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揺蕩って、夢に。ずっと目覚めないで。
「いーい話を持ってきましたよォ」
おどけた様子でファジル・カイム(地獄への道の舗装屋・h05967)は上半身ごと首を傾げた。
動作と重力に従ってストレートの銀の長い髪がしだれ落ちる。
「お仕事の話ですオシゴト!いいでしょうみんなすきでしょう!」
その体勢のまま。
にまあ、そんな効果音がつきそうな満面の笑みを浮かべて、ファジルはアメジストの様な紫の瞳であなた達を見た。
「……エ?好きでシゴトしてない?あーははー、たしかに単語を聞いた瞬間嫌そうな顔したもんなあ。んー!そんなトコも人間らしくてだあいすきなんですけどねえ!」
呆気に取られ、考え込み、また笑顔に。くるくる変わる表情と人間偏愛はまさしく災厄に相応しいものであり……いやこれ以上はよしましょう。語り始めたらきりがない。
私も、ファジルも。
|閑話休題《それはさておき》。
「そーうなんだよ。
そうそうそうそう!ある少年が眠ったまま起きない、なんて話を聞きましてね!」
ええ、お察しのいい方ならわかることでしょう。
「救っちゃってほしいんですよね!わかります?好きでしょうそういうの!」
ぼぉくは知ってるんだあ!と次は身体をのけぞらせたかと思うと両手を広げる。
「気になってきた?きちゃった?」
かと思えばずずいと身を乗り出してあなた達に迫る。
なんなんだこの男……女?まあどっちでもいいでしょう。
長いまつ毛を瞬かせてらんらんとあなた達を見つめる。……気まずい。
「まー気になってなくってもワタクシは勝手に喋っちゃうんですけどもぉ!」
いいでしょぉう?とにっこり笑った。
「少年の名前はレクトくんですねえ」
ファジルは目を瞑って、右手の人差し指でこめかみをトントンとしながら語り始めた。
「突然起きなくなっちゃったみたいで、ずーっと寝てるんですよお……いいですねえ、一度は思ったことありません?ずっと寝てられたらな、って」
「そおれが起きちゃったみたいで!あ、レクトくんは寝てるんだけどね!」
急にガッと目を見開くと抱腹絶倒とばかりに笑う。
ふうふう、息を整えないといけないくらい笑うと、次はしくしくと泣き真似をし始めた。
「お母さんはいろんなお医者さんに見てもらっても、みんな首を横に振るって原因不明だと……うう、なんて可哀想なんでしょう……」
そ・こ・で!!勢いだけの大きな声。
「あなた達の出番というわけですよお!いいですねえヒーローですねえ!」
「あ、私に聞かれてもそれ以上のことは出てきませんのでよろしくお願いしますねえ〜。ほら言うでしょう、情報は足で稼げって!」
ま、どこに行けばいいかは知ってるんですけど!ははは!
さあ行った行った!とばかりに紙ペラを一枚。
よく見れば地図だった。
「じゃ、そういうことでお願いしますよお!アタシ皆さんのこと見てるんで楽しませてもらいますねェ!」
くるりと反転、自分の部屋に戻ろうとするファジル。
数歩歩いて。
「そうそう、言い忘れてましたけぇど」
顔だけこちらに向けて言う。
「最悪、その子死んじゃうんで気を付けてくださいねぇ!」
気味悪い笑顔を浮かべて、横目にあなた達を確認したあと、また歩みはじめる。
カツカツと、ヒールの音だけが残っていった。
これまでのお話
第1章 冒険 『尋ね人はどこにいる?』

POW
足や体力を使って地道に時間をかけて探し回る。
SPD
スピード勝負で機転を効かせた方法で探す。
WIZ
知識や経験から推理して、最適解を導き出してから探しに行く。
√EDEN 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●???
揺蕩う、揺蕩う。
柔らかくて、暖かくて。
包み込まれて。
幸せ?不幸せ?わからないけど。
きっとこれでいいんだ。
きっと。
嬉しくも悲しくもない、そんな、夢。
ずっと、ずっと、目覚めないで。
――目覚めないで。

え、ちょ、待っ、じ、情報量は多い割に、肝心の情報はほぼないですよ……!?丸投げえええ……っ!?
|死んじゃうとか《爆弾》も聞いたので、行きます。行きますけど……!ここどこ……?
レクト君の居場所はわかってるんですよね?私がここでするべきは、眠り続ける理由を探すこと……?
……もう。仕方ありません。混乱してても何していいか分からなくとも、とりあえず動かないと。小さくてもいいから、情報を集めましょうか。
人がいる場合は相手を観察した上で、お話を聞いてみます。怪しい人だったら不用意に情報を渡さないように。
……あとは、怪しい痕跡を探す、とかなんですけど。霊感とか術の知識とかはさっぱりなので、わかるかなあ……。

レクトさんが亡くなればご家族は悲しむでしょう
それは避けたいです
力及ぶ限りお手伝いしましょう
地図の場所に伺います
ご自宅か病院でしょうか
ご家族の方に挨拶します
「警察関係の仕事をしています、青木緋翠と申します。レクトさんのご病気のことでうかがいました。いくつか伝手はありますので、お役に立てるかもしれません。ご事情を伺ってもよろしいでしょうか?」
病気の始まった時期や、その前後でおかしなことが起きなかったか伺いましょう
レクトさんにもお会いできるなら、ファイバーケーブルに分析の魔法を通し、スマートグラスで状態を分析します
レクトさんの安全第一で、物理的な危険が及びそうであれば電磁バリアを展開しお守りします
●あの人間災厄あとで殴るしかない
見下・七三子 (使い捨ての戦闘員・h00338)は混乱していた。
そう、依頼人のファジル・カイムがあんなめちゃくちゃな依頼をしたから。
じゃ!なんて言って、能力者達に任せ自分は引っ込まれたら、そりゃ、混乱もする。
(え、ちょ、待っ、情報量は多い割に、肝心の情報はほぼないですよ……!?)
はい、丸投げです。うちの人間災厄がすみません。
置き土産とばかりに|爆弾《死ぬ》も設置したため、行かざるを得ないのだが。
……ここどこ?
地図の場所には来た。来たのだが、肝心のレクト君の居場所は?
私のすべきことは|眠り続ける理由《怪異》を探すこと……?
ぐるぐる、きゅう。
ちょっと、休憩しましょう。お茶でも飲んで、一息ついて。
そしたら、とりあえず動かないと……。
時を同じくして。
青木・緋翠 (ほんわかパソコン・h00827)もあの人間災厄に渡された地図を片手に歩いていた。
長閑な街なのか、人通りもそこまで多くはなく、散歩でもしたらさぞかしのんびり出来るだろうなあといった印象を受ける。
行けばいいのは自宅か病院か……。
(レクトさんが亡くなればご家族は悲しむでしょう。それは避けたいです)
右手を顎に当て考えを巡らせながら歩いていけば、目に入ったのは黒い髪を高い位置で結わえた女性。
座ってお茶を飲んでいる……目があった。
「……あっ……どうも」
先に声をかけたのは気まずくなった女性の方だった。
「どうも。こんにちは。どうかされたのですか?具合でも……」
緋翠は持ち前の丁寧さを発揮してそれに答える。
「いっ、いえいえいえいえ!そんなんじゃなくて……ってその手に持っているのは……」
女性はわたわたとお茶を置いて両手を振って、気付いた。
「?これですか?」
緋翠は地図を掲げた。
「……いやぁ、おんなじ目的の人がいて嬉しいです!よかった、私一人じゃ多分たどり着けなかったかと……」
女性は見下・七三子と名乗った。
「七三子さんと、お呼びしてもいいでしょうか」
「えっ、あっはいだいじょうぶです!」
あれから、同じ地図を見せあって、同じ√能力者だとわかり、こうして同じ道を歩いていた。
「俺は青木・緋翠です。俺も他に人がいると心強いので嬉しいです」
「それなら何よりです……!」
「それで、病院に行くかご自宅に向かうか、悩んでいたところなんですが……」
「そうですね、私なら、家に向かうかもしれません。レクト君が病院にいたとしても、家族の同意を得ないと会えないかもしれないので……」
それも確かに、と緋翠は納得した。
「では、ご自宅に向かうことにしましょうか」
「はい、後ろから付いていきますね……!」
到着するなり緋翠は迷いなくインターホンを押す。
中から出てきたのは見知らぬ人へ対する不安を全面に押し出した表情の女性。
「レクトさんのお母様でしょうか」
「え、ええ、はい、そうですがなにか……」
怪訝な声色だった。
「警察関係の仕事をしています、青木・緋翠と申します。レクトさんのご病気のことで伺いました」
「は、はぁ……」
「いくつか伝手がありますので、お役に立てるかと思いまして。ご事情を伺ってもよろしいでしょうか?」
「あっ、私は見下・七三子といいます……!いきなりすみません、お手伝いを出来ないかと思いまして……!」
母親からしてみれば怪しいことこの上ない。しかし。
幾度も、何処でも、首を横に振られた息子の病気。
それが治るのなら怪しくとも。
藁にも縋る思いだった。……話を聞くだけなら。そう、話を聞くだけ。
「……わかりました、どうぞ、上がってください」
母親は、覚悟が決まったような神妙な顔つきで二人を招き入れた。
二人は机を挟んで母親と対面していた。
目の前にはお茶まで用意してくれている。
七三子なんかはいえいえ!そんな、と遠慮していたのだが。
なんだかんだ、なし崩し的に、お茶を頂いている。
「お茶までありがとうございます。……それでなんですが、その、レクトさんの病気の始まった時期や、その前後でおかしなことが起きなかったか聞きたいのです」
緋翠は、頭を下げてから、単刀直入に切り出した。
母親の話を要約するならこうだ。
『丁度一週間前ほど。朝に起きてこないから見に行ったらまだ寝ていて、声をかけても揺すっても起きない。まさかとは思い首も触ってみたが温かいし、息もしている。そこからずっと起きない。いくつも病院に聞いたが原因不明だと。今は自分のベッドで寝ていて、栄養補給のための点滴で命を繋いでいる』
「……それは……」
なんと言っていいのか。七三子は眉を下げて悲しそうな、半ばあきらめた様な表情の母親に同情した。
「……レクトさんの様子を見させて頂いてもよろしいでしょうか」
緋翠はしばらく考えた後、母親に真剣な表情で問うた。
所変わって、レクトの自室。
「ほんとに、眠っているだけですね……」
母親に許可を得て、ファイバーケーブルをレクトに接続、スマートグラスで状態を分析した緋翠は眉間に皺を寄せた。
脈拍も、心音も、寝ている人間のそれと同じ。
「では、やっぱり怪異の……」
七三子は心当たりのある可能性を口に出す。
「しっ、あまり、心配にさせてしまうのはよろしくないでしょう。
そういう話は、外で」
それを止めたのは緋翠だった。
「そう、ですね……」
止められた七三子も目を細めて頷いた。
「本日は……ありがとうございました」
玄関先、緋翠と七三子は上半身を折って頭を下げた。
「いえ、こちらこそ、レクトのためにありがとうございました」
母親も頭を下げて応じる。
「いや、すぐになんとか出来なかったのも申し訳なくて……」
「でも、必ず、原因を突き止めてレクト君を救ってみせますから」
七三子は両手をぐっと握って真剣に伝える。
「……ふふ、本当に、ありがとう。なんだかわからないけれど、希望が持てるような気がしてきたわ」
それは今日始めて見せる母親の笑みだった。
二人はホッと胸を撫で下ろし、では、とそれぞれ会釈して家からお暇することとした。
――その傍で、怪異が二人をじっと見つめていた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

【アドリブ&連携歓迎】
……グルルル。
(貰った地図の範囲を回って「レクト」っていう名前と、その母親らしい人間の声が聞こえる場所に行ってみようかな)
……出来るだけ、早く。
(最悪の場合、眠ってる人間が死ぬって言ってた。……急がないと)
「クライミング・跳躍力」を利用して建物を登ったり、飛び移ったりしながら「過剰強化」された聴覚で対象を追跡する。
人間、なんで、起きない?
(原因はなんだろう……。自分の意思で起きてないのかな、それとも怪異の類……?)
「……グルルル。」
コウガミ・ルカ(人間災厄「麻薬犬」・h03932)はいつもの唸り声を上げて考えていた。
(貰った地図。その範囲を回って、「レクト」という名前と、その母親らしい人間の声が聞こえる場所に行くのがいい、かな)
「……出来るだけ、早く。」
あの人間災厄が言い残していったことを思い出す。
(最悪の場合、眠っている人間が死ぬって言ってた)
……急がないと。
きっ、と真剣な顔になると、駆け出した。
作られ、強化されたルカにとって、フィールドワークというものは得意だった。
誰もいない路地裏に入り込むと、室外機やベランダの柵、ありとあらゆるものを使って屋根の上へとするする登っていく。
その跳躍力は見る者が見たら恐怖すら覚えるほどかもしれない。
屋根上を駆け、家から家へ飛び移り、周りを険しい目で探りながら、過剰強化された聴覚でレクトを聞き取らんとする。
たたたと軽快な音を立てて走っていくルカ。
「……グルル」
その足が止まった。
上から見下ろせば丁度、二人の能力者が母親と接触しているところだった。
しかも、そのうちの一人は。
(聞いたことある、声、と姿)
そっと屋根へ座り、ルカは情報収集に徹することにした。
盗み聞きではない。断じて。
自分では、あそこまでスムーズに交渉することは出来ないから。
……それにしても。
「人間、なんで、起きない?」
小さく呟く。
原因はなんだろう。自分の意志で起きていないのか、それとも――怪異。
同時に家の中からも同じ結論が聞こえてきた。
しばらくして。二人が家から出てきたところを認めて。
――二人の傍に、怪異がいることに気がついた。
🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『悪夢の使徒』

POW
あなたを観ている
他√を「自身の現在地と同じ場所」から観察し、視界内の1体に【精神汚染】ダメージを与える。
他√を「自身の現在地と同じ場所」から観察し、視界内の1体に【精神汚染】ダメージを与える。
SPD
ずっと一緒にいましょう
【子守歌】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【悪夢】に対する抵抗力を10分の1にする。
【子守歌】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【悪夢】に対する抵抗力を10分の1にする。
WIZ
あなたの見たい夢は何
10÷レベル秒念じると好きな姿に変身でき、今より小さくなると回避・隠密・機動力、大きくなると命中・威力・驚かせ力が上昇する。ちなみに【恐怖の象徴】【悲しみの象徴】【苦痛の象徴】への変身が得意。
10÷レベル秒念じると好きな姿に変身でき、今より小さくなると回避・隠密・機動力、大きくなると命中・威力・驚かせ力が上昇する。ちなみに【恐怖の象徴】【悲しみの象徴】【苦痛の象徴】への変身が得意。
√汎神解剖機関 普通11
●
素敵ね、素敵。
それって悪夢かしら。
あなた達の見たい夢もあるわよね?
見させてあげるから、一緒にいても、いいでしょう?
ずっと、ずっと、醒めないで、見ているわ。
見ているから。うふふ、ふふふ、だから。
素敵ね。すてき。素敵なの。
●
……え?アノコは私かって?
いいえ、ちがうわ。
アノコは夢を見てるからいるだけ。
私はここに、わたしたちはここにいるだけ。
ほら、でも、はやくしないと、ふふ、うふふ、うふふふふ。