シナリオ

三課のセブンアミーゴス×初夏の交通安全ミュージカル!

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 その日、アタシはふと思い立ったの。”アタシ、魔法少女になるわ(指ハート💖)”って。
「ママ、エイプリル・フールは終わりましたの」
 やっだぁ、鋭いわねぇイカルガちゃん。おすまし顔から放たれるツッコミも𝓛𝓸𝓿𝓮𝓵𝔂💕 ……この子の整った容姿を眺めてたら、イイコト思い付いちゃった。アンタ、有名なんだから一日署長でも体験してらっしゃーい。


 晴天! ステージ! 子どもたちのキラッキラな瞳!
 そしてなにより、今日はちょっと特別な――そう、“歌で始まる交通安全”!!
「♪ きけ~んのサインは~ どこから来るの~~~? ♪」
 高らかに響く歌声とともに、紫の長髪をなびかせて登場したのは一日署長、婦警さんの衣装を纏ったイカルガ・テスタメント!
 ”歌オンリーじゃ直ぐに飽きられちゃうわ!”なんて|実母《ママ》に心配されたからには、今日は一日頑張ってしまいますの! と気合十分なご様子。
「皆さ~ん! こんにちは~っ!! 本日はようこそいらっしゃいましたわ!」
 歌声に合わせて軽やかにターン&優雅にポーズ。舞台には風が巻き、紙吹雪――いや、無数の花弁が舞うような演出まで入る豪華っぷり!
「今日は皆様と一緒に、“交通安全”について楽しく学んでいきますの♪ 歌って、踊って、覚えて、笑って――最後にはきっと、あなたの毎日が少しだけ安全になりますわ!」

 \パチパチパチパチ!!/

 ちびっこたちから自然に拍手が起きたその時――舞台下から、モコ・ブラウンがモグモグっと飛び出してきた!
「いっくモグーーー!! モグの名前はモコちゃん! 今日も元気にルール違反――じゃなくて、ルールを学びに来たモグ!!」
「モコ様……訂正のタイミング、早かったですわね」
「イカルガお姉さんの歌が流れてきたら、出ざるを得ないモグ! そしてこれモグ!」
 \ぽふっ/ 地面がモゴモゴと盛り上がり、次々に現れるモグラたち!
 カラフルな帽子とサングラスを装備した、モコちゃんの配下”バックダンサーモグラ隊”だ!!
「紹介するモグ! ミュージカル風交通安全劇を盛り上げる――モグラセーフティーズ!!」
 ちびっこたちが「すご~い!」と目を丸くする中、再び歌声が響き出す。
「♪ み~ぎ、ひ~だり、みてご~らん~♪ あ~ぶない~よ、そこの君~ ♪」
 イカルガの歌と、モグラセーフティーズのちょこちょこダンスが奇跡の融合。
「おまわりさんたちが教えてくれるのは、“守るため”のルールモグ! ボケてツッコんで飛び交って――」
「最終的には、笑って帰るのが目的ですわ♪」

 ――さあ、“|歌劇《過激》★交通安全教室”の幕が、今上がる!


「歩きながらスマホを使うと、とーっても危ないんですよ」
 舞台中央で、史記守・陽が穏やかに語る。子どもたちの目線に合わせた姿勢、柔らかな口調――これぞ、“みんなのおまわりさん”。
「周囲が見えなくなって、車や自転車に気づけなくなるんです。最悪の場合、命に関わることもありますから……スマホは、止まってから使いましょうね」
「でもハルお兄さん? 現実ってさぁ、刺激が強すぎるモグよねぇ」
 はい、出た。モコちゃん。
「例えば地上の光とか、責任とか、|上司《ボス》からの鬼|NYAINE《ニャイン》とか……全部遮断したくなるモグ!」
 そう言いながら、モコはサングラスをかけ、ヘッドフォンを装着。最後にスマホを取り出して、パチスロアプリをタップタップ。
「――シキくん、確変入ったからちょっと待つモグ」
「えっ?」
 陽が一瞬、言葉を失う。観客席から笑いが漏れる。
「こういう風に、周囲が見えなくなった状態で歩いていると……とても危険です。皆さん、モコちゃんの真似は、しないようにしてくださいね」
「えっ! 名誉モグラであるこのモグを悪い見本にするモグか!?」
「……“名誉”の意味、分かって言ってます?」
 んー? と首を傾げて見せるモコちゃん、かわいいね!


 ニット帽、ヘッドフォン、大きすぎるスマホ。一目で“アブナイ例”と分かる姿で現れたのは、広瀬・御影。無言でスマホを見つめながら、誘われるように歩き出す。観客がざわつき始めた、その時――
 突如吹き上がるレッドスモーク、跳躍!! ――宙返り!(1カメ)宙返り!(2カメ)宙返り!!(3カメ)
 シュタン! と軽やかな着地、此処で「|斗《たたか》え! レッドマスター!」の特別インストver.がカットイン!
「例えブッダが許しても!」
\たとえキリストがゆるしてもーっ/
 おおっとこれは想定外、ちびっ子達からブルーマスターの合いの手だ!
「俺は――俺たちは、許さない!!」
 叢雲・颯……否、レッドマスターの完璧な決めポーズ&チュドーン! と盛大な爆発、これぞ正しくヒーローショー! ……交通安全教室は何処行った?
(|レッドマスター《劇薬》だ……ニャン)
 良薬はナントヤラを通り越して特効薬(※但し副作用で死ぬ)が来ちゃった。あーあ、みーくんの瞳からハイライトが消えちゃいました。
「いかん! 助けを呼ぶ声が……今向かうぞ、カムヒア!! マスターヴィーーークル!!」
 レッドマスターの足元から順に励起、拡大する赤い回路。EMERGENCY, EMERGENCY――|緊急ブザー&回る赤色灯&危機感煽るBGM《中条・セツリによる過剰演出がここそとばかりに炸裂》!!
 即座、八曲署『捜査三課』を駆け巡る|オーソライズ《緊急出動要請》、分割画面に次々と署員が現れる!
『承認しようでは無いか!』覇王が。
『承認するわぁ❤』バーのママが。
『承認します~!』🐟が。
『承認しますぞ!』🐯が。
『にゃんにゃん、ふにゃー♪』😾が。
 あの……要請先、ホントに|八曲署《ケーサツ》で合ってます?
 ブヲン! 後方の断崖(概念)より飛び出す、赤一色な【|ピーーー《スポンサー外です》】の違法改造車――此処に見・参!! ……アレで要請通ったの?!
「とう!」
 走り来るマスターヴィークルに並走、ひらりと運転席に飛び乗るレッドマスター! と同時にアクセルべた踏み、メーターは瞬時に|レッドゾーン《100キロ以上》に突入!!
「アブナーーイ!」\キキキッーー!/
 御影は“ハッ”と顔を上げ――

 CRAAAAAASH!!

 衝突実験のダミー人形めいて、頭からフロントガラスをブチ破るレッドマスター。
 観客席から「うわあああ!!」という歓声(?)。
 一方、宙を舞う御影、体感時間を引き延ばす【時間稼ぎ】×【限界突破】。車体からの衝撃を【カウンター】で相殺。跳ね飛ばされる瞬間に飛距離および入射角を【弾道計算】、タイミングを計り【ジャストガード】で着地ダメージ緩和、それでも残りそうな衝撃を【霊的防護】。――上空を錐揉み回転、|65メートル先《妙に生々しい距離》まで飛んだ割には、”ポテッ”と安全着地。

 テロップ:※特殊な訓練を受けているので無事です

「いたた……僕が並の人間だったらヤバかったニャン」
「だ、大丈夫かぁあああッッ!!??」
 レッドマスターが血を流しながら駆け寄り――勢いそのまま、起き上がろうとしていた御影にタックル。今度こそ御影、がくりと倒れ伏す。
「大丈夫かぁぁぁぁ!?!?」
 トドメを刺したヒーローの絶叫が木霊する。そう、道路には「暴走車」だけでなく、「やばいヒーロー」など予想外の危険が盛り沢山なのだ。
「ん? なんでヒーローが公害扱いなのかな?」
 落ち着くんだレッドマスター、これは言葉のアヤで……ア゛ーッ!


 地の文=サンが成敗されたニャン、合掌。しょうがないから、ここは僕が代打に入るのだワン。
 前の事故で空を飛びましたが、タックルのおかげで頭の中がスカッとクリア。……僕は大丈夫ですニャン、ご安心を。
「みんな、ああはなりたくないモグよねー? 注意1秒、怪我一生なのモグ〜〜!」
 モコ君、どの口が言うのかニャン? 後で説教部屋にご招待だワン。
「次は“自転車”についてのお話です」
 交通安全界の笑顔代表・はる君が、いつもの柔らかい声で語り始める。あれだけのインパクトを目の当たりにしてなお微笑むその姿、もはや涅槃かホラーだニャン。いや、尊敬の念を忘れてはいけないワン。
「自転車に乗るときは、必ずヘルメットを被りましょう。もし転んだり、事故に遭ったりしたとき――頭を守ってくれる、とても大切な装備なんですよ」
「脳みそって、一度割れたら直らないモグよ!? ヘルメットは、おしゃれじゃなくて命の守り神モグ!」
 急に真顔になったモコ君、今日もブレない。いつものノリに見えて実は真面目だニャン。
「努力義務って言葉、知ってますか? ヘルメットはね、子どもも大人も“可能な限り着けてね”っていうお願いがされているんです。でも“お願い”って思わずに、自分の命を大事にするために、自分から着けるようにしてほしいんです」
「着けることがカッコいいって思えたら、きっとみんな続けられるモグね!」

 そして――次なる主役が、舞台袖でナレーションに勤しむ僕の隣にぬるっと登場。
「ふふふ……広瀬サン、災難だったネ……叢雲サンの愛車、修理は経費で落ちそうかナ……?」
 ちょっと待った、ぼたん君。僕の心配はしてくれないのかニャン?
「広瀬サンは三課の精鋭だからねぇ……信頼です、信頼……ひひひ」
 その笑みの奥に、確かな手練れの気配。
 オチを任せられる――いや、任せたくなるような、不思議な安心感があるのだワン。彼ならやってくれると僕は信じているニャン。華麗に、軽やかに、吹っ飛んでくれると。
「広瀬サン……心の声が全部口から出ちゃってるヨ……」


 舞台中央、自転車に乗って颯爽と現れたのは、白く輝くヘルメットがキマってる秋津洲・釦、ぼたん君だワン。彼の任務は「正しいヘルメット着用の大切さを伝える」こと!
 その舞台裏では、婦警姿のセツリ君が「行け、ポチ太郎!」とナニカをけしかけてる様子。
 \わぁ、出たぁぁ!/ 観客の子どもたちが指差す先、舞台袖から這出る“それ”は大層不気味ニャン。明らかに急拵えな車のハリボテ。何でコレだけローコスト・クオリティなの、セツリ君?
 よく見れば、ハリボテの下から無数の白く、長く、枯れた“人間の手”がチラチラと出たり引っ込んだり。セツリ君の合図でハリボテの車体(?)が高速でステージを這い回り始めたワン……!
 対するぼたん君、周囲の暴走ぶりには既にある種の悟りを得ているようで――
「……。」
 あ、悟ってない。寧ろ理解が追い付かず絶句してるニャン。
 だが次の瞬間、彼は口角をあげて笑みを見せる。そう、これは仕事。観客はちびっこ、演者は阿鼻叫喚、それでも笑顔はプロフェッショナルの証なのだワン!
「ひひひ……いきますぜ……」
 刹那、ポチ太郎が唸るようなSEと共に突進、ステージに響く生の衝突音! 踏み鳴らす腕! 駆ける“車”!
 そしてぼたん君、真正面からそれを受け――高く宙へと跳ね上げられたニャン!
「♪ ……ラン・ランララ・ランラララン ♪」
 何処かで聞いたようなメロディ。イカルガ君の切なげな歌声と共に、ぼたん君の身体は弧を描いて地面へ落ち……途中でくるりと回転、着地成功ッ!
 安心して欲しい、当たり所は胴体だワン。 頭部は無傷、これぞヘルメットの力! ステージ横で見守っていたはる君、心底ほっとしたようニャンね。表情が素直で宜しいワン。
「みんなも被ろう……努力義務」
 そんな名台詞と共に、ぼたん君は決めポーズ。ちびっこたちから拍手喝采、流石だニャン。

 ……その直後。
「ほらポチ太郎、よくできました。さあ、特別なおやつのおかわりだ」
 セツリ君がにこにこと笑顔を振りまきつつ、懐から取り出したのは「ホ●ッ子風おやつ」。
 チュリリ――🦊――リリン! あ、これ二階級特進の予感ニャン……ポチ太郎の理性が完全にボーナスステージに突入してしまったワン!
 それまで舞台端でアイドリングしていたポチ太郎、一本の手がむくりと起き上がり――Goサイン、次の瞬間全速力で突進ッ!!
「えっ……おい待て|喫茶院《かふぇいん》……待て待て待て、ストップ!! あああああっぶ――」

 ドカァァァァァン!!

 巨大な爆煙が立ち昇り、吹っ飛ぶセツリ婦警。華麗なる爆散。ちなみに彼女はノーヘルだニャン。ダメ、絶対。
 やがて煙の中から姿を現す、ぼろぼろの警察帽をかぶり直したセツリ君。
「大丈夫大丈夫、怪我人も幽霊も出る訳ないさ。 これでもお子さまの心的安全には最大限配慮してるんだ」
 ……本当かニャン?
「みんな、今日の教訓を忘れないでね。ヘルメットは命を守る、ポチ太郎の突撃にも耐えられる(※演者に限る)」
 そして、観客席に向かってへらへらとピースサイン。
「いつか大人になって思い出して欲しい、“……あの交通安全教室、やばくなかった?”ってね」
 それで、ほんとにいいのかニャン……?


 さてフィナーレが近いので、みーくんには演台に戻って貰いまして……。

「ここまで見てくれて、本当にありがとうね」
 舞台中央、陽のやわらかボイスが静かにホールに響く。爆発にも轢き逃げにも一切動じず、飛んで来る破片その他etcを黙々とルートブレイカーで処理。客席を脅威から守り続けたその姿は、もはや三課の“平和神”。観客の子どもたちが、彼をまっすぐに見つめている。
「信号を守ること、ヘルメットをつけること、スマホを見ないこと……今日の劇を思い出して、安全に過ごしてくださいね」
 語り口は柔らかいまま。だけど、その言葉にはしっかりとした芯がある。保護者席からも自然と拍手が沸き起こった。

 そしてイカルガはふわりと舞台へ。まるで風に乗るような軽やかなステップで舞台を一巡し、歌姫の微笑みをたたえてマイクを手に取った。
「皆さま、本日はご覧いただきありがとうございました♪」
 舞台袖から、モグラセーフティーズのモコ分隊もぞろぞろと登場し、隊列を組む。
「それでは――締めの交通安全ソング、いかせていただきますわ! モグラセーフティーズ、演奏お願いっ!」

 シャラララ~ンとシンバル代わりの鍋の蓋が鳴る。陽も一歩引いて“指揮者”として参戦。
 イカルガが高らかに、そして軽やかに歌い上げる。

 ♪ お~うだ~ん歩道~をわたるとき~は~ ♪
 ♪ み~ぎ~ひだり~をみ~て~ て~をあ~げ~ま~しょ~ ♪

 キッズの手拍子が自然と合流。モコも手旗を振ってステップを刻む。
 舞台袖からは御影による百鬼夜行の配下妖怪たちが参加、揃いのベストとキャップ姿で軽やかなバックダンス。
 颯がゆるゆると手を振れば、陽も子どもたちに合わせて手拍子、御影はマイク片手にコーラス参加、セツリと釦は奇怪な模様のマラカスを振り振り。

 ♪ じてんしゃのるなら~ かぶろう~ヘルメ~ット~ ♪
 ♪ あたまをまもって~ ぼ・く・ら・は、ア~ンゼ~~ン ♪

 最後は全員で横一列、腕を組んでのラインダンス風ジャンプ。ステージに舞う紙吹雪がスポットライトに煌めいた。
 ラスサビを歌い終えたイカルガは、深々と丁寧にお辞儀をする。

「皆さまの命が、今日よりもっと輝きますように――ですわ」
 その願いに、舞台全体が静かに頷いたのだった。


 舞台の照明が落ち、緞帳がゆっくりと降りていく。その裏で、三課メンバーがぞろぞろと舞台袖へと引き上げていった。
「いやぁ……みんな、お疲れ様でしたニャン」
 ナレーションの代打を終えた御影が、手にしていた小道具のマイクをそっと台に戻す。
「ひひひ……一日中暴走してたのに、最後だけ妙に締まった感じがするのは気のせいですかねぇ……?」
 マラカス片手に釦がゆらゆらと歩きながら、実践劇の残骸を拾い上げる。キレーにスパっと切られた硬質竹槍……? 誰だろう、そんな殺意MAXな部材を仕入れたのは。
「ポチ太郎もいい働きだったね。次は花火でも仕込んでやろうかな……」
「私もレッドビークルの装備が足りなかった気がします。……よし、見直そう」
 ――それ以上は誰かがインビジブル休暇を取得する破目になり兼ねないから止めるのです。
「みなさま、お疲れさまでしたわ! 私は|実母《ママ》やお兄様のようにツッコミは出来ませんでしたが……」
 イカルガは優雅にモグラたちを整列させて帰隊点呼を取りつつ、しみじみと一言。リーダーのモコはというと……今もダンスのステップを踏みつつ、片づけ用具を背負っていた。
「本当に……皆さんのおかげで、今日も事故ゼロで終えられました」
 陽が丁寧に照明器具を畳みながら、全員へ柔らかな笑みを向けた。その“平和の象徴”オーラに、しばし皆が静まり返る。
「えっ……ゼロだったの……?」
「……まあ、観客基準ではな……」
「演者はカウント外ということで……」
 沈黙の後、爆笑。
 ごった返した舞台裏に響くのは、仲間たちの安堵と達成感に満ちた笑い声。
 そしてその隅で、モコがそっとつぶやいた。
「来年もまたやるモグ?」
「来年……?」
 陽が少しだけ目を細めて、仲間たちを見渡す。
「……やるなら、次は“自転車の二人乗り禁止”とか、どうですか?」
「じゃあ僕が三人乗りで吹っ飛ぶ役かナ……」

 日の暮れた舞台裏に、楽しげな予告が静かに残されたのだった。
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