大好きな婆ちゃんへ
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ミーン、ミーン──少し煩いくらいの蝉の声。照り付ける太陽は真夏の暑さを物語り、夏休みやお盆休みであちこちから賑わう声も聞こえてくる。
此処は、√EDENのとある場所。
骨董品店「つむぎや」店主の紬・レン(骨董品店「つむぎや」看板店主・h06148)は夏服を身にまとい、お店はお盆休みにして、通い慣れている商店街を一人歩いていた。
今の時期は夏祭りやイベントも多いからか、普段歩く商店街も賑わいを見せている中、顔馴染みな年配の人達がレンの姿を見かけると朗らかに微笑んで声をかける。
「紬さん、こんにちは。これからお出かけ?」
「まあ、今日も可愛い格好してるわねぇ」
「どうもどうも。まあそんな所です」
中性的で細身な見た目と、お洒落の一環として普段から女装をしている事から、近所でも可愛らしい店主さんと可愛がられている。可愛いものが好きなレンとしても、可愛いと言ってくれるのは嬉しい。にこやかに挨拶を交わしてから、目的の場所へと向かった。
辿り着いたのは商店街の近くにある墓地。
そう、ここに来たのは先代店主でもある祖母の紬・みどりの墓参りだった。
「婆ちゃん、来たよ」
墓石を掃除するための一式を近くに置いてからペットボトルの水をバケツに注ぎ、スポンジで丁寧に掃除し始めた。
「はあ……毎日あっついよな、本当」
滴る汗を拭いながら隅々まで丁寧に墓石を掃除をしたり、草を刈ったりして、丁寧に整えていく。炎天下の中だとしても、唯一レンに愛情を注いでくれた祖母のためならば頑張れる。
時間をかけて綺麗にした後、買ってきた花や蝋燭、線香をお供えし、手を合わせながらレンはぽつぽつと祖母へ近況を話し始める。
「婆ちゃんが亡くなってから、色々あったよ。そう……あらゆる意味で俺の世界が変わった、っていうか。信じられないと思うけど、俺……色んな所で人助けしたり、戦ったりしてるんだぜ?あの運動音痴で、何をするにもトロかった俺がさ。それと、知り合いも沢山増えたんだよ。婆ちゃんにひとりひとり紹介したいくらいだ」
レンは生まれつき身体が弱く、運動音痴だった。そんな自分が√能力者として覚醒し、同じように戦う仲間との出会って、簒奪者との戦いを多く経験してきた。
戦えなかったレンに戦いを教えてくれたAnkerでもある師匠のおかげで運動音痴でも戦えるようになり、大変な毎日ながらも充実した日々を過ごせている。時間が許されるなら、たくさん話して聞かせたいほどで。
どれだけ充実した毎日を過ごしたとしても、愛情を注いでくれた祖母を喪った“欠落”だけは満たされない。表に出さないようにしていても、レンは愛されたい寂しがり屋だ。
祖母からの愛情が懐かしい。優しい声で呼んでくれる声も、撫でてくれる手も、今はもういない。頭で分かっていたとしても、やはり寂しさは込み上げてくる。
「……はあ、ダメだな。ここに来ると、どうしても縋りたくなる。上手く言えないけどさ。俺も頑張るから……見守っててくれよな、婆ちゃん」
例え満たされなくとも、祖母の存在は確かに心の支えにもなっている。心配かもしれないけれど、天国から安心して見守れるように頑張るとレンは改めて誓う。
また来るねと微笑みかけてから、レンは掃除道具を手に踵を返して墓地を後にしようと敷地を出る。
ふと、レンは足を止めて振り返り祖母のお墓へ視線を向ければ、可愛らしく、大切なものを守るために戦う孫の姿を誇らしげに見守る祖母の姿が見えた気がした。
それが幻だとしても嬉しくて。
温かな気持ちを抱きながら、レンは祖母から受け継いだ大切な店へ続く道をゆっくりと歩いて帰るのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功