シナリオ

3
燦夏

#√ドラゴンファンタジー #3章受付:8/20の8:31~8/22の23:59まで

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√ドラゴンファンタジー
 #3章受付:8/20の8:31~8/22の23:59まで

※あなたはタグを編集できません。

✦あつはなつく、てりつける

 夏の陽は容赦なく周囲を焼いている。
 石畳の広場は白く光り、蝉の声がけたたましく響く中、風のない空気は肌にまとわりつくように重たい。
 そんな中、君たちの前に現れたのは一人の少年だ。銀の髪が照り返しを受けて煌めき、褐色の肌にはそばかすが浮かんでいる。手には小さなうちわ。肩で息をしながら、ぱたぱたと自分の顔を仰いでいた。
「お前たち、こうも毎日バカ暑いと、涼しい場所に行きたくならないか?」
 君達がどうこたえようと、なんなら何も答えまいと。
 手に持ったうちわを掲げると、ジャンは得意げに高らかに宣言する。

「紹介してやろう。青と光のダンジョンを。風が鳴り、海が広がる――夏の楽園をな!」

✦なつはまばゆく、すずやかに

 冒険の舞台は√ドラゴンファンタジー。星々が示したのは、ある山の麓に出来たダンジョンだ。
 ダンジョンの入口には、ヒューリェという小さな山裾の街がある。
 この時期、ヒューリェの空気はひときわ澄んでいる。木々の緑は濃く、遠くの山から吹き下ろす風は夏の熱気をほんの少し薄め、……そして町の路地という路地には、無数の風鈴が吊るされている。鈴の音。鈴の音。鈴の音。それらはリンと、互いに重ならぬよう、微かに呼吸するように音を鳴り交わす。
 その音は耳に涼しく、心にやさしく、どこか懐かしさすら帯びているという。

 ちょうど今は、年に一度の《涼風祭》の最中だそうだ。町中がこの祭を楽しみにしている。色とりどりの硝子が露店の天幕から落ちた光を受けて輝き揺れるたび、そこに涼やかな風があることを教えてくれるだろう。

「この街は硝子細工が名物なんだ。普段はトンボ玉や飾り皿なんかを作ってるけど、今だけは特別でさ」
「祭の間は、風鈴作りが盛んになるんだ」
 熱気に包まれた通りには吹きガラスの実演台が並び、冒険者や旅人たちが真剣な表情で火を見つめている。赤く溶けた硝子の玉が命を吹き込まれて風鈴へと変わっていく様はどこか魔法にも似ていると評判で、頼めば冒険者にも吹きガラスの体験もさせてくれるそうだ。
 向かいの露店では、筆と絵具を手に、硝子に好きな模様を描く者たちの笑顔が。その隣の路地には、魔力に応じて共鳴する風鈴を選べるという専門店もある。魔力のある者が触れれば微かに硝子が共鳴し、人に応じて音色が変わるという代物だ。雷を司る者には鋭い音色の風鈴が。癒しを担う者には柔らかな音色の風鈴ができあがるという。

 選んだ風鈴は、お土産にしてもいいし、プレゼント用にしてもいい。
 けれどこの街では、もうひとつの"習わし"がある。旅立つ者は、自らの手で風鈴を作り、それをダンジョンの奥にある大樹《リュグドラシェル》に捧げるのだ。
「そうやって、願いを結んでいくんだと。どうか無事に、どうか悔いなき旅をってな」
 前述のように旅の安全祈願をするものが多いようだが、それ以外のお願い事をしても構わない。恋愛、金運、仕事運――きっと、樹は何も拒みはしない。そこには武勇も、魔法も、根性もいらない。ただひとつの祈りだけがあるのだから。

「フェスのあとにゃ、ダンジョンが待ってる。――ふふ、驚くぞ! 驚けよ!」
 ジャンの口角が自慢げに上がる。
「入った先に広がってるのはなんと、青い海だ! ダンジョンの中に海。凄いだろ?」
 そこにあるのは、どこまでも青い空とまぶしい陽光だ。ごつごつした岩場かと思われた地面にはきらめく真っ白な砂浜が広がり、どこからか潮風までもが吹き抜けてくるという。遥か沖でイルカのような幻獣が跳ねるトロピカルな夏の楽園のような光景は、どう考えてもダンジョンの中とは思えない。
「もちろん遊ぶのも結構。ただし、奥への道を見つけてからな」
「逆に言うと、それさえ見つければ……まあ、時間の許す限りなら、遊んでも許されるんじゃねえか?」
 羨ましいな、と本当に羨ましそうに言ってから、もうひとつ、最後に見えた予知について彼は言葉を続ける。

「海を越えた先。そこに待ち構えてるのは、大きな一本の樹だ」
 街でも聞いた世界樹リュグドラシェル。それは、精霊の住む清き大樹の名前だそうだ。
「暴れる奴にゃ容赦しねえが、自然と一緒に遊べる奴らには案外優しいらしいぜ」
 足元には苔むした根が編み込まれるように広がり、所々に白い花が咲いている。涼気はその根元から染み出すように漂い、海で火照った体も心も、ゆるやかに鎮めてくれるだろう。樹の下には街の人々が作ったらしい木製のベンチ、丸石を組んだテーブル、傍らには冷たい果実水の瓶を売る露店もある。

「風鈴を飾る場所は、この樹の上のほうなんだが……風鈴を持った奴が近寄ると、樹が呼応するように枝を降ろしてくれるらしい」
 それは樹の意志だとも、樹に宿る精霊の仕業だとも言われている。
 ともあれ、願い事を終えて枝の影にそっと身体を横たえれば、――遥か上から、風鈴が見守るように揺れているのを見ることができる。
 風鈴の音はすぐに空に消えてしまう。けれど消える直前に、きっと涼やかに君の耳に響くだろう。

「ヒューリェの街では、祭で吹く涼しい風は〈恵みの呼吸〉だと言われている。大地の、竜の、そして世界の。風鈴ってのは、その祝福を存分に受けて鳴り響く。――だから、最初の祈りにこうやって風鈴を作るんだってよ」

 風鳴る夏。
 楽しんで来いよ、と手を振るようにうちわの動きを再開しながら、少年が君達を送り出す。
これまでのお話

第3章 ボス戦 『竜血樹の精霊・リュグドラシェル』


POW 竜実癒理
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【自然と調和する者のみが受ける癒しの理 】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
SPD 碧焔竜装
自身の【木の蔓で編まれた竜の翼と尻尾 】を【碧焔】に輝く【暴竜の戦装形態】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
WIZ 緑腐のブレス
【腐食性の高い胞子を含んだ霧状のブレス 】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【人工物が急速に腐敗する状態】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
イラスト 綺月るぅた
√ドラゴンファンタジー 普通11

 海を越えた先には、ひときわ大きな影がそびえている。

 それは街でも語られる名を持つ――世界樹リュグドラシェル。
 幹は大地を支えるかのように太く、枝葉は空を覆うように広がり、日差しをやわらかに散らしている。
 苔むした根は複雑に編み込まれるように地表を這い、その隙間からは澄んだ水がこんこんと湧き出している。根元に足を踏み入れた途端、海辺で火照った体がふっと冷まされるように感じる事だろう。

 木の周りには、街の人々が設えた休憩所がある。
 年輪を削り出したような木製のベンチ、丸石を積み上げた小さなテーブル。
 その横には、色とりどりの瓶を並べた露店があり、冷たい果実水を売っている。透きとおる柑橘の黄金色、深紅の木苺のしずく、葉を浮かべた翡翠色のハーブ水……光を透かしてきらめく瓶の群れは、まるで宝石のようでもある。好きな一本を手に取るといい。きっと、君の喉を涼やかに潤してくれるだろう。
 そして、この樹にはもうひとつの楽しみがある。
 手に風鈴を持って近づけば、天から降るように枝がするすると伸びてくる。まるで樹そのものが息づき、訪れた者を迎えるかのように。枝にそっと作った風鈴を掛ければ、君の風鈴はきっと涼風に揺れる音を響かせてくれるだろう。

 もちろん、ここで過ごすのにどうしろと言った決まりはない。
 冷たい水を飲みながら語らってもいいし、木陰で本を広げてもいい。樹の周囲を散策すれば、小さな泉や野の花々にも出会えるだろう。
 ただひとつ――精霊リュグドラシェルを怒らせるほどの無茶はしないこと。暴れたり荒らしたりせず、自然とともに静かに遊ぶのなら、この大樹はきっとやさしく見守ってくれる。

 世界樹の下で、時を忘れて過ごす。
 それこそが、ここを訪れた者に与えられる、最も贅沢な祝福なのかもしれない。