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徴証

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●|白銀《しろがね》に差す朱

 |独白《モノローグ》。誰に聞かせるでも、伝えるでもない言葉。
 秘めたる想い、真実と想像、願望と罪悪感。それらに付随する感情は一言で表すにはあまりに難しい。

 ◇

 目下、真っ先に問題になる事と言えば兄からの熱烈な好意だ。プロキオン・ローゼンハイム(シリウス・ローゼンハイムのAnkerの弟・h03159)に対する兄の執着は並大抵のものでなく、けれど真っ直ぐにぶつけられる感情に満更でもない自分がいる。人目のある場ではあしらうのが正解なのか、|あれ《・・》でも抑えてくれているのか……。


 正直、嬉しい。兄さんが僕を大切に想ってくれている事は疑いようがない。二人きりの兄弟、支え合って生きていかねばならない以上、あの強く勇ましい兄さんの|欠落を埋める者《Anker》であることは僕の誇りでもある。兄さんの僕に対する全て、みんな纏めて受け入れるつもりだ。家族を大切にしたいという感情、治療行為、吸血鬼の本能――どれも抗い難い、柔らかくも強固な感情。
 勿論、周りに迷惑がかかるようなことがあれば怒るし、困ったら伝えるとして……兄さんは僕以外の誰かに対して一切合切蔑ろにするような人とも思えない。僕を最優先することは明らかだけど、僕が悲しむことはしないと思う。心も守ってくれる兄さんを、心から尊敬してる。

 だから同時に心配も尽きないんだ。兄さんの命を預かる身として、僕はあまりに無力。兄さんのように簒奪者と戦う力を持たないし、兄さん自身は僕の為に文字通り何でもする。してしまう。

 ”我慢”を、させてしまっている。

 兄さんは僕に吸血を行わない。一度でも|僕《愛する弟》の血を吸えばその味に溺れることは簡単に予想がつく。僕だって吸血鬼なんだ、そのくらい分かる。きっとその所為で関係性が壊れてしまうのを恐れている……他でもない、誰より強い意思を持つあの兄さんが、だ。
 あの能力――兄さんが僕の血を啜れば、僕は戦う力を得る。血の|誓約《呪縛》を少しばかり解放されれば、僕だって多少なりとも兄さんと肩を並べて戦えるのに絶対にやらない。僕を傷つけるのは例え己であっても兄さんは許せないんだと思う。

 ……僕は必要なら、いつでもその一線を越えてもいいのに。その覚悟もちゃんと出来てる。
 兄さんの足手纏いのままでいたくないって、僕の気持ちも兄さんは分かってるんじゃないかな。なのに兄さん、いつも「ロキには傷ひとつつけさせない」ばかり。
 僕はその言葉にどれくらい救われてて、嬉しくて……同時に兄さんを遠く感じたか。僕は兄さんの生命線、僕の死や衰弱は自分の死にも直結するなんて建前はいらないのに。
 僕が「使っていいんだよ」と言っても毎回躱されてさ。僕は能力者でなくとも兄さんをサポートしたいのに、それは叶えてくれない。何でもしてくれるのに、その一点だけは譲ってくれたことがない。

 仮に兄さんが僕の血に溺れたとして、それで僕が兄さんを嫌いになると思う?

 僕は、

 …………
 
 兄さんに求められれば、嬉しいよ。覚悟って、そういうこと。
 分かってなさそう……言ったところでまだ使ってくれないんだろうな。

 今の関係性が壊れて別のものになっても、それはマイナスな事なのかなとも思う。誰かに咎められるような、迷惑をかけるものとは考えにくい。兄さんの理性が綱渡り状態なほど張り詰めているなら、尚更僕は助けたい。血を、身を差し出せる。
 渇き、疼き、思考が塗りつぶされるような感覚は吸血鬼ならでは。僕が兄さんの苦しみを癒せるなら躊躇うわけないのに。
 怪我の手当てだけでも十分、兄さんを癒せていると思うよ。その為に僕はここまで技術を磨いた。それでも、ねぇ、兄さん。能力者とそうでない者の間には限界があるって、本当は分かってるんだよね?
 兄さんはキレ者だ。僕の知らない世界を見て、僕以上に見聞を持って、僕にまだ教えてくれない事もあるんだろうなって……僕を守る為だとしても、兄さんが遠いんだ。こんなに近くて、大切にされているのに。

 駄目だな、僕は。いつからこんなに我儘になったんだ。
 迷惑をかけたくない、力になりたいって思ってる。それが兄さんを苦しめる。僕を使っていいよと言えば兄さんを困らせる。兄さんの中にはもっと複雑な事情があるかもしれないのに。

 せめて僕をここまで|拠り所《Anker》にした責任はとってよね、兄さん。
 僕を置いてどこかに行かないで……兄さんがいなくなったら僕は何の為に生きたらいい? 一人にしないでよ。二人で生きていこうよ。

 いつの間にか僕の方が兄さんに依存してる。好意に甘えてる。……最初からかな、もう分からない。
 兄さんが僕の首筋に牙を立ててくれる日の為に、いつでも襟を開けやすい服を着ておくからね。

 同じだよ、僕ら。兄さんを苦しめるのが僕なんて、絶対嫌だ――。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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