えんじょい・みゅーじっく!
アルカウィケ・アーカイックは退屈していた。
やっと未来に戻ってきて、少し時間が出来た。が……。
『無性に、ゲームセンターに行きたい!』
その衝動に襲われていたのだ。
彼は音ゲー……アーケードのリズムゲームを愛していた。それはもう、ある程度の腕前を誇る程度には。
新機種が出たと聞いてつまみ食いしてみては、結局|いつもの筐体《ホーム》に戻ってくる。
気楽にゲームセンターへと通えていたころは、そんな生活を続けていた。
なかなか遊びに行けない今こそ、やはりあの大きな筐体、ずんと響く音の濁流、ボタンをたたく感覚が恋しくて仕方ない。
そういえば、彼の愛する音ゲーの新作が出ていたことを思い出す。
それも、現在は確か解禁イベントの真っ最中だ。
こういったイベントはえてしてその人ごとに解禁状況が異なり、そして重課金……連続プレイが前提で、今日遊びに行ったところでどの程度まで解禁ができるかわからない。
しかし、今ならばゲームセンターにしばらく居座る時間ぐらいはありそうだ。
少しでも遊んで、未プレイの新曲や、できれば隠し曲の解禁もできたらいい。
さて、ということで馴染みのゲーセンである。
いつもの筐体……カラフルで大きなボタンが並んでいるこの画面の前に立つと、帰ってきたなという実感がやはり湧いてしまう。
その程度には、ここは自分の|魂の居場所《ホーム》である。
画面内では、ちょうどキャラクターたちが踊りながら新曲を使ったチュートリアル画面を流している。
「いいですね……この曲」
一目ぼれ、もとい、ひと耳惚れだった。
この曲で遊んでみよう……アルカウィケは画面上に表示されている曲名を忘れないようにしようと記憶しつつ、個人記録カードを筐体にタッチした。
ちなみにアルカウィケの記録カードは以前アーケードゲームイベントで配布されたプロモカード……いわゆるレアカードである。イラストが他のものとは違う、ゲームキャラクターたちがあしらわれたにぎやかなものだ。
カードは長く使っているとどうしても表面が剥げたりしてくる。そのためアルカウィケはカードケースに入れて大切に使っていた。
さて、真ん中のボタンを押すと、元気な『ハロー!!』の声とともにゲームスタート。
ネームとアバターをそのまま引き継ぎ、モードを選ぶ。
ここはやはり、クリアできなくても3曲保障のあるプレミアムスタンダードだろう。通常のスタンダードは100だからそれより少し高いが、ミスを気にせず新曲に挑戦できるのは大きい。あと、ちょっとだけ解禁速度が上がるというオマケもある。1プレイ料金として120|京《・》円を電子マネーで支払う。
「そうですね、まずは……」
レベル別ソートから、適正レベル――より少し上を選ぶ。クリア保障があるのなら、気楽に挑戦もできるというもの。此処はひとつ『あと少しでクリアできそうなレベルの譜面』にチャレンジしてみるか。しかし、新曲である。どうせ初めて聞くからには、やはり曲を楽しみたい。
それになにより、一曲目から息切れしていては先が続かない。それに、どうせならクリアして解禁ポイントも稼ぎたい(この手のものはフェイルドするとポイントが減るのもお約束だ)。
悩んだ末、アルカウィケは少し難易度を下げ、クリアレベルが充分の曲の中からポップな曲調のかわいらしい新曲を選ぶことにした。初見とはいえ、このレベルなら手ならしにはちょうど良いだろう。
画面中央に表示される色とりどりの『Ready?』のしばし後、降ってくるノーツたちは、見切れる程度に心地よい。
ひとつひとつ丁寧に見切り捌いていく。この調子ならフルコンボも狙える……というところで
「あっ」
やはり久々なせいだろうか、勘が妙に狂う。単調なリズムのところでうっかり切ってしまった。思わず首を傾げそうになってしまったのは必至に我慢だ。
しかし、その後は順調に進んだのが悔しい。
「あと少しでゴールドメダルだったのに……っ」
だが、スコアは上々、曲も手ならしに良さそうな良譜面だった。
「今度からは、これを練習曲にしてもよさそうですね」
アルカウィケは思わず微笑んだ。
さて、2曲目である。
通常のスタンダードならばクリア保障が掛からないから安定の曲を選ぶところだが、今日はそんなことは関係ない。お大尽アタックである。
「せっかくだから、たまには版権曲も選んでみましょうか」
それは暫し前にヒットを飛ばしたアニメ映画の主題歌だ。キャラも版権キャラにやや似せたコスプレのおなじみキャラという凝りっぷりはキャラにこだわったこのゲームらしい。
その映画自体は見た事がなかったが、シリーズ物で有名だし、アーティストに有名なアニソン歌手を起用したことで曲自体も知っている。
レベルもほぼ適正、充分にクリアは狙えるだろう。
曲を楽しみつつ、リズムに乗って手を動かす。少しハネた独特のリズムとズレ譜面がややこしいが……リザルトは……中の上といったところか。
そして、〆の三曲目……ここを高得点でクリアできれば、おまけのEXステージも狙える。
アルカウィケは迷った末、チュートリアルで掛かっていた曲を選んだ。
いちプレイのシメに相応しい曲だと思ったからだ。いっそのことEXステージは捨てても構わない。
そう思える程度に、性癖に刺さる曲だったのだ。
まだ、最上級難易度は解禁されていない。……しかし、中難易度でも、レベルは適正の少し上……これは、いわゆる初期ボス曲、後程上級が解禁されるのではあるまいか?とアルカウィケは心を躍らせる。
とはいえボス曲級ならば彼に手は届かないであろうが、この作曲者は難易度ごとにアレンジが変わる事がある。この曲のまた違う一面を見られるかもしれない。
静かなピアノの調べとともに始まり、徐々に激しさを増すその曲を――しかし、アルカウィケは捌き切った。
リザルトは……まあまあだが悪くない。さてマナーのため一旦どくか……と支度をしていると、
『とらい・ざ・えくすとらすてーじ!』
花火のエフェクトと共に、そんな声が響く。
アルカウィケの戦いは、まだ終わりそうにない。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴 成功