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魔王様と奇妙なラヂオ

#√EDEN #ノベル #🕯『寝室』×『真空管ラジオ』

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 みーん、みんみんみーん、み――……。
 蝉たちの合唱も、どこか投げやりに感じられるほどの暑い夏。陽炎が立ち昇るアスファルトの上を、白衣を靡かせて颯爽と駆けていく男がいた。
「ふははははは! 如何な猛暑とて俺の歩みを阻むことは出来んのだ!」
 ふいーん。電動キックスケーターっぽい乗り物の上で、格好いいポーズを決めたまま流れる風に身を任せる。長い紫色の髪がひらひらと揺れる様も、不敵に微笑むその顔立ちも、それだけ見れば|美男《イケメン》で通っただろうに、言動が何というかちょっとアレな感じだった。
「いざ行かん! 此度の探求の地へ――!!」
 蝉にも負けない大声を響かせる彼こそ、完全無欠の魔王――皮崎・帝凪(Energeia・h05616)で、その行く手には「営業中」の看板がかかったリサイクルショップがある。
 では、丁度いいところで減速を――ん、ブレーキはつけてなかったか。ふぅむ、この速度で突き進めば、衝突までの時間と人体に受ける衝撃は――、
 ――――がしゃあああああん!!!

「ふっ、邪魔するぞ店主」
 数分後、何ごともなかったかのように復帰した帝凪は、エアコンの効いた店内で商品を物色していた。魔王かつ天才科学者の彼だが、発明をするにも材料が要るのだ。
 様々な電化製品にジャンク品のパーツ、その中から使えそうなものがないか狭い棚を見て回る――と、そこで彼は思わぬものを認めて足を止めた。
「おお……真空管ラジオではないか!」
 それはレトロな造りの、木製のラジオだった。丸いダイヤルが何個か並んでいて、文字盤のデザインは如何にも古めかしい。何十年も昔の、昭和の頃のものだろう。
「ここまで状態が良いのは珍しい! 外部の端子に錆がない!」
 きっとよく手入れされていたのだろう、と一目で分かる品だった。動作の保証はないようだが、使えそうになければ分解してパーツを流用してもいいだろう。
「あれ? ……こんなのあったかな、まあいいか」
 気のない返事をした店主だが、帝凪の見立てに対して値段は安い。意外な掘り出し物をゲットした彼は、意気揚々と店を後にしたのだった。
「ふははははは! 邪魔したな店主!!」
 ふいーん。――あ、やっぱりあの乗り物で帰るんですね、魔王様!


 さて。ウキウキとした足どりで、研究所兼住居である『魔王城』へ帰還した帝凪は、プライベートルームで優雅に寛いでいた。
 研究所エリアと違い、居住エリアは落ち着いた感じの、エレガントな内装で統一されている。何せ、魔「王」を名乗るからには、ノーブルさも演出したいところである。天蓋付きの豪華なベッドは、彼なりのこだわりと言えよう。
「さて、と……」
 戦利品のラジオをサイドボードに置き、ふかふかのベッドに腰かけて息を吐く。あれから何やかんやあったせいで、気づけば夜もだいぶ遅くなっていた。
「中をざっと確認しておきたかったが……まぁ作業は明日で良いか」
 照明を落とし、ぼふんと枕に顔を埋める帝凪。すぐにベッドから幸せそうな寝息が聞こえてきたところを見るに、魔王様はたいへん寝つきが良いようだった。

 ――真夜中、静まり返った寝室。
 不意にプツッと音がして、ラジオのスピーカーから奇妙なノイズが漏れ聞こえてきた。じとじとと降り続く雨音のような、大勢の人のざわめきのような。
『……ザザッ、ザ、ザザ……です。さて、……ニュースです……、』
 その内に、ノイズの中に聞き取れそうな単語が混じる。淡々とした声で原稿を読み上げるアナウンサーが、誰かの名前をつらつらと挙げているようだ。ノイズに混じって数分ほど名前の羅列が続いたあと、声の主はひと呼吸置いた。
『明、の……犠牲者です。ザザ、お悔み申、し上…………ごザッ愁傷様……すす、』
 プツッ、ツッ、ツ――電波が乱れているのか、ブツブツと不自然に音声が途切れる。
『ででですす、 ス、ぐぇげべべババば、』
 不気味によじれて歪んだ声は、次の瞬間――――、

『ギャアアアアアアアアああああぁぁぁ!!!!』
「うほぅおおおおおおおお!!!!!!」

 間髪置かずに叫び声が上がる。ひとつはラジオからで、もうひとつは帝凪だった。
「うぉうっ!!?」
 寝ているところを叩き起こされる形になったのに加え、日中の外出が響いたのか、こむらがえりも起きたらしい。上体を起こした瞬間にふくらはぎがピキーンとなった帝凪は、不自然な体勢のまま天蓋ベッドから転げ落ちていた。
「!!」
 変な感じに伸ばしていた手が、サイドボードのラジオを直撃する。ガッ、ともの凄い音を立てて、床に叩きつけられる真空管ラジオ。次いで、ゴツッと痛そうな音がして、帝凪の頭がボードの縁に当たる。
 ――そうして床に崩れ落ちた帝凪もラジオも、ぴくりとも動かなくなった。
 痛々しい沈黙が流れる。

『――待てよオイ!! ぶっ壊れたらどうすんだ!!』

 そこでいきなり、床に転がったままの真空管ラジオがツッコミを入れた。もぞもぞと起き上がる帝凪は、真面目な顔をしたままぽつりと言う。
「いや。幾ら魔王であろうと、ドッキリ演出には普通にビックリするのだが」
 ちなみに、専門用語ではジャンプスケアと言う。頭を押さえて暫しふくらはぎを揉み揉みしていた帝凪だったが、そこでラジオの方に目を向けた。
「……なるほど、普通に喋れるのだな」
『って、リアクションそこかよ?!』
「あ、派手に落としたから、壊れていないか気になるな! 分解していいか?」
『この状態でよくそんなこと思いつくな!?』
「ふははははは! 何せ俺は天才――魔王だからな!!」
『あ! こら、蓋を外すな! やめろぎゃあああぁぁ』
 どうやら、年代物の真空管ラジオには怪異の類が憑いているようだったが、帝凪の元にやってきたのは不運としか言いようがない。
『やめ、や………ぅ、お願いします止めてください……ううっ……』
 その内にラジオからの悲鳴が泣き声になり、最後にはしくしくと啜り泣きに変わる。残念そうに工具を片付け始める帝凪は、そこで改めてラジオの言葉に耳を傾けた。

「ふむ、おそらく幽霊だとは思っているものの、生前の記憶がない……と」
『何も分かんねぇんだよ。自分は誰で、どんな姿をしてるのかもな』
 寝室で膝をつき、向き合って話を聞く。ラジオから聞こえてくるのは、子どもとも大人とも言えない、男性か女性かも区別できない不思議な声だった。自分の名前も分からないらしい。言葉遣いは乱暴なようだが。
 ――姿を持たない、声だけの存在。本来なら声も出せなかったらしい。そうして誰にも気づかれないまま世界を漂っていたところで、このラジオと出会ったのだという。
『どうしてだか、“ここ”からなら声を出すことができた。……声を届けられた』
 ちょっといい話に持って行こうとしているようだが、届けた声は『ギャアアアアアアアアああああぁぁぁ!!!!』である。ほだされてはいけない。
「……となると、やはりそのラジオが特別なのだろうな! あ、分解が駄目なら内部の配線がどうなっているのか、そこから実況してくれないだろうか?」
『俺、物理的にラジオの中に入ってるわけじゃねぇし!? あー、壊れる駄目無理』
 再度、真空管ラジオに手を伸ばそうとする帝凪にストップをかけてから、不思議な声は「ふー」と大仰にため息を吐いた。
『何か、変な奴だなお前。無駄に前向きっていうか、後悔なんてしない感じがする』
「お前ではない。俺のことは魔王ダイナ様と呼ぶがよい!」
 過去への未練を力の根源とする幽霊と、対極の存在が帝凪なのだろう。
 失敗しようが成功しようが、前進するのが科学である。故に自分も、常に前を向いて進み続けなければならない――そんな信念が、帝凪と向き合っていると強く伝わってきた。
 だから、
『……ちゃんと、分解したら元に戻せよ』
 ラジオからの声は、少し照れくさそうな様子で、ぽつりとそう漏らしたのだ。
「当然だ、任せておくが良い!」
 魔改造してコレクションに加えてもいいか、と当初思っていたことは内緒にして、帝凪は自信満々に頷く。しかし今日はもうおねむなのだ。天蓋ベッドに戻ろうとした彼は、そこでふと思い立ってラジオに声を掛けた。

「しかし、貴様も凝った演出を考えるものだな! 最初に妙なニュースを読み上げてから、ワッと脅かすとは」
『えっ』
 真空管ラジオから、訝しそうな声が上がる。
「ほら、怖い話でもある奴だ。名前を読み上げて、明日の犠牲者はこの方です……という」
 それに違和感を覚えた帝凪が、先ほどの出来事を説明する。しかしそこで返ってきた言葉に、彼の背筋がぞくっと震えた。

『俺、そんな事言ってないけど』
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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