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星光のベル・エポック

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「素敵なお話だったなぁ……」
 読後の余韻を楽しむように、セリナは本をぎゅっと胸に抱き寄せた。星月夜が表紙に描かれたその本は、情景の美しさもさることながら、翼人と人魚の間で育まれる友情が何より美しい物語で。
 ほぅ、と夢見心地で息を吐く彼女の背にあるのは三対六枚の優美な翼。
 セレスティアルである彼女は天上界の話は勿論、『ステラ』に受け継がれる月や星の話を家族から聞いて育ち——そうして彼女は物語好きになり。今では様々な物語を求め、図書館を巡っては読み耽る日々を送っていた。

(「もうこんな時間……でもあのシーンだけもう一度」)
 返却するにはどうしても名残惜しくて、再度ページを捲ろうとすると。
「その本すごくいいよね」
「きゃっ」
「あっ突然ごめんね!?」
 急に声をかけられ、思わず悲鳴のような声が漏れてしまった。
 年の頃は同じくらいだろうか。ルミナと名乗る少女にセリナも名乗り返すと、「よく図書館にいるよね、本が好きなの?」と問われて。
「はい……色んな物語を知りたくて通ってます」
「やっぱり! 私、あなたと話してみたかったんだ。あのね、私と……」
 やや遠慮がちなセリナとは違い、興奮しているのか徐々に早口になって——やがて早さや声の大きさに気づき、ルミナは慌てて両手で口を塞いだ。
「ごめんまた暴走した! 私もその本が大好きで、つい嬉しくなっちゃって……」
「そう、なんですね……私、星降る月夜に再会を誓い合うシーンがすごく心に残ってて」
「分かるー! 空と海を繋ぐように手を取り合って誓うの、ロマンチックよね! ねぇ、良かったら私と感想会してくれると嬉しいな」
「感想会……!」
 読書仲間の少ないセリナにとって、それはとても魅力的なお誘いだった。
 けれど、どうしても気になることが一つある。
「あ、あの! さっきの、どうしてわたしと話してみたかったんですか……?」
「ん? だってセリナちゃんの羽、この本の星空みたいに綺麗だから。この二人みたいに仲良くなれたらなって」
 自分と違う種族であることを受け入れ、その上で好きなものを語り合いたいと望んでくれた——その対象が自分であることが、たまらなく嬉しくて。
「……わたしも感想会、してみたいです。ルミナさんといっぱいお話したい!」
 その瞬間、セリナにとって初めての人間のお友達が誕生したのだった。


 それからというもの、二人は毎日のように本や互いの話を語り合っていた。

『セリナちゃんの言ってた本、読み終わったよ。すごくカッコいいね!』
『わぁ嬉しい! ルミナちゃんはどこが好きだった?』
『ん-と、吸血鬼が仕掛けた七つの大罪に因んだ謎を、ヴァンパイアハンターが解き明かしていくところかな』
『私も! 出会った人達が入れ替わりで助けてくれる展開が素敵で……』

 まるで物語のページを捲るかのように、日を追う毎に二人の友情も少しずつ深まって……いつしかセリナの口調も柔らかく打ち解けていき。
 親友として初めて「セリナ」「ルミナ」と呼び合った日は、どの物語より胸が高鳴って眠れないほどで。次は自然に呼べるようにと、鏡に向かって何度も練習したものだった。

 ……そんなルミナとは最近会えていない。
 彼女の祖母が臥せっており、家族でお見舞いに帰郷しているのだ。
『あの本の続編が出る頃には帰ってくるから、一緒に読もうね』
 そう言って再会の約束と共に渡されたリボンは、とっておきのお洒落なワンピースと共に今か今かと出番を待っている。
 明日は出会いのきっかけになった例の本の続編が図書館に入荷される日だ。

 もうすぐルミナに会える——期待と喜びに頬を緩ませながら、セリナは眠りに就いたのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

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