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転移個体再構築記録:Case No.06434

#√ウォーゾーン #√マスクド・ヒーロー #ノベル #四義体サイボーグ

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 ……寒い。

 酸素の代わりに入り込むのは、焼け焦げた金属臭と、どこか薄っすらとしたマスタードのような異臭。
 その異臭が、肺に入り込んだ。呼吸器を蝕み、目や皮膚を腐らせる毒ガス。
 今まさに、自分の肺は溶けかけているのかもしれない。その苦しさに意識を繋ぎ止めているのも、もう限界だった。

 世界は遠く、呼吸もままならない。視界は真っ暗だ。爆風で視神経が断たれたのかもしれない。いや、それ以前に――手も、足も、もう、ない。体の輪郭がなくなっていく。重さも、温度も、感覚が抜け落ちていく。
 耳鳴りが脈打ち、鼓動すら途切れ――意識は、深い深い、底のない海へと沈んでいく。
 その途中で幾つかの“断片”が浮かんだ。確かに微笑んでいた家族の顔。温かい食卓、笑い声。誰かの手の温もり。

(……あ、あ)

 まるで綿を裂くように、ゆっくりとほどけていく。一枚ずつ剥がれ落ちる記憶。名前も、声も、少しずつ薄れていく。それでも中心の“芯”だけは、なぜか僅かに残った。
 完全には消えない。引き千切られた糸の残滓。|頼りない繊維《インビジブル》のように漂っている。……それが何かは、わからない。けれど、確かに“帰るべき場所”があった。そう思いたかった。
 ――ひどく、寒い。自分の存在が無へと分解されていく、原初の|寒さ《きょうふ》。理想として聞いていた「眠るように」なんて、存在しないのではと思う程――寒い。サムい。|さむ《こわ》い。
(もしも、生まれ変われるなら……こんな世界じゃなくて、もっと、穏やかに)

 そう願った瞬間に、|世界《√》が裏返った。
 重力の感覚が消え、音も色も、すべてが虚無に吸い込まれていく。けれど、そこに。確かに、ひとつの“温もり”があった。
 誰かに、抱き上げられる。それは、もう二度と感じられないと思っていた、人のぬくもりだった。
(……あったかい……)
 痛みも、苦しさも、何もかもが解れていく。自分が、どこにいるのかも分からない。けれど、抱き上げられた瞬間――
(……帰ってきた、ような……)
 深く、深く、眠りへと落ちていく。それが√能力者としての覚醒の瞬間である事は、まだ知らなかった。

―――
――



 「……ほう?」
 少年の服に残っていたポケットから、ひとつの部品が転げ落ちた。
 薄銀色の小型回路板。刻まれた“CAGE: VMI731”の刻印を、男は一瞥しただけで無視した。
 「この構造、出力反応……設計思想が妙に筋が通っているな。いいぞ、こういうのは好きだ」
 指先で撫でた瞬間、素材構成と出力遅延、反応域まで把握。|神の寵児《ギフト》とも称されるような天才肌の成せる業。
 「神経信号への追従型か。唯の汎用部品じゃないな。……脳幹直結、いけるぞ。よーし!」
 興奮気味にゴーグルを跳ね上げ、独自設計の義体に器用に組み込む。
 「ふふふふ……さあて、お前をどう仕立て上げてやろうか……!」


 ――そして。
「目覚めよ!! 私の最高傑作よぉぉッ!!」
 |耳を劈く程《店内マイク81〜90級》の爆音で、世界が再起動する。……眩しい。光が、こんなにも暴力的なものだったかと思う程。
「……っ!」
 瞼を開けると、見知らぬ天井。見知らぬ機械音。見知らぬ“身体”。
 手足は……ある。だがそれは金属の装甲をまとい、筋肉の感触がない。仰け反った拍子に、胸部から駆動音が響いた。
「やあ、やあ。気分はどうだね? 新生児クン」
 視界の端に現れたのは、緑の髪を乱し、ニヤニヤ笑う男。その白衣は血で汚れ、指先には機械油。見るからに怪しい、見るからに胡乱な――
「……あなたは、誰、ですか……?」
「私か? 私はドクター・毒島(オメガ・毒島の|博士《Anker》・h06463)! 世界の天才にして、名高きサイエンティストである!!」
「…………」
 ……既に不安でいっぱいなのですが。
「まあまあ安心したまえ。我がラボに転がり込んできたお前は、手足が無く、臓器も半壊状態、つまり……ほぼ死んでいた」
「――っ!」
「で、拾って、直して、ちょちょいと弄って――最高傑作に仕立て上げたというワケだ! いやぁ才能って怖いなぁ、ワッハッハッハ!」
 胸の奥にわずかに残っていた鼓動は、機械音に塗り潰されている。生身だった筈の体はなく、そこにあるのは命を繋ぐ為の――
「私は……機械、なのですか?」
「ほぼな。脳の一部と魂だけはオリジナルのままだ。……多分な?」
 ……多分、とは??
「名前は?」
「……分かりません。私は誰であったのかすらm」
「では私が与えよう――オメガ! 最高傑作としての名、ありがたく受け取るが良い!!」
 ……。異議を唱える暇もなく、名付けられてしまった。
 命を拾ったのは、運か悪戯か。けれど確かに私は今、生きている。この得体の知れない世界で。あの戦場とは違う、空の下で。


 オメガ・毒島(サイボーグメガちゃん・h06434)。彼の第二の人生が、今、始まった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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