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絆を断ち切らんとする刺客を討て
●√EDEN:某所――ある公立高校
街中にある公立高校から、楽し気な音楽や歓声が校外まで聞こえてくる。
その音に釣られて校内に目をやると、校内で文化祭が開かれているのか、至る所で生徒や教師、そして校外から来校したであろう人々の姿が多数あった。
校内の各所で開かれている模擬店では飲み物や軽食が振る舞われ、教室ではバンドを組んだ生徒たちが楽し気に演奏したり、部活動の成果と思われる展示物を来客たちが眺めている。
そして、広々としたグラウンドにはキャンプファイヤー用の櫓が組み上げられ、日が落ち火が灯って生徒や客が集まる時を待っていた。
そんな楽し気な校内を、数名程の配下を従えたひとりの男が、校外から眺めている。
男はしきりに視線を彷徨わせ――やがて校舎内の1点を凝視した。
「……見つけたぞ、Anker」
静かに、そう呟いた後、男は剣を校舎に向ける。
その意を察したかのように、配下の怪人たちが静かに公立高校へ向けて動き出した。
●Anker抹殺作戦
「……ふん、我が|従者《Anker》の抹殺を図るとは、何たる輩か」
公立高校に近い公園で、星詠みのズィーデン・アーチボルト(吸血鬼のサイコメトラー・h02115)が空を見上げながら独りごちる。
それを聞きつけたのか、あるいは何らかの予感がして駆けつけたか、ズィーデンの周りに複数の√能力者が集まって来た。
集まった√能力者たちに、ズィーデンは軽く会釈した後、告げる。
「先ほど、星が我に語って来た――謎めいた外星体同盟の刺客『サイコブレイド』が、「Anker」もしくは「Ankerに成りうる者(Anker候補)」を暗殺しようとしていると」
ズィーデンいわく、『サイコブレイド』の狙いは、ズィーデンの従者でありAnkerでもある、浪野・瑞希(ズィーデン・アーチボルトのAnkerの高校教師・h02123)。普段は近くの公立高校に勤務しているという。
「Ankerとは要するに『普通の人や物』だ。ゆえに普通は判別のしようが無いが、サイコブレイドは『Ankerを探知する√能力』を有しており、我が|従者《Anker》の存在が感づかれたようだ」
サイコブレイドは、その能力を用いて発見したAnkerを抹殺すべく、配下の怪人たちを学園祭で賑わう高校内部に送り込んでいる。
もし、このまま何もせずに手をこまねいていたら、瑞希は何も知らぬうちに殺されてしまうだろう。
……そして、校内に他の√能力者のAnkerがいれば、その人も。
「そこで、この場で皆に依頼する。皆には我が従者や学校に紛れ込んでいるAnker達を護りながら、サイコブレイドの作戦を打ち砕いてもらいたい」
頭を下げるズィーデンに、√能力者たちは其々の想いを胸に頷いた。
さて、どうやって学校内に潜入するかというと。
「知っている者もいるだろうが、学校という場は特異ゆえ、外部からの出入りは難しい。だが、今は文化祭……学園祭とも言うのか? そういう催しが行われておるため、誰でも出入りできるようになっておる」
学園祭といえば、生徒による模擬店。
焼きそばやたこ焼き等の軽食や、たい焼きやクッキー等の菓子類を提供する店もあれば、変わり種でアイスキャンディーを提供したりなど、まさにバラエティ豊か。
模擬店以外にも、視聴覚室や体育館でライブを開いたり、教室で演劇部が寸劇を披露したりしているので、単に教室を覗くだけでも楽しめるはず。
知的好奇心が疼くのであれば、歴史クラブが展示している地元の史跡の調査報告や、美術部や書道部が精魂込めて仕上げた作品を堪能しても良いだろう。
「そこで、まずは一般客として校内に潜入し、学園祭を楽しみながら、襲撃への対抗策を練ってほしい」
おそらく、サイコブレイドの配下たちは、日が落ちてキャンプファイアーが始まってから、夜闇と歓声に紛れてAnkerを襲撃、殺害する。
ゆえに、昼のうちに一般客として学園祭を楽しみながら校内を下見しながら、怪しげな人物に目を付けたり、戦闘に適した場を見繕ったりして準備を進めてほしい。
もし、Anker達の避難が必要となった時に備え、予め避難所となり得る場所を見繕っておけば、避難活動もスムーズに進むはず。
準備が整ったら、キャンプファイアーに火が灯るまで待ち――襲撃者を迎え撃つことになるだろう。
「サイコブレイドにも何らかの思惑はあるのかもしれぬが、我が|従者《Anker》を狙う輩を見逃すわけにもいかぬ」
だから、何としてでも阻止してくれと願うズィーデンに首肯しながら。
√能力者たちは、お祭りで賑わっている公立高校へ足を向けた。
これまでのお話
マスターより

ルートエデンの皆様、初めまして。北瀬紗希(きたせ・さき)と申します。
初めてお目にかかる方も、以前からお見知りおきの方も、何卒よろしくお願い致します。
さて、最初に案内しますのは、謎めいた外星体同盟の刺客『サイコブレイド』による、Anker抹殺計画。
√能力者の皆様には、√EDENにありますズィーデンのAnker、浪野・瑞希が勤務する公立高校へと潜入し、彼女を狙う『サイコブレイド』の配下と、可能なら本人も討ち取って下さい。
なお、本シナリオにAnkerのPCさんが参加された場合、そのPCさんも瑞希と同様にサイコブレイドに狙われることになります。
「自分のAnkerも狙ってほしい!!」と希望される方がいましたら、そのAnkerさんをシナリオに参加させていただければ、確りと狙わせていただきます(?)。
●本シナリオの構造
日常→集団戦or冒険→ボス戦の3章構造です。
シナリオ内の時間は、1章が昼、2・3章が夜となります。
第1章は🏠『学園祭に行こう!』。
瑞希の勤務校で開催されている学園祭に一般客として潜入し、サイコブレイドの配下の襲撃に備えつつ、学園祭を楽しんでください。
模擬店や出し物は、思いつくものなら大体ありますので、ご自由にお楽しみください。
ただし、公立高校ですので、飲酒喫煙は種族年齢問わず全面的に禁止です。
ここで用意した襲撃者への対策によって、2章以降の流れが分岐します。
※日常章ですが、ズィーデン、瑞希、ともに同行不可です。ご注意ください。
第2章・第3章は、前章で用意した対策と🔴の数によって分岐します。
第2章で素早く配下たちを殲滅させたり的確な対抗策を取ったりして無事にAnkerを救出できれば、第3章でサイコブレイドと直接対決できるかもしれません。
各章の詳しい流れは、開始時の断章でご案内いたしますので、ご確認願います。
●プレイング受付について
全章、断章執筆後からプレイングの受付を開始。
各章、👑達成の目処が立ち次第、受付締切となります。
なお、受付開始/締切の案内は、マスターページとタグで行います。
その他、シナリオ運営上の諸連絡は、北瀬のマスターページを参照いただけますと幸いです。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
5
第1章 日常 『学園祭に行こう!』

POW
学園祭は食の祭典。模擬店で食べ歩き。
SPD
学園祭は芸の祭典。ライブや演劇を鑑賞。
WIZ
学園祭は知の祭典。研究発表や展示をチェック。
√EDEN 普通5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●√EDEN:某所――ある公立高校
公立高校の校門をくぐった√能力者やAnker達を、高校の生徒たちが出迎える。
「ようこそ! 私達の学校へ!!」
「今日は目一杯楽しんで行ってくださいね!!」
生徒たちからパンフレットを受け取り、ざっと目を通すと、校内の地図に続いて、さまざまな模擬店や展示会、そしてイベントの案内が並んでいる。
「日が暮れたら、グラウンドのキャンプファイアーに火がつき、ダンスパーティが始まります。皆さん是非見に来てくださいね!」
にこやかに告げる生徒たちを前に、√能力者たちは複雑な感情を顔に出さぬよう努めながら頷いていた。
――√能力者たちは知っている。
キャンプファイアー開始と同時にAnker抹殺計画が始動し、サイコブレイドの配下によってAnker、ないしはAnker候補が抹殺されると。
もし、計画が始動すれば、突然の惨劇に遭遇した一般人達が混乱し、大騒ぎになってしまうだろうが、事前に星詠みが察知した故に、下見したり対策を考えたりする時間は十分あるはずだ。
校内を下見しつつ、学園祭も目一杯楽しむか。
あるいは、不自然にならない程度に学園祭も楽しみつつ、襲撃対策を練るか。
――すべては、校内に潜入した√能力者次第だ。
※マスターより補足
第1章では、学園祭を楽しみつつ、襲撃対策を考案していただきます。
フラグメントを参考に、学園祭を思い思いに楽しみつつ、準備もお願いします。
なお、模擬店やイベント等は、おおよそ思いつく限りなら何でもございますので、プレイングで自由に指定していただいて構いません。
ただし、高校内ですので、飲酒喫煙は年齢問わず全面的にNGとなります。
本シナリオで狙われるAnker、浪野・瑞希は、1章の間は基本的に職員室にいます。
ただし、キャンプファイアーが始まると、火元管理等でグラウンドに姿を現しますので、無理に連れ出す必要はございません。
なお、AnkerのPCの居場所は、各プレイングに準じます。
――それでは、良きお祭りとの邂逅を。

つまりは呼んでもないのに押っ取り刀で駆けつけてくるカスどもをやっちまう仕事ってワケだ。人でなしのクズ相手なら人じゃない分気楽なもんだな。しかし、大々的に襲ってくれるのは助かるな。大立ち回りしても派手にバラしても言い訳がたつ。
一応は避難経路になる場所を確認しておこう。学校っつったら体育館とかが避難場所になると思うが…校舎側も逃げる奴はいるかもしれねぇからな。
一通り仕掛けられそうな場所には猫の尻尾を通しておくかね。追手が来たら起動させればいいわけだし…。
それはそれとして為すべきを為し果たすべきは果たす。つまり、買い食いも任務のうち!経費は請求するためにあるッ!食いだめするぞ!目指すはクレープ制覇!
●
学園祭が開かれている√EDENの公立高校は、高校生だけでなく、高校の外からやってきた来客で賑わっている。
その来客にさりげなく紛れながら、屑金・鈍(数打・h07145)もまた、校内に潜入していた。
「つまりは、呼んでもないのに押っ取り刀で駆けつけてくるカスどもをやっちまう仕事ってワケだ」
人でなしのクズ相手なら人じゃない分気楽なもんだな、と呟きながら、鈍は人混みを抜け、いったん校舎の方へと足を向ける。
「しかし、大々的に襲ってくれるのは助かるな。大立ち回りしても派手にバラしても言い訳がたつ」
派手にバラして一時的に大騒ぎになっても、人々は『心を守るために慣れ、忘れようとする力』により、数日たてばその事実を忘れてしまうが、大騒ぎになった直後はさすがに人々も混乱し、逃げ惑うに違いない。
しかも大立ち回りをするとなれば、キャンプファイアーの始まる夜になってからだから、なおさら避難もしづらくなりそう。
――ならば。
「一応は、避難経路になる場所を確認しておこう」
(「学校っつたら体育館とかが避難場所になると思うが……校舎側に逃げる奴はいるかもしれねぇからな」)
そう予想した上で体育館や校舎への避難経路をざっと確認し、昇降口でそっと九尾の猫を抜き、柄の一部分にそっと手を触れる。
直後、猫の尻尾という名のワイヤーが柄から発射され、昇降口の床に打ち込まれた。
「追手が来たら起動させればいいわけだし……」
もし、ワイヤーを起動できれば、追手がしなやかな特殊ワイヤーに足を取られ、時間を稼げるだろう。
念のため、校舎内の通用口や体育館の入口にも、同じように猫の尻尾を通しておくことにする。
ひととおり避難経路を確認し、追手を妨害する仕掛けも施したところで、鈍はいったん模擬店が立ち並ぶ駐車場へと戻る。
どこかの模擬店から漂ってきたらしき、ふわりと甘い香りが、鈍の鼻をくすぐった。
「それはそれとして、為すべきを為し果たすべきは果たす」
つまり、これから果たすことと言うと。
「買い食いも任務のうち!! 経費は請求するためにあるッ!!」
拳をぐっと握りしめ、力強く断言しつつ、ふと鈍の脳裏にひとつの疑問が過った。
(「この場合、経費はどこに請求すればいいんだ??」)
まあ、それはそれで後で考えるとして。
「さあ食いだめするぞ!! 目指すはクレープ制覇!!」
もうこの美味しそうな匂いに耐えきれん!! と満面の笑顔を浮かべながら。
鈍は複数あるクレープの模擬店のうち、もっとも目立つ看板の店へと一直線に走っていった。
その後、クレープ店の近くでは、クリームとフルーツたっぷりのクレープを美味しそうに頬張る鈍の姿があったという。
「どれもこれも美味しいぞ!!」
🔵🔵🔵 大成功

文化祭!
子供の頃から戦闘員でしたし、行ったことないんです。ふふ、お仕事ですけど、楽しみです。せっかくですしちょっとだけでも、教室の展示とか頑張ってる生徒さん達を見れたら嬉しいなあ。キラキラしていて、きっとすごく素敵ですよね。
うん。皆の思い出が楽しいまま終わるように気を抜かず、Anker候補さん達をお護りしないとですね。
なるほど、浪野さんは火元管理者なのですね。では襲撃はグラウンドでしょうか。
キャンプファイヤーで人が集まるでしょうし、できれば避難誘導の算段も立てておきたいですけど。あとは浪野さんのお顔や服装も一度確認しておきたいですし。
時間があるようでないですね。急がないと!
●
――先んじた√能力者が、校舎の入口にワイヤーを貼っている頃。
「文化祭!」
祭りで盛り上がっている公立高校の校門で、見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)が抑え気味に、しかし感極まったような声をあげていた。
(「わたし、子供の頃から戦闘員でしたし、行ったことないんです」)
期待を胸に校門をくぐると、さっそく生徒たちが出迎えてくれる。
「いらっしゃいませ! 目一杯楽しんで行ってくださいね!」
「ふふ、お仕事ですけど、楽しみです」
七三子は笑顔で会釈した後、模擬店が立ち並ぶ駐車場を抜け、校舎に入る。
校舎内では、教室や特別室の前で生徒たちが呼び込みに精を出していた。
「こちらでは写真部の展示をやっていまーす!!」
「生物部、これまでの研究成果をお披露目していますよー!!」
声をあげている生徒たちの目は、何れも輝いている。
(「生徒さんたち、キラキラしていて、すごく素敵です」)
だが一方で――彼らの眩いばかりの努力を見ていると、こうも思うのだ。
「皆の思い出が楽しいまま終わるよう気を抜かず、Ankerさん、そしてAnker候補さん達をお護りしないとですね」
彼らの笑顔を無にすまいと心に誓いながら、七三子はしばらく校舎内をゆっくりと回り、気になった展示物を見て回った。
●
一通り校内を回ったところで、七三子は華やかな空間から少し離れる。
今回、星詠みから護るよう依頼されたAnker、浪野・瑞希の姿は、今のところ見かけていない。
(「なるほど、浪野さんは火元管理者なのですね」)
だとすれば、キャンプファイアーの時刻になれば、グラウンドに姿を現すだろう。
「では、襲撃はグラウンドでしょうか」
多数の人々がいる中で襲撃されるのは、ほぼ確実だから、来客の避難誘導の算段も立てておきたい。
そんなことを考えつつ、七三子が職員室の前を通りがかると、若い女性教諭が何やら書類と格闘しているのが目に入る。
髪型や容姿は、事前に星詠みから聞いていた特徴と合致するようだ。
おそらく、その教諭が――瑞希だろう。
(「浪野さんの顔と服装は確認しましたが、グラウンドに出て来る前に着替えてくるかもしれませんから、服装は参考程度に覚えておきましょう」)
それでも、顔はしっかり覚えたから、瑞希がグラウンドに出て来たら直ぐ気づけるだろう。
ふと、職員室の時計を見ると、夕方になっている。
キャンプファイアーの開始時刻まではまだ余裕があるが、まだまだ考えねばならないことは山ほどある。
「時間があるようでないですね。急がないと!」
その後も七三子は、展示物を見て回りながら、避難所となり得る場所の確認と、大勢の来客を避難させられる効率的なルートを考え始めた。
🔵🔵🔵 大成功

お母さんのシル(h01157)と一緒に。
わぁ…。これが学園祭なんだ。
学校なのにお祭りをしているなんてすごーいっ!
ねね、お母さん、早く行こっ!!
そういって、お母さんの手を引いて学校の中に行きます。
あ、おいしそう…。
クレープ食べたーいっ!
バナナクリームでお願いしますっ!
美味しい甘いものを買ってもらって、食べながら校内を散策するよ。
…大丈夫だよ、お母さん。
ちゃんとすることはするからっ!
キャンプファイアの行われる位置を確認して…。
どの方向が逃げやすいか?
突破しやすいか。
それをしっかりと確認するね。
…お母さんには何か考えがあるみたい?
とりあえず、あたしは襲ってきた相手を倒して逃げ道を作ればいいのかな。

娘のエアリィ(h00277)と一緒に学園祭へ行きます。
エアリィの事は「エア」と呼んでいます。
お祭りなんだね。
うん、事件が起きるかもしれないけど、せっかくだから楽しまないと、ね?
エアリィにせがまれて、クレープを購入。
わたしはシュガーバターのクレープを買って食べますよ。
ちゃんと下見をしている娘を見て、成長しているなーっと嬉しくなるけど。
今回の事件の首謀者の行動から見て…。
さて、エア、ここで問題です。
ここで敵対者が出てくるとします。
もちろんターゲットを狙うよね?
そうした場合、どうすればいいでしょう。
悩むと思うけど、答えは実地でね。
…娘には言えないけど囮になれそうだね。
久しぶりに実戦がんばるかな。
●
他の√能力者が下見をしている頃、公立高校の校門前に辿り着いたエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は目を輝かせていた。
「わぁ……。これが学園祭なんだ」
「お祭りなんだね」
そんな娘の様子を、母のシル・ウィンディア(エアリィ・ウィンディアのAnkerの師匠・h01157)は微笑ましく眺めていた。
「学校なのにお祭りをしているなんてすごーいっ! ねね、お母さん、早く行こっ!!」
エアリィはシルの手を取り、引っ張りながら校内へと向かう。
「うん、事件が起きるかもしれないけど、せっかくだから楽しまないと、ね?」
シルもまた、何か確信めいた呟きを残しながら、エアリィに引っ張られるままに校内へと向かった。
●
校門から校舎の間に広がる駐車場には、生徒たちが工夫を凝らした様々な模擬店が並んでいる。
エアリィとシルが模擬店の間を歩いていると、生徒たちの元気な呼び込みの声が四方八方から聞こえて来た。
「美味しいアイスクリーム、いかがっすかー?」
「焼きたて熱々のたい焼きもありますよー!!」
数々の呼び込みがある中、エアリィとシルの興味を引いたのは、クレープの模擬店。
「そこのお姉さんたち、クレープいかがですかー?」
ふたりの目の前では、別の客が、イチゴとホイップクリームたっぷりのクレープを受け取っていた。
「あ、おいしそう……」
エアリィが考える事、数秒。
「お母さん、クレープ食べたーいっ!」
「いいわよ、エアリィ。好きなものを頼みなさい」
ねだってくる娘に、シルは財布を取り出しながら、クレープの模擬店に向かう。
「いらっしゃいませ!」
「あたし、バナナクリームでお願いしますっ!」
「はい、バナナクリームですねっ!」
笑顔で注文するエアリィに、生徒は慣れた手つきで手際よくクレープを焼き上げ、クリームとバナナをあしらってゆく。
「お待たせしました!」
「ありがとう!」
バナナクリームクレープを受け取ったエアリィは、すっかりご満悦。
「お母さんは何になさいますか?」
「わたしはシュガーバターにしておくわね」
「わかりました。シュガーバターですね!」
シルに笑顔で頷きながら、生徒は手際よくクレープを焼き上げ、バターとシュガーをたっぷりと巻き込んでから、シルに渡した。
「ありがとう。これ、美味しそうね」
「ありがとうございました! 楽しんで行ってくださいね!」
生徒たちに見送られながら、エアリィは美味しそうなクレープを前に満面の笑顔。
そんな娘に、シルは穏やかに声をかけた。
「エア、わかってるわね?」
「……大丈夫だよ、お母さん。ちゃんとすることはするからっ!」
●
熱々のクレープを食べながら、エアリィとシルは改めて校内を散策する。
その最中、エアリィは不自然にならない程度に周囲を観察していた。
(「エアもちゃんと下見をしているわね」)
娘の姿を見ると、シルも成長しているなーっと嬉しくなってくる。
だが一方で、シルには気がかりなこともあった。
(「今回の事件の首謀者の行動から見て……」)
――わたしも確実に狙われる。
それは予感ではなく、確信。
(「だって、わたしはエアの|母《Anker》だから」)
最悪、『サイコブレイド』とやらが人質に取って来る可能性も考えてはいるけれど、シルはあえてその可能性を口にしない。
今はあくまでも母として、そして師匠として……エアリィを導くべきだから。
「さて、エア、ここで問題です」
「うん」
あえて人気のないグラウンドの端まで来たところで、シルはエアリィに質問する。
「ここで敵対者が出てくるとします。もちろんターゲットを狙うよね?」
「そうだね」
「そうした場合、どうすればいいでしょう」
「う、うーん……」
母の問いに、エアリィはクレープを食べながら、これから起こるであろう事件の情報を整理する。
(「星詠みさんは、夜になるとキャンプファイアーが始まるって言っていたよね」)
「まず、キャンプファイアーの行われる位置を確認して……」
エアリィがグラウンドに目を向けると、グラウンドの中央に篝火が用意されている。
いったん点火すれば、高々と炎をあげながら周囲を照らすだろうが、グラウンドの端まで灯りが届くとは思えない。
それらを頭に入れた上で、エアリィはさらに考える。
――どの方向が逃げやすいか。
――そして、どの方向が突破しやすい、あるいはされやすいか。
「しっかり確認しておくね」
篝火を拠点に、エアリィは実際に逃げやすい方向、突破が容易な方向を確認する。
とはいえ、首謀者たちが√を越えて襲撃してくる可能性もあるゆえ、仕掛けられる方向は実際に襲撃されるまでははわからないだろう。
「……これで合っているかな?」
娘の出した答えに、シルは笑顔で頷きながら、あえて明言を避ける。
「悩むと思うけど、答えは実地でね。」
(「……娘には言えないけど囮になれそうだね」)
久しぶりに実戦がんばるかな、と心の裡でそっと呟くシルを見て、エアリィは軽く首傾げ。
(「……お母さんには何か考えがあるみたい?」)
エアリィには、シルの考えはわからない。
だが、ひとつだけ確実なのは――。
「――とりあえず、あたしは襲ってきた相手を倒して逃げ道を作ればいいのかな」
それこそが、√能力者としてできることかな、と口にするエアリィに、シルは己が心の裡を隠しながら頷いた。
「そうね。それが一番の近道かも知れないわ」
その後も、エアリィとシルはグラウンドを重点的に確認してゆく。
祭りの喧騒に包まれている校内は、少しずつ、少しずつ夕闇に包まれつつあった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『アサシン』

POW
アサシン・スキル
知られざる【暗殺者の技能 】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
知られざる【暗殺者の技能 】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
SPD
カウンター・アサシネイト
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【暗器 】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【光学迷彩】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【暗器 】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【光学迷彩】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
WIZ
サイレント・キリング
【|無音暗殺法《サイレント・キリング》 】の体勢を取る。移動力と戦闘力を3分の1にする事で、肉眼以外のあらゆる探知を無効にする。嗅覚・聴覚・カメラ・魔術等、あらゆる探知が通用しない。
【|無音暗殺法《サイレント・キリング》 】の体勢を取る。移動力と戦闘力を3分の1にする事で、肉眼以外のあらゆる探知を無効にする。嗅覚・聴覚・カメラ・魔術等、あらゆる探知が通用しない。
●√EDEN:某所――ある公立高校・グラウンド
文化祭の熱気に包まれてる校舎やグラウンドに少しずつ闇の帳が落ち始めた頃、校内に1本の校内放送が流れる。
『間もなく、キャンプファイアーが始まります。生徒はグラウンドに集まって下さい。文化祭にお越しいただいた皆様も、よろしければお集まりください』
その放送を合図に、校内にいる生徒や残っていた来客たちが一斉にグラウンドに移動し始める。
√能力者たちも、生徒や来客の流れに紛れるように、グラウンドに移動した。
櫓の近くでは、ひとりの女性教諭が各クラスの代表らしき生徒たちに、火が付いたトーチを配っている。
その女性教諭こそ、ある√能力者が容姿をチェックした時と服装は変わっているが、今回狙われるAnker、浪野・瑞希だ。
「それでは、点火します!」
トーチを手にした生徒たちが櫓を囲むと、生徒会長がマイク越しに合図を送る。
それを合図に、生徒たちは次々とトーチを櫓の隙間から差し込んだ。
――ボオオオッ。
トーチが全て櫓に差し込まれると、程なくして盛大に炎が上がり始める。
その光景を見た生徒や来客たちから、一斉に歓声があがった。
「わああああっ!」
「きれい……!」
炎がグラウンドを明るく照らす中、生徒たちは流れ始めた音楽に合わせ、踊り始める。
それを見た来客たちも、踊りの輪に加わり、一緒に踊り始めた。
グラウンドに集まった人々が踊り、歓談に興じるさまを、瑞希は少し離れた場所から眺めている。
火勢が強すぎないか、櫓が崩れないか見張っていると、突然ナイフを手にした少女が瑞希の前に現れた。
「――Anker発見。排除します」
少女の目がじっと瑞希を見据え、唇が物騒な言葉を紡ぎ出す。
その言の葉の意味を瑞希が理解し、身構えた頃には――ナイフを手にしたもうひとりの少女が瑞希の背後に迫っていた。
昼間に校内の下見をした√能力者たちは、もっとも安全そうな場所は体育館だと判断している。
Ankerたる瑞希をアサシンから護り、急いで体育館に避難させるべく。
――√能力者たちは、行動を開始した。
※マスターより補足(背景事情の補足含みます)
第1章の判定の結果、『サイコブレイド』はAnkerの瑞希(+AnkerのPCさん)を「暗殺」すべく、少数の配下の怪人『アサシン』を派遣しました。
このままだと瑞希(+AnkerのPCさん)は抹殺されてしまいますので、皆様は『アサシン』を排除しつつ、Ankerを安全と思われる体育館まで避難させてください。
なお、校内にいるAnkerは、瑞希と(第2章に参加される)AnkerのPCさんだけです。
(ちなみに、フラグメントの世界は√マスクド・ヒーローとなっておりますが、本章の舞台は1章に引き続き√EDENとなりますのでご注意ください)
派遣されたアサシンの人数は、Anker1人につき「2人」。
ひとりがあえてAnkerの目につくよう動いて気を惹いている間に、もうひとりが暗殺するという作戦のようです。
ただし、アサシンはAnkerのみを狙い、Anker以外の生徒や来客には一切手を出しません。√能力者が介入した後も、アサシンはAnkerを優先的に狙いますので、これを念頭に置いて対応をお願いします。
ちなみに、瑞希は薙刀術の達人ですが、現在は薙刀を持っていないので、アサシンに対抗する術はありません。
素早くアサシンを倒し、Ankerを無傷で避難させる(つまり、🔴が出ないよう行動する)ことができれば、3章にて『サイコブレイド』と直接対決が可能になるかもしれません。
逆に、アサシンの排除やAnkerの避難に時間がかかった場合は、避難できたとしてもその先で何かが起こるかもしれません。
2章の行動、及び🔴の数によって、3章の展開が変わります。最善と思える結果を掴み取れるよう、頑張って下さい。
※第2章に参加されるAnkerのPCさんへ
第2章開始時の居場所は任意とします(グラウンドでなくてもOK)。プレイングのどこかに、章開始時の居場所を明記願います。
ただし、居場所がどこであっても必ず2人のアサシンが忽然と出現し、命を狙ってきます。√能力者が介入しないと大変な目に遭いますのでご注意ください。
なお、本章からの参加も大歓迎です。
――それでは、最善の結末を目指して。