回答、|キーボード《鍵盤》は語らない

リクエスト内容(741文字)
【√汎神解剖機関でシナリオの外伝エピソード】
以前書いて頂いた「問いかけよ、一欠片の思考をもって」の後日談的内容をお願いしたいです
グノシエンヌを引っ張て行きそのままライブステージへ。
ライブの始まりから終わりまでの内容をお願いしたいです
メンバー
・七十
・『フヴァリく』
(√能力『フリヴァく』イン・ステージや https://tw8.t-walker.jp/scenario/show?scenario_id=762 をご参照ください)
(今回もお願いできれば同席していて欲しいメンバー)
・「歓喜の歌」六宮・フェリクス(An die Freude・h00270)
・捕食して隷属化出来たグノシエンヌ
行動はお任せします
此方の行動・対応
・出来る限りグノシエンヌをライブに参加させようとする(無理そうだと判断すれば諦めてフェリクスさんに預けて観客に回そうとする)
・攻撃してくるようなら観客に被害を出さない様にしてつつ、ライブっぽく演出する
・観客には絶対に死者を出さないように動く(致命傷、瀕死の重傷位なら√能力を使用して治す)
ライブ中の観客の様子
・熱狂的……もはや狂気的な領域で盛り上がる
・狂気の影響か、鼻血や血涙を流すものが現れるが一曲終わるごとに何事もなかったかのように治っている
・ライブが終わればよくいる熱狂的なファンの領域に収まっている
・でも、しっかりライブのルールは守ってる
焦燥。焦燥である。
「い、嫌だ! ステージっていうのは、どれだけ即興でも台本というものが必要だろ!」
喚いているのは人間災厄である。頭上に鍵盤の天輪が浮かぶ際どい服装の女。エリック・サティの楽曲の名を借りた彼女、人間災厄「グノシエンヌ」――その欠片だ。肉体や思考こそ本体たる人間災厄と同等なれど、欠片ゆえに、その能力は大幅に制限・弱体化されている。
「むぅ、楽しく歌って踊るだけですよ?」
「ま、まあ、まあまあ……!」
手を引こうとするは神咲・七十(本日も迷子?の狂食姫・h00549)、どうにか間を取り持とうとしているのは|邪神の欠片《フリヴァく》。
そして側でケラケラ笑い声を上げている巨躯の男こそ、ある種、最も厄介かもしれない人間災厄「歓喜の歌」、六宮・フェリクス(An die Freude・h00270)である。
ライブハウス、ステージの舞台袖。わんわん吠えるグノシエンヌと、七十の攻防はまだ続く……。
「いやァ〜そんな嫌がる事かァ? 嫌がる事だな普通に」
「分かっていて止めないところが最悪だぞ「歓喜」!」
「はいはい喚いてろって」
耳の穴をほじり、欠伸すらして、止めてもくれない。七十のきらきらとした「おねがい」の目も、「折れて欲しい」と言わんばかりのフリヴァくの目も。そして――ステージから聞こえてくる楽しげな声。グノシエンヌは揺れていた。
ステージ自体は、嫌いではないのだ。ただ自分が女として、アイドルなどとして立つのは非常に――あまりにも――とてつもなく、嫌なのである。|何故《なにゆえ》彼女が男装しているのかにも繋がる話だが、ここは以下略。
「っ……だ、から、セットリストくらい寄越したまえ!」
「ほい」
「なんで歓喜から出てくるんだ!」
横から差し出された紙束に驚くグノシエンヌ。それはそうだ。ライブ終わりにセトリを公開しないバンドやアイドルがどこにいる。それが今回チラシという形であったわけで。
「あ、目を通してくれる感じです?」
ようやく離れた七十の腕、渋々といった雰囲気で彼女はチラシの内容をあらためる。
「……いつも君らが歌ってるやつだね?」
とんとん、指で二つの曲を指す彼女。
「はい、二人で楽しく歌ってますよ〜」
ふわふわにこにこ笑顔の七十、横のフリヴァくもこくこく頷く。アイズ。チル・マイ――何度か『本体』が聴いた曲だ。欠片たる彼女にも記憶があるのか、若干、苦々しい顔をした。
……何を思ったか。彼女はその場で幻影の鍵盤を展開する。フェリクスが刀の柄へと手をかけ、七十がいつでも制御できるように構える中で、彼女は鍵盤へと指を置き。
――奏でられたのは、キーボードでの伴奏だ。七十とフリヴァく、彼女たちが普段歌っている曲のもの――。
「ぼくはね」
苦虫を噛み潰したかのような顔で、けれどどこか強い意志の灯る目で。
「正規の出演依頼なら、断らない。あくまで伴奏としてだけど」
――それが、グノシエンヌという災厄である。音楽を愛したが故にその曲を己の名とし、Ankerとして「歓喜」を名乗る男を選んだ。プライドの高さはお墨付き。欠片とて変わりない。
ぱあっと明るくなる七十の表情、安心した様子のフリヴァくを前に、グノシエンヌが鼻を鳴らす。
「楽譜を。3分もあれば覚えてあげる。きみたちとは積極的には絡まない。ぼくは曲に集中したいからね」
「積極的じゃなかったらいいんですね」
「都合よく解釈するなよ!」
つん、とした態度ではあるが、彼女のプライドは確かなものだ。
――ステージの裏から聞こえてきたキーボードの音に、観客が気づいたようだ。ざわめく声が大きくなり徐々に歓声が上がり始めた。「歓喜の声」に耳を傾けるフェリクス。
「オレちゃんもう大丈夫そーだな。じゃ、『あっち』で優雅に聞かせてもらう事にするわ」
手のひらひらり振っていく彼に七十も手を振り返し――フリヴァくが用意してきた楽譜とにらめっこをはじめたグノシエンヌの横で、楽譜を覗き込む。
「音楽、好きですか?」
「きみがお菓子を好むことくらいに」
「一緒に歌って踊るのもたのしいですよ?」
「のど飴でも舐めてるといいよ」
眉間に皺を寄せながらも、音符をなぞるように指を動かし、小さな鼻歌。完璧な音程だ。やや無機質ではあるがそこは災厄、本業のピアノの音色ではないのだから、ご愛嬌かもしれない。
さて、しっかりと3分後。
「覚えたよ」
有言実行の処理能力。指を組み、ぐっと前へと伸びをするグノシエンヌ。のど飴を噛むように食べ切った七十も、フリヴァくも準備万端である。
それでは、はじめようか。
付き合ってあげるよ、きみたちの『|演奏会《ライブ》』に。
――で。
「これ大丈夫??」
熱気。活気。熱狂というか発狂。奥で|後方彼氏面《お決まりのポーズ》(※まったくもってそのような関係ではなく、グノシエンヌとは犬猿の仲であることをここに改めて記しておく)をしているフェリクス。その前で飛び上がり歓声を上げる観客たちの視線はすべて、ステージへと注がれていた。
なにがおきてるんですかねえ。垂れ流す鼻血を気にすることもなく飛び上がるもの。血の涙を流しながら曲の終わりに「フリヴァくちゃーん!!」などと叫んでいるもの。
コールアンドレスポンスはもはや魂まで使うような全力である――!
「洗脳ってこわ……」
洗脳というか、ブレインウォッシュっていうか、強烈に自分たちの曲と姿を焼き付けているというか。
フェリクスの視線はどこか冷めた目だが。それはそれとて、面白い光景であった。
一曲終わるごとに体力を使い果たしたかのように崩れかける観客たち、だがすぐに回復し次の曲を待ち、MCを聴き……√能力が関わっているのは間違いないが、なるほど信者というよりは本当のファンなのだろう。これがアイドルですか。なるほど。
観客は『キーボード担当』が普段と異なる人物であることを平然と受け止めている。災厄はどこにでも混ざる。ここに二人と、欠片が一人、混ざっているほどなのだし。
完璧な指の運び。他者と比べればやや小さな手指を技巧によって補う技術、それはどのような曲を演奏するにしても、変わりはないようだ。
彼女は満喫している。満足している。己の曲ではないにしろ、狂うほど楽しむ観客を見て。
「気付いてたでしょうけど、新メンバーのグノシエンヌです!」
「ただの助っ人なんだけど」
七十がMCで絡みに行っても、つんとした態度を崩さないが――その口元には、確かに笑みが浮かんでいた。
――ライブは無事に終わり、舞台袖へと戻る三人と。観客が退場する前に、ひと足先に戻っていたフェリクス。
「これが現代の『演奏会』だってさ」
あれだけの発狂、嘘のよう。楽しかったと感想を言い合いながら出口へと向かう観客たちを見て、「歓喜の歌」が笑う。
「ね、楽しいでしょう?」
七十がグノシエンヌの顔を覗き込み、笑顔で同意を求める中。グノシエンヌはというと。
「……音量が大きすぎる。耳栓が欲しかった」
などと文句を垂れてみせるので。
「鼓膜破いたほうが早いぞ」
「なんだとおまえ」
「ま、まあまあ!?」
愚痴から喧嘩に発展しそうになりつつも。
「ま、気に入らなかったわけじゃないけど」
そんな一言を残して、グノシエンヌは「天輪」の姿へと戻っていった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功