シナリオ

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黒い髪の女は嗤う『52Hzのラブレター』

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●孤独の鯨は海を唄う。
 …

 ……

 メーデー、メーデー、メーデー、
 聞こえますか?

 …

 ……

 メーデー、メーデー、メーデー、
 ワタシは、今、|アナタ《誰か》へ声を届けています、

 …

 ……

 メーデー、メーデー、メーデー、
 どうか、お願い、ワタシの声を、聞いてください……、

 …

 それは、波間に漂う泡沫の様な声だった。
 やわく、淡く、儚く、ともすればそのまま海に溶けて消えてしまう、そんな声。
 声の主は知っていた。これは、この言葉は、自分以外の誰にも聞こえないという事。例え自分と同じ種族であったとしても、それが届いた事等ただの一度も無かったのだ。彼らの声は聞こえているのに、自分の声は決して彼らには届かない。故に同族は言う「あの子は喋れない子なのだ」と。嘲笑うかのようなそれに、違う、違う、違う。首を振った。ワタシは確かに話している。声を上げている。なのにどうして、アナタ達には聞こえないのだ。この胸を劈くような悲痛な叫びも、この|鳴き《泣き》声も、誰一人として気が付かないのだ。
 寂しい、寂しい、寂しい。
 広大な海の中。暗く冷たい水の底。孤独を埋め合うように寄り添う群れの中、然してワタシは誰とも寄り添えない。いくら寄り添おうと身を寄せても、声を上げても、皆、ワタシを嗤って避けていく。ぐるぐる、ぐるぐる、彼らの声は、言葉は、五線譜のような渦を巻いて互いに奏で合っては登っていくのに。ワタシの之は沈むばかり。藻屑にすらならぬ泡となって消えていくばかり。
 寂しい、寂しい、嗚呼、寂しい。此れは、嗚呼、なんという孤独なのだろう。
 |鳴き《泣き》ながらがむしゃらに海の底を泳いだ。群れから離れて、たった一人、広大な海を泳ぎに泳いだ。群れの中で感じる孤独よりも、一人でいる孤独の方がずっと楽だったけれども、一度空いた孤独という穴は、心にずっと隙間風を吹かし続けていた。いっそ、身も心も凍り付く程の冷たい風なら良かったのに。その風は悪戯に心を冷やすだけ、時折身を切るような痛みと真綿で首を締めるような息苦しさを与えてくれるだけで、塞がりも広がりもしない。ワタシはそれが嫌で嫌で嫌で仕方なくて。

 メーデー、メーデー、メーデー、
 ただひたすらに泳ぎ続けて、ただがむしゃらに声を上げ続けた。
 この声はワタシの唄だ。この声はワタシの心だ。言葉だ。ワタシ自身だ。
 誰かに、どうか、届いて欲しい。誰かに、どうか、受け止めて欲しい。
 メーデー、メーデー、メーデー、
 聞こえますか?
 誰か、どうか、ワタシの……、

「今ここら辺から声がした気がするんだけどな……」
『!!』
「……鯨?今、喋っていたのって、もしかして」

 嗚呼、嗚呼、嗚呼、
 やっと、やっと、届いたの?
 アナタが、ワタシの声を、聴いてくれたの……?

 見上げた先、水面の壁の向こう側。一人の人間が笑顔を浮かべていた———。

●案内人:クルス・ホワイトラビット
「唐突だけど、キミ達は人魚姫という童話は知っているかな?
 知らない人の方がもう稀だと思うから、詳細は省かせていただくけれども、まあ大まかに言えば人間に恋をした人魚のお話だ。原作では拷問染みた苦痛を味わいながら悲劇的な結末を辿った悲恋の物語としても有名だね。時代の流れや作り手の意向なんかもあるんだろうけれども、昨今のオマージュ作品では、その結末や内容の改変なんかによって悲劇的な要素はほぼ皆無となっているものも多いみたいだね。
 まあ、そこに関して何か意見を述べろとか感想が欲しいだなんて思っちゃいないよ。原作にしろオマージュ作品にしろ、何もって『悲劇』とするのかの判断基準は人それぞれさ。物語なんて、結局は読み手がどう思うかが最重要であり全てにもなり得るからね。
 ……っとまあ、雑談はここまでにして本題を話そう。
 今回は珍しく、星からではなく人から、ボクの方に依頼があったのさ」

 そう言うと少年は、あなた達に資料を差し出す。
 場所は√エデンにある小さな村。漁業と『海底に咲く花』という観光名所によって栄えた場所である。豊富な海産物による海鮮料理が名物で、特に宝石の様な新鮮な魚介類をふんだんに使った特製海鮮丼は絶品。四季の変化の少ない比較的温暖な地域の為、春と夏の2シーズンにかけての海水浴や海底散歩が楽しめる事でも有名らしい。
 そんな村の情報もそこそこに資料に目を通していれば、ふと『依頼人』という項目に視線が留まる。どうやら村で漁業を営む親子らしい。

・リュウジ(50)
 村で漁業を営む漁師。リュウトの父親。村の漁業組合の長。
 口が悪く短気で豪快な印象の男性。船の操縦は村で一番。
・リュウト(23)
 父親の漁業を手伝っている村の青年。
 爽やかで人当たりの良い印象。時々不思議な事を言う。
・母親
 リュウトを出産した際に死亡している。

「……その親子によると、どうやら最近、海で海洋生物が狂暴化するという現象が起こっているらしい。狂暴化自体はこれまでも極稀にあったそうなんだけども、最近の頻度は異常と言っていい程起こっているそうなんだ。気になって少し調べて見たところ、案の定とでも言おうか、怪異の痕跡を発見したのさ。どうやら敵は『海底の花畑』で何かしようとしているみたいなんだけれども、詳しい事は現地に赴かないとわからないかな」

 ふっと息を継ぐように呼吸を整えて、少年は言う。

「今回のキミ達の任務は、『海底の花畑』の警護及び怪異の存在を突き止める事。それが危険な存在であるのならば退治もして欲しい。簡単そうに見えるけれども、くれぐれも油断はしないでおくれ。相手によっては最悪、海中での戦闘も視野に入れて行動しなければならないからね、いつもと同じように戦えるとは思わない方がいい。|女王様のクロケッツ《デキレース》でもない限り、絶対なんて存在しないからね」

 だからくれぐれも気を付けて。
 そう念を押すように告げる少年の顔には、いつもと違う、どこか影のようなものが浮かんでいるようにも見える。貴方達の誰かがそれを指摘するのならば、彼は頬を膨らませ、唇を軽く尖らせつつも、困ったように眉を下げた。

「別に……特別な何かがあるわけじゃないよ。ただ、事件を調べる時に少しだけ、妙な影を見付けてね。それが少々引っ掛かっているだけさ。その影は事件に直接関係ないし、おそらくは出逢う事もない。だから、ボクの|心配《コレ》は単なる考えすぎ。まあ、どんな任務にも危険はあるからね、油断だけはしないで欲しいとは思っているよ。心配なんてただの杞憂に終わるのならそれが一番なのさ」

 だからほら、ボクは大丈夫だから早くお行き?
 そう言って少年は貴方達の足を急かす。
 これ以上の無駄は許さないと言わんばかりのその様子に、しぶしぶかそうでないか、あなた達はそのまま少年から遠ざかっていくだろう。
 部屋を出る。あと一歩、その直前に、

「黒い、髪の、女……」

 意図的か、はたまたそうでないか。小さな声が聞こえた気がした。
これまでのお話

第3章 ボス戦 『深骸の泡沫姫』


POW 深骸海獣の召喚
【深骸海獣】を召喚し、攻撃技「【噛み砕き】」か回復技「【自己犠牲】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[深骸海獣]と共に消滅死亡する。
SPD 深骸への誘い
「【あなたも私と一緒になりましょう!】」と叫び、視界内の全対象を麻痺させ続ける。毎秒体力を消耗し、目を閉じると効果終了。再使用まで「前回の麻痺時間×2倍」の休息が必要。
WIZ 深骸大海獣出現
インビジブルの群れ(どこにでもいる)に自身を喰わせ死亡すると、無敵獣【深骸大海獣】が出現する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化し、自身が生前に指定した敵を【青白い熱怪光】で遠距離攻撃するが、動きは鈍い。
イラスト 綺月るぅた
√汎神解剖機関 普通11