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ヤドカリ

#√汎神解剖機関 #ノベル #テディベア

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 破棄しても、破棄しても、戻ってくる。
 封じても、封じても、解けていく。
 腐らせるなんて、勿体ない。
 病的なまでの執着だと、熱狂的なまでの溺愛だと、上司に、莫迦にされた事は今でも憶えている。その記憶の所為で、その憤慨の所為で、私は現在、社会からこぼれ落ちてしまったのだが、それでも、私は『良かった』と確信している。そもそも、私が社会の歯車として、大人として、労働を続ける事など不可能だったのだ。私は、あまり認めたくはないのだが、私の事をオコサマだと正しく、改めなければならない。嗚呼、知っている。私は、私の夢見がちな脳味噌を知っている。知り尽くしているのだから、この、自宅の警備に励むという事はきっと間違いではないのだ。しかし、いよいよ、貯金とやらも尽きてしまいそうだ。もしかしたら、来月の税その他とやらを捧げられなくなる可能性だって……。いや、私は大丈夫。何故なら、私には――皆がいるのだから。皆とは誰の事か。家族だろうか。友達だろうか。いいや、もっと大切な、もっと強固な、繋がりを得られる彼等なのだ。こっちは※※くんで、あっちは※※ちゃん。そっちは※※さんで、あの子は※※……。ぬいぐるみ万歳! 私は生涯を、アリスみたいに、少女みたいに、貫き通してみたいのだ。貫き通すついでに私の、唯一のお友達、彼のお話もしておこう。彼は……そう、数日前に、私が出会った……。
 黄昏――目眩に苛まれながら――私は、久方振りの外出をしていた。戸口を開ける事すらも、永遠、倒れそうなほどだったと謂うのに、中々の成長だと。今日は新しい仲間を迎える為に、そう、ゲームセンターに向かっている最中であった。彼方、道の向こうから誰かの影が這入り込む。私よりも小柄な、さて、観察をしてみたならば、少年だろうか。クマちゃんのフードを被っており、その眼、影によって完全に隠されている。……オネエチャン……『同類』のニオイ……リサチャン、キニナル……? 気が付いてみれば少年、目と鼻の先。何かを感じ取ったのか『私』に対して言の葉を紡ぐ。ああ、勘弁してほしい。私は人とお喋りをするのが苦手なのだ。咽喉が渇くようで、頭がぐるぐるしてきて、気分があまり宜しくない。えっと……ボク? お姉さんは、とても、忙しくて……? ひっく、と、臓腑が嗤っている。こんな場所で粗相をするなど、それこそ恥の極みではないのか。我慢に我慢を重ねて、少年が去っていく事に期待をして。……オネエチャン……モシカシテ……『ヤドカリ』……ソレトモ『ナメクジ』……? 何か、莫迦にされたような気もしたけれど、そういうワケではなく、純粋に疑問な様子。何方かと言えば、前者、なのかな……? 少年が指差した先にはひとつのベンチ。ゲームセンターに行くのは諦めて休憩するのが最適解だ。……そうだね。休まないと。本当に倒れちゃうかも。
 やはり、私は間違っていた。限定品を手に入れようと、少しでも、頑張ろうとしたのがダメだったのだ。ダメ人間はダメ人間らしく、自宅警備員は自宅警備員らしく、お部屋の中で、ごろごろと、ぬいぐるみを抱いていれば良かったのだ。……ねえ、ボク。どうして、まだ、居るのかな? お姉さんのことは放っておいて、遊びに行って……? 少年がピクリとフードの耳の部分を動かした。目の錯覚に違いない。事実は、そう、風の仕業なのだから。オネエチャン……リサチャン、アゲル……ツレテッテ……。少年の言の葉に、少年のお願いに、私は、幾度となく目眩を覚えた。え……? い、今、なんて? 少年を攫えと謂いたいのか、少年をお持ち帰りしてくれと謂いたいのか。わからない。不意にやられて頭を揺らした結果、如何しようもない傾きにやられる。少年の柔らかな手が……ぬいぐるみのような腕が……私の頭部を支えてくれた。……オネエチャン……ダイジョバナイ……ハイ……コレ。ぬいぐるみだ。テディベアだ。可愛らしいテディベアを貰って、私は――気が付いたら――自室のソファに転がっていた。
 少年は……彼は、私の王子様だった。彼が残してくれたテディベアは、嗚呼、私の腕の中に存在している。しかし、おかしなものだ。ぬいぐるみを、テディベアを、お迎えしてからというもの、如何してなのだろうか。冷蔵庫の中身がすっからかん! まあ、うん、私の脳味噌がぐらぐらしていて、目が回るかのような感覚が続いていたのだから、胡蝶の所為としておく。ぎちぎち、ぎちぎち、何か、引っ掛かるかのような音が耳朶を擽った。ふと、遅れてやってきた人差し指あたりからの痛み。視線を下に投げたなら、小さな悲鳴。な、なに、これ……ファスナーが……開いて……あかい……? テディベアは――リサちゃんは――お腹を空かせていたのだ。腹が減っては何もできない。それに。
 ……ショウヒキゲン……キレテタ……。
 オネエチャン……アレ……ネチャッテル……。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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