幼いころ亡くした大切な家族。クリスマスにやってきたのはサンタクロースなどではなく、|無粋な闖入者《強盗》だった。
 もしも会えたなら、謝りたい。救えなかったことを、それともあのとき外食に行きたいと駄々のひとつもこねていれば。今と違った自分が、父が、母が、あったのだろうか。
 あのときああしていれば。それは、それこそ廃墟の瓦礫のように積み重なった思いだ。すべてを取りこぼし、そして今では何にもならない。
 そう、もうどうにもならないことを、本心ではわかっているのだ。会いたいと願うことすら、本心では自分が楽になりたいだけだと、自己満足だと、わかっている。謝罪は――√能力者に目覚めた以上、まだいつになるか分からなくなってしまったけれど、
(あの世にいったらしっかり謝るからさ)
 そう、心に決めている。

 ……ああ、でも。
(でも、幻だったとしても、会いてえな……)
 あのとき、血を流しながら、テーブルの上でピザが冷えて行ったことを思い出す。できることなら、笑顔でそれを、湯気を立つピザを三人で、笑顔で囲むあの日であってほしかった。
 一人で食べるピザは大きくて腹は膨れるけれど、味気ない。
(ガキの頃は独り占めしたかったのにな、おかしなもんだ)
 自嘲気味に笑みをこぼす。やがてやってくる眠気に、ハリエットは身を任せる。

 眠りに落ちる刹那、
(ハリエット……ハリー……)
 懐かしい二人の声が、聞こえが気がした。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

カレン・イチノセ
死んだ人に会える、かぁ。
都合の良い話ね。
でも、色んな事に疲れちゃった人にとっては、救いにもなるのかしらね。

私だったら……うん、やっぱり|恩人《おねえちゃん》たちかなぁ。
いや、誰に会っても無意味なのはわかってるのよ?
でも、ちょっとくらい良いじゃない……誰も見てないし。
まぁ怪異が関連している呪いだし、ちゃんと検証したら片付けるわよ?

眠るならそうね、誰もいない部屋の壁にもたれかかって眠ろうかしら。
こういう戦場だと、良くそうしていたしね。
……起きるの嫌になるかなぁ。
あんまり情けない状態にならないよう、気をつけなきゃ。

※恩人について
金髪灼眼でスーツが似合う男前な女
銀髪碧眼でドレスが似合う上品な女

 もう逢えない逢いたい人に会えるという都市伝説。
 それはおそらく、既に死んだ人で、さえ。
「都合のいい話ね」
 けれど、つまりそれは心が疲弊するほど、会いたい人に引きずられているということなのだろう、とカレン・イチノセ(承継者・h05077)は思う。
 死者にしろ、永遠の別れを経た相手にしろ、もう逢えないのだ。その事実は、どうにもならない。どうにもならないなら、受け入れるか、忘れるかでもしないと、生きてはいけない。
 けれど。
「そんな風に疲れちゃった人にとっては、救いにもなるのかしらね」
 随分なことだ。だって、それはどうせ『夢』。目覚めたら誰もいないのだ。逆に空しくならないのだろうかと、カレンは思う。
 それでもここに足を運んでしまったのは、やはり少し、心に引っかかるものがあったのだ。
(……おねえちゃん)
 姉として慕った恩人たちのことを思い出す。
 誰に会ったとしても、無意味なことは分かっていた。
(いや、ちょっとくらいいいじゃない!誰も見ていないし。……ちゃんと検証したら片づけるわよ?)
 事実、実際に都市伝説を味わって、地に沁みついた呪いを消耗させることも必要なのだと言っていたではないか。
 だから、これは必要なことなのだ。
 うむ、と頷いて、カレンは安全に眠れそうな場所を探す。
 幸い、すぐに空き病室は見つかった。ベッドは片づけられているが、それはかえって好都合だった。気配に気づきやすいし、万が一怪異が現れても邪魔になるものが少ない。遮蔽物が少ないのは不便だが、噂の相手は怪異だ。銃撃戦にはまずならないだろう。
(こういう戦場だと、よくこうして眠ったな)
 壁にもたれ、うっすらと目を閉じる。
(……起きるの嫌になるかなあ)
 あまり情けない状態になるのだけは避けたい、と思いつつ、カレンは襲い来る眠気に身を任せた。

閉じかけた瞼の裏に。
あの懐かしい金のいろと銀のいろを、見た気がした。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 冒険 『あべこべでさかさまで不安定』


POW 自我を見失わぬように、気を確かに持つ。
SPD 己を繋ぎ留める、何らかのアイテムや記憶に縋る。
WIZ 不条理な影響に対して、対抗手段を考える。
√汎神解剖機関 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 これは夢の続きだろうか。

 自分は夢をみていた。そのはずだ。
 もう逢えない人に逢える。そんな都市伝説に倣って、眠りについたはずだ。
 けれど、目の前にいるのは――

 先ほどまで夢の中にいた、その人ではないか。

- - - - - - -

 目覚めたあなたの前には、夢に見たその人が立っています。
 どうやらここは既に怪異の手の内にある、とあなたは気づくでしょう。

 怪異の元凶にたどり着くには、なんらかの手段で|目の前のその人《怪異の一端》を振り払う必要があります。

 どうぞあなたの思う、お望みの手段で、この状況を切り抜けてください。
ハリエット・ボーグナイン
……夢だって、分かってんだよ。
けれどもまあ……正直キッツいなあ。
身体はこんなんなっちまっても、酷い事すりゃ心は凹みもするんだぜ……?

まあ、ごめんなふたりとも。
これもちゃんとあの世に行けたらその時にでも改めて謝るよ。
久しぶりに顔見れてちょっとだけ嬉しかったよ。

……じゃあな。

どれだけおセンチになっても心はタフだ。
【狂気耐性】や【霊的防護】を備えているのだから尚更タフだ。
【暗殺】するときの要領で手にした包丁を振るって切り裂こう。
どんなに縋りつきたくなっても、そこにいるのはおれの家族じゃない。
その形を真似したマボロシに過ぎねえんだ。

朝が来たら夢は夢らしく終わっとけ。
足りねえなら鶏の声を聞かせてやんぞ。

(夢だって、分かってんだよ)
 心の中で、ハリエット・ボーグナインは呟く。
(分かっては……いるんだよ)
 しかし、戦えば、無茶をすれば――酷い行いをすれば、心はすり減り疲弊する。なぜなら、体は死んだって心は|生きている《生者だ》からだ。
 目覚めた彼女の目の焦点が結ばれた先にいたのは、あの日のままの二人だった。
『ハリエット、こちらへおいで』
『かわいいわたしたちのハリー』
 変わってしまった自分を、あの日のように呼ぶ。その声が耳ではなく直接頭に響くのは、やはりあれらは何かしらの霊的存在なのだろうと思う。
 幻影たちは手招く。その誘いに乗ったらどうなるのか。頭の霊性な部分で薄々想像はつくからこそ、そちらに行く訳にはいかなかった。
「ごめんな、ふたりとも。おれはまだそっちには行けない」
 すっと、眠る前から警戒に握っていた包丁を二人に向ける。幻であったとしても、両親の姿をしたものを裂くのは多少心が痛む。
(これもちゃんと、あの世に行けたらその時にでも改めて謝るよ)
 それに、本当に自らを愛してくれた両親ならば。この姿になった自分をどう思うかはともかく、愛した娘が歩みを止めることを祝福してはくれないだろうから。
「久しぶりに顔見れて……ちょっとだけ、うれしかったよ」
 写真でも記憶の中でもない二人の姿に込み上げるものを総て押し込め、地を蹴る。
「じゃあな」
 |鈍色の脳細胞《エニグマ》により強化した腕力で振るう刃に容赦はない。
 どんなに縋り付きたくとも、ここに在るのはただの過去の幻影。
 自分の家族では、ないのだ。
「朝が来たら、夢は夢らしく終わっとけ」
 足りないなら鶏の声を聞かせてやる。
 その言葉に応えるように、切り裂かれた幻は、青薔薇の花弁となって散っていった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

マギー・ヤスラ
ネコ【h07071】と共闘

…おかあさん?(目の前の女性が母親であると直感的に察する)
うわさ、ほんとだったんだ…
あのね、もし会えたらひとつだけ言おうと思ってたの
わたしを産んでくれてありがとう、って
いやなこともつらいこともあったけど、今は元気だし仲良くしてくれるひともいるから
だからね、わたしはもうひとりでだいじょうぶ

相手は怖い姿になるかもしれない、ここにいたくなるような誘惑をしてくるかもしれない
【狂気耐性】【鼓舞】で自分を励まして、自分で自分を【慰め】る
ネコが一緒にいてくれてよかった…あなたはいつも、わたしに寄り添っていてくれる
思い出の中に逃げる必要なんてわたしにはないの
寧・ネコ
マギー【h07070】と共闘

(猫の姿で。人型とは口調が大幅に変わる/基本的に表に出るのは鳴き声のみ)
ふむ、アレがマギーの|生産者《ははおや》か
とはいえこんなところにいるのが普通のインビジブルであるわけもない、おおかた怪異の見せる幻覚であろう
彼女が今更誘惑に負けるとは思っていないが、とはいえ多感な時期の子供だ
動揺しているようなら身体を擦りつけてここにいるぞ、と鳴こう
|この女《ははおや》よりはネコのほうが傍にいると自負している
ネコを邪魔者と感じてあちらが攻撃などするようであれば【正体を隠す】【忍び足】を使用

マギーにはネコも、最近知り合った友人達もいる
ゆめゆめ惑わされるなよ

「……おかあさん?」
 マギー・ヤスラが、窓辺に立つ女性を見てぽつりと零した言葉は、そんなかたちをしていた。
 逆光でその表情は見えない。それに、実際に母親に会ったことはない。けれどその輪郭は、わずかに視える面持ちは、まいあさ鏡で見る自分のものに――そしていつか見た写真の女性に似ている気がした。
「うわさ、ほんとだったんだ……」
 眠っていたベッドを下り、その人影と対峙する。
 その心には、抑えきれない懐かしさのようなものが沸き上がってきていた。
 一方、寧・ネコは冷静だった。
 インビジブルの集合体であり過去の記憶のない彼には、今逢いたいと願うような相手はいない。強いて言うならばマギーだろうが、それはまさに目の前におり、いつも傍にいる。ゆえに、彼の前には誰も現れなかった。
(ふむ、あれがマギーの|生産者《ははおや》か)
 インビジブルそのものにしろ、インビジブルが見せた幻影にしろ、こんなところにいるのが普通のそれな訳がない。おおかた怪異が見せる幻覚だろう、とネコは踏んでいた。
 だから。
 猫の姿に戻ったネコは、ともすればふわりと幻影の方へ向かって行ってしまいそうなマギーのスカートの裾をくわえ、引く。
 彼女が誘惑に負けるなどとは万が一にも思ってはいないが、多感な時期の少女であるマギーに対して心配もあった。だめ押しにすり、と足元に身を寄せ鳴く。
「にゃぁ」
 自らがここにいるぞ、と主張するように一声鳴いた。いつもそばにいるのは自分の方だろう、と。
「ネコ。そうだよね、……うん、大丈夫。大丈夫、だよ」
 その感触にはっとしたように、マギーは頷く。わかっているよ、と云う風に。
「……あのね」
 顔を上げ、その女性に向き直る。
 彼女は微笑んでいる、ように見えた。まるで、いとし子を見守る慈母のように。
「もし会えたら一つだけ言おうと思ってたの。
 ……わたしを産んでくれてありがとう、って」
 静かな声で紡ぐ、その言葉には穏やかさがにじんでいた。
「いやなこと、つらいこともあったけれど。今は元気だし、仲良くしてくれる人もいるから」
「だからね、わたしはもう、ひとりでだいじょうぶ」
 それは過去との決別の言葉。心の中に刺さっていた小さな棘を自ら洗い流す、感情の奔流。
 ――どうして、わたしはひとりなの。
 ――どうして、おかあさんはわたしを置いて死んでしまったの。
 幼いころ、くしゃくしゃの写真を手に繰り返した、答えのない問い。
 けれど、もうその思慕とさようならをしよう。自分が生きている『いま』を受け入れたマギーは、そう笑う。
『……ギー、マギー』
 かすかに脳裏に響いた女性の声は、優しい。
『どうか、生きて……生きて、幸せに』
 そう云うと、眼前の幻影は青い薔薇の花弁となって、散った。
 その声は眼前の女性――母親のものだったのだろう。その言葉がはたして本当に『彼女』の言葉なのか、自分がそうあってほしいと望んだ言葉なのか、知るすべはない。
 けれど、もうどちらでもよかった。マギーがいまここにいる、それはあの人がいたから。その事実は変わらない。
「ごめんね、ネコ。心配かけちゃったね」
「にゃー」
 ゆめゆめ惑わされるなよ、と懸念していたネコも一安心。向き合うようにしゃがみこんだマギーのひざにすり、ともう一度ほおずりをする。
「もう大丈夫だよ。でも、心配してくれてありがとう」
「にゃあ!」
「ネコもいてくれるもの。わたしはもう、思い出の中に逃げる必要なんてないの」
「にゃ」
 大丈夫だと、信頼してはいたが。そう言いたげなネコがすり寄ってくるのを撫でると抱き上げ、マギーは立ち上がる。
 もうこの病室には用はない。
「行こうか、ネコ」
「にゃー」
 踵を返し、後ろ髪を引いていた思い出を置いて、ふたりは病室を後にするのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

史記守・陽
夢で逢えたとしても、所詮は夢なんだ

正直ちょっと期待してた
きっとこれが父さんらしい行動を取っていたのなら
…俺は起きることを拒んだかもしれないかもしれない

自分でなんとなく解るくらいには迷ってるし
父さんが居なくなった世界を受け入れられないまま
だからある意味助かったかもしれない

朝になれば夢は醒めるもの
ちゃんと起きて現実に還らなきゃ

俺はもう子どもじゃない
もう一人の大人で、警察官だから
立ち止まっていたら父さんみたいな立派な刑事にはなれないから
進まなきゃ

―さようなら、父さん

今でも父さんは俺の憧れで一番大切な人だよ
いつか俺もそっちに行った時は
今度こそ沢山話を聞いてね

指を切る相手のいない約束をして別れを告げよう

 目が覚めて、夢は夢だと気づく。それは、なんて空しい瞬間なのだろう。
 夢は夢だからこそ、見る者の心を何倍にも増幅する。
 ゆえに、目覚めて『その人』が目の前にいるのに気づいた時、史記守・陽は少しばかり動揺した。
 けれど、その動揺もすぐにおさまる。
「……父さん」
 久しぶりに現実で見る、父の姿。けれど、その姿は微笑んだまま、陽を見るばかりだ。
 ――陽、大きくなったな。
 ――刑事になったんだな。
 そんな風に声を掛けてくれることは、ない。きっとこれは自分の記憶の中の父なのだろう、だから、自分の思うような言動をしか、することはない。
 目の前の『それ』が動かないのは、きっと自分にとって、父は憧れの存在のままなのだろう、と思う。自分はまだ背中を追いかけているままで、だからこそ、|現在《いま》の自分を見た父が、どう云ってくれるのか分からない。
(迷っているし、父さんの居ない世界を受け入れられないままだったから、)
 ある意味助かったのかもしれない、と陽は思う。
 もしもこれが本物の父だったならば、起きるのを拒んでいたかもしれないからだ。
「夢で逢えたとしても……所詮は夢、なんだね」
 吐き出した息には、一抹の寂しさが宿る。
 受け入れられない。陽は父の居ない現実を未だ拒み続けるだろう。
 けれど、偽物に縋るほど、陽はもう子どもではない。
 時は、流れるのだ。
「進まなきゃ」
 立ち止まっていたら、立派な刑事にはなれないから。いつかその姿と並び立てる自分に、ずっとなりたかったのだから。
 そしてその背を追い越す日が来る時こそ、本当にかの人の喪失を受け入れられる時なのだろう。
 いつかまた『本当に』逢えた時は、たくさん思い出話をしよう。そして自分の歩んだ道を、たくさん聞いてほしい。今はただ、その時を楽しみに。
 そっと父の幻影に右掌で触れる。それは砂の城を崩すように、さらさらと青薔薇の花弁となって消えていくのを見送った。
「――さようなら、父さん」
 今でも、父さんは俺の憧れで、一番大切な人だよ。
 そう、こころの中でつぶやいて、指を切る相手のいない約束をした。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

カレン・イチノセ
ハンナさん……瑛華さん……

ダメだ、やっぱり嬉しい……疲れが溜まってるのかなぁ。
最近は色んなことがあったから。

頭を撫でて、よく頑張ったって、そんな風に言ってもらいたいけれど……

でも、それを言われたら分かってしまうの。
ああ、私の妄想がそこにいるだけなんだなぁって。
だって2人は、そんなふうに甘やかしてくれないから。
ハンナさんだったら甘ったれんなって吐き捨てて、瑛華さんは眉尻を下げて、まだ頑張れますよねって言うだろうから。

そうだよね、ごめんなさい。
都合の良い夢を見てしまって。

きっちり片付けるわ……瑛華さんの鎖と、ハンナさんの拳でね。
大丈夫、覚悟はできているから。

ありがとう、とても良い夢を見られたわ。

 たとえ幻影と分かっていても、カレン・イチノセにとって、その姿は安らぎをもたらすものだった。
「ハンナさん……瑛華さん……」
 最近は、本当にいろいろなことがあった。あまりにもたくさんの事がありすぎて、少し疲れていたのだろうか。
(ダメだ、やっぱり嬉しい)
 そう想ってしまう心を止められない。子どもだったあの頃のように甘えて、頭を撫でて、『よく頑張ったな』って、そんな風に言ってもらいたい。
 ――けれど。
「わかってる、わかってるわ」
 そうだ、ハンナも瑛華も、自分をそんな風には扱わない。それは自らが子どもの頃からそうだった。
 二人とも、厳しいが優しくもあった。けれど甘くはなかった。甘さが戦場を生き抜くためには毒であると知っていたからこそ、二人ともカレンを厳しく育てた。それが愛情であることを、カレンはちゃんと知っていた。
 知っていたからこそ、カレンはそんな二人を|恩人《おねえちゃん》と慕っていたのだから。
 なればこそ、ここに『在る』のは、髪に優しく触れる手は偽物であるのだと分かる。自分の妄想がそこにいるだけなのだと。
 ――甘ったれんな!
 ――まだ、頑張れますよね。
 あの二人なら、きっとそう言うだろうから。
「そうだよね、ごめんなさい。都合のいい夢を見てしまって」
 覚悟はできている。だからこそ、憧憬を抱いたその姿に倣って、幻影たちを葬ろう。
 瑛華の鎖と、ハンナの拳。受け継いだふたつの撃が幻影に命中すると、それらははらはらと青薔薇の花弁となって散っていった。
「ありがとう、とても良い夢を見られたわ」
 大丈夫、まだ、頑張れるから。いつかまた逢える時まで、生き抜いて見せるから。
「だからそのときは、ちゃんと褒めて下さいね、おねえちゃんたち」
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『眠る乙女』


POW お休みなさい、良い夢を
【青薔薇の香気】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【睡眠欲】に対する抵抗力を10分の1にする。
SPD ようこそ、私の世界へ
【青薔薇】から【眠りに誘う呪いがこもった棘】を放ち、命中した敵に微弱ダメージを与える。ただし、命中した敵の耐久力が3割以下の場合、敵は【心を乙女の夢に囚われ、身体はやがて衰弱】して死亡する。
WIZ さようなら、貴方はいらない
【青薔薇】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
イラスト 棘ナツ
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

 それぞれの方法で幻影に別れを告げたあなたたち。
 はらはらと幻影が姿を変えた青薔薇たちが集い、ひとつの姿を作った。
 それは青薔薇の寝台で眠る乙女。いままでの幻影は、クヴァリフの仔たちに力を与えられた彼女が見せていたのだろう。
 ――彼女はどんな夢を見ているのだろうか。
 しかし今は、寝台の下、青薔薇たちに力を与えているクヴァリフの仔たちを回収するのが先決だ。

 さもないと、もう一度夢の世界に引きずり込まれることになるだろう。
マギー・ヤスラ
…ネコ、ここまでついてきてくれてありがとうね
あなたのおかげでわたし、迷わずに来られたの
あとは原因になった相手を倒すだけ…ちゃんと、みていてね(Ankerは不可視化しているので場にはいません)

眠り続けるあなたに、しかばねたちの踊りを
【ねこのむれ】を発動、敵への融合を指示
【インビジブル融合】【降霊】で確実に成功させたいわ

眠って、眠って
そうして静かに終わらせるの
やさしい夢をみせてくれたあなたをあまり苦しめたくはない
青い薔薇の花言葉みたいに、今度はどうか希望に満ちたどこかの朝で目覚めてほしい
わたしにはもう夢はいらない、この現実で生きていくから
あなたのほうこそ「おやすみなさい」

「ネコ、ここまでついてきてありがとうね」
 マギー・ヤスラは虚空に声を掛ける。そこに彼がいてくれるのを、確かに感じるからだ。
「あなたのおかげでわたし、迷わずに来られたの」
 廃墟に来る危険を気にして、ここまでついてきてくれたこと。
 母の幻影に惹かれそうになったのを、裾をひっぱって止めてくれたこと。
 それらへの感謝を伝えたい。けれど彼は今、不可視化しており姿はみえない。けれどそこにいるのを感じる。やはり彼は、自分をここに繋ぎとめてくれる存在なのだと再確認する。
 ――ちゃんと、みていてね。
 そう声を掛けると、マギーは青薔薇の乙女に向き直る。

「お休みなさい、良い夢を」
 ささやくように、頭に響く声。それと同時に、甘い香りが辺りを包み始める。眠気がゆっくりと込み上げてくるのは、あの少女の能力だろうか。
 眠ってしまう前に。ネコ、とマギーは呼ぶ。微かに頷くような気配があった。
 いないけれど、そこにいる。
 確かにその血はわたしに流れている。
 だから、ひとりでも、ひとりじゃない。マギーのそばには、沢山のものが在り、彼女を護ってくれているのだ、と、ここへ来て知ることができた。
 護霊「インビジブルキャット」が風を切る音がする。それは少女にとりつくと、その動きを鈍らせる。
 ――ごめんね。
 優しい夢を見せてくれた彼女を、あまり苦しめたくはなかった。
 今度目覚めるときは、どうか『希望』に満ちた朝を迎えてほしい。そう優しいマギーは願う。
「わたしにはもう、夢はいらない」
 この現実と、ネコと、失ったものたちと、インビジブル達と。
 すべてを連れて生きていくから。
「あなたのほうこそ、おやすみなさい」
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ハリエット・ボーグナイン
どんなに夢に縋ったっていつかは覚めなきゃならねえ。
それによ。なんでも思い通りになる、都合のいい夢の世界……満足かい。
現実は残酷だ。逃げたくなることもあるだろうさ。逃げりゃいいよ。
でもな、ときどき立ち止まって過去やら夢やら振り返っても、そこにずっと溺れてちゃあいけねえよ。

ガスマスクによる【毒耐性】にて薔薇の香気による睡眠に耐え、それでも厳しければ【医術】で自身を傷つけ痛みで強引に覚醒する。クヴァリフの仔たちを【怪力】で引き剥がし、棺桶に放り込んだら鎖で【捕縛】し、無効化を試みる。

━━もう起きる時間だ。雨が止むように、風が止むように、夜が明けるように。
夢は覚めるもんだよ。……おはよう、ねぼすけ。

 どんなに縋ったところで、いつかは覚めねばならない夢だ。
「それによ。なんでも思い通りになる、都合のいい夢の世界なんて」
 果たして、それで満足なのだろうか。思い通りの夢なんて、目覚めた時、余計に空しくなるだけだというのに。
 現実は残酷なものだ。ハリエット・ボーグナインはそれを、身をもって知っている。
 失われたものはかえらない。選択をのがしたものは、容赦なくその手から零れ落ちてゆく。
 そうだ、逃げたくなったときは逃げてもいいのだ、とハリエットは思う。立ち止まろうと、夢の中に浸ろうと、振り返ろうと、それは自由だ。
 けれど、それに溺れるのは違う。――違うのだと思う。

 だから、ハリエットは戦う。
 先ほどから周囲に眠気を誘う香気が漂い始めていたのには気づいていた。抜かりなく用意していたガスマスクを装着すると、自らを襲っていた眠気が多少薄らいだことに気づく。
「こいつは効くみたいだな……けれど、」
 念のためだ。自らの太腿、大きな筋肉や血管を避けて痛みを与え、強制覚醒を促す。これで当分眠ることはないだろう。
「おら、こっちに来い!」
 |鈍色の脳細胞《エニグマ》による怪力で、薔薇にひっつき縋り付くクヴァリフの仔たちを引っぺがしていく。ぽいぽいと棺桶に放り込めば、ぼよぼよと拒むように跳ねる音がしたが、蓋をしっかり閉じ鎖で巻き付ける。

――もう起きる時間だ。雨が止むように、風が止むように、夜が明けるように。
「夢は覚めるもんだよ。おはよう、ねぼすけ」
 ハリエットは、眠る少女を起こすように、その肩をゆすった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

史記守・陽
夢の残滓は少し寂しくて
さようならの感触がこの手に残っている
夢に縋れる程子どもじゃないけど
夢を割り切れる程大人でもない

だけれど
明けない夜はないように
醒めない夢だってないんだから

―父さん、俺に力を貸してくれる?

大切な記憶と想いを糧に能力を発動
恐れることなく踏み出して夜明けの一閃を

まだ俺は父さんという|理想《ゆめ》を捨てられない
絶対父さんみたいな立派な刑事にならないといけないのに
どれだけ走っても父さんの背に手が届くことはなくて
逸る気持ちだけがずっと先走ったままの夢を見ている

きっとこの夢は永遠に醒めることはない
でもいつかその夢を乗り越えられたのなら
その|未来《さき》には、どんな夜明けが待っているのかな

 ――夢の残滓は少し寂しくて。
 さようなら、と触れた感触とぬくもりが、まだ史記守・陽の手のひらに残っていた。
 夢に縋れるほど子供じゃないけれど、夢を割り切れる程大人でもない。
 陽にとって、父の面影はその最たるものだったのだろう。だからこうして、夢の中で『逢うことができた』。
 けれど、開けない夜はない。
「醒めない夢だってないんだから」
 だから、君もいつか目覚めなくては、ね。陽は青薔薇の乙女を前に、穏やかな声でそう呟いた。
 眠らせた相手を夢にとりこみ、衰弱してエネルギーを啜る怪異……それが今回の『これ』の正体だったのだろう。
 ならば、これ以上人が罠にかかる前に、一般人をまもらなければ。『おまわりさん』になった陽として。

 ――父さん、俺に力を貸してくれる?
 記憶の中の父は、微笑んで頷いてくれたような、気がした。
 陽は踏み出す。恐れることなく、これは夢からの一歩であり、敵へ向かって行く一歩。
 |蕾琳顕現《ディシィデリウム・ジェネシス》はその笑顔の記憶さえも取り込み、居合の一閃に力を与える。
 それは敵を察知しこちらに向かってきていた薔薇の蔓を切り裂き、陽に傷を与えることがなかった。
 斬って、斬り裂いて、陽は乙女のもとへとたどり着く。その根元のクヴァリフを捕えると、陽は思った。
「まだ俺は父さんという|理想《ゆめ》を捨てられない」
 絶対に父のような刑事になる。それは幼いころから、あの父を失った日から、ずっと抱いている|願い《ゆめ》だ。
 けれど走っても走ってもその手に手が届くことはなくて、逸る気持ちだけがずっと先走ったままの|夢《いま》をみている。

 きっとこの夢は永遠に醒めることはないのだろう。陽にはそんな予感がする。
 ――でも、いつか乗り越えられたのなら。
 その|未来《さき》には、どんな夜明けが待っているのだろう。
 陽とは、昇り世界をあまねく照らす、夜明けの日。
 彼は、いつかその名を自らにつけたであろう父と母を想った。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ベルナデッタ・ドラクロワ(サポート)
西洋人形の付喪神です。身体には所々ひび割れがあります。ひび割れを気にしていませんが、言及するとはぐらかします。着飾ることとお着替えは好きですが、露出は好みません。

物を大切に扱う・慈しむ人には優しく、傷つけるものには容赦なく行動する方針です。無機物全般には仲間意識があり、世の中の全てのものが求められる人の手に渡ることを祈っています。
友好的な相手にはやわらかい語調、敵対者には語気が強まります。
戦闘は選択したものの中で適切そうなものを。
疑似臓器の装備があるので飲食可能です。

上記と合わせて法と倫理から外れる行動は取らないこと、でおまかせ。
お目通しに感謝を。

 ベルナデッタ・ドラクロワ(今際無きパルロン・h03161)がその戦場を訪れたのは、本当に偶然だった。
 旧い病院と、そこに残された者たちの囁き。そんなものたちに呼ばれ、彼女はここを訪れた。
「ごきげんよう。ワタシを呼んだのはあなた?」
 待合室に飾られていた花瓶は、かつて豪奢な造花の花束を飾り、順番を待つ者たちの目を楽しませていたのだろう。
「……そう、助けてほしいのね」
 花瓶の声を聴いたベルナデッタは歩を進める。その先に逢ったのは、病院には似つかわしくない豪奢な天蓋付きベッドとそれを包む青薔薇。
 中央には、動くことなく眠る乙女が一人。
 さらにその周囲には、ぶよぶよとした怪物たちが辺りを飛び跳ねている
「この病院を蝕んでいるのは、あなたたちなのかしら」
 ベルナデッタは察した。これはここにあるべきものではないのだろう、と。
「応えて。友よ」
 短く詠唱をすると、ひび割れた花瓶がかつてあった美しい姿を取り戻す。花を飾った、美しいその姿。力を貸してくれてありがとう――そう伝えると、頷く気配があった。
 |Mémoire d'Étreinte《メモワール・デトレント》。記憶から生まれた黒い弓矢が、ベルナデッタの手に現れる。
「だめよ、静かに眠っている皆を起こすのは」
 射られた矢が、青薔薇の乙女とクヴァリフの仔たちを襲った。
🔵​🔵​🔴​ 成功

カレン・イチノセ
※アドリブ、連携歓迎です

さぁ、いよいよ本題ね。
回収するには接近しなくちゃ。
近くに味方がいるのなら積極的に庇いながら、私は敵の攻撃を引き付ける役を担おうかしら。
痛みの耐性もあるし、継戦能力には自信があるのよ。
2回攻撃によるダメージの蓄積が早かったとしてもギリギリまでは活動できるわ。

自らが積極的に前に出る状況なら上がっている移動速度を活かして接敵しましょう。
眠っている彼女はどんな夢を見ているのかしらね……彼女のことは良く知らないのだけれど、なぜこうなってしまったのかしらね。

さ、無事回収できたけれど……
見た目はさておき、仔ってついている存在を「使う」ことへの抵抗感はなかなか拭えないわね。

「さぁ、いよいよ本題ね」
 クヴァリフの仔の回収を伝えられていたことを、カレン・イチノセは思い出す。
『さようなら、あなたはいらない――夢から覚めさせようとする、あなたたちはいらないの』
 カレンの頭に声が届く。おそらく眠りつつも、少女は怒っているのだろう。辺りを攫うように引きずる青薔薇の蔓が、その勢いを増していた。
 傷みへの耐性を自負する彼女は味方をかばいつつも、徐々に青薔薇たちへと近づいていく。纏うは憧れた彼女たちの幻。その姿を先ほど幻影とはいえ間近で見た彼女にとっては、その拳は冴えわたっていた。
 |黒鉄の拳《フォーティ・キャリバー》が薔薇の蔓を的確に撃ち抜く。それだけでは競り負けると思ったのか、青薔薇たちは眠気を誘う香気を放つも、継戦能力に長けた彼女にとっては、それはあくびひとつ誘わなかった。

「そろそろ起きる時間よ、お嬢ちゃん」
 ――どんな夢を見ているのかしらね。
 たしか怪異だと言っていた。ということは√汎神解剖機関から現れたものなのだろうか。かの地は随分と荒んでいると聞いた気がする。……まあ、自らの故郷ほどではないだろうが。
 もう残された力は少ないのだろう。深い眠りに落ちるように、少女も薔薇ももはや動くことはなかった。
 集まったクヴァリフの仔たちを袋に詰め込むと、それらから与えられるエネルギーも尽き、ついに消滅しようとしているのか、薔薇は枯れ、少女は散り散りに青薔薇の花弁となって消えていった。
「さ、無事回収できたけれど……」
 見た目はさておき、仔ってついている存在を「使う」ことへの抵抗感はなかなか拭えないわね。
 そんなことを想いながら、カレンは袋を担いで病院を後にする。

 ふと、振り返った刹那。
 病院の窓から手を振る二人のまぼろしが、見えたような気がした。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

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