コールサイン:クインリィ
●
重い衝撃と共に、浮遊戦艦『エクストラ01』が大きく傾ぐ。破損した部品、そして特攻を仕掛けた|少女型戦闘機《ナイチンゲール》の残骸が飛び散るさなか、攻撃によって歪んだハッチが、内側から強制的に開かれた。戦艦の|自動操縦機構《オートパイロット》が姿勢制御に苦しむ間に、その隙間から、彼女は空中へと踊り出る。
「――……」
頬を撫でるのは逆巻く風、半壊した装甲から零れた髪が強く引かれるのを感じる。
生まれて初めて見る『空』は、輝かしくもなければ鮮やかでもない、都市の建材と似た鈍色だった。
そんな曇り空を背景に、彼女の『姉妹達』を載せた浮遊戦艦へ、戦闘機械群の放った追手、ナイチンゲールの編隊が群がっていく。
13人のクローン体の丁度真ん中、『7号』と銘打たれた彼女は、そこでようやく声を上げた。
「起きろ」
彼女の纏う鎧、半壊状態のウォーゾーンは、その呼び掛けに応えるようにカメラアイを輝かせた。
軋む音と共に、まだ生きているスラスターに火が入る。重力に任せていた身体が一瞬で支えられ、次の瞬間には急速に前へと押し出されていく。即席の修理では足りなかった部品が、急加速に耐えられず剥がれ落ちていくが、その分身軽になったと考えれば許容範囲の内だろう。
『クインリィ』、彼女の視界にその名が浮かんで、次にはウォーゾーンの機体状況が映し出される。飛行機能はかろうじて生きているが、その外殻はプラズマ削岩機を叩き込まれたように無残な様子で、使える武装は腕部の長銃一丁のみ。
とはいえ、そんな情報はこの鎧を修理した――さらに言うならば、その材料となったベルセルクマシンを破壊した張本人には、とっくにわかっていたことだろうが。
「ま、こいつだけで十分だろ」
急加速し、敵編隊の下方に潜り込んだ彼女は体を捻り、その右腕を上へと向ける。掲げられた銃身は火花を散らし、紫電を纏い、彼女が引き金を引くと同時に、天へとその矢を解き放った。
電磁力によって加速された弾丸は、編隊の先頭を真っ直ぐに射抜く。それは敵の身ならず、分厚い雲をも貫いて、青く輝く大穴を開けた。
期せずして降り注いだその光に、彼女は口の端を上げて――残りの獲物へとその牙を向ける。
●
戦闘の末に敵の追手を撃破し、彼女は戦艦へと通信を繋ぐ。
「おはよう皆。俺の名は――クインリィ」
目覚めた姉妹達へと名乗る。それは彼女が初めて手に入れた、自分だけの証だった。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功