シナリオ

悲劇の誕生

#√マスクド・ヒーロー #シデレウスカード

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 #√マスクド・ヒーロー
 #シデレウスカード

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●おだやかであること、こうふくであること
 穏やかな一日。
 何も起きない。
 寝転んで伸びをする野良猫。いつもは縄張り争いで喧嘩しているはずの二匹が並んで日向ぼっこをしている。
 家族。いつもなら言い争いばかりで、何も聞いてはくれない両親。そんな二人が、朝の喧嘩をせずに出ていった。
 幸福だ。誰もが幸せだ。

 だから今、壊してしまうのがいい。

 今日を思い出して、泣いてくれたら嬉しいな。後悔してくれたら嬉しいな。これが始まりだったんだって、何度も何度も泣いてくれたら嬉しい。

 少年はカードを握り、幸福な街を見る。この日々が長く続けば、だなんて思っているであろう人々を見る。
 握る二枚のカード。己が頼りにするこれが、これこそが、この平和な一日を、その気になれば一瞬で、めちゃくちゃにできる唯一の手段。

 ――数日前のことだ。
 両親の喧嘩をきっかけとして。深夜に家を飛び出した少年はひとり、お気に入りの場所で縮こまっていた。喧嘩の原因は自分だ。自分の頭が悪いから。この先のことを考えたらって。進路がどうとか。お金がどうとか。
 そして。『たったひとりになってしまったのだから』と、母が言い……。

 その言葉を聞いた彼は、気付けば家を飛び出していた。
 辿り着いた人気のない公園、その滑り台の下にちょうど収まるように。体育座りをして考える。
 どうして僕だけ。腹が立つ。悲しい。苦しい、苛つく、なんで!

「どうして……僕だけが、『残っちゃった』んだろう」
 呟いたその言葉、独り言になるはずだったそれに、返答があった。

「それが運命だったからだ」
 目前に立つは、長身の男。何者だろうかと驚き見上げる少年に、男は告げる。
 赤い眼がくらやみの中輝いているのをみて、少年は息を飲んだ。――『怪人』だ。逃げなければ。けれど考えるだけで、足が動かない。半ば這いずるようにして滑り台の下から飛び出すも、すぐに転けて、膝を擦りむいてしまった。
 恐怖で動けずにいる少年へと歩み寄る男――かつり、かつりと、蹄のような足音を響かせて。

「――丁度、似合いのものを持っている。選ぶといい。ここで死ぬか……それとも、『これ』を受け取るか」
 生かすも殺すも、手の中に。少年は怪人の手に現れた二枚のカードへ視線を向ける――。
「私には不要だ。しかしお前にとっては相応、価値がある。――さあ、少し雑談でもしようか、少年」

●おとどけもの。
「厄介事の『お届け』だーっ!」
 だぁん。机へと叩きつけられる紙束と謎の装置。オーガスト・ヘリオドール(環状蒸気機構技師・h07230)の声が部屋に響く。
「シデレウスカード案件! カードを手に入れちゃった少年を全力で止めてきて!」
 随分と焦燥している。ぱちんと指を弾くと同時、宙へと浮かぶホログラム。事件が起こるであろう近辺の地図を示しているようだ。
「この街、数日間、かなり平和だったんだよ。不気味なくらい……それが今日の夕方になると、一変する」
 どの『英雄』のどんな能力か、まではわからないけれど。と。

「――溜め込まれてた『不和』が、平和を塗りつぶすんだよ」
 曰く。普段縄張り争いをしている猫が今日は仲良く昼寝していた。だが夕方になれば不仲どころか流血沙汰の喧嘩を始める。朝から喧嘩ばかりだったが今朝は穏やかだった夫婦、その妻が夕方、帰ってきた夫を包丁で刺し殺そうとする――。
 時が動き出すかのように。水がこぼれるかのように、風船が破裂するかのように。一瞬で。

「彼を探して。このままだと、とんでもないことになる。見つけたら説得して、カードを手放させるか……最悪、武力行使だ」
 星詠みは続ける。彼がカードを受け取った詳細な理由は分かっていないが、家庭環境と『残された』という言葉が鍵となるだろう。

「で……カードを渡した男なんだけど……弓だろうけど竪琴? なんて説明したらいいかな、とんでもない装備なのは間違いない。こう、『男の子ってそういうの好きだよね』って言われたら力強く頷けるっていうか」
 暫し続く雑談。脚に弓矢と竪琴が合体したような装備をつけた長身の怪人、名乗る組織名は『ディー・コンセンテス』……。
 話が長いことに自分でも気がついたか、はっとした様子で顔を上げるオーガスト。

「……ま、君たちなら大丈夫! いい結果を持って帰ってくるの、待ってるよ!」
 話足りないのかうずうずと。ともあれ、彼を気にする必要はない。
 意識すべきは、今回の事件と『少年』だ。

マスターより

R-E
 おはようございます、親愛なる皆様!
 R-Eと申します。
 男の子って|こういう装備《ロマンの塊な武器》が好き。
 やや陰鬱。

●1章
 シデレウスカードを手に入れた少年を探しましょう。
 情報はすべてオープニングに出ています。
 市内は非常に穏やかで平和です。あまりにも。
 少年も同様に平穏を楽しんでいることでしょう。

●2章
 1章で発見した少年の説得。1章での行動で説得材料を引き出したりしましょう。

●3章
 少年にカードを渡した『怪人』との戦闘となります。2章の結果によってはギミックあり。

 それでは、なんにもない一日を。
60

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第1章 日常 『今日はカミサマもお昼寝してるよ』


POW 束の間の幸せを噛みしめる
SPD 大切なヒト・モノを大事にする
WIZ 平穏に背を向け、パトロールに出る
√マスクド・ヒーロー 普通5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 穏やかだ。幸福だ。流れる空気は夏らしさを孕む爽やかさで、吹き抜ける風が湿気をさらっていく。
 おだやかで、こうふくで、何もない。起伏のない平坦な一日である。
 しかしそれは、今日の夕方までと期限付けられたもの。優しい午後には既に、ぺたりと貼られたお値引きシールが輝いている。
 唯、ここから待つのは、廃棄という未来か。お買い上げになり食ってやるべきか。

 諸悪の『|根源《アルケー》』はどこにいるのやら。
 ともあれ諸君、束の間の平和を楽しむといい。
 根源もそれをお望みだ。
架間・透空
WIZ
※アドリブ連携等歓迎

この男の子がどんな問題を抱えてるかはまだ察することしか出来ないけれど、
気持ちは分かるかもしれないですね。
私もお兄ちゃんとよく喧嘩するし。
ヒートアップして言いたくないことポロッと言っちゃって引っ込みつかなくなること、確かにあるけど
ご両親も嫌いになった訳じゃないと思うし、是非とも仲直りして欲しいです……

怪人に仲直りの邪魔をさせる訳にはいきません。
一刻も早く男の子を見つけないと、ですね!


「怪人」としての私は
残念ながら人探しの機能を備えてないんですよね。困ったことに。

ここは星詠みさんから得た情報を元に地道に探していきましょう!
千里の道も一歩から!

がんばるぞー!おー!

 家族というもの。その間に発生する感情というものは、一言で表すことが出来ないものだ。
 たとえば『家族愛』というものが正しく存在するとして、その間に諍いが一度もないなど、有り得ないこと。
「(私もお兄ちゃんとよく喧嘩するし)」
 彼の気持ちは分かるかもしれない。きょうだい喧嘩というものは白熱するときはどこまでも。どのような問題を抱えているかは察することしか出来ないが。言いたくないことを言ってしまった――ぽろっとこぼれた母の言葉が、少年に突き刺さってしまったのだろうと。
 それでも、本気で両親を嫌いになったわけではないだろう。仲直りをしてほしい。今からでも間に合うはずだ。
 怪人に唆された結果こうなったのだ、『彼』の影響を受けていないわけはない。√マスクド・ヒーローの怪人は、そうして家族を狙って行動するのだから。

 架間・透空(|天駆翔姫《ハイぺリヨン》・h07138)は街を歩く。彼女は『怪人』たる身であるが、索敵に特化した|機能《・・》は備えていない。頼れるのは己の足、ということだ。
 町中はあまりにも穏やかで賑やかで――セカイは、いやに優しくて。
 商店の前で会話する御婦人たち、ゆったりと日陰で涼む猫。尻尾をふわっと揺らす猫のあくびを見ながら、透空は歩く。

 この幸福な一日。束の間だとしても尊ぶべきことだ。だがこれが怪人の手引、その影響下にあるからこそと考えれば、温かい眼差しで眺め続けることはできない。
 星詠みの情報によれば、動いていなければ公園――だが、ざっと見回ったところではその姿を発見することはできなかった。既に移動したのだろうか。

 彼をそそのかした『|怪人《悪意》』に、仲直りの邪魔をさせる訳にはいかない。
「(一刻も早く男の子を見つけないと、ですね!)」
 千里の道も一歩から!
「がんばるぞー! おー!」
 人目のない場所で気合を入れ直した透空。夏の日差しを受けながら、彼女は早足で哨戒を続ける。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

クラウス・イーザリー
(平和なのはいいことだけど……)
不自然なまでの平和は、嵐の前の静けさでしかない訳か

現場付近で穏やかな対話を使って『怪人がカードを渡した場面』を見ていたインビジブルに話を聞きたい
その場面で交わされた言葉と、少年が向かった先を確認して自宅を突き止めたい
もし見付からないなら、レギオンスウォームでレギオンを飛ばしたり監視カメラをハッキングしたりして、現場周辺で少年の姿を探す

あとは少年の素性か……
ハッキング、或いは穏やかな対話による聞き込みで家庭環境や少年の家族に起こった事件を調べる
『残された』という言葉と両親が健在だという情報を鑑みるときょうだいを失って生き残った可能性が高いと感じる
それが原因でカードを受け取ったのなら……『残されるべきなのは自分じゃなかった』と思っているのかもしれない?
推測でしかないけど、もしそうなら放ってはおけないな
俺だってその気持ちは理解できるから

推測が当たっているかどうかは兎も角、説得を考えるなら彼のことを知っておくべきだと思う
時間が許す限り調べよう

 あまりにも、おだやかだ。
 夏の様相である。よく晴れて強い日差しが降り注ぐ中、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は『なんの変哲もない、平和な街』を歩く。嵐の前の静けさと呼ぶには少々賑やかかもしれない。無邪気にはしゃいでいる公園の子供ら、それを見守る母親たち。
 陽の赤が、あまりにも眩しくて、目を細める。目を閉じても残る残像は、いつか見た赤によく似ていた。

「……少し、いいかな。聞きたいことがあるんだ」
 ――人目につきにくい木陰。まるで子供たちを見守るかのように揺らいでいるインビジブルへと声をかけるクラウス。柔らかな人影は、ゆっくりと人の形を取り戻していく。
「ここ数日で、子供が夜中に来なかったかな」
「ええ、覚えてますよ。子供と、おかしな姿の男」
 微笑む女性に、クラウスは問う。その男が予知で見た『怪人』であること、少年にカードを渡していたこと――聞けば彼女は確りと首肯する。カードを渡した怪人――長身、眼帯の男と、少年の話を彼女は確かに聞いていた。
「そこの滑り台の前で話していたわ。内容は……」
 星詠みの予知通りのものと……その先。『少し雑談でもしようか』と切り出した怪人。その後の彼らの会話内容だった。

『それは……カード? どうして、僕に……』
 怯えながらも、怪人に応答する少年。いつでも逃げ出せるように、尻もちをついていた体を起こして男を見ている。
『|双子《ジェミニ》。お前のこれまでと、行先を示すカードだ。双子の兄の『出来』は、さぞ良かったようだな』
『……!』
 はっと目を見開く少年に、男は――「やたらと落ち着いてたの。まるで、手を貸すのが当然だとでも思ってるみたいに」――女性は険しい顔をして、話を続ける。
 そして男は少年に、もう一枚のカードを見せる。表面には丸い穴の開けられた、四角い箱状のものと、男の肖像が描かれていた。
『お前は、ヘリオグラフィを知っているか――』

 ああ、予想通りである。インビジブルの語る言葉によれば、彼には双子の兄がいたようだ。少年は一通りの話を終えると、『場所を変えよう』とそのまま長身の男と共に立ち去ったという。
「(兄を、失ったのだろうか)」
 そうして、彼は生き残った。残された。ひとりになってしまったという母の言葉にも合点がいく。自宅へ向かうことは可能だろうが、彼がそこに戻っているとは限らない……。家庭環境を考えれば、今は戻りたくないと考えていてもおかしくはない。
「きっと……何か、悲しいことがあったんだと。私は、そう思う」
 話し終えたインビジブルは、ゆっくりと姿を消していく。

 ――クラウスはレギオンを飛ばし、現場周辺の偵察を始める。少年の行く先はどこだろうか。姿を隠しているのか、中々レギオンの探知には掛からない。この公園に居ないことは確かだ――ならば、他の公園はどうか。あるいはと周辺のカメラをハッキングする。
 少年らが歩いていった先のカメラの記録を盗み見れば、案の定彼らが歩いていく様子が映し出されていた。談笑は続いているようだ。それこそ、穏やかな様子で。
 彼らが向かう先は……。

「……ビル?」
 どうやら、この近辺では一番高い建物のようだ。彼が周りを見回し、そのビルへと入っていくのが見えた。
 ここだ。おそらくこのビルに、彼はいる。

 ……おいていかれてしまった。クラウスにとって、それは共感できる事実である。残された側の心の傷は、なかなか埋まることはない。説得できるだろうか。否、彼を止めなければならない。
 時間が許す限り――夕暮れが、来る前に。クラウスはビルへと急ぐ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 冒険 『シデレウスカードの所有者を追え』


POW 戦いを挑み、シデレウス化した人物を無力化させる
SPD 他の民間人が事件に巻き込まれないよう立ち回る
WIZ シデレウス化した人物の説得を試みる
イラスト yakiNAShU
√マスクド・ヒーロー 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●光背
「穏やかな日など、そう、一日で過ぎ去るのだ」

『ディー・コンセンテス』。十二神怪人の残党、『アポローン・アルケー・ヘーリオス』はわらう。
 ビルの屋上。√マスクド・ヒーローよ。我が故郷! 今、誰もが笑顔で、活気づいているこの街中。だが不幸のない一日なんて存在しない。
 誰かが生まれ誰かが死んで。よろこびとかなしみは裏表。
「『タウラス』も、弱きものに慈悲を成そうとする必要はない……などと、言っていたか?」
 |彼ら《・・》が見下す公園。少年が片手に持つカード。その表に描かれているのは、双子座と。

「慈悲の末の自滅が、最も面白い。悲劇の誕生を、見守ろうじゃないか。なあ、少年」
 カメラを手に持ち、シャッターを切っていた少年は。怪人の姿を見て小さく頷き――ビルの屋上へと向かってくる足音に気付いたか、後方を振り向いた。

 少年は、鉄条網の奥に。
「……来ないでよ」
 すべてを、おわらせるために、そこにいる。

「終わらせないといけないんだ」
 そうして、悲劇は誕生するから。彼の影が長く伸び――黒くすがたを、変えた。
 ジェミニニエプス・シデレウス。ハイペリオンの名のもと、ヘリオグラフィで描かれた|からだ《・・・》。
 沈みかけた陽を背に、陽のように燃える眼球で、少年は恨めしげにすべてを睨む。
架間・透空
WIZ
※アドリブ連携等歓迎

ハァ……ハァ……やっと見つけた!

きっと今、あなたは最悪でグチャグチャな気持ちなんだろうなって思います。
でも、"それ"をしても、余計に辛くなるだけ……です。

辛い気持ちを他人の不幸で誤魔化しても、その気持ちは消えてくれない。
だから、その気持ちを誰よりも分かってくれる上で、あなたのことを心配してくれる人がいるんだって、伝えたいです。
その人たちはきっと、あなたの事が大切って、心の底から思ってるから。

この想いを、どこまでも届けるため、全力で歌います!

|誰よりも、遠く、高く《ハイペリヨン・ゴービヨンド》!


辛い気持ちを乗り越えるのに必要なのは悲劇なんかじゃない。
人の強い想いです!

 息を切らし、踊り場の窓から差し込む傾いた陽を受けながら、ビルを駆け上がる影がある。架間・透空(|天駆翔姫《ハイぺリヨン》・h07138)は開け放たれた屋上のドアをくぐり――少年と、『怪人』の前へと躍り出た。
「ハァ……ハァ……やっと見つけた!」
 膝に手を置き、呼吸を整えて――黒いシルエットと化した少年の姿を見る。影となった彼の煌々と輝く眼球が透空を射抜く。首を傾げると、炎のように光が筋を描いた。その輝きはさながら、ピンホールカメラの小さな穴から差し込む光のよう。

「……きっと今、あなたは最悪でグチャグチャな気持ちなんだろうなって思います」
 静かに視線を向けてくる、少年の影。心象を反映してか揺らぐ体、細められる目――。
「最悪だよ。僕の前に君が現れたことも」
 敵意ではない。では何かといえば、それは諦観であった。これから起こそうとする己の行動を阻止しようと現れたのだから。彼にとって、それは悲劇である。己と怪人の間で考えた作戦を、台無しにしてくれるつもりの相手へ視線を送る。
「でも、"それ"をしても、余計に辛くなるだけ……です」
 辛い気持ちを他人の不幸で誤魔化しても、その気持ちは消えてくれない。多少はすっきりするかもしれないが、その後にじわりと染み出すように、誤魔化した気持ちが襲ってくることだろう。
「その気持ちを誰よりも分かってくれる上で、あなたのことを心配してくれる人がいるんだって……」

 言われて、少年がちらりと『怪人』を見た。一歩間違えれば落下しかねない縁で腰掛けている彼と――『アポローン・アルケー・ヘーリオス』と視線を合わせる。怪人たる彼の策略とはいえ、自分に寄り添い、力を与えた怪人。不遇な身の上を知って、自分に対し優しい態度を取った。次に思考に浮き上がるは友人。ひとり残された自分をあわれみながらも、優しく接してくれた。両親、は……。

「その人たちはきっと、あなたの事が大切って、心の底から思ってるから」
 大切の定義はともあれ、間違いのないこと。自分にだって家族がいるのだ、理解している。それから注がれる無償の愛を、彼が知らぬわけはない。すう、と深く息を吸い込み、吐いて。深呼吸をした透空は、その想いを。どこまでも、どこまでも『高く』届けるため――歌声を、響かせた。

 |誰よりも、遠く、高く《ハイペリヨン・ゴービヨンド》。太陽の日差しによって生まれた影が彼であるならば、それを照らせぬ理由なんて。高らかに響き渡る歌声、力強く、ビルの屋上へ――少年へと真っ直ぐに伝えられる、希望の歌。
 少年の前に現れた、暖かなオレンジ色のきらめくそれは、どのような夢だったか。
 きょうだいと共に、歩む夢だったはずだ。
 ここで潰えては……『彼の思い』を背負うことはできない。どれだけ重い荷物であろうとも、兄のひかりがどこまで強く熱くとも。

「辛い気持ちを乗り越えるのに必要なのは悲劇なんかじゃない」
 ――鉄条網を、金網を体がすり抜けて。少年は前へと出る。透空のほうへと、一歩。
「人の強い想いです!」
 叫ぶ透空。少年が手を伸ばした先にあった欠片は、指先にふれた瞬間ぱっと消え……彼の手に、あたたかな熱を残した。

 怪人が立ち上がる。空中へと浮き上がり、兵装へと矢をつがえ、透空を見る。まだ、手を出して来ない。何故ならば。
「その強い想いを利用するのが我々だ。陽は生まれ、|落ちる《・・・》。当然の話。|来《きた》る夜を拒むことは出来ない」
 陽は沈み始めている。けれど少年は、怪人にも、透空にも応えた。……揺れているのだ。彼らの間で。
「時よ止まれ、汝は実に美しい――だったか?」
 どこかで聞いたようなフレーズを口にした怪人は、少年へと。
「自由に考えたまえ。どうあれ、私たちと彼らは相容れない」
 その言葉は怪人の妄言か、それとも。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

クラウス・イーザリー
(ヘリオグラフィ……太陽で写し取られた影……)
『出来』が良かった兄は少年にとっての太陽で、彼はずっと影で在ることしかできなかったのかな
……俺と、同じじゃないか

鉄条網を挟んだまま会話
話が決裂しない限り手を出さず回避に専念する

「……兄が居たんだよね?君にとっての太陽が」
彼にとって兄はどういう存在だったんだろう
劣等感、嫉妬、羨望……怪人が『出来が良かった』と言うからには、そういう感情もあったのかな
……俺だって、覚えが無い訳じゃない

兄のことを聞いて、次は力を振るおうとする理由を探る
「どうして終わらせないといけないのかな。太陽が沈んでしまったことと、関係してる?」
自分が『残ってしまった』世界を終わらせたいのかな
幸せな人達から、幸せを奪いたいんだろうか

そんなことをしてもきっと虚しいだけ
「……太陽の熱が無い世界で生きていくしかいんだよ、俺達は」
だから、破壊なんて止めてほしい
今ある幸せを、そっとしておいてほしい

どうしようもないなら武力でカードを奪うか、不死鳥の加護を使って「彼を傷付けずにカードを手放させたい」と願う
結局俺は太陽に縋ってばかりだと自嘲
光が無いと影は存在できないんだ

 ヘリオグラフィーとは、ニセフォール・ニエプスにより発明された、世界初の写真技術。太陽の光をもって、陰影を写し取り――記録する。
 太陽で描かれた影の体、その眼球だけが煌々と輝く少年を前にして、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は考える。

「(……俺と、同じじゃないか)」

 己は、影であることしかできなかった。少なくとも自分はそう思っている。なぜなら、強い輝きが――忘れがたき太陽によって照らされてきたのが、自身であるからだ。過去の思い出、そのひとつひとつ。眩しくて、悲しくて、直視することの難しいそれ。
 鉄条網、金網から一歩だけ踏み出した影を見て。敵意は感じ取れるが、攻撃する意図はない様子だ。静かにゆらめく彼へ向かって、クラウスは静かに声をかけた。

「……兄が居たんだよね? 君にとっての|太陽《・・》が」
 彼が今背負っている夕日のように赤く、うつくしい光が。ぶわりと逆立つように影が揺れる。それはきっと、肯定で。そして、その一言が。彼の神経を『撫でた』らしい。
「居たから、何だっていうんだ。君も『止まれ!』って言うのか?」
 ぱちり。黒の中にある目が、瞬きをした。瞬間、金網の前に立っていたはずの彼が眼の前へと迫っている。時間と空間を無視するかのような距離の詰め方――これこそが、彼の得た『怪人』としての能力のようだ。それでもまだ攻撃してくることはない。高く伸びたその背丈が、クラウスの体に静かに影を落としていた。
「どういう存在だったのかな」
 臆していても始まりはしない。聞けば影は、喉の奥でくつくつ、楽しそうに……どこか虚しそうに、言葉を紡ぐ。

「俺よりずっと賢くて、強くて、優しかった。人気者だよ、テンプレート。型にはめられただけの量産型の『良い子』だった」
 彼の目が細められ、月のように吊り上がる。心底楽しそうな表情をつくっているが――声色を聞くに、愉快とは言い難い感情を孕んでいるのだろうと容易に想像が出来る。
 |シデレウス《ニエプス》はその作られた表情を一切崩さず、言葉を紡いでいく。
「きっと君もこう言うんだ。大切だったんだろう、って。大切だったさ。そう、みんなが大切にしてた……」
 言葉が一瞬、詰まって。
「――時よ|止まれ《・・・》! 汝は実に美しい。……良い言葉だね。彼に、教えてもらったんだ」
 それは、戯曲ファウストからの一文。彼とは間違いなく、背に見える『怪人』のことだろう。何を吹き込んだのだか、怪人はただ薄い笑みを浮かべ、二人のやりとりを静かに眺めている。
 口を開こうとしたクラウスだったが、そこで自分の体が動かないことに気がついた。|彼の持つ能力《チョコラテ・イングレス》だろう。目を見開いたまま自分を睨みつけてくる少年を前に、口を閉ざしたまま対峙する。
「みんなが愛していたなら。僕ひとりが、大切にしていなくても、平気だろ?」
 ……それは、影を歩くものの言葉だ。光を避けて、ただ忌むべきものとした。嫌うという感情とはまた異なる、ひとつの|羨望《あこがれ》。太陽に手を伸ばしたところで、その手は空を切る。
 彼|も《・》それを、識っている。
 ……刻々と陽は沈み、ビルの影へと隠れた瞬間に、少年は目を閉ざした。

「どうして終わらせないといけないのかな」
 終わらせたい理由は、もうなんとなく、察してしまったけれど。
「太陽が沈んでしまったことと、関係してる?」
 だって、陽がない世界は、こんなにも一瞬で、冷たい外気に晒される。夕暮れを超えた宵闇、取り残された少年とクラウスの間に、暫しの沈黙が訪れた。
 誰も彼も幸福で。『残ってしまった』自分は、このくらやみに紛れるしかなくて。明かりが灯される家々の窓、きっとその中では誰かの平和な日常が、今も続いている。
 その、小さな明かりですら――。

「羨ましい」
 少年は静かに呟いた。冷え切り、上擦る、まるでおびえたような声で。
 穏やかであること。幸福であること。それが心底、羨ましいのだ。壊したところで生まれるのは悲劇で、それから何が誕生するのか。負の感情だけ。
 本当に欲しいものは、なにひとつ得られない。

「虚しいだけだって、分かっているんだよね」
 クラウスの言葉に、影はゆっくりと頷いた。羨ましい。自分は光に照らされる演者ではない。それを見る観客ですらない。舞台袖から演者を眺めることしかできない存在。
 華々しい世界と切り離され、静かに、劇が終わるのを待っている。いつ終わるかもわからないそれを。けれど、終わってしまえば――明かりは消えて、拍手喝采。|次の公演《希望ある未来》、その見通しはなく。

「太陽の熱が無い世界で生きていくしかいんだよ、俺達は」
 だから、破壊なんて止めてほしい。そうしたって、何も変わらないから。
 壊して、求めたところで、柔らかく温かい光は手に入らない。形のないそれが生まれることなど、ありはしないのだ。
「今ある幸せを、そっとしておいてほしい」
 ……光明が差す。ふたりの頭上に現れたうつくしい鳥が、音もなく羽ばたいて、彼らを照らしている。足元に落ちる影を見て、ふたりは顔を上げた。願うことなど、ひとつしかない。だが今は、願わずとも。

「欲しいのは、これだろ」
 影が動く。手を伸ばす。取り出したそれは、二枚のカードだった。ほんのりと橙色に染まった指先。温かな熱をわずかに残す、指先。
「(結局俺は、太陽に縋ってばかりだ)」
 受け取るクラウスの指に、その熱が伝わる。ひとらしい暖かさの残る、少年の手指だった。
 不死鳥はただ二人を照らし、羽ばたき、瞬く星のように消えていく――。

 光が無ければ、影は存在できない。
 ――影が無いとすれば、そこには、光すらも存在しない。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『アポローン・アルケー・へーリオス』


POW 遠矢射る神
【脚部に装着された『銀の弓矢』】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
SPD ヘリオスの威光
【背負う光背からの神気】を纏う。自身の移動速度が3倍になり、装甲を貫通する威力2倍の近接攻撃「【拳と盾を用いた『城壁砕き』】」が使用可能になる。
WIZ アポロンの竪琴
自身の【『銀の弓』】を【範囲攻撃】を持つ【金色】に輝く【竪琴型音響兵器】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
イラスト 炭水化物
√マスクド・ヒーロー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

 拍手が聞こえる。

 黒い影と化していた少年。カードを手渡した後、彼の体は劣化した写真のようにひび割れ、まるで被膜が剥がれるように変身が解けていく。感情を抑えるかのようにぎこちなく笑って、顔を覆うように頭を抱えた彼が、小さく呟く。

「約束、破ってごめん。……一緒には行けないや」
 それは誰とのものか。

「構わんよ。もとより、付け入ったのは私だ」
 あっさりとゆるしてみせる彼は、何様なのか。

 宙へと浮き上がる怪人の身体。背負う光輪が輝きを放つ。
 だがそれは熱あるものではない。冷たく、ある種、機械的な光。

 ディー・コンセンテス・アポローン・アルケー・ヘーリオス。
 十二神怪人、アポローン。根源たるはヘーリオス。
 太陽神の名を騙り、我こそが光であると少年を唆し――だが己の手から離れていくことを、拍手とともに|許《赦》してみせた。

 つがえられた矢、頓死を齎すその切っ先。その真意、如何なるものか。
「見定めようではないか、互いに」
 |怪人《偽神》は笑う。
架間・透空
※アドリブ連携等歓迎

……良かった。止まってくれて。

だったら、あとは……
怪人に目を向ける。

──変身、解除。
女子中学生「架間・透空」から怪人「ハイペリヨン」に姿を戻す。

|怪人《バケモノ》同士、ゆっくりお話し、しましょ?

決戦気象機構を起動。
接近戦は不得手ですが……まずは怪人の懐に突っ込みます!
そして、大気中の水分を凝縮した〈レーザー射撃〉で怪人を牽制します。

その間、太陽光のチャージを実行。

可能な限り被弾は避けますが……相手も強者。そう上手くはいかないと思います。
今はまだダメージがないとはいえ、痛いものは痛い。
だから……レーザー発射までの時間、〈激痛耐性〉で耐え忍び、機を伺います。全力で!

 立ち止まる。それはときに、己へ苦痛をもたらす事である。
「……良かった。止まってくれて」
 苦痛を受け入れ、思いとどまってくれたことに感謝を告げる架間・透空(|天駆翔姫《ハイぺリヨン》・h07138)へ、少年は少しばつが悪そうに笑みを返した。透空の背後へと回る彼をみた後、彼女は真っ直ぐに、怪人を見る。
 自らの名を指し示すが如き光を背に、顎を揉む隻眼の怪人。思うところがあるのか――透空の背に隠れた少年と一瞬、視線を合わせた。

「今からでも、|降伏《・・》を選ぶことは出来るが」
 少年に向けていたような優しげな声色は鳴りを潜め、冷徹な声がビルの屋上へと響き渡る。
「そのつもりはないな」
 逆光。目を細めた怪人の光輪が、強く光を発した。

「――変身、解除」
 少女の姿をとっていたそれが――|怪人《アイドル》が呟いた。
「|怪人《バケモノ》同士、ゆっくりお話し、しましょ?」
 天色管理機構、天駆翔姫『ハイペリヨン』。光を受けて輝くこと……それを、それだけを|幸福《・・》だとするならば。自我もなく、植物のように、日光と水分だけで生き永らえるくらいなら。そんなもの、必要ない!
 本日の天気。――曇り、のち晴れ。既に宵闇が迫ろうと、ビルの影へと隠れていようとも、陽はそこに『ある』。
 接近戦は不得手だ――だが、それでも立ち向かわなければならない。

「ふむ。話す、という態度ではないな」
 懐に突っ込んできた透空に眉をひそめる|怪人《偽神》。ほぼ同時に展開された天候操作端末がレーザーを射出する中、それを盾で受け流し、迫る透空の拳を掴みビルの屋上へと叩きつけるように落とす。
 だが――土煙の中、透空はすぐに体勢を立て直し、未だ上空でこちらを見るその赤い瞳を睨みつけた。本来ならば痛打。敵は幹部級である。単体としての実力は√能力者を圧倒的に上回るのだ。しかし|天色管理機構《ハイペリヨン》が微かでも……夕暮れの陽でも太陽光を受け続けていれば、痛みを一時的に抑えることができる。

「怪人。怪人か、なるほど。どこから|再誕し《生まれ》たのか、聞いても?」
「答える必要は、ありませんッ!」
 再度飛翔する透空。頭部を狙い繰り出される回し蹴り。手で受け止められるも、今度はその勢いと己の質量を利用し、先程の自身のようにアポローンを屋上へと叩きつけた。
 ――追撃。自由落下を利用する蹴りを既の所で回避したアポローン、横へと転がるように低く体勢を整え、そのまま透空へと拳を打ち込んでくる。遠距離に特化している姿に見せかけ、近接戦の威力も並大抵ではないのは簒奪者ゆえだろう。
 今はまだ、耐えきれる。だが確かに、己の肉体が拉げる音を聞いた。これから待ち受ける苦痛がどれほどのものか――理解しようと、ハイペリヨンは、止まりはしない。だって。
「……輝いてみせるんだ」
 銀幕に映し出される、あの姿のように!

 |天色管理機構『晴』《ハイペリヨン・サン》、チャージ完了。洛陽、空は暗く、だが輝くひかりがそこにある。
「成る程……ははっ! 無茶をする!」
 確りと捕らえたアポローン、笑う男の腕を手に、苦痛を、悲鳴を噛み殺し。差す日の光は、放たれるレーザー。
 周囲を遍く照らす|太陽光線《ソーラービーム》が、怪人を射抜く――!
🔵​🔵​🔵​ 大成功

アメリー・コノハナ(サポート)
人間災厄「レディ・ハーメルン」
子供に異常な執着を持つ。
あくまで庇護の対象であり攻撃対象ではない。連れ帰りたくなる衝動はある。

普通に喋る分には普通のレディ。
こと子供が関わる事があれば100%子供の味方で子供の敵の敵。

戦い方は持ち歩いている殴り棺桶での攻撃や、引っ掻き噛みつきなど、ダーティファイター。
平静な時は作戦行動も話し合いも可能。
愛や子供、喪失といった現場では暴走しがちになる。

 たとえ|それら《・・・》の間に友情が――多少歪んだそれが見えたとして。怪人は敵であり、『少年』の敵であり。そうであるのなら、アメリー・コノハナ(愛の匣・h03444)の敵である。
 守るべき影を、その髪からちらりと覗く眼光が姿をとらえれば、けして『逃しはしない』。
 であれば此度、その|災厄《能力》、振るわぬ理由はなかった。

「――まもって、あげていた『つもり』なの?」
 緩やかで、だが穏やかではない足取り。ふらつくかのような、踊るかのようなつま先――気がつけば、屋上。視界に入るまで。そう、寸前にその顔が迫るまで、怪人はその姿に気付かなかった。割れた床から上がった土煙、そこからぬるりと現れたその女に。

「聞いたわ。約束して、破らせて、付け入ったのは自分だ、って」
 怪人が急ぎ体勢を立て直す。その弓に矢をつがえる間に問答無用で叩き込まれる、重たい、重たい緑のトランクケース。勢いのついたそれが怪人の盾を横殴りにし、男へと強い衝撃を加える。
 異様な様相を見せる女に――アメリーに、|怪人《アポローン》は答えない。話の通じるものではないと理解しているからか、それとも焦燥からか。

 アメリーに向け放たれる矢。空中で分散したそれは、咄嗟に回避するには困難だ。だが初めから避ける気がないのなら、問題はない。腕を貫かれようとも、彼女は止まらない。
「――ショウスケはね、ヒーローが大好きなの」
 この√なら、本物のヒーローに沢山会えるから。お散歩のつもりだったけど。
「……英雄譚など幻だというのに!」
 吐き捨てるように呟いた『怪人』。怪人、を。みつけてしまった。みてしまった。きいてしまった、目に入った、許せない、許せるものか。
 ゆえに、叩き潰す。傷を厭わぬ特攻。強かに打ち付けられるトランクは、確かに、通った。
 ねえ、私いま、ヒーローみたいだと思うの。かっこいいかしら? そう、よかった。
🔵​🔵​🔴​ 成功

クラウス・イーザリー
「決断してくれて、ありがとう。……君は、巻き込まれないところに下がっていて」
少年に感謝と避難を伝えて怪人と向き合う
(変わった人だな……)
シデレウスカード関連の事件ではドロッサス・タウラスがよく出てくるけど、彼は奴と同じような目的で動いているようには見えない
少年をあっさり見逃したところを見ても奴とは全然違うな

とはいえ戦いは避けられないだろうな
フレイムガンナーを起動し、スナイパーライフルを変形させて銃口を向ける
「君は、どうしてこんなことを?」
一応意図は聞いてみる
少年に同情したのか……同情するだけの理由が、あったのかな

弾道計算を合わせた火炎弾で狙撃
撃った後はダッシュや遊撃で位置を変え、撃たれる矢を見切りで回避しながら捉えられないように動く
城壁砕きを使われたら先手必勝で割り込み、ナイフを突き立てて軌道を逸らす
隠密状態になったら見抜かれる前に距離を取って再び狙撃戦に移行しよう

太陽神の名を騙っているのに、陽光が落とす影の気持ちも理解しているような気がする
敵ではあるけど……嫌いになれないかもしれない

「決断してくれて、ありがとう。……君は、巻き込まれないところに下がっていて」
 兵装についた埃を軽くはらう怪人と、少年の間に入りながら、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は怪人と確と向き合う。
 もしかすれば必要ではない行動かもしれないが、彼の安全を優先するのならば、それが最善だった。

「……何を考えている?」
 当人の口からも出た名だが、この怪人はドロッサス・タウラスとは異なる理念を持って活動しているように見える。少年への応対も、√能力者たちに対する態度も。対等とまでは行かないが、随分と落ち着いた様子を見せている。だが相手は怪人――銃口を向けない理由はない。

「君は、どうしてこんなことを?」
 その問いに肩をすくめる怪人、アポローン――スナイパーライフルのスコープ越しに見えたその赤い目が、ゆっくりと細められる。
「時間稼ぎだというのなら答えはしないが……お前は心底、疑問に思っているようだ。まあいい」
 とん、と屋上の床を蹴り、再度空へと浮き上がるアポローン。己の顎を揉み、ふむと鼻を鳴らし、首を傾げ――どうにも仰々しい動作をした後、口を開く。

「お前がどう考えていようとも構わんさ。我々はそうあるものだ。人々の『絆』を狙う。最も、効率の良いやり方だ」
「その絆とやらが、同情する理由だったのか」
 怪人は返答としてか。ふと笑う。その次の瞬間――クラウスへと鋭い眼光が突き刺さる。矢をつがえるその手を見て、先手を取ったのはクラウスだった。
 的確に放たれた火炎弾を盾が防ぐ。燃え上がるそれを気にも留めぬ怪人。反撃として打ち込まれる矢を避けるために走るクラウス。

 放たれる矢は数こそ少なかれ、装填速度と威力は正しく|怪人《簒奪者》としてのそれだ。一発一発が床を割る。√能力に頼り切らぬものだとしても、直撃すればただではすまない。
 しかし速度については流石に近代兵器を扱うクラウスのほうが勝っている。屋上という狭いフィールドだが、貯水槽や空調設備など遮蔽物となるものは存在する。その陰から狙撃される弾丸を避けるでなく受け止め、一撃を返してくる怪人――少々、埒が明かないか。

「……小賢しい!」
 太陽神の名を騙るだけあるのだろう、炎といった熱には些か慣れている様子だ。だがそれも、長期戦となればやせ我慢と呼ぶべきものに変わっていく。痺れを切らしたか――輝く光背。落下するかの如く、圧倒的な速度をもってクラウスに迫る拳――!
「――ッ!」
 クラウスの手によって、盾へと突き立てられたナイフ。甲高い金属音を立てたそれで狙いを逸らし、盾で遮られた視界も用いて隙を縫い、攻撃の手が届かぬ場所へと退避する。見回すその視線に捉えられる前に、怪人へと追撃として火炎弾が撃ち込まれた。

 ……追い詰められている。絶体絶命の境地に陥ってなお、どうしてか笑うその顔。
 敵である。相容れぬ相手だが――嫌いには、なれないかもしれない。妙に人間臭さのある怪人。
 己を陽であると定めた怪人に。上空から狙い撃とうと浮上した、それに。陰へと紛れ、クラウスは再度、引き金を引いた。

 陽に向けて矢を放てど、それが届くことは本来、ない。だが『偽神』相手ならばどうだ。消耗したそれの隙を――。

「――陽は、落ちるものだ」
 ……高い音。スコープ越しに捉えた頭部。一瞬視線の合った|それ《・・》が口を開き――。
「知っているだろう?」
 たとえ失墜する最中でも、その笑みが崩れることは無かった。

 ――嫌な音が聞こえた。金属質のものと、もうひとつの。この高所から落ちればどうなるか、視認せずとも理解できる。
「……っ」
 金網へと駆け寄ろうとした少年の手を、思わず掴む。離せとばかりに数度腕を振りほどこうとしてきたが、それを何度か繰り返し……彼は、止まる。唇を噛み、眉根を寄せて。
 ――正しいことをした。そのはずだ。なのにどうして、こんなに。彼を、少年を直視できないのだろう。
 陽はすっかりと沈み。夜空にはやや雲がかかり、僅かに星が見えている。ただ――未だ微かに鳴くヒグラシの声だけが、ビルの屋上へと届いていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

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