シナリオ

在るべき傍ら

#√EDEN #ノベル #名画鑑賞

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√EDEN
 #ノベル
 #名画鑑賞

※あなたはタグを編集できません。


 その青年は空想の未来世界の住人らしい。画廊の主人に聞かされた時、僕が覚えたものは奇妙な納得感だった。行儀良いダブルボタンのテールコートに白いジャボ、ともすれば僕と近しい古い時代を連想させそうな装いは、けれど不思議とその印象を抱かせなかった。その原因はブーツの前面で主張するファスナーの存在なのかもしれないし、袖口のフリルもカフスも排した潔い五分袖の上衣であるのかもしれない。兎も角、僕の知る世や時代より遥かに機能的で実用的に洗練された世界に彼は住んでいるのだと漠然と思う。
 地味でなく、華美でなく、中庸であればこそ厭味なく瀟洒で洒脱。見る者に鮮烈な印象を与えることよりも、異物とならずに万人に受け入れられて溶け込める様な趣を彼は志向しているのではないかと思う。それは何処までも意図的に、きっと緻密な計算の上に。そうして自分と自分に似合うものを、おそらく彼は知り尽くしている。肩から胴へ、若くしなやかな体躯に余剰なく沿って際立てる仕立ての良さはビスポークでしか成し得ないし、拝絹と裏地とで色を違えたオレンジ色もそうだと思う。その色たちは、何処か不死鳥の飾り羽根すら思わせる鮮やかな彼の髪色と調和しながら引き立てていた。端正な顔回りに遊ぶ毛先を目で追って、オレンジと言う色がこんなにも豊かで魅力的な色だと改めて僕は知る。世の人々は知っているから、僧衣にもハイブランドのカラーにもこの色を用いたのかな。
 その橙を夕映えとするなら、利発な色を湛えた紫の瞳は夕映えだろうか。よく整った顔の、愛想良い笑みはよそ行きの顔なのではないかと何となく思う。己の浮かべる表情が他人に与える印象をよく知って、最早意識すらせずとも随意に操れる人、この彼はそんなタイプだと言う様な気がした。
 画廊の主人がもう一枚、別の絵を見せてくれた。神仏が如きと言うには人工的な歯車めいた光背を負って、護る様に、受容する様に腕を広げて佇む人型の機械。それは青年のAnkerであり、蒸気機関の発達した世界のAIなのだと言う。途端に何かに符合が行った。青年の装いにも、無防備なまでに得物も持たずに佇みながら余裕を漂わせている様にも。
 その佇まいは、在り様は、きっと互いが傍らに在ることでこそ完成をする。きっと両者は互いの傍らでこそ自然な在り方を見つけている。
 歯車を持つ者と持たぬ者、一見相容れぬ彼等の絆をそこに見て、気付けば僕は微笑んでいた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト