愛ゆえに
─ピンポーン。
とある長閑な午後。大門・博士宅のインターフォンが高らかに鳴り響く。
本日、宅配便の予定はなし、地域パトロールのアリバイ聞き取り調査もなし。来客予定もなし─じゃあ、無視じゃな。
そんな結論で再び研究に没頭しようとしたところを──。
ピンポーンピンポーンピンポンピンポンピンポン……。
沈黙…諦めたか?否、大門の勘は告げる。
この感じはあれじゃな?連打しすぎて逆にもうチャイムが追いつかなくてなんかカバーがカッスカス鳴ってるやつ。
ほっほっほおもしれー客人…どうれ、ここまでするならば、その喧嘩買ってやるとするか♡ただじゃすまさねえぞ?
「はーい、何用?」
しかしドアを開けると、誰もいない。
チィ、逃げられたか…悔しさに舌打ちしつつ部屋へ戻ろうとすると…ちょいちょいと白衣の裾を引っ張られる感覚。
振り返ると、そこには。
「コンニチハ…」
クマがいた。
⚫︎⚫︎⚫︎
「成程のう…」
場所を変えて近所の喫茶店。
大門はコーヒーを啜り、向かい合うクマ─テディベアを眺める。
テディベアは目の前のオレンジジュースには口をつけず、ただストローを掴んで興味深げにクルクル。大門の視線に気付けば首を傾げて…あら可愛い〜。
「リサチャン『カワイイ』…?」
「ほっほっほ、自称『可愛い』が許される己の姿に感謝せよ?」
「カワイイ…」
この通り動いて喋る、130cm程の意志を持った巨大テディベア。怪しさ満点だが平日の人気の少ない喫茶店ではギリギリ『孤独で哀れな老人が、巨大なぬいぐるみを孫代わりに過ごしている』くらいの生ぬるい視線で済むだろう。
ほっほっほ、わし、とうとうやべー人間に思われたのうこれ。でも今更だし気にしない気にしない♡だが心は泣いておるが?
そんなかれ(?)から頑張って聞き取った結果、得られた情報は
・テディベアは「リサチャン(リサちゃん?)」である
・「リサチャン」は「タケチャン」と「家族でありフレンズ」
・「タケチャン」は「チャラ男」
・「チャラ男」は「ウェイ」と鳴く
「……いや何が何?どれが何?全く要領を得んが??タケチャン is 誰?
その上で…わしの研究所に白昼堂々|特攻《ブチ》かましに来た訳はホワイ?」
そう、肝心なのはそれである。
大門は不審者である。近所の親御さんにはマークされ警察には度々職質され、そもそも野放し心霊テロリストの戦線工兵である。だが見知らぬ|面妖ベア《リサチャン》に焼きを入れられる程耄碌はしていない。いやしたかな?この間ちっと爆発が強すぎたかもしれんしな?やっべ心当たりしかねえ。
リサチャンはいじっていたストローから手を離すと、少し俯き、真剣な雰囲気で呟いた。
「博士…ツヨイ」
「急に戦闘部族の誇り高き勇敢なる戦士みたいなことを言い出してどうした?」
「リサチャン…フワポコ…タケチャン『守りたい』…」
「ほおん?」
「力、ホシイ…博士の力、リサチャンの『知らない』力…」
「成程、理由は知らぬが…何かこうエモい感じのあれがあるようじゃな?」
大門の全く何も文章を成していない語彙にリサチャンはこくりと頷く、そのボタンのような目には黒曜の様に輝く闘志と決意が漲っていた。
「その意気やよし!じゃが…覚悟はあるかのう?」
「ハイ、『りれきしょ』」
「うわあ準備がいいな!?…どおれ…ふーむ。成程、サイコメトリーと格闘を掛け合わせた全く新しい戦闘…っていうか意外と武闘派♡これ以上の力を求めると?怖…」
「ジュース、オカワリ…」
「あっいつの間に!?」
こうして、大門博士のなぜなに相談室に新たな仲間、否─戦士が加わった。
頑張れリサチャン、勇敢なる愛の戦士よ。
大門を踏み台にさらなる高みを、愛の頂を目指すのだ──。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功