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▼イベント名:お茶会を共に

#√EDEN #ノベル #薔薇と迷い子

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 ──そこは、いつか夢見たような童話の庭だった。
 黄金の光が降り注ぐ中、いっせいに自慢の花びらをほころばせながら、薔薇が咲いている。内海に憂い気な影を帯びた赤い薔薇に、赤子の頬のように愛らしい桃色の薔薇。色彩豊かな花弁は絵本で見たお姫様のドレスのようだ。

「わぁ~、綺麗なお庭~…」
 電車の広告で見かけて、素敵だなとその時は思っても、次の目的地に着くころには忘れてしまう様な、日常とは程遠い景色。でも、こうして目の前に広げられれば、ついときめいてしまうのが乙女心だ。感嘆のため息を吐き、瞳いっぱいに景色を映して──戀ヶ仲・くるり(Rolling days・h01025)はハッと我に返り、隣に並ぶ雨夜・氷月(壊月・h00493)の顔を慌てて見上げた。

「って、そろそろ説明してもらえます!? 何ですか、ここ!」
「俺が『暇?』って聞いたら『はい』って言ったのはくるりじゃん」
「言いましたけど!」
 ふうん、と一言漏らすだけで顔色を変えず庭園を眺めていた氷月は、そこでようやく顔を合わせると、わざとらしく首をかしげてみせる。
「遊びに|来《拉致》っちゃった」
「拉致っちゃった♡、じゃなくて! そもそも、氷月さん仕事って言ってましたよね? 何の仕事なんです!?」
 ぴよぴよ小鳥のように捲くし立てるくるりの疑問に、氷月は、まあまあ、と笑って少女の肩を軽く叩いてみせる。
「とりあえずオシゴトのことは置いとこ?」
「置いとこ? でもなくて~!」
 この人、全くこちらの質問に答えるつもりがない!
 氷月の適当な返事に、くるりはようやく自身が暖簾に腕押しし続けていることに気が付いた。
「ああ、ちなみにその衣装はドレスコードだから。食事中も汚さないようにね、女王サマ」
「へえ、ドレスコード……え、このドレスで食事するんですか!?」
「うん。ここ、今アリスのアフタヌーンティーやってるんだってさ」
「えっ」
 ドレスコード。女王様。アリスのアフタヌーンティー。縁のない言葉にくるりの顔色は赤を通り越してとうとう青くなり始めた。軋むような音を立てて自分の衣装を見下ろす。
 そう。気付けば更衣室に押し込められ、着せられたのがこのドレスだった。ふんだんにフリルが盛られ、金糸の刺繍とリボンが縁取る鮮やかな赤色。私が本日の主役ですとでも言いたげな華やかなドレスは、16歳の一般女子高生が着るにはあまりにも豪奢すぎる。
「チェンジ、チェンジを求めます……ッ! っていうか恥ずかしいし! もう無理! 大体これ、一体いくらするんですかぁ!?」
「衣装の費用は俺持ちだから安心して?」
「安心できない! 不安しかない!」
 とうとう堰を切った羞恥心にわあ、と顔を覆ったくるりを見て、氷月は笑みを深めた。
「ほらほら、折角だから、コレつけて」
「何コレティアラ……って、え!?」
 にっこり頷く氷月から差し出されたのは、上品な金のティアラだ。それだけなら何とか理解できるところ、なぜか赤いリボンを結んだかわいい兎耳が付属している。
「なんで!? 赤の女王に兎耳いる!?」
「だって可愛いし。ほら着けるよ~」
「わーわーわー!!」

 何とか抵抗しようとするも、あっという間に氷月の手で無事戴冠させられてしまった。
 どうしてこんなことに──もう何度目かの問いを繰り返して、くるりはげっそりと溜め息を吐く。
「あっは! 何でそんな嘆きの表情なの?」
 氷月はさりげなく手にしていたスマートフォンを彼女に向けると、写真アプリを開く。
「いやこんな状況……って、しゃ、写真! 写真撮ってる!」
「もう、くるり。せっかく可愛く着飾ったんだから笑って」
「いやいや、笑えないです! えええ、ちょっと、誰にも見せないでくださいね!?」
「うんうん」
 ──迷い込んだ少女役とも迷ったが、やはり赤が似合う。
 慌て続ける彼女をよそに、自分の見立て通りに可愛らしく仕上がったくるりを一瞥し、氷月は満足げに頷いた。
 少し改まった調子で、少女に向かって手を差し伸べる。
「──それじゃ、そろそろ行こうか。女王サマ?」
 帽子屋の衣装をスマートに着こなし、共に着けられたチェシャ猫の耳尻尾は悪戯に笑みを浮かべてみせる彼によく似合っていた。気後れしそうなほど絵になる氷月の態度に、くるりはごくんと息を呑む。
「うっ……ハイ」
 恐る恐る震える手を伸ばし、白手袋の手の上に己の手を重ねる。彼の手の温度も、今のくるりにはよく分からなかった。

 かぐわしい薔薇たちの合間を抜けて、氷月のエスコートで茶会の席に着く。当然の様に隣に座った男の横顔を眺め、溜息を零す。
「え〜ん……薔薇が霞む程の美形で帽子屋の格好バッチリ決めた人の隣しんどい……」
 イベント量の多さに限界を迎えた少女がぼそぼそと何かを呟きだした。おやと思いながらも、氷月は紅茶をカップに勝手に注ぎ、くるりの前に置く。さりげない仕草の合間に、さらさらと流れる髪の間から愛らしい紫色の猫の耳が顔を覗かせた。
「顔面格差だよぉ……うわ猫耳似合う……美形の大勝利……」
 スタンドを寄せる手つきは優雅なものだ。太陽のせいか、横顔も眩しい。
 一方の氷月は食べさせたいだけのスイーツを全て皿の上に乗せて、少女の前に並べた。
「ええ? エスコートも完璧? 私のことつつくと楽しいしか思ってなさそうなのに卒がない……」
「あはは。くるり、全部口に出てるよ」
 まろびでる本音に悪感情は見えない。くるりの言うことはその通りでしかないのだから、嫌なら本気で拒めばいいのに。そうしないから振り回されるのだと、少女は気付くのか否か。面白いなぁ、とは思っても、まだ男は口に出さない。
「ほらほら、女王サマ。お茶会が始まるよ」
 ぽんと肩を叩けば、ハッと夢から覚めた顔でくるりは口元を覆う。物言いたげな少女の視線をあえて無視して、氷月は金色のフォークを手に取った。適当なケーキを一口分差して差し出せば、くるりは慌ててフォークを受け取る。
「さ、好きなだけ食べなよ!」
「えっえっあっ、い、いただきます?」
 ぱくりと口に含めば、広がる瑞々しい苺の甘味と酸味。ほんのアクセントに赤薔薇が上品に香り、少女の表情もようやく花開いた。
「お、美味しい……!」
「んっふふ、気に入ったようで何より!」
「はい! それに、どの薔薇ケーキもすごいかわいいです~!」
 色とりどりの薔薇のケーキはどれも宝石のように艶やかだ。金で薔薇が刻まれた白磁のティーセットも可愛らしく、少女の気分はあっという間に浮き上がった。

 全色並べられたケーキをぱくぱくと食べ進めていく。
 次第に、さっきまで淀んですら見えた薄い紫色の瞳は、花にも負けない瑞々しさで輝いていた。ころころと変わるくるりの表情を見ながら、氷月はくすくすと笑う。
「くるりを見ながら飲む紅茶は美味しいよ」
 そう言って優雅にティーカップに口付けた氷月の言葉に、少女はまた理性を取り戻した。
「……ハッ。わ、私まだ、納得してませんからね!?」
「うんうん、はいお代わりどーぞ」
「あっいい匂ーい……じゃなくて!」
 何かに抵抗してみせる、外れのないくるりの態度を笑いながら、氷月は紅茶のお代わりを注いだ。
 この少女を見ていると、本当に飽きない。くるくる表情が変わって、言葉一つで情緒は乱高下。

 ──じゃあ、次はどんな顔をして見せるだろう?
 愉快な答え合わせの瞬間を楽しみに、男はまた口を開く。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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