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白いふわふわと青い小鳥

#√妖怪百鬼夜行 #ノベル

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「今時こんなに青々とした森も珍しいねぇ」
 白野・ふわふわという見た目そのままの名前をしたふわふわが、森を歩いておりました。ぷわぷわ、ぷわぷわ。歩くにしては柔らかい擬音です。
 ふわふわは森に迷い込んでおりました。ただ歩いていただけなのですが、いつの間にか見知らぬ森になっていて。ふわふわはとても混乱……していませんでした。
「まぁ、こんなこともあるさね」
 何せ重なり合った数多の√が存在し、一般人でも簡単に他√に迷い込んでしまうのです。ふわふわは√能力者、しかも星詠みの力もあります。ちょっと知らない場所に出たくらいでおどおどしたりしません。
 とはいえ、ごはんを食べ逃しているので腹ペコです。森から出られないかな、木の実とかないかな、とふわふわは探索をしていました。
 そうして歩いていると、拓けた場所に出ます。そこは草原でした。青々とした匂いが鼻を抜け、爽やかです。
 白詰草が白い花をゆらゆら、揺らしていました。ふわふわの体もぷわぷわ揺れます。
 おなかが空いているので、白くて丸い花がふわふわにはだんだん食べ物に見えてきました。小さいおにぎりみたいな。
 あー、と口を大きく開いて、ぱくりっ。
 途端、口内に広がる青臭さ。どうして風を孕んで抜けるときは「爽やか」なのに、食べると異臭に感じるのでしょう。
 土の臭いと埃っぽさに近い感触、仄かな苦みが広がったそのとき。
「ふわふわがふわふわの花を食べた!?」
 幼い男の子の声がして、ふわふわはそちらを見上げます。そこには夏の花のような髪色の男の子がおりました。
 男の子があまりにも熱心にこちらを見つめるものですから、ふわふわもつい魅入ってしまいます。どことなく見た者を吸い込むような目をしていました。その湖面がぱちり、ぱちり、二回、瞬きます。
 それに合わせて花をじっくり咀嚼してしまい、子どもが見ている前で吐き出すのもなあ、と考え始めたところで、子どもがわっと叫びました。
 声に驚いたふわふわはごっくん、花を飲み込んでしまいます。あまり美味しくはないです。
「どうしたんだい?」
「わ、喋った……!!」
「口があれば喋るさ」
「それもそうですね……あ、お花、食べちゃったんです?」
 男の子にこくりと頷くふわふわ。飲み込んだのは男の子の声にびっくりしたからですが。
「美味しかったですか? 姫踊子草とかなら、蜜を吸えるって聞きますが、白詰草を食べるのは聞いたことがなくて」
「わしも初めて食べたよ。おぬしも食べるか? そこらじゅうにたくさんある」
「そうですね。でも、今は花冠を作りたいかなって思います」
「ほう、花冠が編めるのかい?」
「はい。お花を摘もうと思ったら、ふわふわさんがお花を食べて、びっくりしたんです」
 男の子が当たり前のようにふわふわをふわふわと呼びます。はて、名乗ったかな、とふわふわは思いました。男の子は見た目がふわふわなのでそう呼んだだけですが。
 それはさておき。
「びっくりという割には、興味津々なようだ。わしのようなものを見るのは初めてか?」
「初めてです。本では見たことがあるんですが……ケサランパサランでしたっけ」
「おお、よく知っているな! そうとも、ケサランパサランじゃ」
「本当ですか!? 幸運を運んでくれるっていう?」
「ああ。きっといいことがあるぞ」
「それなら、ヴェルにも会わせてあげなくちゃ!」
「ヴェル?」
 ふわふわがもこ、と気持ち首を傾げます。
「はい。ボクの双子の片割れで、最近忙しそうにしていて……時々、星を見上げて、苦しそうで、悲しそうな顔をするんです」
 ふわふわは驚きました。目の前の青い子は√能力のことも知らなさそうですが、おそらく双子のヴェルという子は、ふわふわと同じく星詠みなのでしょう。
 こんな幼子も、星を詠み、先を憂えることがあるのか。今時の子どもはすごいのぅ。
 なんて、呑気なふわふわですが、これでも長い時を生きています。ここは人生の先達として、ひいては幸運をもたらす生き物として、一肌脱ぐのも良いでしょう。
「では、その双子の子に会わせておくれ」
「いいんですか?」
「もちろん。ケサランパサランに二言はない」
「ありがとうございます。そういえば、昨日、メレンゲクッキーをいただいたんですよ。ふわふわさんはクッキー、食べますか?」
「食べるぞ。ふふ」
 思いがけず、食べ物にありつけそうで笑みが零れるふわふわ。
 √能力者がいるのなら、帰り道を探すのもスムーズにいきそうです。
 男の子は花を摘み、籠に入れると、ふわふわに手を差し出して問いかけました。
「ボクはアズ。アズ・パヴォーネです。ふわふわさんのお名前は?」
「ふふ、おぬし、さっきから呼んでいるぞ?」
「え?」
 きょとんととするアズの腕の中に飛び込みながら、ふわふわは名乗りました。
「わしの名は『白野・ふわふわ』じゃ。さあ、メレンゲクッキーへ向けて、れっつらごーなのじゃ!」
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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