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√ジェイルブレイキング・ナウ『ツィスト』

#√ドラゴンファンタジー #ノベル #夏休み2025

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●√
「やあ、リリリリリガルちゃん」
 それは唐突な言葉だった。
 あまりにも唐突だったし、なんだったら不意打ちも良いところだった。
 けれど、リリリリリガルちゃんこと、リリンドラ・ガルガレルドヴァリス(ドラゴンプロトコルの屠竜戦乙女《ドラゴンヴァルキリー》・h03436)は、出迎えた梅枝・襠(弥生兎・h02339)に対して悪感情を抱くことなく、むしろ嬉しさいっぱいというように手を広げて歓迎の意を示した。
「襠、長旅お疲れ様!」
「こんなところで会うなんて奇遇だ!」
「これは偶然であり必然の出会いなのよ?」
 この会話一つだけで二人の意思疎通が取れているのか怪しいと思うところであっただろう。だが、それは彼女らを端から見ている者たちにとっては、だ。

 彼女たちの間ではコミュニケーションが取れている。
 そう見えるだけで、そうではない、ということなのだ。それだけのことなのだ。他者の介在は意味をなさない。
「そんなわけないんだ。だって、あたしは今日リリリリリリガルちゃんに招待されてね。その通りにここに来たんだから。羨ましいだろう」
「積もる話はあるけれど、荷物をおいて早速海にいくわよ!」
 リリンドラは果断であったし、迅速無比であった。
 言うが速いか、襠の手を取って走り出していた。
 この日のためにすでに準備は終わっている。

 彼女を迎えたのは彼女の故郷である√ドラゴンファンタジーの活火山がある離島である。
 故郷とは言え、幼少期に僅かに身を寄せていただけの離島である。
 実家があるわけではないし、親族が住まうわけでもない。 
 だが、幼少期の僅かな期間とは言え、愛着は湧くものだ。
 そして、夏の休暇である。
 帰郷することは決定していた。だが、ふとリリンドラは思い至ったのだ。
 どうせなら、友達も誘おう、と。
 その方が楽しいだろうし、襠も喜ぶのではないかと思ったのだ。
 とは言え、彼女は獄中を住まいとしている。
 筆を執ってお手紙を書いた。
 今の時代になんとも古風な、というかアナログな、と思われるかも知れないが、文通って素敵な手段だとリリンドラは思う。

 何もかもがゆっくりとした時間の中で流れていくような気さえする。
 そして、無論、実家がないので宿を取らねばならない。
 となれば、ログハウスを一棟狩りた方がよいだろうと襠よりもリリンドラは先に入島して準備を勧めていたのだ。
 すでにログアウスへのチェックインは終わっているし、掃除だって食料の買い出しだって終わっている。
 だから、こうして襠を船着き場まで迎えに来ていたのだ。
「少し不便なところだったでしょう」
 だから、お疲れ様、と言ったのだ。
 リリンドラの普段の交友関係からすれば、襠のようにこうも深く付き合いがあるのは珍しい。
 それも簒奪者を巡る事件を共に戦い抜いた戦友だから芽生えたものであると言えば、その通りだったのかもしれない。
「お手紙に書いていたから覚悟してもらったとは思うんだけれど悪かったわね?」
「お手紙?」
 そんなリリンドラとは他所に、手を引かれた襠は首を傾げた。
「ああ、食べたとも。お茶請けにピッタリだったよ」
「……本当に手紙をお茶請けにしたわけではないわよね?」
「実に味わい深い文だったよ。苦みありつつ、際立つような、そんな深い味わいだった」
 その言葉に、リリンドラは、まあいいかおと思った。
「この島は何もないところだけれど、海が綺麗なことと温泉が湧いていることが何より自慢なのよ。それに襠は海を見たことがないって言っていたから、気に入ってもらえると思うわ」

 リリンドラにすれば故郷だ。
 気に入って欲しい、という願望がなかったと言えば嘘になる。
「海! 温泉! つまり水だらけの締まってわけだね。お茶沸かし砲台だ。ところで」
「ん、なに?」
「あたしは船が嫌いだよなんだアレずっと揺れてあたしの頭みたいだオエッ」
 間髪入れずに吐く襠。
 わー!? とリリンドラが吐瀉物をどうにかしようとしたが遅かった。
 虹色のキラキラで誤魔化して入るが、結構モザイクが入ったほうがいいのではないかと思うほどの虹が形成されている。
 大丈夫? とリリンドラが襠の背中をさする。

 襠の瞳が虹を描く船着き場の堤防の下、海を見つめる。
「水がいっぱいだ!!!」
 ガバッ、と勢いよく身を起こす。
「あ、復活した」
「飲み放題!!! 悪くない景色だ。リリリリガルちゃんがあたしの視界にいる時はいつも辛気臭い世界だったもんね! おまけに血みどろのお茶会つきだ。お茶が映えないのは非誕生日的に最低だった」
 彼女は盛大に目を見開いていた。
 戦いの日々を思い出していたのかもしれない。
 リリンドラも頷く。

「それに比べて!!! 変な水だ。こんな水があるなんておかしいに違いない」
 そうかな、とリリンドラは首を傾げる。
 その眼前にカップが突き出された。
 なみなみと注がれているのは海水である。潮の匂いがする。
 もしかして、とリリンドラは思う。
「りりガルちゃん、チアーズ!」
「わたしも海水を飲む流れなのね」
 わかっていた。いや、とは思わない。が、避けようのないことならば思い切りよく行くのがリリンドラだった。
 襠の眼の前でカップを一気に煽る。
 とことん付き合うのがリリンドラの良いところだった。付き合いが良すぎる気がしないでもないが。

「うーん、しょっぱい」
 飲み干しておいて何だが、しょっぱい、で済むのはリリンドラだからだ。良い子はマネしてはならない。してはならないった、ならない。やめて、マジで。
「ヤムヤム……おかしいな」
 襠もまた一緒に口に含んで舌で転がして、飲み込んでいた。
 味わえているだけで十分おかしい。
「やけに塩っぱい」
「そりゃあ、海水だからね。塩水だし」
「円錐!!! とんがり帽子だから舌に突き刺さるということ!!」
「いや、しおみず、ってことね」
「むっ! まるで巨大な女の子が泣いた後。涙の味だ」
「へぇ、諸説はたくさんあるけど、襠は巨大な女の子の涙って思っちゃうんだ。襠らしい感性の意見ね」
 面白い、とリリンドラは思った。

 詩的な表現と言えばそうだっただろう。
 もしかしたら、と想像を掻き立てられる言葉でもあった。なにかものすごく悲しい出来事があったのかもしれない。
 であれば、だ。
「いや塩っぱすぎるなんだこれは飲み物じゃないよ!!」
「まあ、海水飲み物にしてる人はいないでしょうね。でも、これだけ塩っぱいのだもの。巨大な女の子には、たくさん泣いたあと、たくさんわらって欲しいわね」
「あたしは塩っぱいのは好まないんだよ! 錆びちまうよ!!」
「知ってる。じゃあ、どうする?」
「錆びる前に撤退だ」
 今度は逆に襠がリリンドラの手を取って先導する。

 この島は初めてだろうに、どうしてそんなに堂々と胸を張って襠は歩くことができるのだろうか。
 不思議だ。
 この独特な戦友であるところの彼女のこういうところにリリンドラは悪く思えなかった。
 欠落がそうであったから、とは思わない。
 きっと欠落がなくとも、リリンドラは彼女のことを好ましく思っていただろう。
 言動こそエクセントリックで分かりづらいところもあるかもしれない。
 けれど、そこには純粋さだけが残されているように思えた。
 それに気がつくことができたのは、己の欠落のおかげだと言うのならば、欠落を得ることも悪いことではないのではないかと思う。

 これが自分の友達だ。
 そう胸を晴れる。友達だって、自信を持って言える。いや、そう言葉にする必要性すらないのかもしれない。
 まだ彼女の言動についていけないところもあるが、そこには彼女なりの法則性があったりするのだろうと思うところまでは理解することができるようになっているのだ。
「ねえ、襠。少し散歩しましょう。わたしのことを教えてあげる」
「散歩とは頭を活性化させるに良い。しかし、リリリガルちゃんはいつもこんな水しかない世界で過ごしているのかい? 物好きだ。いつも何をしているんだい? 生まれは? 人となりは? 好きなお茶請けは? そもそもねぇ、人なのかい? 思えば、あたしは名前しか知らないや!」
 矢継ぎ早過ぎるマシンガンクエスチョントークにリリンドラは笑った。
 おかしい。
 おもしろい。

「海の中で生活しているわけではないのよ。どちらかと言えば、陸地にいるほうが安心できるわね」
 彼女の質問の言葉はなんだか新鮮だった。
 いつもは逆ではないか?
 襠、それってどういう意味? どういうこと? そんな風に尋ねることのほうが多いかも知れない。であれば、襠からこちらに質問を投げかけるのは面白くも珍しいことだったのかもしれない。
 であれば、まっすぐに応えたい。
「生まれはわからないの。人となりは見たまんまね。好きなお茶請けはカステラかしら? それにドラゴンプロトコルだから、半人半竜ね、これは人によっては特徴が変わるけれど」
 リリンドラは応えながら履いていたブーツを脱いで、ぷらぷらと揺らした。
 その揺れるブーツを襠の瞳が左右に揺れて負う。
 また酔うわよ、とリリンドラは笑う。
 さらした素足を海水につけた――。

●√
 名前は大事なものだ。
 そういうものだと理解質得る。そうでなくては己と他者とを規定できない。規定するということは明確な線引をするということだ。
 であれば、名前を知ることは他者の輪郭をなぞる第一の行為であるとも言える。
「カステ~ラ! お目が高い」
「そう?」
「では、カステ~ラにぴったりなお茶を用意しよう」
 するとリリンドラは、ぴしゃ、と海水をつけた足を跳ね上げて襠の手を取った。
「じゃあ、わたしにも襠のことを教えて!」
「あたしィ!?」
 びっくりしたのかもしれない。 
 いや、びっくりしていない。
 むしろ、びっくりするために声を出したのかも知れないし、びっくりしたことを確認するために声を上げたのかも知れない。
 まあ、どれにしたって正解は不正解なのだから、それはどうでもいいことだ。

「好きなお茶は?」」
「好きなお茶はねぇ。摘み取った茶葉を、完全発酵させててから乾燥し、抽出して飲めるものさ」
「なにそれ?」
「つまり、紅茶」
 ああ、と襠はぶんぶんと己の手を握ったリリンドラの手をぶんぶんと上下にふってから苦虫を潰したような顔になる。
「珈琲はダメだよ。あれは良くない!」
「どうして?」
「あれは頭をはっきりくっきりぱっきりしすぎるから! あれでは世界の境界線までまるっと見えてしまうからね! 見えすぎて見えないなんてよくないことだと思うよ!」
「そうなの? じゃあ、趣味は?」
「趣味」
 勿体つけるつもりなんてないけれど、勿体つけてみたい気もする。
 そうやって何でもかんでも試してばかりなのも良いことだと思っていたりいなかったりする。

「これは秘密だが。学ぶことも好きだよ。学習して脳みそを進化させるんだ」
 そして、思う。
 それが歩みというものだろうと。
 歩くことなくとも歩むことができる。たとえ、足が二本なくたって歩む事ができるのが生命体ってものだろうから、それは否定されることではないし。肯定されても仕方ないことであったからだ。
「じゃあ、一つ願い事が叶うとしたら何を叶える?」
「願いは決まっているとも! はらぺこり! セイウチも我慢できずに牡蠣を食べたくなるほどだよ!」
 ぷんすこぷん。
 ぐうぅ、と腹の虫を抑えていたが、もう限界の臨界点突破である。 
 よくもまあ、内臓がメルトダウンを起こさないものだ。

「じゃあ、そろそろ戻ってご飯にしましょ!」
「そうしましょ閃いたよ! ご飯にしよう!」
「今日はわたしが作る島で取れたお魚のフルコースよ」
「それはきっとドッキリプロ級なんだろうね! 可愛い子の手料理とは楽しみだ」
「プロと比べられた劣るけど、その分真心を込めて作るわ」
 ぐ、と拳を握りしめるリリンドラ。
 拳を握る動作が食事を作るのに必要なのだろうか? あ、もしかして、牡蠣のあの固い殻を粉砕するために? それはそれでとてもワイルドにマイルドだな、と襠は思ったかも知れない。思わなかったかもしれない。 
 まあ、どちらにしたってリリンドラ、可愛い子は自分の言葉をまっすぐに受け止めてくれている。

「やっぱり牡蠣」
「牡蠣、牡蠣ね。やっぱり牡蠣に生に限るかしら? レモン? 醤油かしら?」
「食後のティーは任せてくれくれ」
 気が早くない? とリリンドラは笑った。
 けれど、悪いとは思っていないようだった。ゆっくりでもいい。急かされてもいい。
 それは彼女の歩幅だからだ。
 咎めることもないし、咎められることもない。
 そうやって世界の時計の針は進んでいくものだ。皆違う歩幅だからこそ、時の流れの正確性が際立つ。
 歪むことなく皆で踏み鳴らして氏進んでいくのが時間ってものだからだ。
「あたしは何年お茶会をしていると思っているんだい?」
「どれくらい?」
「ざっと見て25年くらい! さっぱり起源もわからなくなってきてご機嫌だけれどもね!!」
「ふふ、じゃあ、ティータイムには星を見ながらにしましょう」
「ロマンティック!」
 そうかもね、とリリンドラは笑う。

 いつだって可愛い子は、笑っている。
 まっすぐに感情を表現してくれる。ねじ曲がることも、歪む事を知らない。
 それが可愛い。そこが可愛い。
 だから|可愛い子《グラジオラス》と呼ぶのだ。
 自分とは全く違う、対極の裏側にいるような存在。 
 だから、こんなに興味を惹かれるのかも知れない。そして、彼女もまた己に興味を持っているのだろう。
 理解しようとしているし、理解し始めている。 
 どうあってろくでもないのに、ろくでもないという感情すら置き去りにして、まっすぐにこちらを見ている。 
 他者にとっては愚直さと捉えるものもいるかもしれない。
 だから、可愛い。
「積もる話もたくさんあるから♪」
 楽しそうだ。
 なら、自分も楽しい。
 これは腕によりをかけて振る舞わねばならない。腕によりをかけてのよりってなんだ?
 よくわからない。
 まるで人と人との出会いは糸を撚り合わせるようだ。
 であれば、袖をまくりあげて事に当たらねばならない。
「どんとこいお茶会ティータイム」
「なにそれ」
 また笑った。
 まあ、どちらだっていい。

 絡まり合っているように見えるかもしれない、この出会いは、きっとより強固なものになっていく。
 であれば、それがいい。
「さ、行きましょう」
 引かれる手のままに惹かれていく。
 いつだって■■はそんなものだ――。
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