シナリオ

ぶよぶよした前奏曲

#√汎神解剖機関 #クヴァリフの仔 #第3番

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 #√汎神解剖機関
 #クヴァリフの仔
 #第3番

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●こうしん
 彼女は、いつからここにいるのだろう。
 夕焼けの続く窓際。側にはピアノ。窓枠に腰掛け、風に揺れるレースのカーテン越しに見えるシルエット。束ねられた金色の髪が靡いている。

 彼女は、いつからここにいたのだろう。
 思えば随分と前だった気がする。そう、この、変なものを拾った日からだった、ような。

 あれから何日経っただろう。
 ……夏の夕暮れは優しくて。蝉の声がわずかに聞こえてきて。あの鳴き声は、こんなに遠かっただろうか。

 これから何をすればいいのだろう。
 ぞろぞろと、自分の後ろをついてまわる、やわらかく、弾力のある、よくわからないもの。いくつものぐねぐねが生えたそれを抱え上げて、少女は悩んでいる。

 かぞくはみんな「これ」になってしまった。今日も今日とて、私は、かぞくのお世話をしなきゃいけない。
 たくさんたくさん増えたかぞくのごはんを。
 こんなにたくさんの、たくさんの……。

「ああ……ぼくの分はいらないよ」
 優しい女の声に頷いて。少女はうねうねをずらずら引き連れ、部屋を後にする。
 日が沈み、しばらくして響いてきたのは、憂鬱で、けれど甘い、ピアノの音色。

●おかえり。
「『おかえり』諸君。どうだね、うねうねの具合は。そう、クヴァリフの仔のことだとも」
 だらけている。星読み、ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ(辰砂の血液・h05644)。怪人態ではなく、けだものの姿でソファに寝そべっている。
 フワフワの毛並みに混ざる羽毛がエアコンと扇風機の風に揺れ、相変わらず目元は翼で覆われており見えやしない。

「涼しかろう、涼しいついでに話を聞きたまえ。仔が関わる事件だ。とある屋敷で『クヴァリフの仔』が召喚されたのだが――召喚者はほぼ全滅、とのことでね!」
 ワハハ。ワハハ。けものの口がわらうわらう。すっとお座りの姿勢を取る彼、シルエットは猫、体格は犬。ちょいと太い前足でローテーブルの上の紙を指す。

「こどもだ。小さなこどもひとりを残して、一族みな家に集まり、心中めいた召喚を行った。結果、少女のみ残され――そこに簒奪者が目をつけた」
 ――『人間災厄』が。

「儀式の影響か、現場となった家の周囲まるごと迷宮めいた道になっている。そこにぽつぽつクヴァリフの仔。これを拾い集めるなり――潰してまわるなりで、適切な処理をしていってはもらえないかね?」
 ごく普通の、少し古めかしく見える民家だ。そこを中心として広がる、ぐるぐる、ぐるぐる続く道――そこを行き。散らばる仔を集めよと。

「中央の家からはピアノの音色だ。『グノシエンヌ』はご存知か? あれだあれ。即ち相手も「そう」だ。と、いうことで、仔も頼むが『こども』も頼む。放っておくと奴に食われるゆえ〜」
 くぁ、とあくび。呑気に話すべき事柄ではないのに。

「簡単だろう? 実に。簒奪者、人間災厄の相手など、諸君らにとっては手慣れたものと存じているとも。アッハッハ! では頼んだ。いざ行け諸君! わたくしは働かないぞ!」
 ソファの上で腹を見せ寝転ぶその姿、なぜだかあしが六本あるけもの。
 √能力者に丸投げをして、このまま涼むつもりである……。

マスターより

R-E
 おはようございます、親愛なる皆様!
 R-Eと申します。
 夏の夕暮れはどうしてあんなにも記憶に残り続けるのでしょうねえ。

●1章
 うねうね。目的地の家に向かいつつクヴァリフの仔を回収していきましょう。
 分かれ道があろうと、だいたいは行き止まりのようで、ほぼ一本道です。回収。

●2章以降
 回収率などでちょっとだけ分岐がありますが、気にせずともいい程度でしょう。

 それでは、夏のお掃除を。
65

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第1章 冒険 『廻集儀式』


POW 集める
SPD 廻る
WIZ 熟考する
√汎神解剖機関 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 ぐるぐる、うねうね、ぶよぶよ、まわる、まわる、ぐるぐる。
 果てしない遠回りを強いられる路地である。ブロック塀が延々並ぶ。遠目に見えるのは、奇妙なシルエットの「なにか」。
 見覚えのある者もいるだろう。仔は、うごめいている。うごめいて、いる。

 かいしゅうだ。あるいは、つぶし、まわるか。
 どちらにせよ、道は長い。夏の夕暮れ、その家路のように。お好きに。
斯波・紫遠
アドリブ共闘大歓迎

一族みんなって言うと結構な人数が集まると思うんだけど、どうやって集めたのかな?
クヴァリフ召喚が目的だったのか、それとも命を絶つことが目的でクヴァリフは副産物なのか…
答えは闇の中だし、とりあえず目的の家に向かおう

迷路で気になったら所があればちょっと調べる
ここに建ってた家が素材になったのかな?
召喚で迷路化するのはあんまり記憶にないけれど…
クヴァリフの仔が落ちてるだけらしいけど念の為金魚達に先回りしてもらおう
この子達の興味で仔を燃やしちゃってたらしょうがない
無事なのは持てる範囲で持っていく
意外と個性がある、のかな?
これでこのクヴァリフの仔が渦中のお嬢さんの家族だったら笑えないな

 一族みな、死に絶えた。
 斯波・紫遠(くゆる・h03007)は、その言葉に疑問を抱えながら――先を泳ぐ金魚の、夕焼けに溶け込むような鰭を眺め行く。
 結構な人数である。一族と呼ぶには相応、集まっていたはずだ。どうやって集めたのだろうか。
 クヴァリフの仔を召喚することが目的なら、どうして仔を求めたのか。それとも、心中めいたと――命を絶つことが主目的であり、副産物として、仔らが『堕ちてきた』のか……。
 暗中を往くより、確かな道が続く夕暮れを行くほうが良い。紫遠は果てなく続くブロック塀を見ながら考える。
 家は、どこに行った。塀ばかりで、区切られるために用いられるそればかりで、家々の影がない。それでも電柱はあちらこちら。互いの手を繋ぐかのように、電線。
 迷宮化した道は召喚の影響だろうか、それとも遠くから聞こえるあの音の、|黒幕《奏者》によるものか。どちらにせよ、面倒極まりない「仕掛け」であった。

 落ちている。そこらに。金魚が興味深げに覗き込み、逃げようとしてか触手を動かす仔を拾い上げる。小型の個体が多いが、両手に抱えるには多少は重い――と、紫遠が考えている先で。泳ぐ金魚の尾鰭がぶわり、『火加減』を間違えたのを見た。焦げ焦げである。崩れてしまう。
 回遊するそれ、もはや興味はないとばかりにくるり、宙を鰭で掻いて、先へと進む――自由なものだ。

 さて、興味の先にならなかった子を紫遠は拾い上げていく。大きいもの、小さいもの、暴れるもの、穏やかなもの。ぺとぺと触手が、手の熱を確かめるように触れてくる。
 これがもし。もしも、召喚物などではなく……あの|お嬢さん《・・・・》の家族であったら。
「(笑えない)」
 そんなことは有り得ない、そうは思えど、一度思考によぎってしまったものだから。仔らを抱えて、歩くしかないのだ。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

クラウス・イーザリー
迷宮を歩いて真面目に仔を回収する
星詠みは潰しても良いって言ってたけど、回収も仕事の一部だろうし
……能動的に潰すのは生理的に受け入れ難いっていうのもあるけど

レギオンスウォームでレギオンを飛ばし、超感覚センサーで周囲の道や仔の位置を探索
行き止まりの先まで念入りに探索して、仔を逃さないように気を付けながら進む
当初は気持ち悪いと思っていたけど、最近は何だかちょっと可愛く見える気がするな……

方向を見失わないように、時々聴覚補助装置を使って聞き耳を立ててピアノの音を聞き取ろうと試みる
聞こえても聞こえなくても、頭の中を憂鬱な旋律がぐるぐる回る

苦手な相手だと思う
だけど、嫌いになることもできないな

 気が引ける。
 星詠みは容赦がない。あつめてもつぶしても。ワハハ。けだものの声でけだもののようなことを言ったのだ。
 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は迷宮の中、遠く伸びる道――その曲がり角に、まるで積まれたゴミ袋のように集まっているクヴァリフの仔を、ブロック塀と他の仔から引き剥がす。
 自らの手で、これを潰すと。潰してよいと言われたのだ。それを選ぶものもいるだろう、当然真面目に回収したっていい。かいしゅう。だがこのうねうねとしたものの中身――果たして直視できるものか。クラウスにとっては、否だ。

 飛ばしたレギオンが迷っている。隅から隅まで見回りはするが、結局道は行き止まりが多く。仔がいれば通知をする、一匹でも掴んで放り込む。右手を壁に添えて歩けばさっさと家にたどり着いてしまいそうな、ぐるぐる。もちもちとぐにぐにの間、抱えたそれはろくに抵抗してこない。気持ち悪いと感じていたそれが、見慣れてきてしまったか、可愛く見える気がする。触手のかいぶつであることは、今も昔も変わらないのだが。

 ――慣れる、といえば。ぐるぐる続くつづくまわる廻るその中心。クラウスは聞き耳を立てる。レギオンのセンサーが微かな音を拾う。仔を掴み、放り込み、憂鬱な旋律を聞く。ピアノの音色は徐々に近づいて。
 |あの時《・・・》とは異なって、己の精神を蝕んでくることはない。それでも――その音色だけで、どうにも思考に靄がかかるような気がするのだ。
 苦手な相手だ。
 だけど、嫌いになることもできない。嫌うべき相手である。簒奪者であり、√能力者であり、唾棄すべき趣味嗜好を持つ女。
 音の主は恐らく、まだ己に近づくものたち――√能力者たちに気づいていない。
 今から、既に憂鬱だ。小さくため息をついたクラウスの手に、クヴァリフの仔の触手がぴとり、触れる。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ヴォルン・フェアウェル
日本では怪談っていうのは夏が定番らしいね? 僕らの感覚だと冬なんだけど……
恐怖で涼むとか、精神性を重視する民族だなって思うわけさ
まあ物理的に触れられる怪異なんて、その手の話としてはちょっとばかり野暮にすぎるからね
怖くも面白くもない「それ」は蟲たちの食餌にでもしようじゃないか
【情報収集】でくだんの家への道程を得つつ、【顎肢にて死す】発動
僕の魔力として取り込んでいるなら、これも回収にはなるだろう?
もとはヒトだったのかもしれないけれど、不可逆な変化ならご愁傷様を言うよりほかはないね
薄暮に惑う小さなレディのことはご心配なく
君たちを掃除したらちゃあんと助けに行くからさ

 夏の風物詩。と、呼ぶには、些か物騒がすぎる。
 日本は怪談の季節。ちょうど盆だ。だが国外に目線を向ければ、季節を問わない国もあれば。

「(僕らの感覚だと冬なんだけど)」
 怪談で涼を取る、という感覚。日本人とは精神性を重視する民族なのだろうと、ヴォルン・フェアウェル(終わりの詩・h00582)は歩く。だが、語られる『それ』が物理的に触れられる怪異となれば、首を傾げたくもなるものだ。
 ちょっとばかり野暮にすぎる。心霊かと思えば人だった、人だと思えば怪異だった、なかなか興ざめだ。面白くも怖くもない――ゆえに。

 街灯の下でうぞうぞ蠢く|それ《仔》も、面白くはないが、|食餌《えさ》にはなるか。
 無抵抗、あるいは抵抗にも満たない触手がしなる様子。蟲が、百足のあぎとが食らいつく。ぶじゅりと奇妙な音と異様な体液をアスファルトへと撒き散らし、ぢかぢかと明滅する街灯の下――夕暮れの赤が彩る中で、一方的で静かな蹂躙が繰り広げられていく。
 ずるりと這ったあとの粘液が道に残っている。どこから来たのか、僅かに光り続ける、なめくじの這ったようなあとを追うように。ヴォルンはぽつり、ぽつりと『落ちている』ものを、ゆったりと貪る大百足と共に歩いていく。己の魔力として、えさとして、取り込んでいく。それもまた「かいしゅう」のひとつだ。

 元々はヒトだったのか。儀式により召喚された仔が、例の一族の命を啜って生まれたというのなら、そう言えるか。どれにしろご愁傷様、どうあがいてもヒトには戻れないし、ヒトのかたちになることはできない。
 それでも――これを抱えていた。薄暮に見た、あの『小さなレディ』を心配しているのなら、その必要はないと言い切ろう。
「君たちを掃除したら、ちゃあんと助けに行くからさ」
 何匹目か忘れたが、百足の大顎、ぬぎゅりと柔らかく、弾力があるそれに、食らいついた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

北條・春幸
アドリブ・絡み大歓迎。
欠落:恐怖心なので迷惑にならない無茶はする。
有効な技能を積極的に使う。

可哀そうにこの猛暑の中、路上に放り出されてるなんて。
夕暮れとは言えまだまだ暑い。
道路が調理器具になりそうな程。

√能力で大きなクーラーボックスを作って仔を回収していくよ。

くすねて手元に置こうと考えてたけど、機関で研究が終わればおこぼれもあるだろう。
そのためにも大量にかき集めとかないとね、クヴァ仔ちゃん。

あ、本当にほぼ一本道。
迷路とも言えないな。もう目的地か。

う~ん…見逃した分岐があるかもしれない。
引き返してつぶさに点検しながら張り切って仔の回収に勤しむよ。

 じう。じゅう。じわじわ。じーく、じーく……。
 蝉の鳴き声か仔の焼ける音か、それとも何だ、北條・春幸(汎神解剖機関 食用部・h01096)の口から勝手に洩れているオノマトペか。
「まだまだ暑いねえ」
 ――そう、暑い。可哀想に可哀そうに! 猛暑である! 日中は車の中で目玉焼きが余裕で焼けるほどの熱が降り注ぐ。どうして。
 夕暮れになれど残った熱、風はまだそれをさらっていってはくれない。暑いのか、日陰になるような――たとえば隅のほう、電柱の裏側。干からびるより蒸されるほうがマシとばかりに。
 石の裏側に隠れる虫がごとく「かくれんぼ」をしている仔らを見つけて、春幸はその仔のそばにかがみ込む。いや、サイズ的に、そして視野的にもほぼ一本道であり、丸見えではあるのだが。

 大きなクーラーボックスは√能力で作られた骨董品。骨董品であるからして、相応古いものではあるが、使用するにあたって問題はない。「壊れる」なんてことが起きなければよいのだ。
 ぽみんと放り込まれたクヴァリフの仔、保冷剤にぺったり寄り添う。こうも温厚であればくすねてしまって構わないのでは、手元に一匹くらい。研究が終われば「おこぼれ」も――チャンスは自分で掴むもの、クヴァリフの仔も自分で掴むもの。
 哀れもちもち、今後のお命の行方を考えれば、お持ち帰りされたほうが多少マシだったか。保冷剤にひっついているのとか、脅威度は相当低いのではないか、どうか。
 大量にかき集められるクヴァ仔ちゃん。一本道にある仔を拾って歩いて。迷路とも言えない道、さて、終点である。
 音色が響いている。ただのピアノの音だがその奏者については、星詠みの言う通りであれば――。

「う~ん……」
 顎を揉む。もうついちゃった、どうしよう。
「見逃した分岐があるかもしれない」
 引き返す。

 点検、ヨシ。行き止まりに隠れていたクヴァリフの仔、逃さずぽにっとクーラーボックスへ。
 ああもう……みっちみちじゃないですか?
🔵​🔵​🔵​ 大成功

神咲・七十
アドリブ・連携お任せ

ふにゃ……本体さんは久しぶりですかね?
こども?も居るらしいですが、一先ず今回はあんまり大事にされてなさそうな仔を回収しましょうか

(とりあえず感覚で√能力を使用。呼び出したフリヴァくと一緒にクヴァリフの仔を回収しながら進む)

んぅ…入れるものを転がしては来ましたが……フリヴァくちゃん、これ足りますかね?

(コロ付きのケースを転がして、集めたケース内いっぱいの仔達を見て)

今回は一応集めておこうと思うんですよね
まぁ……そこまで興味がある訳では無いですけど、なんというかいつも無視してばかりというのもどうかと思いますし

(そんな事を話しながら、のんびりフリヴァくと歩き回って仔を集める)

 だいじにされてないなあ。猛暑で溶けかけたチョコレート、口の中ですぐにとけてしまうそれをもごもご。名残惜しげに舌の上で味わいながら、神咲・七十(本日も迷子?の狂食姫・h00549)はふにゃ、と首を傾げる。
 ご存知である、ご存知どころではない、知ったツラと声と能力とからだである。ともあれ御本人に相対するためには相応時間がかかりそうではあるが、こどもの方はどうだろうか、やはり彼女の側にいるのだろうか、などと。『あれ』のよくやる手段もご存知であるので。

 呼び出したるフリヴァく、邪神の欠片と共にコロ付きケースを一緒に引いて、あちこち落ちているクヴァリフの仔を回収していく。もち。ぺり。頑張って壁やアスファルトに引っ付いているのを引き剥がしながら。山。
「んぅ……フリヴァくちゃん、これ足りますかね?」
 七十の言葉にきょとんと首を傾げる|少女《邪神》。ぎゅう、と容器から出ようとしている仔を押し込んでいる……。

 先駆者もきちんと回収していたはずだが、どこから湧いて出ているのだか――と見回して、塀の向こう側から「よっこらしょ」とばかりに登って、ぺしょ、と落ちてきた仔を見てしまった。
 視線はないはずなのに、視線が合った気がした。はい。かいしゅう。ぶよぶよが箱いっぱいに詰められていく……。

 今回は一応、集めておこう。
「(そこまで興味がある訳では無いですけど)」
 だって。『彼女』の仔らと呼ばれていても、本当にあの肚から生まれたのか否かは正直、定かではない。落し子とはそういうものだ、どこから来たのか、得体のしれないものだ。
「なんというか、いつも無視してばかりというのもどうかと思いますし」
 適当に拾ったり拾わなかったりしてきたので。
 ともあれ二人、のんびりと。あちこちぺっとり張り付いている「それ」を剥がして、七十は歩く、歩く……。
 ああ、覚えのある音色が、耳に響く。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 冒険 『Come, Sweet Death』


POW 秩序、正義、信念、己を貫け
SPD 中立、審判、論理、結果で語れ
WIZ 混沌、愚者、抱擁、全てに愛を
イラスト
√汎神解剖機関 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

 ――ドアは開いている。踏み込めば、凄惨たる赤である。
 夕日よりもずっと、ずっと。気がつけばとっくに陽は沈み、赤。差す光は月のものか……月光はこんなにも、赤くはないはずなのに――。
「誰?」
 クヴァリフの仔を抱えた少女が。『半ば、溶けかけた腕』で抱えている少女が、鯨幕の張られた広間の真ん中に座り込んでいる。痛覚を覚えていないのか、耐えているのか、ずっと泣き腫らしていたらしい顔からは一切伺えない。
「……あ」
 ――|私《彼女》は気がついてしまった。|彼ら《我々》が何を探しているのか。
「いや。だめ。連れてかないで……来ないで! 来ないでッ!!」
 叫ぶ、拒絶、走る、奥へ。歪む空間、異様に広がる廊下。

 甘き死は来たはずだった。喪に服している彼女にも、平等に降り注いだはずだった。
 それでもまだ『動いている』、それを『主の奇跡』などと呼べる、わけはない。

 追いかけなければならない。放っておけばどうなるか?
「そこらの壁にへばりついているだろ?」
 声。クヴァリフの仔とは異なる何かが、なめくじのようなものが、血液と共にべっとりと。

「ぼくを討ちに、探すのか?」
 正義のために。
「それとも、『あの子』を救うなんて無駄な努力をしたりする?」
 論理と共に。
「どちらも選びたいなら、わがままだって笑ってあげるよ」
 愛情は最も、扱いが難しい。

「三択。ほら、選ぶといい……ぼくは二階で待っててあげる」
 誘う声は、まだ遠い。
ヴォルン・フェアウェル
おやおや、愛らしい女の子にこのどす黒い赤は似つかわしくないな
終焉を悼むにも作法というものはあるよ?
指定能力発動
彼女と仔たちに「僕は敵対者ではない」と暗示をかけ歩みや攻撃を止めさせる

さて、お嬢さん
なんだか君のご家族、ずいぶん手のかかることじゃあないかい?
その細腕で世話をするのは疲れたろう、そろそろ一度休んだっていいんだよ
僕は別に君から彼らを取り上げやしない、ただ「ごはんのいらない」誰かがこの家にはいるだろ?
ちょっとそいつに用があるだけなのさ、何か知らないかい?
情報を得たらかの声を探しに動こう

彼女の終わりがどうあろうとそれはそれ
勝手に物語の|分岐《ルート》をつくって創造主気取りの奴は不愉快だからね

 鯨幕は真っ赤っ赤。べしゃりこびりついた深紅、まだ乾いていないそれ。愛らしい女の子に、このような無惨な赤は似つかわしくないのではないか。時間が止まったかのように、屋敷の中は静まり返り――否、迷宮と化した屋敷を、少女が駆けて逃げる音だけが響いて。

「おやおや」
 なんともおもっていないのではないか。肩をすくめるヴォルン・フェアウェル(終わりの詩・h00582)。それでも、終焉を、死者を悼む作法がこの場で行われたということには、首を傾げるほかない。逃げる少女を早足で追いながら――大人と子供の走力では差がある――周囲を探りつつ、暗示を。
 敵対者ではない。じぶんは、「じぶんたち」は、敵ではないのだ。
 少女の足がすくむ。例えるならば、そう、こわい親戚に会ったときのような。逃げるまではない、逃げる必要はないけれど、顔を合わせたくはない……。

「さて、お嬢さん」
 背から、話しかけてくるヴォルンに振り返ることなく、少女は腕の中の仔を強く抱く。もちりはみ出る。触手がにょろりと出てきて、何かを探るように宙を掻いている。

「なんだか君のご家族、ずいぶん手のかかることじゃあないかい?」
 でも、かぞくだから、こうなっちゃったから、お世話しないと。
「その細腕で世話をするのは疲れたろう、そろそろ一度休んだっていいんだよ」
 やすむ。やすむ? ……やすむって、なんだろう。おやすみ? ……私いつから、寝てないっけ?
「僕は別に、君から彼らを取り上げやしない。ただ『ごはんのいらない』誰かがこの家にはいるだろ?」
 おねえさんのことだ。きれいな……青色の……。
「ちょっとそいつに用があるだけなのさ」

 ようやく振り返った少女は、どろり溶ける腕から、粘液を滴らせながら、ヴォルンを見る。
「二階……」
 ちいさな声とともに、少女は上階を、天井を見る。微かに響くピアノの音色は、まるでそれに返事をするかのようなものだった。

 ならば、かの声を探しに。
「ありがとう、それじゃあ」
 背を向けるヴォルンを、少女は引き留めない。腕の中に抱えたうねうねを、敵意を失ったそれを抱えたまま――だが離れれば、能力の及ばぬ場所に行けば、恐怖が湧き起こる。まだ、ひとがいる……にげなきゃ。あのひとが特別だっただけかもしれないから。

 ――彼女の終わりがどうあろうと、それはそれだ。意識の外にやったものを、ヴォルンは気にしない。
 ただ、三択などという押し付けを、勝手に物語の|分岐《ルート》をつくった|創造主気取り《奏者》のことは、不愉快だった。
 踵を返す。階段を、探そう。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

クラウス・イーザリー
「……無駄かどうかは、やってみないとわからないだろ」
声に応えてから少女の方向に足を向ける
奴を探したいのは山々だけど、今はまだ生きている生命を優先したい

「怖いことはしないから、待って!」
声を掛けながらダッシュで少女を追いかける
見失ったら聞き耳で足音を探ってどうにか追いつく
「落ち着いて。まずは怪我を治そう」
「俺は君に、生きて欲しいだけなんだ」
追いついたら話し掛けながら陽の鳥を呼び出し不死鳥の炎で溶けかけた腕を治す
……間に合うかな

「その子達は、君の家族?」
そうだとすると、無理に奪い取るような真似は気が引けるけど
このままだと彼女自身が死んでしまうだろうから
「虐めたりはしないから。一度、手を離せるかな」

「……無駄かどうかは、やってみないとわからないだろ」
 覚えのある声に答える、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)。上階から響いた女の声は、くすくす笑って、それきりだった。
 ――少女を追いかけねば。あの女を探し出したいのは山々だが、今はまだ。『生きている』ものが優先だ。

「怖いことはしないから、待って!」
 声を張り上げながら走り、少女を追う。ちらりとクラウスを見た彼女は怯えきった表情で、さっと角を曲がっていった。とたとた小さな足音を聞き逃さぬよう耳をすまし――ピアノの奇妙な音色を、遠くに聞きながら。何度も角を曲がる。ぐる。ぐる。ぐる、廻る……。

 ああ、まだいる、クヴァリフの仔が。廊下に落ちている。あるいは、それ以外の怪異も集まってきているのだろうか……どれもこれも粘性のある液体に包まれていて、お世辞にも、かわいいとは言い切れない姿ばかりで……。

 廻ればもう奥だ。目の前に現れた襖をどうにか必死にこじ開けようとする少女を前にして、クラウスは「落ち着いて」と優しく声をかけ、混乱しきった少女に「敵意はない」と伝えようとする。だが……。

「いや」
 涙声のまま、抱える仔の粘液がぽたり。涙と共に床に染み込む。
「……まずは怪我を治そう。俺は君に、生きて欲しいだけなんだ」
 生きて。欲しい。その純粋な願いは、彼女に正しく届くのか。

 目の前に現れた陽は、鳥の形――傷を焼くようにして、少女の腕を包み込んだ。
「いっ……!!」
 落としかけた仔。それを強く抱く少女――どうやら、傷はかなり深いようだ。長く酸性のものに触れていたかのような、半ば腐食しはじめている、深く抉られている傷。薄く筋肉がつくられ、皮膚が再生しても、抉られたそこが再生しきるわけではない。間に合ってはいるが、まだ応急処置だ。

「その子達は、君の家族?」
 こくこく頷いて、それでも襖と仔から手を離さない。だが分かる――精神を汚染されている。家族ではないものを、家族だと、精神に植え込まれている。無理に奪い取ろうとすれば、また逃げてしまうだろう。
 そして――星詠みの話ならば。このまま、命を落とす。

「虐めたりはしないから。一度、手を離せるかな」
 ふるふる首を振る彼女。がたり、戸が開いた。戸惑いながら、仔とクラウスの顔を交互に見て……素足が駆けていく。――まだ足りないか。

 いじめない、なんて、うそにきまってる。
 ぽたぽた涙をこぼしながら、少女は駆ける。
🔵​🔵​🔴​ 成功

斯波・紫遠
アドリブ大歓迎

無駄な努力か…そうかもね
それでも僕の自己満足の為にお嬢さんを追うよ
救いとは何か…考えながら

お嬢さんに会えたらまずは挨拶と謝罪を
圧迫感を与えない口調と距離をキープ
こんにちは、急にお邪魔してごめんね
僕は紫遠と言うよ、お話したいんだけどいい?
√能力を使いながら話す
その間に怪我が良くなると良いんだけど…

お家に居るのはお嬢さんだけかな?
その怪我は、どうしたの…?
彼女の声に耳を傾け、彼女が話したいことを聞く
質問にも偽りなく答える
僕達はキミをこの家から連れていくことが出来る
でも、そうなるとその子達と離れ離れだ
僕はキミの意思も聞きたい
ねぇ、キミはどうしたい?

 高慢たる声が響き渡った後、訪れた少女の逃げる足音、そして静寂。
「(無駄な努力か…そうかもね)」
 あの足音を追うのは、少女を追うのは斯波・紫遠(くゆる・h03007)の自己満足である。しかしヒトとは常に、自分の意思を持ち、個としての満足を求めて生活をするわけなのだから、何の問題もない。
 しかし、それが『救い』『救済』、手を差し伸べるエトセトラとなれば、話は違ってくるのかもしれない。

 子供の足にも、体力にも限界がある。逃げているうちにとた、とたと足音は重く、しかし小さくなっていき。すぐに、『仔』を抱えたままの彼女と相対することになった。
「こんにちは。こんばんは……のほうが正しいかな」
 彼女にもわからないのだろう、首をふる。
「急にお邪魔してごめんね。僕は紫遠と言うよ、お話したいんだけどいい?」
 少し屈んで、優しく語りかけてくる紫遠に、少女はやや不思議そうな眼差しをしていた。
 必死に走って傷んでいたはずの足も、溶けかけていた腕の痛みも、彼と話している間は痛まない。そして彼女は、それにすら気がついていない様子だった。

「お家に居るのはお嬢さんだけかな?」
 首をふる。
「その怪我は、どうしたの……?」
 あ、と小さく声を上げた少女、ぎゅうと腕の中の『仔』を抱いた。かぞくだと思い込んでいるなにか。抱えられる程度の小ささの『だれか』を。
「……えと。あの、あのね。ごはん……が、ないから」
 焦っている。焦燥。冷や汗。わかりやすく視線を泳がせる彼女は、しきりに一方向を気にしている。通常の家屋なら、そう、生活に関する――キッチンやダイニングなどが存在しているであろう方向を。
 察してしまった。『食料』が、尽きているのだ。すなわち彼女の傷は――。
「おにいちゃん、……※※、つれてくの?」
 ――言葉は聞き取れなかった。だが、その単語が抱えた『仔』の名だということだけははっきりとしている。頷く紫遠に、少女は唇を噛んで俯いてしまった。

「僕達はキミをこの家から連れていくことが出来る」
 ぐるぐるまわる、この迷宮じみた、隔離された空間から。
「でも、そうなるとその子達と離れ離れだ」
 ぎゅう、抱えられた『仔』が苦しいとばかりに触手を動かしている。
「僕はキミの意思も聞きたい。――ねぇ、キミはどうしたい?」
 話をしている間に相応、時間は経っているはずだった。だが、彼女の腕は治らない。傷そのものは抉れたまま、薄く皮膚が張ったまま。目を細めて――ひとつの結論に至った。

 この少女は、もはや『死んでいる』。死体に治療を施すことは、できない。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

神咲・七十
アドリブ・連携お任せ

……私が我儘なのなんて分かってると思いますけどね?
まぁ、待っていてくれるみたいですし逃げた子をどうにかしてしまいますか

(√能力を使用。フリヴァくと共に少女を追いかけて捕まえる)

うにゃ、一度落ち着いてください

(ぎゅうぅと抱き締めながら落ち着かせるように背中をぽんぽん。同時にフリヴァくと一緒に『アイズ』を子守歌ぽっく歌い、一時的に隷属して落ち着かせる)

落ち着きました?甘いものを食べればもう少し落ち着くかもですよ

(持っている甘いものを上げながら、試しに怪我を直そうと『チル・マイ』を歌ってみたり)

……そういえばここに金髪でカッコいい感じの……お姉さんはいたりしますか?
(「無駄な努力か……もし、それがやらなくてもいい事という意味じゃなくて、手遅れという意味だったら……」)

(聞いた声の主の特徴から場所を聞きつつ、聞いた内容を思い出す。もし、手遅れという意味だったら少女に選んで貰う。家族のところに行きたいか、どんな手……隷属化してでも生きていたいか……選べるまで歌を歌い、待って)

 神咲・七十(本日も迷子?の狂食姫・h00549)は変わらない。観測している限り――それが誰の目であるか、ということは置いておいて――一切、変わらないのだ。
 私が我儘なのなんて、分かってると思いますけどね?
 ああ、わかっているとも、とびきりのわがまま狂食姫。
 そして、√能力者たちの性質を考えて『泳がせている』あの女の――グノシエンヌのことも、よく知っている。

「まぁ、待っていてくれるみたいですし」
 待たせている、と言っても過言ではない気はするが。
「逃げた子をどうにかしてしまいますか」
 仔ではなく、子を。召喚されし邪神の欠片、フリヴァくと二手にわかれ、廊下を走る。とたとた、だれかが追うのを、そのたび逃げて。
 あちらこちらと逃げ回り、走る少女を追いかけて。そうして挟み撃ちにされた少女、怯えた表情でおいつめられてしまった。

「うにゃ、一度落ち着いてください」
 前方では両手を広げ、床へと膝をつき、少女へと『無害である』と主張する七十。その背後では、異形の歌姫が歌唱を始める。七十と共に歌われる、小さな子守唄。おどおどしていた少女はふらふら、七十のもとへと歩んでいく。
 仔とともに抱きしめられ――だが、けして|離《放》しはしないそれを、フリヴァくが覗き込んでいた。

 マシュマロを差し出して。それを口にする少女を見ながら、「落ち着きました?」と声をかける七十。首をふる少女。落ち着けるはずもない、だが、それはそれだ。――怪我を治すために、歌う曲を変えるフリヴァく。しかし、彼女の傷がそれ以上癒えることは、ない。
「(無駄な努力……手遅れ、という意味ですか)」
 もはや、察するほかなかった。思考する死体。逃げる死体。冷えたそのからだが、既に彼女が人ではないことを証明している。彼女たちの歌をそっと打ち消すように響く、ピアノの音。

「……そういえば、ここに金髪でカッコいい感じの……お姉さんはいたりしますか?」
 おねえさん。その言葉に小さく頷く少女が、上階を見上げる。意識した途端に強く聞こえてくる、音。
 頷くばかりの少女に、七十はゆっくりと、語りかける。

「あなたは。まだ、生きていたいですか」
 率直で、まっすぐで、どうしようもなく。
「もう死んでいることに、気がついてますか」
 返答は、なかった。ただ――気づいてしまった。己という存在、その真実に。
 みぃんな居なくなったのに、どうして自分だけが動いているのだろう?
 かぞくはどうしてごはんがほしいのに、自分のお腹は減らないのだろう。

 放っておくと「奴」に食われる、とは、彼女のことではないのだろうか。
 かぞくのところに行きたいなら、このまま歌っていてあげます。そうではないなら、このまま歌っていてあげます。

 少女の選択は。
「かぞくといっしょに、いたい。です」
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

北條・春幸
アドリブ・絡み大歓迎。
欠落:恐怖心なので迷惑にならない無茶はする。
有効な技能を使う。

手っ取り早く終わらせるには2階の元凶に会うのが一番だろう。
あの少女はその後に保護した方が良さそうだな。
彼女には僕の目的が「仔」だと簡単に見抜かれそうだしね。

さて、2階で待ってると言われたけど迷宮になってそうだなあ。
クヴァ仔が落ちてれば回収しつつ件の部屋を目指そう。

ピアノの音が道案内になるか?

表の迷路から考えてもさほど複雑な迷路を作るタイプじゃ無いと思いたい。
ボクっ娘のお嬢さん、正義の使者が会いに来たよ。
どんなおもてなしをしてくれるのかな。楽しみだねえ。

 手っ取り早く終わらせるには、どうしたらいいか。少女のことは任せて良いか。√能力者はお人好しの集まりだ。
 だが|彼女《少女》には、自分の目的がまっすぐに見え透いてしまうことを、北條・春幸(汎神解剖機関 食用部・h01096)は察していた。
 逃げられるばかりではきっとどうにもならない。落ち着かせようとしても、自分ではどうしようもないだろう。
 ならば元凶に会いに行こう。待っているというからには、迷宮にしていそうだが。だが彼女の性質を――先の単純な「時間稼ぎ」の迷路を考えれば、さほどのものではないだろう。

 階段を上がれば、目の前に広がるのは廊下である。ドアのない廊下が、延々続く。そこにぼたり。ぼたりと落ちているクヴァリフの仔。うねうね。
「まだ落ちてるかあ」
 ひょい。ぽい。よいしょ。放り込まれていく仔はみっちりと。このくらいで大丈夫だろうかと回収を終えて、さて。ドアの前だ。開けてもまだ先は長い。聞こえるピアノの音――グノシエンヌを頼りに、己の聴覚を頼りに、歩く。
 道案内は正確だった。音の強い方向へと歩けば、クヴァリフの仔と音楽が案内をしてくれる。複雑さではなく、それこそ、先も言った通りの時間稼ぎのための迷路である。

 少し話を『変えて』しまおう。
「これは先輩から聞いた話なんだけどね」
 長い長い廊下の先に。異様な空間が広がる部屋に繋がるドアがある、だとか。

 曲がり角を曲がってしまえば、さて先に見えるは廊下とドアである。たどり着いたそれを開け放てば、その中にいたのは。

「ボクっ娘のお嬢さん、正義の使者が会いに来たよ」
 げえ。そんな顔をしてみせた|奏者《・・》、こんなにも早く到達されるとは思っていなかった様子である。
「どんなおもてなしをしてくれるのかな」
 楽しみだねえ。
 楽しみかな。みっちり回収されているクヴァリフの仔を見て眉をひそめる彼女の側には、まだ、うねうねと――うごめくものが、いる。
「……仕方がないなあ。相手をしてあげよう」
 本当に、仕方がなさそうな。どうにも気が乗らない様子で、女は言った。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『人間災厄『グノシエンヌ』』


POW 第1番
自身の【幻影の鍵盤】を【蒼白】に輝く【ピアノ線のようなレーザー鞭】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
SPD 第2番
【幻影の鍵盤を演奏して放つ音波】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
WIZ 第3番
【幻影の鍵盤】から【洗脳効果のある音楽・音波】を放ち、命中した敵に微弱ダメージを与える。ただし、命中した敵の耐久力が3割以下の場合、敵は【発狂】して死亡する。
イラスト shio2
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 息をしていたかった。いきをしていたかった。生きていたかった。
 そう考えていたのは、もしかしたら、自分だけだったのかもしれない。

 さてはて一家心中、その末路。一族の『儀式的集団自殺』。棺のない鯨幕の広間は、『仔』が堕ちてくるには丁度よく。|生き損なった《・・・・・・》少女はひとり、『かぞく』とやらにえさを与えていたようだが、ちょうど、沈黙したところ。
 最期は、かぞくとともにあれたのだろうか。死の行進に、葬列に、並ぶことはできただろうか。

 ――静寂。
 となればピアノの音色、よく響く。静けさに包まれた二階、鍵盤がゆっくりと沈み込み、音が。

「何度目だろう」
 奏者は呟く。また、食いそこねた。ああ、十はとっくに超えてしまったかも。|簒奪者《奏者》として、失敗まみれで情けないとは思わないのか? いいや、思いなどしないよ。既に食らった後に感知された事件だって、いくつかある。
 狡猾に……穏やかに……驕り高ぶることだけは、どうにもやめられないのだけれど。
 このからだと精神、どこまでだって|貶《落と》して、抗おうではないか。

「おいで。ぼくと少し……楽しいことをしよう」
 ゆかいに、さいごのおそうじだ。
北條・春幸
アドリブ・絡み大歓迎。
欠落:恐怖心なので迷惑にならない無茶はする。
有効な技能を使う。

楽しい事ってなんだろうねえ。
僕としては一刻も早く君を倒して、足元の仔をお持ち帰りの後色々と調理していただくのが今一番の楽しみなんだけど。

という訳で、√能力を使用して攻撃を。
第1番の攻撃が来た時は効果が切れるまで回避や受け流しで逃げるよ。
後は攻撃しつつマヒさせ、肉を食べて回復かな。

うん、君も中々のお味。ちゃんと調理出来たらもっといいんだけどな

 半ば独りごちるように、北條・春幸(汎神解剖機関 食用部・h01096)は言う。
「楽しい事ってなんだろうねえ」
 たのしい。たのしい? 彼女の「たのしい」は随分と物騒なもののようだけれど。
「僕としては」
 一刻も早く君を倒して。足元に蠢く『仔』らをお持ち帰りの後。
「色々と『調理』していただくのが、今一番の楽しみなんだけど」
「げえっ。悪趣味だ」
 あからさま嫌そうな顔をしたグノシエンヌ、あの惨状を作り上げ笑っていた女がよくもまあ言うものだ。ともあれ奏でられる第1番、幻影の鍵盤がレーザー鞭へと変化する。鍵盤の天輪が陰鬱な音楽を奏でる中で、グノシエンヌがトッ、と一歩、踏み出した。
 途端目前に迫る蒼。距離を詰められたことを理解し、春幸は回避を――その後に振るわれるであろう、鞭の軌道を予測しながら姿勢を低くし受け流す。髪束がジッと音を立てて散ったがそれは仕方のないことだ。

 避けきるには速度がある。六十秒――たかが一分されど一分、楽曲にしてみれば既に半ばを過ぎているものもありそうな。それでも怯むことなどない、欠落した恐怖心は、怪我や苦痛へのおそれすらも消し去ってしまった。
 天輪から奏でられる楽曲、それに込められた悪意も、理解していようと|おそれ《・・・》はない。構わない。楽しいに全力ならば、こちらも「たのしい」で返してやるだけだ。

 いつ、何時、隙を狙い。
 この女の、どこを切り取るべきなのか。
 頬を掠る、喉元を掠る。徹底的な逃走を選んでいなければ致命傷になり得たそれらを避け、メスを用いて地道に……確実に己を刻んでくる春幸に、グノシエンヌの舌打ちが響く。
「きみッ……ちょこまかと、鬱陶しいな!」
 攻撃を受けるたびに麻痺し、鈍っていく鞭。さあて時は来たわけだ。焦る相手の至近距離に迫るのは、簡単なことだった。腕を狙うメス、千切れた肉を追う奏者の目。グノシエンヌの射程から退避した春幸が、それをキャッチして。
 これでチャラ。まるで干し肉でも|食《は》むように口にされる自らの肉片を見て、彼女は目を見開いた。

「うん、君も中々のお味」
 味の感想を述べるのは、食糧にとってよいこと。そのはず。
「ちゃんと調理出来たらもっといいんだけどな」
 グノシエンヌを見る視線は――どこまでも正気で、穏やかだ。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

クラウス・イーザリー
「お前にとっては、これが『楽しいこと』なのか。……羨ましいな」
皮肉でもなんでもなく率直に羨ましいと思う
彼女にとって、この世界はきっと楽しいんだろうな

救助対象は眠りについたし、俺としては無理に戦う必要は無いと思うけど
クヴァリフの仔を回収した以上、そういう訳にもいかないか

月拯をチャージ
レイン砲台を思念操作してレーザー射撃で牽制しながら剣型の魔力兵装に魔力を込める
音波は呪詛耐性と霊的防護で防ぐ
どうせ音は避けられないし、ある程度の負傷は諦めて受ける
チャージ完了後はダッシュで踏み込み、ガントレットのワイヤーで捕縛しながら斬撃を放つ
躱されたら斬撃を囮にして、魔力兵装を槍型に錬成し直して串刺しにする

「お前にとっては、これが『楽しいこと』なのか」
 問いに、女は笑む。
「ああ、愉しいよ。たとえばそう、きみとのお喋りとかもね」
 ……羨ましいな、と。クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は小さく、呟くように返答する。率直に、皮肉でもない、純粋な気持ちだ。グノシエンヌは『たのしい』に全力である。楽しければ何だってする。ゆかい、ゆかいと笑って、その鍵盤に指を沈み込ませて――血肉のスムージーの上で、楽しげに踊るような女。
 何度か相見えた相手だ、手の内は知っている。『脳のうち』だって、互いに少しは理解してしまっている。彼女はこの世界を――√能力者との戦いと、無貌たる人々への蹂躙を、心の底から楽しんでいる。

 救助対象『だった』少女は眠りにつき、回収という目的も果たした。無理にこの女と戦う必要はないのだが、逃げようとしても彼女は『仔』を諦めはしないだろう。これまでのように。
「――まるで感情が抜け落ちたかのような……トイピアノのようだったきみ。今となっては、良い音を奏でるようになった。どうして?」
 その問いに答える必要はない。だた無言で。体内の魔力を兵装に込めていく。
 グノシエンヌもそれを理解していてなお、お喋りを続けている。侮っているわけではない。クラウスの実力を、その戦法を理解しているのだ。
 ゆえに、演奏を。思考、脳、あたまを、体をむしばむ鍵盤の音を響かせながら、クラウスへ向かい音波を放つ。耐性があれど防護があれど通る音の波、未だ傷つくことはなくとも、避けることは難しいと、直撃に等しい距離で受けている。

 ――グノシエンヌとて。クラウスへの攻撃が当たればどうなるか? 理解しているのだ。レイン砲台のレーザー射撃を往なしながら、光を纏う剣を見ながら。
 クヴァリフの仔に聞き届かせないようにしつつ、演奏とお喋りは続いていく……。
「それでも譲れないものがあるんだろう、お互い。そう、ぼくが、『|グノシエンヌ《ぼく》』に執着する理由のように。きみにも」
 さて、それにも「おしまい」はくるものだ。
 踏み込む一瞬、ガントレットから放たれるワイヤーがグノシエンヌの腕をとらえる。捕縛されども体を捻り、脇腹へと受ける斬撃。
 ……小細工をしてくることは知っていた。変形・錬成される魔力兵装。槍となったそれをもって、串刺し。腹を貫かれ――顔を上げたグノシエンヌとクラウスの視線がかち合う。

「返事のひとつくらい。そろそろ、寄越してくれないか?」
 甘い囁きには乗らずともよい。クラウスの体から散る赤い、赤い血液こそが、返答となるだろうから。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

斯波・紫遠
アドリブ共闘大歓迎

ちょっとだけお話しない?

あの迷路を作ったのはキミかな?
よく見ると一本道なのに態々この家を分かりにくく目立たせたのはなんで?
弾いていた曲にはどんな意味と効果があったの?
聞きすぎって?ごめんね、職業柄気になったら知りたいんだよ

キミが意外と人間味溢れるタイプなのは他の場所で対峙した時から感じていたけれどね…
それでもやっぱり、根底にある本能に近い部分が噛み合わない
ソチラ側の思想は受け入れられないな
でも、お嬢さんの事を気紛れにでも思ってくれていたのであれば
それにはありがとうって伝えたい

攻撃は躊躇せず
見切って受け流してカウンター

お互いに命を狩るもの同士
遠慮も何もいらないでしょ?

「ちょっとだけお話しない?」
「やだね」
 己の血液を手の甲で拭いながら、|奏者《グノシエンヌ》は斯波・紫遠(くゆる・h03007)を見る。小さく肩をすくめた紫遠を見て、グノシエンヌは小さくあくびをした。

「あの迷路を作ったのはキミかな?」
「だったら?」
「よく見ると一本道なのに態々この家を分かりにくく目立たせたのはなんで?」
 迷路であった。だが、その実一本道。その中で弾いていた曲は……前奏曲は、どのような意味があったのか。視線が合ってなお、紫遠の思惑をまだ理解できていないらしいグノシエンヌは首を傾げる。
「時間稼ぎ以外になにかある? きみ、ちょっとずけずけ踏み込んでくるね」
「聞きすぎって? ごめんね、職業柄。気になったら、知りたいんだよ」
 だって、なぜあんなにも、『時間稼ぎ』をするかのように? ……そう。
 時間稼ぎ、だ。

「キミが意外と人間味溢れるタイプなのは他の場所で対峙した時から感じていたけれどね……」
 人間味はあろうと、人間性があるとは言い難い。それが人間災厄というものだ。今だってそう。自分の髪を指で弄り――そして、鍵盤に指をかけ。奏でられる第3番、思考を蝕むそれ。脳を洗い、従属を強いるその音色。だが根底が、本能がそれを拒む。ちっとも噛み合わない歯車、異なるメロディー、重なることなく。
「ソチラ側の思想は受け入れられないな」
 でも。
「お嬢さんの事を気紛れにでも思ってくれていたのであれば」
 そうでもなければ……さっさと食らっていたことだろう。簒奪者である。インビジブルを奪い去ってこそ。己のためだけに殺めて奪い取る、√能力者としての致命的な違いがあり。だというのに彼女は選んだ。少女をいびつなかたちでも、『永らえさせる』ことを――。

「そこだけは、ありがとう」
 足元から広がる砂、地面、ざっと風が吹きすさぶ。目を見開くグノシエンヌ。拒絶の荒野は遠く広がり。鍵盤をより深く沈み込ませるも、それが間に合うことはない。

 お互いに命を狩るもの同士である。だがこの荒野において、地において、どちらが『絶対者』であるのか。
 直刃が深く傷口を抉る。滑らかに、紙を切り裂くよりももっと、撫でるようにして――散る血液ですら、艶やか。
「遠慮も何もいらないでしょ?」
 無言の肯定か。女の唇から、笑みが洩れた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

神咲・七十
アドリブ・連携お任せ

ふふふ、貴女も私が以前味わった飢餓感を味わった事があったのですね?
楽しい事ですか……えぇ、いいですよ
丁度、気分が少し沈んでいた所でしたから

(√能力を使用。フリヴァくを呼び出して『チル・マイ』を歌って貰い、隷属者と共に攻撃を再生していなし、両大鎌の攻撃でグノシエンヌを攻撃していく)

はぁ……気持ちが沈んでいるからか、そこから戻ろうとして……貴女の美味しそうな香りが空腹を刺激してきて……抑えられないです

(攻防の過程で隷属者を増やし、再生する肉の拘束具として使ってグノシエンヌを拘束しようとして、『アイズ』を聞かせて隷属化しようとしながら、拘束具ごと捕食しようとして)

「ふふふ、貴女も私が以前味わった飢餓感を味わった事があったのですね?」
 よろこばしい。実に、よろこばしい! 結実である、実を結んでいる、縁を結んだ女も腹を空かせたことがあるのだ。それも、我々の手によって! 神咲・七十(本日も迷子?の狂食姫・h00549)の笑みはどこかうっとりと、そして、湿度を持った視線であった。
「楽しい事ですか……えぇ、いいですよ」
 丁度、気分が少し沈んでいた所でしたから。だって。ねえ。グノシエンヌ。貴女って、優しげにみえて、残酷で、それでも「|人間《・・》災厄」なのだ。

「……腹が減っているから獲物を狩るんだ。きみもそうだろう? よく知ってる……よく、ね」
 ゆえに――容赦はない。ぱしりと床を打つレーザー状の鞭。変わらず天輪の鍵盤が音楽を奏で。それと共に、七十へと迫る鞭。大鎌で弾いて距離を詰めていく。掠った傷を埋める|フリヴァく《邪神のかけら》、聞き覚えどころか口ずさめるようにまでなった曲に、グノシエンヌは不快そうに眉根を寄せた。
 生み出した隷属者を鞭が薙ぎ払う。その隙に潜り込んだ七十が機を狙う。より重い一撃を。より、空腹を満たせる一撃を。大鎌が鞭を弾けば響く金属音。それに目を細め――距離を保とうとするグノシエンヌ。

 ため息は、甘い。あまったるい。気持ちが沈んでいるからか。
 そこから、戻ろうとして。
「……貴女の美味しそうな香りが空腹を刺激してきて……」
 覚えのある香り。あの時と同じだ。ローズ、パチュリ、ムスク――クラシックでユニセックスな。血液の鉄臭く腥いそれに混ざる香りが、食欲をそそって、たまらない!

「抑えられないです」
 ぶわり増えた隷属者、グノシエンヌの脚を取る。だがそれすら知った攻撃、避けようと動くステップはまるで踊るかのようだった。それでも、腕の一本でもかすめれば、隙が生まれる。
 がぶり、かじりついた腕の味。時が止まったかのように――シャツに滲んでいく血液と、咀嚼、舌なめずり、恍惚の吐息。
「抑えられない?」
 笑う。笑う。今までだって、そうだった。抑えようとして、そうすることは、できなくて、食らいついてしまう。空腹は続く。無尽蔵の食欲。こんな欠片では満足できない、けれど、刻んだ傷を舐めていられるような隙はもうなかった。
「抑えなくて、いいだろう。きみは」
「――ッ!」
 不躾な前蹴りによって距離を取ったグノシエンヌ。甘ったるい誘惑の声とは裏腹、その目は殺意をもって、七十をとらえていた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ヴォルン・フェアウェル
あの娘もおしまい、か(僅かばかり瞑目)
独り永らえるよりは良かったのかもしれないが――まあ、僕には関わりのないことだ
死に損なうも生き損なうも、どうせいつかは土の下さ

クラシックねえ…多少の知識はあるけれど楽器は得手じゃないな
得意だとしても君とセッションというのはごめんこうむるけれどね
その音色で喚ばれるモノは、僕の遣う蟲よりさらに見苦しい
相手をするのに気が乗らないのはお互い様さ

【臆病な竜の巣】でカウンターを狙う
不愉快を聴く気なんてさらさらないのさ
その音の波が耳に届く前に、アタマの風通しを良くしてあげるよ
威力の小さな銃とはいえ、魔力を込めて零距離射撃するなら少しは脳も揺れるだろう

 あの娘もおしまい。

 瞑目は僅かな間だった。この場には「おしまい」が溢れかえっている。血腥い廊下に、壁に、鯨幕に、べっとり張り付いたひとの脂と血液と。この部屋だってきれいだとは言い難い。ピアノひとつと、女がひとり。

 独り永らえるよりは良かったのかもしれない。灯火ひとつ、継ぐ蝋燭もなかったのだ。すべてが絶えていた。持ち運べるほど強い火ではなかった。
 死に損なうも生き損なうも、どうせいつかは土の下。皆が皆、土へとかえっていく。いずれは屍も分解され、真のおわりのときを――この星の終わりを待つばかり。
 ――まあ。
「僕には関わりのないことだ」

 それでも、彼女に。グノシエンヌの前に立つということは、彼に――ヴォルン・フェアウェル(終わりの詩・h00582)にとっては、多少は、意味のあることだ。
「関わりがなくとも、達成しなければならないことがあるってなると。きみたちって、結構必死になるよね」
 きみはそうでもなさそうだけどさ。乱れた髪と衣服に血液、溢れかけたはらわたで、それでも立っているおまえが言えたことなのか。

 クラシックについて多少の知識はあれど、楽器は得手ではない。なにより、得意だとしても、この災厄とセッションするというのは御免被るといったものだ。
 その音色で喚ばれるモノは。喚ばれたモノは。
「僕の遣う蟲より――さらに見苦しい」
「見苦しいのは、ああ、そうだね」
 ――お互い様さ。

 強く沈む鍵盤、第2番。音波が蒼い光をもって、扇状に広がる中。ただ立つヴォルンへと放たれたそれ、波状に二回。だがそんな不愉快、ヴォルンは初めから聞く気はなかった。
 波が届く前に。耳に届かぬ音は「なかった」も当然だ。唐突に目前から姿を消したヴォルン。目で追う隙すら与えられず――切り詰められた拳銃が、リリアが、グノシエンヌの後頭部へと突きつけられていた。

「……まったく。降参だ」
 両腕を上げて、大げさに肩をすくめる女。命乞いをするような態度ではない、これから死ぬのだと完全に理解しているその態度。不快。不愉快。見苦しい。
 命に縋り付いてみせたくせに、あっさりそれを捨て去って、何がしたいのだ、おまえは――などと。

 まあ、でも。しかしだ。
「アタマの風通しを。良くしてあげるよ」
 ――トレパネーションは、ご存知かな。

 のうみそを揺らすのが、ずいぶんとお好きなようだから。
 高く響いた銃声。僅かに登った煙と、倒れ伏す「にんげん」だったもの。

 ああ、哀悼ならば。
 ぼくの分はいらないよ。

●|会衆《かいしゅう》
 その一族の儀式は、『集団自殺』として片付けられた。
 山程いた仔らの大半は、機関に詰め込まれ。一部は、行方知れずである。
 唯一といっていい『まともなしかばね』は、何かを抱きかかえるようにして――事切れていたのだと。
 そこそこセンセーショナルな新聞記事も、いずれは風化し、どうせいつかは土の下。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

挿絵申請あり!

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挿絵イラスト