心を吹き抜ける風の温度

年齢: 19歳 女(11月3日生まれ)
種族: エルフ
外見: 琥珀色の瞳、色白の肌、誠実そうな顔、銀髪セミロング、エルフ耳は小さめ
特徴: 口調:基本、真面目な感じ(わたし、~君、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)
・概要
エレノールが今はもう滅んでしまった故郷への墓参りを行います。いわゆるお盆参りみたいなやつです。
・流れ
真夏のある日、エレノールは故郷の森を訪れる。
彼女がかつて暮らしていた村、ムーンレイクは、今ではひっそりと佇む慰霊碑を残すのみ。7年前、魔物の襲撃によって村は滅び、彼女は数少ない生き残りの一人となった。
それ以来、毎年この時期になると、彼女はここへと帰ってくる。
↓
エレノールは手を組んで慰霊碑に祈る。その間、過去を思い返す。
どんなことを思い返すかはお任せします。ただし基本は森の中での生活です。
最後に、家族のことを思い出す。優しい父親、たくましかった母、そして憧れだった、敬愛する姉。
彼らとの思い出が浮かんできます。内容はお任せします。
↓
慰霊碑に祈りをささげた後は、近くの湖へ。
この湖は「月の湖」と言われ、ムーンレイク村の名の元でもあり、彼女のラストネーム、ムーンレイカー(月の湖の民)にもつながる湖です。
村には、古くからこの湖にまつわる風習があった。
それは「凪の祈り」と呼ばれるもので、年に一度、この時期に行われる静かな祈りの儀式である。
人々は小さな紙に、亡き者の名前とともに、感謝や祈り、あるいは日々の報告を書き記す。
それを湖に浮かべ、静かに手を合わせることで――
死者には安らぎが、生きる者には加護が授けられると信じられていた。
その風習に従い、家族の名前と「わたしは、今も力の限り、生きています」と書かれた小さな紙を浮かべて祈るエレノール。
それが終わった後は、彼女は湖を後にします。
風が髪を揺らす。真夏に吹く風だが汗ばむ暑いものではない。
程よい涼しさを齎す強さだ。髪を少し抑えるだけで済む。
エレノール・ムーンレイカー(怯懦の|精霊銃士《エレメンタルガンナー》・h05517)は暴れる前髪を手で抑えて、息を僅かに呑む。故郷の森へと訪れた光景は毎年、この時期に見るものでもある。
だが足を運んだ此処は、訪れる度に胸に込み上げる想いを揺らしていく。
あれから七年も経ったらしい。
もうそんなに遠くの人生を過ごしている現実は、外の世界の経験という風景を頭に浮かべては消えていく。
既に滅んだ此処は、自然が埋め尽くしていく以外なにも変わることはない。
ひっそり佇む慰霊碑だけが、この村"ムーンレイク"における唯一のエレノールを迎える存在だ。
「やっぱり、……誰かの気配はないですね」
七年前の魔物の襲撃によって崩壊したこの村の彼女は数少ない生き残りの一人。
この村での思い出も、まだ昨日を想う程に遠すぎるものではない。
さく、さくと草を踏み、まっすぐに慰霊碑へと近づき見上げる。
変わらない村の姿と、変わらない慰霊碑への祈り。
手を組んで、想うのはあの日没した皆への――。
* *
その日は、吹き付ける雨混じりの風が台風並の凶悪さを齎した日だった。
『風魔術の心得がないものは飛ばされないように家に籠もれ!』
長く生きるエルフたちは「子どもや低身長な者、精霊や妖精がふっとばされる前にしまえ!」と家々に声を駆け回っていた。風はあらゆる場所に傍若無人な被害を齎した。村の傍で育てていた果実の成る木から未熟な実を根こそぎ落していく!建設中の新居を轟々と噛み潰すように無惨な姿へ替えていく。
誰かは囁く。これこそ、この地域の伝承に僅かに存在を仄めかす「|風竜《ウィンドドラゴン》」の咆哮、またはただの気まぐれから生まれる暴力なのだと。誰も正しくその姿を見たものはいない。
だからこそ、災害到来の予測は不可能。耐える以外に対策を練る事は困難であった。
もうすぐ秋の実りの収穫時期を目前としていたこともあり、そのための村の祭り準備も同時に行われていたこともあり、全てが壊されていく様は、誰も彼もから落胆の声が風にまじり聞こえてくる。
「……おうち、大丈夫なの?」
ガタガタと風に圧される音は、いずれ吹き飛ぶのではないかと昔のエレノールは不安に思う。優しい父が風吹く外から戻り、当時のエレノールからしたら大きな手で頭をくしゃりとゆっくり撫でてくれた。
『大丈夫だ、此処には皆いるからな!』
『そう。大丈夫。風が、嵐が、通り過ぎるのを待ちましょう』
雨に濡れた父に大きなタオルを渡す母は、なにも恐れるものはないよ、と言わんばかりの逞しさを含まえた気前のいい笑い声を響かせる。
戸締まりは大丈夫、家の中にはだって、皆いる。
『手を繋ごうか?』
憧れであり、敬愛する"姉"も此処にいて、不安げにしていたエレノールに手を差し出す。出された手を、受けないという選択肢が存在しない。
だから、おずおずと返事を返したのも、覚えている。
「……うん」
『じゃあ、ぎゅーっとね?』
隣り合って、握られた自分の左手と姉の右手。
繋いでみたら、気分は少し落ち着いた。隣に誰かがいるのは、気分が暖かい。
『ほーら!まだ濡れてるよ!』
『大丈夫だよ、のんびり今から拭くところさ……あっ!』
ずぶ濡れの父は、今目の前でタオルを奪われた。奪った側となった母にタオルで水気をガシガシと押し付けられて存分に拭かれいる。ぐっしょり濡れているので仕方がないがそんな問答無用な様子を、姉の手を握ったエレノールは温かな気持ちを抱いて風の音への意識を遠くへと追いやった。家の中なら怖くない。こんなに賑やかで暖かいのだ。
外の様子なんて、怖くない。
そして姉の手は、暖かく――父とは違う安心感を大きく齎していた。
「……ふふふ」
雨と風が通り抜けたなら、片付けと無事な物の確認をしよう。壊れたモノはみんなで修復作業をしよう。そして一番重要な、誰も居なくなっていないか、皆の様子を確認しよう。居なくなっていたらみんなで探してあげないと。
だから今は――皆で"怖くない"温かな時間を此処に作ろう。
そう、笑顔と温かな"家族"と過ごしていたあの瞬間。
確かにぬくもりは皆と一緒にあったのだ。
* *
「……あの後、家を出た後みた光景に父が苦笑いをしたところまでよく覚えていますね」
瓦礫の山、木の枝の大量さに片付けの大変さを想像してため息を付いたところを母が背中を軽く小突いて笑いに変えていったのだったか。詳細までは思い出すことは叶わないが、それでも一連の流れはそんな出来事であったハズ。
祈りの間に振り返る過去の出来事は、確かにあった。エレノールが証言できる。
あの日、嵐が通り過ぎた後に色んな誰かの私物を皆で回収するお祭り騒ぎがあったことも覚えている。毎年の秋祭りはなかったけれど、記憶の中の彩り鮮やかな景色をみた気がした。大人の活気あふれる声も、みんなの賑やかな笑い声も。
祈りを捧げ終え、頷きながら次の場所へと足を向けるエレノールの足は迷うことがない。慰霊碑より奥の細道を選び、近くの湖へ"いつもの道"をゆっくりと歩く。
いつか村に賑やかな声が響く頃は、皆と。この道は父が軽く舗装したと照れ笑いを浮かべていたのはいつのことだっただろう。懐かしいものだが、しかし今は誰かの声を聞くこともないまま――今年もまた、一人で通り抜けていく。
眼前に広がる湖はエレノールの訪れをきっと迎えてくれた。
ムーンレイク村の由来そのものでもある湖は、『月の湖』の別名を持ち、エレノールのラストネームに由来するものでもあるのだ。此処に湖は今も健在。ならばこそ、名乗り続ける名を失われて居ないと誇れるというもの。
「遠く離れても、わたしは|ムーンレイカー《月の湖の民》ですから」
曰く、村にも伝承は多くあったものだが、昔から湖にまつわる風習も存在した。
その一つが『凪の祈り』。
年に一度、この時期に行われる静かな祈りの儀式である。
ザザ……と風は段々と緩やかに勢いを収めていく。
この地は無風にして無音。儀式の最中は穏やかな微量の湖の水音だけが支配した。
――人々は小さな紙を持ち寄り此処に来たそうです。
――亡き者の名を書き記して、感謝と祈りを……。
――いいえ、人によっては日々の報告を書くのでしょう。
この場所において――エレノールは風習に従い家族の名前を綴る。
先ほどまで温かな思い出の中で顔を、声を聞いたばかりだ。
だからこそ、感謝と祈りではなく――。
湖に浮かべる小さな紙から手を離して、静かに手を合わせる。
死者には安らぎが。生きる者には加護が授けられると信じられてきた。
今も、エレノールは信じる。
未来を見て、歩き続けていると。
"大丈夫"だと。小さな紙に書かれた言葉が届くようにと祈りながら。
【 わたしは、今も力の限り、生きています 】
祈りは届く。
儀式を終えて、立ち上がったエレノールが湖に背を向けて歩きだした頃、少し強い風が髪を、体を大きく揺らしていった。
突風、――というほどおかしな風ではきっとなかっただろう。
湖から吹いたにしてはどこか撫でるように優しく、どこか豪快で、手を繋ぐような――家族を思わせる暖かさを感じたような。
真夏においてそんな風を浴びる事は、よくあることだったかもしれないがどこか、背中を圧されたような――前を向く心を、応援されたような気持ちを得て、湖から遠く離れ、エレノールは帰路についたことだろう。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功