√Four“B”『Stan』
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時計を見てしまう。
それは癖のようなものであったし、毎日きっかりと訪れる時刻というものを確認する行為であった。
つまり、定時を、である。
しかし、 平岸・誠(Blue Bullet Brave Blue・h01578)は、己の癖を戒めるように腕時計をベッドの上に放り投げた。
「まったく……ダメだな、俺は……せっかくの休暇だっていうのに」
彼が窓越しに見やるのは、夕暮れの空。
今自分がいるのは自室だ。
間違っても職場ではない。
彼は警視庁異能捜査官である。
頻発する怪異事件に対処するために……いや、そうでなくても警察機構にて職務に励む者にまとまった休みというものは存在しないと割り切った方が良い。
事件や事故。
そうした不測の事態が起こった時、即応しなければならないからだ。
故に休みであっても気が抜けないというのは因果なことである。
しかしだ。
今まさに誠が目覚めたのは、夕暮れ時。
つまり、眺めの休暇の一日を、貴重な一日を昼夜逆転した体のリズムが、彼を夕暮れ時に覚醒させてしまったのだ。
よりによって定時間際に。
「これはもう確実に身に染み込んでいる、ってことだよ……はぁ……」
げんなりしてしまう。
後天的な理由で√能力者となった身であるが、生来の体の弱さ故に無理ができないのに、警視庁異能捜査官となったのは、一体どんな因果化。
しかし、己はヒーローとして存在している。
ヒーローとは多くの人々の心を救う存在の事を言う。
「だって、しようがないじゃないか。ヒーローのイメージを崩すわけにはいかないし……って、ああ……っ」
誠は己のスマートフォンの画面が通知を告げるのを目の端に捉えた。
それは彼の推し配信者の配信が始まったことを告げる通知だった。
「まずいまずい……っ」
もたつく手でスマートフォンのロックを解除する。
両の親指がアプリをタップして起動させる。
アプリ起動のロゴマークが鬱陶しく感じてしまう。それにしばらくアプリを起動することもできないほどに多忙であったものだから、アップデートが始まってしまって、さらに誠はやきもきしてしまう。
せっかくの休暇と推し配信者の配信日がかさなったのだ。
「リアタイ……リアタイできるのに……ああ、もうっ」
じれる。
アップデートのローディングの画面を意味がないと判っても連打してしまう。
『今日はね、ハクスラ系のゲームの金字塔と名高い……』
登録していたチャンネルを素早くタップすると誠の推し配信者の配信が始まっていた。
ギリギリと言えばギリギリである。
しかし、配信始まりの前口上を聞き逃してしまった。
痛恨のミス。
いや、アーカイヴや切り抜き動画で視聴する事ができるとは言え、折角のリアタイ……リアルタイム視聴ができるタイミングで聞き逃すのはミスである。
「でもまだ、はじまったばかりだ。ええと『こん……」
コメントを打ち込もうとして、誠の腹の虫が騒ぎ出す。
「ああもうっ」
それもそのはずだ。
彼は、明け方に戻ってきて、そのまま今の今まで眠りこけていたのだ。
当然、食事だってしていない。
手にしたスマートフォンから視線を外さずに誠は冷蔵庫の扉の取っ手を足で摘んで開いて、片手で中のゼリーの栄養補助食品をつまみ上げる。
騒ぐ腹の虫をなだめすかすように誠は一気にゼリー飲料を吸い上げる。
凹んだパックの蓋を閉じれば、ゴミ箱に投げ入れる。
なんとも社会人としては失格な生活であることだろう。
しかし、誠の顔はスマートフォンの明かりに、そして己の推しによって明るく照らされていたのだった――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功