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煌びやかな世界の片隅で泥濘に花は堕ち
●引き返せない道の先
そこは夢を見せてくれる場所だった、ひとつも冴えたところがない私でも彼は褒めてくれて、愛を囁いてくれたから。
「そんな心配しなくても、|幸花《ゆきか》は可愛い。俺にとっては天使みたいな女だよ」
真面目だけが取り柄で、大手の信用金庫に就職した幸花は地道に信用を積み重ねて勤務を続け、気が付けば行き遅れだと言われる年齢になっていた。
男性経験も少なく、男慣れだってしていない。たまたま遅くなった帰り道で声を掛けられ、断り切れずに一回だけだと入ったホストクラブ。そこで出会ったホスト――リュウガは幸花をどんどん変えていった。
「そんなに容姿が気になるなら、コンタクトにすればいいんじゃない? イメチェンするなら俺の知り合いの美容院に予約入れてあげるよ」
眼鏡にひっつめ髪で化粧っけがなかった幸花は、コンタクトにして今風の髪形にしただけでかなり垢抜けた。
「ほら、すごく可愛い」
もっと褒められたい、もっと、もっと。今まで興味のなかった化粧にも力を入れて、洋服や持ち物だってリュウガと一緒にいて他の女に笑われないようにハイブランドにして。
「今日さ、あとちょっとでラスソン取れそうなんだ。お前の為に歌うから、お前も俺の為に頑張ってくれないかな?」
だから、シャンパンだってなんだって入れて。彼をナンバーワンにするんだって、私が彼のエースになるんだって。そうやって頑張っていたら、半年も経たないうちに貯めこんでいた貯金はゼロになった。
「貯金なくなっちゃったの? それならさ、いい仕事あるんだけど……どうかな? 副業だってバレないし、皆やってるから。あ、でも幸花が嫌ならしなくていいんだ。でも……もう幸花に会えない生活なんて、俺には考えられない」
そうだ、お金がなかったら彼に会えない。だったら、少し嫌なことくらい耐えられる。化粧を厚くして、愛想笑いをして、我慢していればいいだけだ。
「幸花さ、もしかして他に男できた? 最近俺の為に頑張ってくれてないよね。俺は幸花との未来、本気で考えてるのに」
悲しい顔をする彼が見たくなくて、売掛だってして、それでも足りなくて借金もして――それでも足りなくて、職場の金にまで手を付けたのに。
「は? そんなこと俺は頼んでないよね、幸花が勝手にやったことでしょ?」
横領がバレるのも時間の問題というところまできて、どうしたらいいかわからなくなって、リュウガに打ち明けたのに。私を愛おしんでいた瞳は冷たくなって。
「しょうがないな……それじゃ、海外で稼いでおいでよ。そしたら職場に金も返せるし、俺の応援だって続けられるでしょ」
馬鹿な私にだってわかる、海外で稼いでこいってことは海外の金持ちのおもちゃになってこいってことだ。
それで死にかけたって女の子だって知っているのに、どうして。
「できないの? はー……幸花って俺の為に覚悟決まってるって思ってたけど、そうじゃなかったんだね」
そんなことないって縋りつく手を振り払われる、信じさせてよって言われてしまったら、頷くしかなかった。
「嬉しい、幸花は俺のこと本気なんだね」
甘い顔と声とは裏腹に、すぐに向かえるように手配しておくからここで待っててと言われて、私はぼんやりと席に座って閉店だからと帰っていく女性達を眺めていた。
これでよかったんだよね、ってぼんやりと思いながら、ヘルプでついていたホストにお手洗いに行ってくるとだけ告げてレストルームに向かう。
「これでいいんだ、お金を全部返せたら結婚してくれるんだから」
そこで聞こえてきた声は、リュウガと彼が仲良くしている後輩ホストのものだった。
『とうとうあの女も海外ですか、俺てっきりマジで結婚するのかと思ってたっす』
『あー、そろそろ切り時だったからな。ATMが金引き出せなくなったら終わりだろ? それに結婚しようなんて俺一回も言ってねぇし』
『そうなんすか!? テクやべーっす』
『はは、一緒の未来が見たいんだとか言ったら勝手に勘違いしただけだって』
『かっけ~、俺も言ってみたいっす!』
ゲラゲラと笑いながら、二人の声が遠ざかっていく。
「うそ、うそだぁ……」
立っていられなくて、レストルームの床に座り込む。
「結婚、するんだってずっと思って、わた、わたし」
ぽたぽたと涙が落ちていく。ここにいたら海外に売られるけれど、ここから逃げたって横領犯として捕まるだけ。どこで間違えてしまったのか、どうして。
「どうして、笑っていられるの」
騙したくせに、わたしがどれだけあなたに注ぎ込んだと思って。
「あ、あ、あああああああ!!」
殺してしまおう、そうしてわたしも死ねばいい。そう思った時だった。
『復讐したいならば手を貸そう』
怪しい影が、幸花に手を差し伸べたのは。
「あの人を、ころせる?」
口から零れ落ちた言葉に、影が頷く。
だからわたしは――何の躊躇いもなく、その手を取ったのだ。
●星詠みは語る
「いらっしゃい、来てくれてありがとう」
急を要する事件が起こっている、と夢渡・灯火 (夢の灯・h03407)は困ったように眉根を下げて、己が見た予知を能力者達へと告げる。
「√EDENの東京にある、とあるホストクラブが√ドラゴンファンタジーのダンジョンと融合してしまったみたいなんだ」
それだけでも大変なことなのだけれど、それ以上に厄介なのは――。
「ホストクラブに取り残された一般人が、迷宮のゴブリンに襲われていてね」
取り残された一般人はホストクラブで働くホスト達で、幸い客である女性達は閉店時間が過ぎていたこともあり、巻き込まれてはいないらしい。
「これ以上被害が大きくならないうちに、急ぎ現場に向かってもらえないかな」
この融合ダンジョン化現象を解決するには、現在判明している方法がふたつある、と灯火は言葉を続ける。
「まず、ひとつはダンジョン内から|生きた《・・・》人間がいなくなることだね」
ダンジョンから脱出するか、全員が死亡するか。
「ふたつめは、ダンジョンのボスを倒すこと。可能であれば、一般人の被害を減らしつつボスを倒すのがベターかな」
今ならまだ、ゴブリンに襲われている一般人を助けることも可能なはず。けれど、灯火は軽く目を伏せて√能力者達に向かって厳しい言葉を向けた。
「もしかしたら、全員を救うのは難しいかもしれない。ホストクラブの従業員しかいないとはいえ、それでも人数は多いだろうから」
このダンジョンを攻略する為のルートはいくつか考えられる。『ゴブリンから一般人を守りつつ、迷宮の外に脱出させる』ルート、『迷宮内で一般人を守りつつ、ゴブリンを駆逐していく』ルート、『迷宮の先に向かい、ボスを見つけ出す事を優先する』ルート……どれが最善であるか、それは灯火にもわからない。
この先は、現場に向かう√能力者達に委ねるしかないのだ。
「どうか気を付けて。君達が最善を選び取れるように、祈っているよ」
灯火の言葉に見送られ、√能力者達はダンジョン化したホストクラブへと向かう――。
これまでのお話
マスターより

閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
今回は√EDENでの事件となります、お手数ですがマスターコメントをよくご確認していただけますようお願い申し上げます。
●第1章⛺『ダンジョンへの突入』
プレイングの冒頭に選択肢の方針【POW】【SPD】【WIZ】をひとつ、記載してください(選んだ√能力の【POW】【SPD】【WIZ】では判断致しませんのでお気を付けください)
これにより、二章の分岐先が多数決で決定となります。同数の場合はプレイングの内容で決定します。
【POW】を選ぶと第2章👿『アルバート・ミラー』
【SPD】の場合、第2章👾『ゴブリン』
【WIZ】の場合、第2章⛺『ダンジョンに取り残された一般人の避難誘導』
以上の結果となります。
●第2章『???』
決定したフラグメントを確認し、プレイングの冒頭に【POW】【SPD】【WIZ】のどれかを記載してください。分岐の決定方法は第1章と同じものとします。
●プレイング受付期間について
タグやマスターページを利用してお知らせ予定です、受付は【断章が公開】されてからとなります。
●同行者について
今回はスケジュールの都合により、合わせは二名までとなります。迷子にならぬよう【グループ名】または【相手の呼び名+ID】の記名をお願いします。
プレイングの失効日(連撃数)を統一してください、失効日が同じであれば送信時刻は問いません。朝8:31~翌朝8:29迄は失効日が同じになります(プレイング受付締切日はこの限りではありません、受付時間内に送信してください)
公序良俗に反するプレイングは反映しないか、不採用となります。以上、ご了承くださいませ。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『ダンジョンへの突入』

POW
迷宮の先に向かい、ボスを見つけ出す事を優先する
SPD
迷宮内で一般人を守りつつ、ゴブリンを駆逐していく
WIZ
ゴブリンから一般人を守りつつ、迷宮の外に脱出させる
√EDEN 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●融合ダンジョン
√ドラゴンファンタジーのダンジョンと融合してしまったというホストクラブ、そこは三階建てのビルのフロア全てをクラブとしたもので、二階フロアを吹き抜けにした広さと豪華さが売りのクラブであった。
しかし今は異様な雰囲気を発し、美しい外観の建物からは外壁を貫くように巨大な結晶が突き出ているのが見える。知らぬものが見れば、そういうオブジェなのかもしれないと思うかもしれないが、√能力者である君達から見ればそうでないことは一目瞭然であった。
一刻も早く、融合したダンジョンを消すために√能力者達がホストクラブの扉に手をかけ、開く。本来であれば広々としたエントランスがあり、黒服達が出迎えてくれるはずだが――目の前に広がるのは本物のダンジョン、しかもホストクラブという建物のサイズには収まりきらないような広さのもの。
ごつごつとした岩のような壁からはきらきらと煌めく水晶やセレナイトなどが生えていて、奥へ進むほどに希少価値の高い宝石のような結晶も見える。シャンパンタワーのようにも見える美しい滝は、まるでホストクラブという場所に呼応するような煌びやかさがあった。
しかし、綺麗なだけのダンジョンではない。宝石に気を取られ過ぎれば、反応が遅れることもあるだろう。壁に跳ね飛ばされるようなことがあれば、鋭利な結晶で怪我を負う可能性だってあるのだ。
気を引き締めなければならない――そう感じた瞬間、奥の方から聞こえてきたのは男性達の悲鳴に怒号。
「うわああ! な、なんだよこいつら!!」
「作りもんじゃねぇのかよ!」
「やべぇって! 逃げろ! 宝石と命とどっちが大切なんだよ!」
「退け! 下っ端は下がってろ、まずは俺を先に逃がすべきだろ!」
こと、命が掛かった局面において人の本性とは現れやすいもの。人の醜さや弱さが露わにされる、そんな中で√能力者達はダンジョン内での立ち回りを選択する事となる。
最善を掴み取る為に――。

【POW】
アドリブ歓迎
うつろ君(h07609)と
女性から搾取するホストと言う職業自体あまり好ましいとは思っていなかったが…危機的状況といういう場で|醜い姿《本性》を見せる…うつろ君にはあまり見せたくないタイプの人間だね。
パーティーの場所だったのかと不思議そうなうつろ君の言葉に苦笑する。
楽しいだけのパーティーならばどれほど良かっただろうか。
不安そうに袖をぎゅっと握られてハタとする。
個人的な悪感情でうつろ君を不安にさせてしまってはいけない。
この場の違和感に気付いてるうつろ君の手に自分の手を重ねる。
大丈夫。うつろ君のことは絶対に守るからね。
この子の為にも私が揺らいでいては駄目だ。

【POW】
琥珀おじ様(h07190)と
アドリブ歓迎
ほすと、くらぶ……?
えっと、琥珀おじ様?
ここ、パーティのばしょ、だったのかな?
今はダンジョン、だけれど
√能力:ゴーストトーク
──だれか、いる?
──もし、いるなら、おしえてほしいの
わたしの『うた』に、反応してくれた
インビジブルさん達に
迷宮の、さいたんルート?を、きけないかな
何かわかること、話してほしい
琥珀おじ様……(袖をぎゅう
ごめんね、なんでだろう
さっきのインビジブルさんの声が
少し、くるしい気がして
ここの人達も
したっぱ、とかは、よくわからないけれど
くらい、感情……そう思っていたら
琥珀おじ様に、手をつないでもらえた
うん、しんじてる
いこう、琥珀おじ様
●信じる力
煌びやかな見た目とは裏腹に、バルザダール・ベルンシュタイン(琥珀の残響・h07190)と継歌・うつろ(継ぎ接ぎの言の葉・h07609)が足を踏み入れた融合ダンジョンは進みやすいとは言えないダンジョンであった。
「なんだか目にまぶしい……」
壁から生えた結晶はキラキラとしていて、うつろは目を瞬かせる。そんな彼女に小さく笑いつつ、バルザダールはホストクラブか、と内心嘆息していた。
女性から搾取するホストという職業自体好ましいとは思えなかったけれど、危機的状況という場で彼らが見せるであろう|醜い姿《本性》をうつろに見せたくなかったからだ。
「ここが、ほすと、くらぶ……?」
だから、彼女の口からホストクラブという単語が出た瞬間、バルザダールはさてどう説明したものかと心底悩んだのだけれど。
「えっと、琥珀おじ様? ここ、パーティのばしょ、だったのかな?」
続いた言葉に、なんとも彼女らしい受け取り方だと思うと共に、さてなんと答えたものかと困ったように笑みを浮かべた。
「今はダンジョン、だけれど」
パーティー会場のような煌びやかさが残っているのだと、うつろは辺りを見回す。天井にはシャンデリアのようなものが見えたし、ダンジョンとなる前はパーティをしていたのかとうつろが思うのも仕方ないことだ。
「そうだね、人によってはパーティのような場所かもしれない。……楽しいだけのパーティならばどれほど良かっただろうね」
「琥珀おじ様……巻き込まれた人が、いるんだものね」
そういう意味ではなかったのだけれど、うつろがそう思ったならばそれでいいとバルザダールは曖昧に頷いた。
「わたし、インビジブルさん達に聞いてみる、ね」
うつろが軽く目を閉じて息を吐くと、ゴーストトークの力を発動させる。
――だれか、いる?
――もし、いるなら、おしえてほしいの。
そう願い、祈る。たちまちうつろの瞳には生前の姿をとったインビジブルが映った。
「あのね、迷宮のさいたんルート? をおしえてほしいの。もしわからなくても、何か……わかること、話してほしい」
うつろの問い掛けに、インビジブルが囁くように応える。そのひとつひとつにうつろが頷き、教えてくれた彼に礼を言う。
「ありがとう、とってもたすかったの」
インビジブルが揺らいで消えると、うつろが表情を僅かに曇らせつつ、教えてもらった情報をバルザダールへと話す。
「えっとね、ボスはこのダンジョンの最奥にある、とってもひろいお部屋になった場所にいるって。それから、さいたんルートは派手なほうへ向かえばいいみたい」
「派手な方か、なるほどね」
ホストクラブという場所に相応しいルートだ、と考えていると、うつろがバルザダールの服の袖をぎゅう、と握る。
「琥珀おじ様……」
その声は不安に満ちていて、バルザダールは慌てて彼女と視線を合わせた。
「何かあったかい?」
「ごめんね、なんでだろう。さっきのインビジブルさんの声が、少し、くるしい気がして」
インビジブルからの情報だけでなく、この場所はどこか昏い感情が渦巻いている。それを感じ取ったうつろは、胸が苦しくなるような感覚に視線を落とした。
その言葉に、表情にバルザダールはハッとする。個人的な悪感情で、自分がうつろを不安にさせてしまってはいけない。この場の違和感――ただパーティ会場ではないことに気付き始めているうつろの手に、バルザダールは自分の手を優しく重ねた。
「大丈夫。うつろ君のことは絶対に守るからね」
「琥珀おじ様……うん、しんじてる」
バルザダールの優しさに、うつろが顔を上げて柔らかく微笑む。
「いこう、琥珀おじ様」
「ああ、行こう」
うつろの為にも、わたしが揺らいでいては駄目だ。そう腹を括ると、バルザダール彼女の手を引き前へと進みだす。必ず彼女を守り抜き、このダンジョンを消滅させてみせる、と――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

【WIZ】
ご覧、ヨルマ。生き物が沢山いる。どうしようか?
そうだね。いまの私は人の神なのだから。人間を救うように動くとしよう。
血の気が荒い者には、誘い声
耳から精神を蝕み、大人しくさせる。
立てずにいる者には、体持たぬ手の群れ
手を引き、外へと導こう。
怪我をした者には、蛇の血を
心と肉体の損傷を癒そう。
腰の重たい者には、黒い影を
幻影を交え、恐怖で追い立てよう。
それでも逃げられぬ者は、外に転移させよう。
敵性インビジブルの群れには、|魂腐す瘴気《ルアハラール》
防護を貫通する瘴毒にて腐り給え。
私の鱗に触れてはならない。喪失を恐れぬ者はヨルマが食らう。
薙ぎ払い、絞め殺せ。私はここで立っていよう。皆が逃げるまで。
●救いの手
こつり、こつりと杖をつきながら、ウォルム・エインガーナ・ルアハラール・ナーハーシュ(|回生《ophis》・h07035)はホストクラブと融合したダンジョンの中を歩く。足があまり強くない彼にとって歩きやすい道ではないが、確実に人の気配がする方へと向かっていた。
遠くから聞こえてきた人々の怒号に悲鳴、それらを耳にしてウォルムが幾ばくか歩く速度を上げる。そして見えてきたのは、華美なスーツやブランド物らしきカジュアルな衣服を着た男達がゴブリンから逃げ惑う姿。
「ご覧、ヨルマ。生き物が沢山いる。どうしようか?」
人ならざる身からすれば、ゴブリンも人間も等しく生き物。どちらの価値も、ウォルムからすれば変わらなかった。
問いかけられたヨルマ――ウォルムの忠実なる眷属の蛇は、とてもとても空気を読むことに長けた蛇だったので、人を救うべきではと進言する。
「そうだね。いまの私は人の神なのだから。人間を救うように動くとしよう」
それによく考えれば、星読みの子はできれば一般人の被害を減らしてほしいと言っていたね、とウォルムは彼らの前に立った。
「退け! 邪魔だ!」
「――落ち着くといい、助けが来たのだから」
じわり、と蛇が這いよるかのように耳から精神へとウォルムの声が響く。
「さぁ、こちらへおいで」
ゴブリンに追われていた男たちにとって、それはまさに救いの一言。我先にとウォルムの背後に向かって駆ける。
「怪我をしたものはいないかね?」
「俺達は大丈夫だけど、バラけて逃げたから……っ」
他の者はわからない、と不安そうにした男が言った。
「ふむ、君達が無事でよかった。さあ、この道を真っ直ぐ行けば出口だ、おいき」
柔らかくも労わるような声に、男達は知らずのうちに涙を零しながらウォルムに礼を言い、出口へ向かって逃げていく。
「おや。君は逃げないのかい?」
ゴブリンが来てしまうよ、とウォルマが声を掛けるけれど、どうやら安堵で腰が抜けてしまったのかガタガタと震えるばかりだ。
「仕方ないね」
外に転移させるのが理想ではあるが、ウォルムの足でもそれなりに進んできた為それも難しいだろう。それでも、少しでもこの場から引き離せたら、自分の足で立ち上がって逃げることも出来るはずだ。
「おいき」
ウォルムが腰の抜けた男をこの場から遠ざけるべく|弾く尾《ガアプ》を発動させた。
「さて、次はゴブリンだ」
こちらにはなにも優しくする必要はない、|魂腐す瘴気《ルアハラール》を自身の前方へと放ち、人間を追っていたゴブリン達を腐らせる。
「私の鱗に触れてはならない」
警告を聞かず襲い掛かってくるゴブリンには、ヨルマがウォルムの腕から滑り降りてその身を大きくすると、尾で薙ぎ払い、締め上げる。
「ヨルマ。喰らって構わない」
主の言葉に従い、ヨルマが牙を剝いてその腹にゴブリンを収めていく。その間も、ただウォルムは穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
それはまるで、強固な壁が人々を守っているかのようであった。
🔵🔵🔵 大成功

【WIZ】◎
おぉー、成金ッぽくていいダンジョンじゃんか。お宝もたッくさんありそーだし? 解決すンのが勿体ねーくらいでチュ! ぎゃはは。
ンで、どーすっかね。|一般人《パンピー》なんざ助ける義理もありゃしねーけど。
ま、ボス格の奴と殺り合わずにクリアできるッてンなら試した方がいいんじゃねえの。ダンジョンハックは安全第一でチュからァ?
そーゆーわけで、√能力【|紅躯邪狗《キャンドルサービス》】。展開した護霊どもに生き残りの捜索と救助やらせまチュ。ゴブリンどもは見掛け次第[先制攻撃]で仕留めてえトコかな。
命のお代は財布でいいでチュよ、死に損ないども。ぎゃは、クズはクズ同士助け合いが肝心だよな!
●地獄の沙汰も金次第
躊躇うことなくホストクラブと融合したダンジョンの中を断幺・九 (|不条理《テンペスト》・h03906)は濁った瞳をキラッキラに輝かせ、物色しながら歩いていた。
「入口見た時から思ってたんでチュけど、成金ッぽくていいダンジョンじゃんか」
金の匂いとドブの匂いがプンプンする、と九はご機嫌で壁から生えたクリスタルを横目で見ながら進んでいく。
「お宝もたッくさんありそーだし? 解決すンのが勿体ねーくらいでチュ! ぎゃはは」
これが普通に√ドラゴンファンタジーにあるダンジョンなら、何度だってアタックしていたかもしれない。
「解決しないといけないでチュかね、いけないでチュよねー」
仮に九が解決しなかったとしても、他の√能力者達が解決してしまうだろうし、それくらいならまだ金になる感じで何とかした方がいいか、と九は思い直す。
「ンで、どーすっかね。|一般人《パンピー》なんざ助ける義理もありゃしねーけど」
星読みから聞いた選択肢は三つ――さっさとボスを見つけ出して撃破するか、一般人を守りつつゴブリンを倒すか、ゴブリンから一般人を守りつつ迷宮の外へ出すか。
「ま、ボス格の奴と殺り合わずにクリアできるッてンなら試した方がいいんじゃねえの。ダンジョンハックは安全第一でチュからァ?」
√ドラゴンファンタジー出身舐めんなよ、とばかりに九が笑う。
「そうすっと、|一般人《パンピー》保護になるんでチュけど、どうせなら|一般人《金ヅル》は生存確率上げた方がよさそうでチュし?」
途中で何か本音も零れ落ちたが、九は気にせず√能力を発動し――。
「本日のご注文はァ? サーチ・アンド・オペレーション!」
索敵範囲を広げるために自身も歩きつつ、護霊『パイドパイパー』を放ち索敵を開始したのである。
「迷子の|お客様《金ヅル》はいらっしゃいませんかァ?」
なんて言いながら歩いていれば、早速索敵に引っかかったようで、九がそちらの方に向かって進む。すると聞こえてきたのは男達の悲鳴に怒号、中々にロクでもない連中だと九が唇の端を持ち上げた。
「逃げろ、逃げろって! クソッ宝石なんか命がなきゃどうにもなんねぇよ!」
「でもこれがあれば借金帳消しにできるじゃんかよ!」
「ば、化け物がそこまで来てるんすよぉ!」
「もういいじゃん、そいつ捨てて逃げりゃよ!」
見捨てても心が痛まないくらいの清々しいクズっぷりでチュね、と思いつつ九が男達の前に出ると、追い掛けてきたゴブリンを違法改造が施された竜漿兵器『メガマウス』と『グラットン』で撃ち抜いた。
「ひ、だ、誰だテメェ!」
「誰だとはご挨拶でチュね、助けにきてやったんでチュよ」
助け、と聞いて男達の目に僅かに光が戻る。
「た、助けてくれんのか!」
「もちろんでチュ」
「は、早くここから連れ出してくれよォ!」
九に縋るように群がる男達に、うんうん、と頷いて。
「命のお代は財布でいいでチュよ」
と、笑顔で答える。
「は?」
「なん、金、金とんのかよ!」
「タダで救える命なんてあるわけないだろ、死に損ないども」
すっと細められた九の瞳に、男達が息を呑む。
「死ぬより、マシだ!」
男の一人がそう叫び、懐から出した財布を九へと渡す。
「そうそう、賢いでチュね」
他の男達にも手を差し出せば、渋々財布が渡されて。
「ぎゃは、クズはクズ同士助け合いが肝心だよな!」
ぎゃはははは! と笑う九が財布を懐に仕舞うと、こっちだと男達を連れて出口に向かって歩き出したのであった。
🔵🔵🔵 大成功

WIZ
ルナたちは確かに能力者ですが正義の味方ではありません
あなたたちを守る理由はただひとつ
あなたたちは女性の手によって裁かれるべきと思うからです
その顔面はボッコボコのフルボッコにされるべきと判断します
それにルートエデンでは所謂、がち恋営業が罰せられるようになったと聞きます
即刻、営業停止処分をうけて職を失うといいでしょう、ざまあみろです
さて、ミサイルでゴブリンたちを牽制しつつ、まずは逃がすことを目指します
足がなかったりどうみても助かりそうにない怪我人を囮にするのも躊躇いません
ひとりふたりは犠牲になるのもやむをえないでしょう、トリアージです
これくらいのことは戦争世界では日常茶飯事、よくあることです
●裁かれるべきは
煌びやかなダンジョンにも、所々ホストクラブらしさを残した地面にも、然したる興味を持たずにルナ・ミリアッド(無限の月・h01267)はダンジョンに囚われたままの一般人の姿を探して進む。
いつもであれば、珍しいものや美しいものはなるべくゆっくりと記憶するように見ていくのだけれど。
「この場はステラに見せるには少しばかり……いえ、かなり不適合だとルナたちは判断します」
出来るだけ早くダンジョンを消滅させるべく、悲鳴が聞こえる方へと駆け出した。
「うわ、うわああ! 来るな、来るなああ!」
「なんだよぉ、俺が何したって言うんだよ!」
「たす、助けて、誰か、誰か……ッ!」
ルナが目撃したのは、壁際に追い詰めらゴブリン達に襲われる寸前の男達の姿。
「お待ちなさい」
ゴブリンがその声に反応し振り向いた瞬間を狙い、小型無人兵器『レギオン』を放つと同時にルナが駆け出す。レギオンが放つミサイルによってゴブリン達が逃げ惑う隙を突き、男達とゴブリン達の間に割って入ったのである。
「たす、助けてくれ!」
「なんでもする、なんでもするから!」
縋る男達の声に、ルナは嘆息するように小さく吐息を零し、レギオンを展開させたまま男達の方へ振り向くことなく言葉を紡ぐ。
「ええ、ルナたちはあなたたちを助けにきました」
「やった、助けだ!」
「これで俺達助かるんだ……!!」
わっと男達の喜ぶ声が上がる中で、ルナは静かに切り込む。
「ですが、正義の味方ではありません。ルナたちがあなたたちを守る理由はただひとつ」
「か、金か!? 金なら払うから!」
「あ、ああ! 助けてくれるなら、ほら、今ある金を渡したっていい」
なんてくだらない人間なのでしょう、とルナは思いながらも言葉を続けていく。
「あなたたちは女性の手によって裁かれるべきと思うからです」
「は……?」
きょとん、とした男達に構わず、戻ってきつつあるゴブリンから目を離さぬまま声を投げかけた。
「ルナたちはその顔面はボッコボコのフルボッコにされるべきと判断します。それにルートエデンでは所謂、がち恋営業が罰せられるようになったと聞きます」
「そ、れは……で、でも勝手に好きになるのは俺たちのせいじゃないだろ!」
「ルナたちはそんなことは知りません。ここから出たら、即刻、営業停止処分をうけて職を失うといいでしょう、ざまあみろです」
それで女性たちの溜飲が下がるとも思えなかったけれど、せめてもの報いだとルナは思う。レギオンからミサイルを発射し、倒せるものは倒し、男達に逃げるように促す。
「……足がなかったりどうみても助かりそうにない怪我人はいないようです」
もしもいたのなら、囮にでもしてやろうかと思ったけれど。
残念、という言葉を飲み込んで、ルナは男達を守りながらダンジョンの出口へと向かうのであった。
🔵🔵🔵 大成功

【SPD】
……まあ、どんなに卑劣な人間でも、命は命だしね。
【風精大渦】を地面に着弾させて、ゴブリンたちを腐蝕の嵐(毒使い)で薙ぎ払いながらホストさんたちを守っていこう。
自在剣を『錬金術』で鞭のように変質させながら、それでも襲いかかってくるゴブリンへ攻撃する。
敵の攻撃はもちろん見切りながら回避するよ。
さあ、皆さん速く逃げて。
ホストっていうのは、顔に青あざでもできれば問題になるだろうし。
……ああそれと。
身に纏ってる貴金属、俺の嵐の中だと腐蝕してボロボロになってしまうかもしれないんだけど……命あっての物種だし、仕方ないよね。
(無表情ながら、酷く冷たい視線を向けて)
●いのちの重さは
ホストクラブと融合したダンジョン、確かにホストクラブっぽい名残が見えるなと思いながら黒辻・彗 (|黒蓮《ブラック・ロータス》・h00741)は奥へと進んでいく。
実際のホストクラブなんて見たこともないけれど、天井にはシャンデリアのようなもの、ごつごつとした地面には黒い床のようなものが見えていた。
「まずはホストさん達を見つけないとね」
建物の大きさに反し、中は広々としている。ダンジョンと融合と言うからには、中の空間が多少歪んでいてもおかしくはないかと彗が呟く。√ドラゴンファンタジーで冒険者として生きる彗にとって、ダンジョンは特別なものではない。
「油断は禁物」
油断したものから倒れていくのだ、そう――ちょうど彗の視線の先で、壁から生えた宝石に目が眩んだ者たちの様に。
「俺が先に見つけたんだ、俺のだ!」
「ふざけんな! 俺が先だぞ!」
背後にゴブリンが迫ってくるのも、彗が冷たい視線を向けていることにも気が付かず、宝石をどうやって掘り出そうかと争っているのだ。
ギィギィと声を上げてゴブリンが近付いてくるのに漸く気が付いた一人が、悲鳴を上げる。
「うわ、うわああああ!」
「ひっ、なんで! 別の奴を追いかけていったじゃねえかよ!」
お互いを盾にしようとする姿に、彗の瞳はどんどん冷えていくけれど。
「……まあ、どんなに卑劣な人間でも、命は命だしね」
ゴブリンが男達に襲い掛かるよりも早く、風を紡ぎ弾丸として地面に着弾させた。
「下がって」
「だ、誰だ!」
「誰だっていい、助けてくれよ!」
男達の声を背に受けながら、着弾させた弾丸から腐蝕の嵐を巻き起こす。
「うわ、わっ」
「下がって、早く」
腐蝕の嵐はゴブリン達を薙ぎ払い、逃げるには充分な時間を稼ぐと彗がまだ宝石に固執している男達に向かって僅かに眉根を寄せ、速く逃げてと声を掛けた。
「くそっ、宝石が目の前にあるのに!」
「なあ、あんたこの宝石採れたら持ってきてくれよ! 半分やるからさぁ!」
なんとも身勝手な話ばかりを囀る男達に、助ける価値が果たしてあるのか。
「……速く逃げて、ゴブリンがまた来ますよ。顔に青あざ程度じゃ済まなくなってもいいんですか? ホストって顔に傷が付いたりしたら問題になるのでは?」
「……っ、わかったよ!」
やっと諦めて、逃げ出そうとしたホストに彗が思い出したように口を開く。
「……ああ、それと」
「なんだよ!」
「身に纏ってる貴金属、俺の嵐の中だと腐蝕してボロボロになってしまうかもしれないんだけど……命あっての物種だし、仕方ないよね」
死にたいなら別だけれど、と無表情ながらに底冷えするような冷たさを含んだ視線を向けて、彗が目を細めた。
「な……っ!」
「もっと早く言えよ!!!」
一目散に逃げていく彼らの後ろを、溜息を飲み込んで彗は後を追うのだった。
🔵🔵🔵 大成功

【SPD】【唯鳥2】
煙草に火を着けて一服、紫煙を漂わせる
片手には煙草、もう片方は唯一と繋いでる
「思ったより取り残された人たちはいないのでしょうか?」
【情報局】を発動
散開させて生存者を捜索します
私自身は紫煙と纏う香りで『おびき寄せ』る
「中にはずいぶんと“わるいひと”もいるようですが……」
そんな彼を殺したいと願ったひとがいた
同情はしますが、人殺しを誰かに頼んで良しとはできません
「唯一はどう思いますか?」
酷く不機嫌か
冷淡な表情か
どちらとも違うのか
「私は自分が女子でよかったと思うんです」
男子だったら唯一の隣にはいられないでしょう?
こうして手を繋いで、ぬくもりを感じてる
悪い男子たちを助けにいきましょう

【SPD】【唯鳥2】
随分煌びやかな場所やねぇ
純粋な感想は確実な嫌味を持って響く
宝石など隣の愛らしい小鳥の前では霞んで見える
悪い印象を持つ場所のせいもあるのだろうが
まぁ見捨ててもええんとちゃうかな
あかん?
だって自業自得やろ
乾いた笑いが漏れてしまった
あー…うーん、まぁ死んで楽にしてやるつもりはあらへんけど
死は解放だろう
彼が負うべき贖罪から逃がしてやるのも癪
一発二発三発くらい殴られてしまえ、と思う
つくづく自分は「人」が嫌いだなと思いつつ
ボクは小鳥が好ましいのであって、性別は関係あらへんよ?
隣の彼女のおかげで冷静でいられる
「人」を護れる自分でいられる
感謝しながら紫煙の香りを堪能しつつ、武器を構えるのだ
●虚飾の檻
√EDENのホストクラブと融合した√ドラゴンファンタジーのダンジョン――そう聞くだけでも、厄介な匂いがすると一・唯一(狂酔・h00345)は花喰・小鳥(夢渡りのフリージア・h01076)の手を握ったまま眉根を顰めた。
「随分煌びやかな場所やねぇ」
それは純粋な感想でもあり、丁寧にオブラートに包んだ嫌味でもあり。壁から生えたきらきらと輝く宝石の類は確かに綺麗だけれど、唯一の隣で手を繋いでいてくれる小鳥の愛らしさの前では何の意味ももたないと唯一はダンジョンを軽く睨む。悪い印象を持つ場所のせいもあるかもしれないが、それにしたってちょっと悪趣味が過ぎやしないか、と。
そんな唯一の不満気な横顔も綺麗だと思いながら、小鳥は煙草に火を点けて紫煙を燻らせる。
「思ったより取り残された人たちはいないのでしょうか?」
「どうやろなあ? 結構大きなホストクラブみたいやし、ホスト以外の従業員も併せたらそれなりの人数にはなるんとちゃう?」
ホストの数が40~50名として、黒服が20名前後。多く見積もればこのくらいの人数がいてもおかしくはないだろう。
「なるほど……少し調べてみましょうか」
小鳥が『|情報局《シュタージ》』を発動すると、彼女と視覚を共有する諜報員が方々へと散っていく。
「建物のサイズでダンジョンが収まっていればいいのですが……そんなわけにもいかなさそうです」
繋いだ手を離さないまま、二人は奥へと進む。その間も、小鳥は紫煙と自身が纏う甘い花の香りを意図的に振り撒いていた。
「どうやら、そこそこの人数がまだ中にいるようです」
自分たち以外の√能力者により、半数以上はダンジョンの外へと逃げ出せたようだが、迷っている者はまだいると小鳥が唯一に告げる。
「中にはずいぶんと『わるいひと』もいるようですが……」
そして、そんな彼を殺したいと願ったひとがいたのだと、小鳥は僅かに目を伏せる。同情こそはすれ、人殺しを誰かに頼んで良しとはできない。見逃すことはできないと、小鳥は顔を上げた。
そして、繋いだ手を軽く揺らして唯一へと問う。
「唯一はどう思いますか?」
「ん-?」
繋いだ手を揺らされるままにしながら、唯一がふっと笑う。
「まぁ見捨ててもええんとちゃうかな」
その声は、心底どうでもいいという響きを含んでいて。小鳥は今、彼女がどんな表情をしているのだろうかと思う。酷く不機嫌な顔か、冷淡な表情を浮かべているのか――それとも、そのどちらとも違うのか。確かめるよりも前に、唯一が再び口を開く。
「あかん? だって自業自得やろ」
乾いた笑い混じりの言葉に、否定も肯定もせぬまま小鳥は手を揺らす。
「自業自得なのは確かです、でも生きて償うべきではないかと思います」
「あー……うーん、まぁ死んで楽にしてやるつもりはあらへんけど」
死は解放だと、唯一は思う。彼が背負うべき贖罪から逃がしてやるのも癪に障る、と小鳥の手を揺らし返す。
「でも、一発二発三発くらい殴られてしまえ、と思う」
そう言って、つくづく自分は『人』が嫌いなのだと改めて唯一は思い知る。こんな自分でも、小鳥は自分を嫌いにならないだろうかと、唯一は小鳥へと視線を向けた。
「唯一、私は自分が女子でよかったと思うんです」
思ってもいなかった言葉に、唯一が目をぱちりと瞬いて、なんで? と問う。
「だって、男子だったら唯一の隣にはいられないでしょう?」
こんな風に手を繋いで、揺らして、ぬくもりを感じることも。
「ボクは小鳥が好ましいのであって、性別は関係あらへんよ?」
「そうなんですか?」
「当たり前や、ボクは小鳥が男でも好ましいと思うよ」
「……嬉しいです、とても」
はにかんだような声に、唯一は思わず笑みを浮かべて、どういたしましてと手を握り返した。
「では……悪い男子たちを助けにいきましょう」
「見つけたん?」
「はい、こちらの方にグループでいます」
小鳥の言葉に、しゃあないかと覚悟を決めて。彼女のおかげで冷静でいられる、『人』を護れる自分でいられるのだろうと感謝しながら、紫煙の香りを大きく吸い込んだ。
「行こか」
「はい、唯一」
ダンジョンに取り残された一般人を助け、ゴブリンを駆逐する。その為に、武器を構えながらダンジョンの奥へと進むのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

【POW】◎
ホストクラブとは、女が男に恋をして、男は女の金を愛する商売。
鎌鼬三姉妹さんは、人間の生活に詳しくて助かります。
命を代償にするには、払い過ぎですね。
捕らわれのお姫様は、ボスと一緒にダンジョンのテッペンでしょうか?
一般人を守りつつ、ゴブリンを退治してダンジョンの最奥を目指します。
ニライとカナイは蜘蛛の糸でゴブリンを捕縛、鎌鼬三姉妹は一般人を護るよう指示。
戦闘は、人型の鬼蠍。蜘蛛糸で絡め、毒で溶かし、蠍尻尾で敵をはたいて宝石にぶつける。
攻撃されそうな一般人と位置を入れ替えたり、連携して能力をフルに使い戦いは手短に。
人間は弱くて儚くて脆い。壊れやすい宝石のようで、護りたくなっちゃいます。
●その対価
ホストクラブ、という聞きなれない単語を耳にしてガザミ・ロクモン(葬河の渡し・h02950)は件の融合ダンジョンに足を踏み入れながら、鎌鼬三姉妹からホストクラブとはどういうものかという教えを請うていた。
「なるほど、ホストクラブとは、女が男に恋をして、男は女の金を愛する商売なのですね」
鎌鼬三姉妹さんは人間の生活に詳しくて助かります、とガザミがしみじみと頷く。
「そうなると――命を代償にするには、いささか払い過ぎですね」
どちらが? なんて鎌鼬三姉妹が視線を向ければ、ガザミはどちらもですと笑った。
「さて、囚われのお姫様は、ボスと一緒にダンジョンのテッペンでしょうか?」
大抵はダンジョンの最奥か最上階でしょうとガザミはあたりを付け、よし! と意気込む。
「一般人を守りつつ、ゴブリンを退治してダンジョンの最奥を目指しましょう!」
欲張りな選択だけれども、なんともガザミらしい選択である。全てを取りこぼさずに進むのは難しいかもしれないけれど、やれるだけやってみようとガザミは牛鬼『ニライ』と『カナイ』も呼びだして、この煌びやかでどこか物悲しいダンジョンを進むことにした。
「む、人の声がしますね」
暫く進んでいくと、男達の悲鳴が聞こえてきてガザミは速度を上げる。
「ひ、もう嫌だ! どうして俺達がこんな目に合うんだよ!」
「こんなことが現実なわけないんだ、酒呑み過ぎて頭おかしくなってるんだ、そうに違いないんだ」
泣きながら逃げていく者、現実逃避をしながらも逃げる者、差異はあれどゴブリン達に追いかけられているのだけは共通している。
「助けますよ、ニライ、カナイ、鎌鼬三姉妹さん!」
ガザミが声を掛けると、ニライとカナイが蜘蛛の糸でゴブリン達を絡め捕り、その隙に鎌鼬三姉妹が男達がゴブリンに殺されぬように護りを固めた。
「離れていてくださいね!」
危ないですから、と男達に声を掛け、ガザミは『|大禍遊戯《ロクモン》』を発動する。無数の毒針と毒蜘蛛の糸を操る人型の鬼蠍になると、数を増やしたゴブリン達に容赦なく毒をお見舞いし、蠍の尻尾で薙ぎ払い宝石が突き出た壁へと跳ね飛ばす。
「あっちの方からゴブリンが沸いてきてるみたいですし、あっちにボスがいるんでしょうか」
それに、心なしかあっちの方が煌びやかさ度が高い気がします、とガザミが頷く。
「さ、あなた方は気を付けて出口に向かってください」
自分より遥かに弱くて儚くて脆い人間、それはガザミからすれば壊れやすい宝石のようで、護りたいと思う存在。それがどんなに性根が腐っていようとも、ガザミの気持ちは変わらない。
「お姫様も助けないとですね」
復讐に囚われてしまったのならば、その心も――そう願いながら、ガザミはボスの姿を求めてダンジョンの奥へと進むのだった。
🔵🔵🔵 大成功

【WIZ】
アドリブ歓迎
_
このホストの男、サイッテーだな……
幸花さんの手は汚させねえし、俺自身この男を殺す気はないけど
でも胸ぐら掴んで揺さぶってやりたい気分
腹立たしいけど、俺は仕事で来てるから
男を怒りにきたわけじゃねえから、あくまで冷静に
それにしても融合ダンジョンなんて、不思議なことが起こるもんだな
兎にも角にも一般人の被害はゼロにしたい
「ほら、落ち着けって」
彼らを傷つけさせはしない
【救助活動】と同時に『天が咲く』を発動させ敵視を引きつつ
【鉄壁】の【オーラ防御】と【霊的防護】にて【かばい】ながら安全に避難させる
どんなコトやってきてたとしても
俺が今、彼らを助けない理由にはならない
●そこに理由などなく
「このホストの男、サイッテーだな……」
星詠みの予知を聞き、√ドラゴンファンタジーのダンジョンが融合してしまったというホストクラブへやってきた祭那・ラムネ(アフター・ザ・レイン・h06527)は、沸々とした怒りを胸に建物を見上げた。
煌びやかな建物の壁から水晶の結晶が突き出ている、そういうオブジェだと言われれば納得するかもしれないが、現状を知っている√能力者からすれば本当に融合してしまっているのだと思わざるを得ない。
「件の男を殺したいとは思わないけど、胸倉掴んで揺さぶってやりたいよな」
腹立たしさはあれど、ホストの男を怒りに来たわけじゃないから、あくまで冷静に――ホストに騙されて金を貢がされた幸花という女性の手は汚させない、逃げ遅れている従業員は助ける。
「うん、シンプルだ。よし、行くか」
目標さえ決めてしまえばラムネの行動に迷いはなく、一般人を探してダンジョンを進んでいく。
「それにしても融合ダンジョンなんて、不思議なことが起こるもんだな」
√EDENに√ドラゴンファンタジーのダンジョンが出来る――という事件は起こっているけれど、融合というのは……とラムネが首を傾げていると、男達の悲鳴と怒号が聞こえてくる。
「あっちか!」
兎に角、一般人の被害はゼロにしたいと、ラムネは声が聞こえる方へと駆け出した。
「なんっすかこれ! 何なんっすか、なんでこんな、ゲームのモンスターみたいなのが追ってくるんっすか! リュウガさん!」
「知らねぇよ! 俺が知るわけないだろ! っていうか、建物もなんでこんな事になって……クソッ」
声の大きな男が二人先頭を走り、その後ろからまた数名の男達が走ってくる。そして、その男達を追いかけているのがゴブリンであった。
「あいつが……いや」
ふるり、と頭を振って切り替えると、大きく手を振って声を掛ける。
「こっちだ!!」
ラムネの声に気が付いた男達は我先にと駆けよってくる。
「た、助けてくれ!」
「バケモンが、バケモンが!」
パニック状態の男達が口々に言うのをラムネが頷きながら、さりげなく自分の後ろへと庇う。
「大丈夫だから、ほら、落ち着けって」
幸い、怪我をしている者はいなさそうだと視線を男達からゴブリンへと向けると、√能力『|天が咲く《アメガサク》』を発動させ、ゴブリン達の視線を自分へと向けさせた。
「前へ出るなよ?」
男達が悲鳴を上げつつ頷くのを確認すると、ラムネは襲い来るゴブリンから男達を護りながら、出口に向かって誘導する算段を立てる。たとえ、どんなコトを……女性に対して酷い扱いをしていたとしても。
ラムネが今、助けを求める彼らを見捨てる理由にはならないのだから――。
🔵🔵🔵 大成功
第2章 冒険 『ダンジョンに取り残された一般人の避難誘導』

POW
避難行動の邪魔をするゴブリンと戦って、一般人を守る
SPD
迅速に避難活動を完了させ、ボスの元に向かう事を優先する
WIZ
一般人の心に寄り添いつつ、最後の一人まで確実に避難させる
√EDEN 普通7
●融合ダンジョンからの脱出
√能力者達が融合ダンジョンに入ってから少しして、比較的ダンジョンの入口近くにいた一般人は√能力者達の助けを得て、外へと逃げ出していた。
「よ、よかった……! 逃げ出せたんだな俺達!」
「死ぬかと思ったぜ……」
「クラブの中、わけわかんなくなってたし……これ本当に一体どうなってんだよぉ……」
数人が身を震わせて、|いつも《日常》と違ってしまったホストクラブを見上げている。
「今日の出勤者の数と、ここにいる人数が全然合わないんですが……まだ中なんですかね……」
内勤と呼ばれる、ホストクラブの雑務を請け負う従業員の一人が、ぽつりと呟く。
「今日は週末だったから、ほぼ全員出勤してたよな」
「俺達内勤だってほぼフルだっただろ」
建物一棟が丸々ホストクラブという大箱、ホストの在籍数は40名余り、内勤である黒服は15名ほど。今ここにいるのは内勤が10名とホストが数名――つまり、まだダンジョン内には40名ほど取り残されているというわけだ。
「無事に出てきてくれりゃいいんだが……」
心配そうに見上げた男が、ぽつりと呟いた。
一方、融合ダンジョン内部。
それぞれの選択で動いていたが、前方から逃げてくる一般人とそれを追うゴブリン達の姿を目にしては見捨てるわけにもいかない。更にはゴブリンを食い止めて出口まで一般人だけで行かせてしまうと、どこからともなく湧いてくるゴブリン達が一般人を害しかねない。
それ故に、√能力者達は一度無事に外まで送り出すしかないという決断をすることとなる――。
----------
●マスターより
第二章は皆様の決断により、『ダンジョンに取り残された一般人の避難誘導』となりました。
こちらも一章と同じく、プレイングの冒頭に選択肢の方針【POW】【SPD】【WIZ】をひとつ、記載してください(選んだ√能力の【POW】【SPD】【WIZ】では判断致しませんのでお気を付けください)
これにより、第三章の分岐先が多数決で決定となります。同数の場合はプレイングの内容で決定します。選択肢に沿わない行動方針を取るようなプレイングは採用できない場合があります、ご了承ください。
途中参加も歓迎しております! プレイング受付期間はタグをご確認ください。
ゴブリンの能力を開示いたします、戦闘行動を取られる方は参考になさってください。
●POW:弱者の隠密
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【毒を塗った槍】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【闇】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
●SPD:弱者の戦術
【攫った人間による肉盾】による牽制、【予め準備された罠】による捕縛、【毒を塗った斧】による強撃の連続攻撃を与える。
●WIZ:弱者の狩猟
【弓の毒矢による長距離狩猟】の体勢を取る。移動力と戦闘力を3分の1にする事で、肉眼以外のあらゆる探知を無効にする。嗅覚・聴覚・カメラ・魔術等、あらゆる探知が通用しない。
それでは、引き続き皆様のプレイングをお待ちしております。