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|遠雷《春、遠からじ》

#√妖怪百鬼夜行 #ノベル #夏休み2025

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「そこの待合所まで走るぞ、希!」
「はいっ、天國さん!」

 急に泣き出した空の下。
 幼い少女と男は走り、田んぼ道にぽつりと佇む小さな家屋へ辿り着く。
 この日、買い物に出た二人は、帰りの足に迎えを呼んだ。
 だが、その迎えは無人で動くバス。この√では馴染みのないものだ。
 ならば人目が無い方が良いだろうと郊外へ移動した。
 地方都市だ。
 少し歩けば周囲に広がるのは、一面の田園風景。
 十分ちょっとも歩いた頃だろうか、空はにわかに暗くなり夕立が降りだして。
 希と巽は道の先に見えた古びた待合所へと走り、難を逃れたというワケである。
「ふぅ、到着しましたー。ここなら雨が避けられますね」
「予報じゃ、降水確率低かったんだがなァ」
 そこは昭和の雰囲気も残る木造の待合所。
 埃っぽい木製ベンチを払い濡れた服や荷物を拭って、一先ずの始末を終えれば「やー、驚いたな」「本当に」なんて話しながら二人は風景に目を向ける。
 ついさっきまでは青い空の下、これまた青々と茂る稲が風にそよぎ、五月蠅いくらいのセミの声が響くのどかな景色だったのに。
 眼を刺す夏日は厚い雲に覆われて暗く転じ、セミの声は消え去って代わりに聞こえて来たのは蛙の大合唱。
 地響きを立てて降りそそぐ雨がガラス窓を叩けば、希が雨の匂いに鼻を鳴らす。
「雨って、綺麗なのですね」
 そんな水の結界の中。
 圧倒的ともいえる自然の変化を受け止めて、少し呆けたかのように希が呟く。
「そういえば夕方、急に降る強い雨を夕立って呼ぶのですよね。他にも雨に名前があるのでしょうか?」
「そうさな」
 少し考えて巽が指を折る。
「小雨、梅雨、五月雨、秋雨、時雨――…あと神立なんてのもあるな?夕立の別の云い方だが」
「神立……神様が立つってことなのです?」
「そう。ほれ、ああいう」
 山の向こう、天を裂く光が希の目を焼き、少し遅れて雷鳴が地を揺るがす。
「ひゃっ!……ち、ちょっとだけ√ウォーゾーンの夜戦を思い出しちゃったのです。雷は怖い物なのですね」
「へへっ、大丈夫だよ。確かに怖ェが、雷も悪いもんじゃあねンだ」
 希の背をぽんぽんとしながら巽が応える。
「そうなのですか?」
「ああ、雷は稲妻とも云う。この稲を支え育ててくれる妻、相棒ってェ意味だ、雷が落ちることで米がよく育つんだと――俺も詳しいこたァ知らねェが」
「そうなのですか!?凄いのですね!雷は!」
「自然ってのはスゲェもんだよな。そういえば希の村の名前の慈雨ってのも雨の名前だぜ?意味は――」
 そうして話していれば時の流れは早い。
 いつしか雨は上がり、耳に届くのは聞きなれたエンジン音。
「あ、来たみたいです!」
 聞きつけて希がぴょんこ、とベンチを下りる。
 待合所の外へ駆けだせば「おーい!こっちですよー」と小さな体を伸ばして手を振る姿を見て、巽も荷物を持って立ち上がると、響くのは希の驚きの声。
「天國さん!あれ!あれ見て下さい!」
「どした?」
 雨上がりの空に、二人はそれを見つける。
「虹!虹って言うものがでているのです!」
 両手を上げてはしゃぐ希と、泥を跳ね上げ走ってくる撃墜王を空の彼方、虹霓が見守っている。
「……こりゃあ、綺麗だなァ」
「はいっ!……うふふっ、雨って楽しいのです!」

 ――…走り始めて暫く。
 静かな寝息が隣から聞こえてきて、巽はそっと希を自分へと寄り掛からせる。
「慣れない人混みで、緊張してたもんな」
 男の唇から静かな旋律が流れ出す。
 それは雨上がりに馴染む古い子守唄。
 撃墜王が速度を緩めて、ふと外を見る。
 恐らく夏休みの計画でも話しているのだろう。
 希と同い年くらいの子供達が、弾けるような笑顔でバスの横を通り過ぎて行った。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

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