1
学園祭強襲計画~守れ我が子を、友人を~
●華やぐ学園祭。その裏に。
√EDENのとある学園。
小中一貫校であるその学び舎は、今まさに学園祭の真っ最中。
校舎の中はどこも色とりどりに飾り立てられ、各クラスでは趣向を凝らした様々な出し物が催されていた。
廊下を歩けば学生の家族や他校に通う友人達がたくさん訪れており、そんな|お客様《ゲスト》を自慢のクラスに招待すべく生徒達の客寄せの声がそこかしこで響き渡っている。
また部室棟や体育館に足を運べば、そこでは日頃の成果を家族や友人に披露するべく意気込む文化部の生徒達の姿を見ることができるだろう。
生徒たちの若々しい活気と情熱は今や学園から溢れ出さんばかりに膨れ上がり、この学園祭は大成功のうちに幕を閉じる。そう誰もが信じて疑わなかった。
しかし、この時はまだ誰も気づいていなかった。
そんな輝かしい青春の舞台に似つかわしくない、ギラギラとした輝きを放つ存在が学園内に忍び込んでいることに。
「まったく、サイコブレイドの奴も人使いが荒いでおじゃる。この広い学園の中からAnkerを探して抹殺しろなどと」
学園のどこか。暗く湿ったその場所に静かに響きわたる不満げな声。
薄黄緑色のケミカルな蓄光色に光る着物を纏い、闇の中に薄ぼんやりと佇むその者の顔は不気味な白塗りの骸骨。
名を『|破蛇麻呂《いしかわのへびまろ》』。かつては√妖怪百鬼夜行で名を馳せた古妖であり、封印の際に√マスクドヒーローに逃げ延び改造手術を受けてプラグマの参加に下ったガシャドクロの妖怪である。
「まあ、善き哉」
憎々しげに言の葉を吐いていた蛇麻呂であったが、その手に握った|大太刀《サイコブレイド》を見て奴はその顔をにたりと歪めた。サイコブレイドから借り受けた刀身に満ちた異能の力は凄まじく、握っているだけで万能感を感じさせる。
「こうして強い力を借り受けたからには一仕事くらい勤め上げてやらねばのう。もし邪魔が入れば、逃げ帰って後の事はサイコブレイドに擦り付けてしまえばよいのじゃし。上手く行けばこの太刀も手中に収めたままにできるやもしれんしの」
下剋上に息を巻き、言の葉の端に熱い色を醸す蛇麻呂。そしてその伽藍洞な眼窩に光る光球を細めると、蛇麻呂はまた違った熱を込めた囁きを漏らし、厭らし気に微笑むのであった。
「なによりマロは子供が好きでおじゃ。そのAnkerたる童は存分に可愛がってやろう。それに……少しくらい無関係な童を攫っても、勤めを果たしておればお咎めはないでおじゃろう」
●みんなにとって学園祭といえば?
「いらっしゃいませ! 七つの楽園亭にようこそ!」
√能力者たちを明るく迎え入れたのは星詠み、太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)。
彼女は君たちを食堂の席に通すと、氷を浮かべたキンキンの麦茶を配って回った後に自らも席についた。
「この度は要請に集まっていただきありがとうございます。今回私が予報《予知》したのはとある学園に通うAnkerさんをサイコブレイドの刺客が狙っているという事件です」
サイコブレイドのAnker抹殺計画。
Ankerを探知する√能力を有するサイコブレイドによって、√能力者の魂の核ともいえるAnkerが狙い撃ちされるという恐るべき計画である。
これまでも多くの一般人が危険に晒されてきたこの計画が、遂に学校にまで魔の手を伸ばしてきたのだ。
「そして残念ながら、この学園のどの生徒が狙われているAnkerなのか。そこまでは私の予報では分かりませんでした。だから皆さんには学園に直接訪ねて、その全域を監視してほしいんです」
口惜しそうに唇を噛みながら資料を配るなのか。それによると、その学校は小中一貫校であり生徒の数もおよそ1000人と非常に規模の大きな学校のようだ。その中からAnkerを探し出すのは簡単な仕事ではないだろう。
いや、何より無関係な√能力者は無遠慮に学校に入ることすら許されないのではないか。
「そこはご安心! この学校では運の良いことに今がちょうど学園祭シーズン! 生徒さんの友人や父兄の方になりすませば簡単に入ることが出来ちゃうんです。よほど変な事をしなければ多少人ならざる姿をされている方でも『忘れようとする力』のお陰で無目立つことはありませんし、せっかくだから事が起こるまでは学園祭を楽しんじゃうのもアリですね! むしろ私が行きたい! カフェをやってるクラスに遊びに行って子供たちにお給仕してもらいたい!(だめです)」
逆を言えば、目立つような事をすればサイコブレイドの配下に√能力者の存在をアピールする事になり、敵への牽制にもなるかもしれない。……が、子供たちが楽しく盛り上げている学園祭に水を差すことにもなるため行動の選択は慎重に行ってほしい、となのかは付け足した。
「ただ、少し懸念点があって……今回学園を襲撃する簒奪者、破蛇麻呂は非常に狡猾で周到で、尚且つ子ども好きでもあるんです。奴はAnkerの生徒さんを抹殺するだけでなく、自分好みの子供の誘拐も企んでいるかもしれません。ですので、どの生徒さんがAnkerか見定めることが出来なくても、皆さんが学園中に散って監視の目を光らせるだけでも防衛には大きな効果があると思います」
敵のターゲットはAnkerだけではない。誰が狙われるか分からない。
それならば学園全体を守ればいい!
なのかはそうシンプルに作戦を纏め上げたのだった。
「資料の通りこの学校に通う生徒さんはたくさんいるので、もしかしたら皆さんのAnkerさんもここに通っていらっしゃるかもしれませんね。その時はぜひ一緒の時間を過ごしながら守ってあげてください。それではいい報告を待っています! 無事帰ってきたらAnkerさんの分も腕によりをかけてお料理を作るので、一緒に祝勝パーティーをしましょうね! それではいってらっしゃい!」
これまでのお話
マスターより

はじめましての方ははじめまして。
ご贔屓にしてくださっている皆様に置かれましてはご機嫌麗しゅう。
特撮大好きMSのNaranjiと申します。
「この暑い時期に学園祭とか季節外れじゃね?」ってご意見は一度置いておきましょう。お願いします(平伏)
さて、今回の舞台は学園。
子供達の努力と青春を邪魔する不埒な悪党をこらしめちゃいましょう!
舞台となる学園は繰り上がり式の校舎を同じくする小中一貫校のため、幅広い年代の子供が登場します。
もし参加される皆様のAnkerのお子さんやご友人がこの学園に通っていると設定を付け足すことにご了承いただければ、あなたのAnkerが狙われる事もできます! ぜひAnkerをシナリオに参加させてください。
もちろんそれ以外の方もご参加大歓迎です!
またこのシナリオは分岐の可能性をはらんでいます。
第1章の時点で√能力者の来訪を強くアピールし破蛇麻呂に非常に強い警戒感を与えた場合、蛇麻呂は退散し第2章ではそれを追跡するフレーム⛺に移行します。その代わり学園祭にも影響が出てしまいます。戦略上意義のある行動のためこちらのフレームを狙っていただく事も歓迎しますが、学校という場において公序良俗に反しすぎると判断されるようなプレイングに関しては、採用を見送らせていただく場合がありますのでご注意ください。
第2章では、第1章で学園祭の和を乱すことなく過ごした場合、集団敵👾との戦いになります。気軽に学園祭を楽しむか、警戒感をもって警護に当たるかによって登場する敵も変化します。
学園祭を楽しんだ場合、Anker個人に対する包囲戦となります。全方位から押し寄せる敵群から、Ankerを殺されないよう守り抜かなければなりません。参加されるAnkerさんが複数いらっしゃる場合は、敵軍も分散するため難易度は低下します。(Ankerさんのご参加大歓迎です)
警戒にあたっていた場合は、子供達を無差別に誘拐しようとする敵から強襲戦を仕掛けられます。学園全体を舞台に次々に襲い来る怪人達を蹴散らしつつ、子供を安全な場所まで逃がしましょう。
第3章は強敵👿との決戦です。それまでの蛇麻呂が感じた√能力者への脅威度を総合的に判断し、その結果で戦う敵が分岐します。
長くなりましたが当シナリオの説明は以上です。
それでは皆さまの闘志と希望にあふれたプレイングをお待ちしております!
19
第1章 日常 『学園祭に行こう!』

POW
学園祭は食の祭典。模擬店で食べ歩き。
SPD
学園祭は芸の祭典。ライブや演劇を鑑賞。
WIZ
学園祭は知の祭典。研究発表や展示をチェック。
√EDEN 普通5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●学園祭のしおり
サイコブレイドの刺客が狙う学園祭。
およそ1000人もの生徒が通う学園なだけあり、その校舎は大きく教室の数も膨大だ。
一般の教室を覗き込めば、そこではお化け屋敷や謎解きゲームなど工夫をこらした催しをしているクラスが多く見られるが、やはり中でも一番多いのは飲食物を扱ったカフェテリア形式の出し物だろう。
そういったクラスでは飲食物の取り扱いの注意もしっかりとなされているようで、中等部ではケーキや軽食などを扱う本格的なカフェメニューを、小等部のクラスでも駄菓子などの取り扱いが容易な食べ物を巧みに扱ってカフェを開いている。
そして体育館や大教室などで開かれているのは文化部の発表会やクラス単位の合唱コンクールだ。吹奏楽部や演劇部、グリークラブに参加している生徒にとっては友人達に自分の普段とは違う一面を披露する貴重な機会。込められた気合も並々ならない物があるだろう。
そして大規模な学園だけあって部室棟もまた広い。立ち並んだ部室の中では美術部や文芸部の展覧会をはじめとして、科学部や無線部などの文化部による体験コーナーなど、普段は接する機会のない専門分野に触れる事ができる興味深いブースも設けられている。しかし部室棟の一番人気は調理部や茶道部がおもてなしする飲食コーナー。やはり食はどの分野においても強いのだろうか。
全てを一通り見て回るだけで一日を使い果たせてしまいそうな規模の学園祭。
果たしてここを訪れた√能力者達はどこに赴き、何をするのであろうか。

アドリブ歓迎
学園、かァ…懐かしいぜ。奴らは元気にしてるかねェ
まぁ俺は生徒として通った事は無ェがな
そんな感じでのんびり人型に
色が白かろうが気にしないだろ?
いつもの√薄暮でB35刻爪刃を12250本
全校舎内の天井、邪魔にならない場所へズラッと配置
融牙舌12250はグラウンドや屋上の警戒
不可視の物達だ。祭りの邪魔はさせねェよ。
敵が動けば即座に反応だな
さァてさて。喫茶で楽しみつつ吹奏楽やら出し物を巡ってついでに校内配置でも覚えて行こうかね
きゃらきゃら笑う声に騒めきが何とも心地良いぜェ
本日は晴天。絶好の文化祭日和に恵まれ、学園は多くの人で賑わっていた。
そんな人混みをすり抜けるようして、音もなく廊下を往く男が1人。見上げるほどの長身に夜霧のような白い肌と漆黒の|色眼鏡《サングラス》。
一目でカタギではないと思わせる見た目でありながら、道行く人々は誰も彼に振り向きもしない。その事実が彼が√能力者であることを、まざまざと示していた。
(学園、かァ……懐かしいぜ。奴らは元気にしてるかねェ)
男―ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)が懐かしそうに校舎の空気を目一杯吸い込む。彼の脳裏に浮かぶのは、いつか見た学び舎の風景だ。
過去を懐かしみつつ、のんびりと学内を歩き回るウィズ。しかしその影で彼はなすべきことも忘れてはいなかった。
ウィズの長い脚の裾口から静かに溢れいづる闇霧。|虚無の精霊が生み出す不可視の刃と焔《刻爪刃と融牙舌》が音もなく、しかし着実に校舎の中へと張り巡らされていく。
それは例えば校舎の天井の影に溶け込み、あるいは掃除用具入れの中に、果ては校舎の屋上やグラウンドの芝生に至るまで。学園中のありとあらゆる場所に潜みながら、虚無の精霊は主の命が下るのを今か今かと待っていた。
(刻爪刃と融牙舌、合わせてざっと2万と4500。これだけ敷き詰めりゃァ、どっから奇襲が飛んでこようと対応できるだろ。それに奴らは不可視の物達だ。祭りの邪魔はさせねェよ)
どんな時であろうと、今この時を楽しむ者達を邪魔するような無粋をウィズは許さない。それでもし彼らに危険が迫るなら、その前に食い止めればいい。そのために|√能力者《俺達》はいるのだ。
そうして校内を一通り場所を巡り、罠の設置を終えたウィズ。あとは|奴さん《やっこさん》が動くまで粛々と待つのみだ。
「さァてさて。人事を尽くして天命を待つっつーわけで、後は喫茶で楽しみつつ吹奏楽やら出し物を巡って、ついでに校内配置でも覚えて行こうかね」
ウィズが尻ポケットから取り出したのは、入口で配られていた校内マップ。各教室で開かれている催し物やイベントのタイムテーブルなどが記載されたそれには、既に彼の字で細かなメモがびっしりと記されていた。
「美味そうだったのは……やっぱ中等部の3年のクラスだな。さすが9年目の集大成ともなると完成度が違ェ。だが、学校で駄菓子を食うって経験も捨てがたい。ハッハッ、迷わせてくれるぜェ」
声を弾ませながらウィズは再び上機嫌に歩き始める。
廊下に響く生徒たちのきゃらきゃらと笑う騒めきこそが至高の音色だと言わんばかりに、ウィズの足取りは軽かった。
🔵🔵🔵 大成功

カナオ(h07809)と
子供たちが一生懸命に出し物してるのは、なんだか微笑ましいな。元気な声を聞いてると、自然と笑顔になる……。「いらっしゃいませー」とか「おやぶ〜ん!」とか……って、「親分」?
なんでここにカナオが!?
……それにしてもカナオは小柄で子供っぽいし、小中学生に混じってても違和感ないな。Ankerで子供……もしかしたら蛇麻呂をおびき出せるかもしれない。
それにAnker(カナオ)にAnker(変身ベルト)を持たせれば、より狙われやすくなるはずだ。
カナオ……ちょっとだけ囮になってくれないか。変身ベルトを持って、学園内をうろついてくれるだけでいい。異変があったら、すぐに助けに行くからさ。

海人親分(h00953)と
自分の通う聖・断罪学院もマンモス校っすけど、ここもなかなか人が多いっすね。ちょっと懐かしい気分になるっす。まあ、自分もまだ高一になったばかりっすけど。
合唱コンクールとか観てると、思わず自分も「親分の歌」(現在35番まで歌詞がある)を歌いたくなるっすね〜。
……おや?
あのポジティブでお人好しな正義漢っぽい後ろ姿は……おやぶ〜ん!
親分、またまた奇遇っすね、こんなところで。自分は親戚の子がここに通ってるから見に来てたんすよ。親分の方こそ、またヒーロー活動っすか?
囮だろうがなんだろうが、親分の頼みとあらば何でもするっすよ。どーんと大船に乗ったつもりでいて欲しいっす!どーんと!
「子供たちが一生懸命に出し物してるのは、なんだか微笑ましいな。元気な声を聞いてると、自然と笑顔になる……」
生徒たちの快活な声が響きわたる廊下を眺め、空地・海人(フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)はシャッターを切りたい衝動をぐっと堪えた。
さすがに部外者が無断で撮影するわけにはいかないだろうと、今回は愛用の一眼レフはバッグの中。
しかし右を見ても左を見ても青春の1ページ。こんなにも良い画が並んでいるというのにその瞬間を切り取ることが出来ないというのは、カメラマンにとっては生殺しも良いところだ。
「我慢、我慢だぞ俺……。しかし最近行った学校はどこも不良がいたり、風紀委員長が暴走してたりで色々と問題もありそうな所が多かったけど、ここはそういう事も無さそうだな。うん、平和が一番!」
なればこそ、この平和を脅かす簒奪者は許してはおけないと、海人は用心深く、しかし挙動不審にならない程度の所作で校舎内を見物して回る。
そんな折、学校という独特の雰囲気を持つ空間を歩いているからか、不意に彼の脳裏を|嘗《かつ》てとある学院で結んだ忘れられない縁がよぎった。
「そういえば、カナオと出会った時も学校に潜入してたんだったな。あいつ、今頃元気にしてるかな? ……元気にしてるだろうなぁ」
一方その頃。
「は~~っ!! やってるっすねー!!」
豪華に飾り立てられた校門の前に立ち、人目も憚らず両手を広げ感嘆の声をあげる少年が1人。
海人親分ご安心ください。心配せずとも古谷・カナオ(”腰巾着”・h07809)は今日も元気です。
「聖・断罪学院もマンモス校っすけど、ここもなかなか人が多いっすね。ちょっと懐かしい気分になるっす」
つい半年前まで中学生だったカナオだが、やはり小学生や中学生の空気感と高等部の空気感はまた違うものがあるのだろう。
年下の少年少女に囲まれ、柄にもなくお兄さん気分なんかも湧いてきちゃったりして、カナオの中性的な顔つきは普段よりも男らしさ20%増しだ(当社比)。
「さーて、体育館はあっちっすね! 従兄弟の顔を見るのも久しぶりっす。合唱コンクール楽しみだなぁ!」
そう、彼が今回この学園を訪れたのは従兄弟の晴れ舞台を見るため。
意気揚々と体育館に向かえば、そこで待っていたのは生徒たちの荒削りながらも若さ溢れる歌声だ。
「く~っ! 歌はいいよな~! 思わず自分も『親分の歌』を歌いたくなるっすね〜。お~や~ぶ~ん♪ お~や~ぶ~ん♪ そ~らちかいと様~♪」
あっ、やめてくださいねー。迷惑ですよー。
「おおっ、インスピレーションが降ってきたっす! この勢いで36番の歌詞の制作に取り掛かるっすよ!」
帰ってからやってくださいねー。迷惑ですよー。
……などという天の声が届くはずもなく、無事(?)体育館から放り出されるカナオ。
若さ故の勢い任せな所が彼の長所でもあり短所なのだ。悪い子じゃないんですけどね。
とはいえ体育館を出禁になってしまったからには行くあても無く、カナオはふらふらとクラスの出し物を見物して回ることにしたようだ。
とそんな時、彼の鋭敏な腰巾着センサーが力強く反応した。
「……おや? あのポジティブでお人好しな正義漢っぽい後ろ姿は……すぅぅ(息を吸い込む音)」
またまた一方その頃。
一通り校内を歩き終えた海人は次の一手に頭を悩ませていた。
いくら警戒しているからといって、闇雲に歩き回るだけでは不安が残る。
だが、一体どうすれ……。
「おやぶ~~~ん!!!!!!!!!!」
「うわぁびっくりした!!」
いきなり真後ろで響いた絶叫一歩手前の大声に飛び跳ねる海人。聞き覚えのある声にまさかと振り向けば、そこにいたのは予想通りの無邪気な笑顔。
一方のカナオは勢いよく廊下を駆け抜けると海人の目の前で急停止。カメラのフラッシュよりも眩しい笑顔で|親分《海人》を見上げる。
「親分、またまた奇遇っすねこんなところで! 自分っすか? 自分は親戚の子がここに通ってるから見に来てたんすよ。親分の方こそまたヒーロー活動っすか?」
矢継ぎ早に自分が来た経緯を語るカナオに対し海人は、また出会っちまったか、と肩を竦めた。
しかしここで海人に電流走る。
(そうだ、サイコブレイドはAnkerの場所を探知する能力を持っている。なら|カナオ《俺のAnker》に|フォトシューティングバックル《俺のAnker》を持たせれば、奴の探知を撹乱できるんじゃないか?)
幸いなことにカナオの背丈は男子高校生にしては小柄で体型も華奢だ。小中学生の中に紛れてもそれほど違和感はない。そんな彼が、しかもAnkerが2つ重なった状態でいてくれるなら……。
「賭ける価値はありそうだ」
「どうしたんすか親分? なんか良いことでもあったんすか?」
不敵に笑う海人につられ、首をかしげながらもにっこりと笑うカナオ。
対する海人は声を潜め、こっそりとバッグからバックルを取り出しカナオの手に握らせた。
「カナオ、頼みがあるんだけど……ちょっとだけ囮になってくれないか? 変身ベルトを持って学園内をうろついてくれるだけでいい。異変があったら、すぐに助けに行くからさ」
「頼み事? 親分が、自分に……!!」
それを聞いた瞬間、カナオの脳内に浮かぶのは雲の切れ目から光が差し込み天使がラッパを吹き鳴らすイメージ映像。尊敬する親分が自分を頼りにしてくれている! その事実が彼を心の底から奮い立たせた。
「そんなの……そんなの返事はイエスしかないじゃないっすか! 親分の頼みとあらば何でもするっすよ。囮だろうがなんだろうが、どーんと大船に乗ったつもりでいて欲しいっす! どーんと!!」
「ああああっ! 声が大きいって!」
「自分はどこまでも親分についていくっすっよー!」
兎にも角にも、作戦は決まった。
内心やっちゃったかなぁという後悔はあれど、既に賽は投げられたのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

子供好き……この場合、絶対いい意味じゃないですよね。
間違いなく変質者……で済ませられない悪い意味。
私の通ってる学校とは違うけど、ここにお友達のお兄さんやお姉さんが通ってたりするかも知れない。
そうでなくても皆を守ってあげなきゃ、巻き込まれたら絶対怖い思いをするもん。
と言う事で、とりあえず学園祭を見て回ろうかな。
ここの中学に入りたいから見学しにきた、って事にすれば全然怪しくないはず。
お小遣いも少しあるし、ジュース飲んだりお菓子食べたりして……私と同じくらいの年の子がやってる出し物の所に行ってお話とかしていれば、簒奪者のターゲットの近くに居る事になるよね。
私が狙われたら逆にラッキー、やってみよう。
「子供好き……この場合、絶対いい意味じゃないですよね。間違いなく変質者……で済ませられない悪い意味」
春尾・|志選《しぇーら》(鵺の巫女・h07952)の脳裏に過るのは、星詠みが予知した簒奪者――|破蛇麻呂《いしかわのへびまろ》が口にしたという言葉。
それが意味する所はおそらく……。奴の目論見を阻止しなければ口にするのも悍ましい結末が待っているのは間違いないだろう。
「私の通ってる学校とは違うけど、ここにお友達のお兄さんやお姉さんが通ってたりするかも知れない。そうでなくても皆を守ってあげなきゃ、巻き込まれたら絶対怖い思いをするもん」
そうして|志選《しぇーら》は学生たちで賑わう校舎内を歩き始めた。
|志選《しぇーら》はまだ齢7歳。この学園に通う子供たちの大半よりも幼い少女だ。
しかしながら、その瞳には歴戦の√能力者達に比肩するほどの強い決意が輝いていた。
その小さな身体のどこからそれほどの覚悟が生まれて来るのか。それは一重に家族や友人を守りたい、悲しませたくないという一心に他ならない。
(とりあえず学園祭を見て回ろうかな。私と同じくらいの年の子がやってる出し物の所に行ってお話とかしていれば、簒奪者のターゲットの近くに居る事になるよね。私が狙われたら逆にラッキー、やってみよう)
ともすれば自身が危険に見舞われることになるかもしれないが、それすらも織り込み済み。
幼いからこその一途な思いは強い覚悟となって、|志選《しぇーら》の体を突き動かしていた。
「えっと、この階であってるよね。あっ、駄菓子屋さんの看板。うん、間違いないみたい」
そうして学園祭の地図を手に|志選《しぇーら》が訪れたのは少等部の階。
ポケットから出した可愛らしい小銭入れにはお小遣いも万端。さっそく彼女は目当ての教室に入ると、商品を物色するふりをしつつ生徒たちの様子を眺め始めた。
(やっぱり、ただ見るだけじゃ誰がAnkerさんなのか分からない、か。……あ、あれは!)
とそんな時、|志選《しぇーら》の目にとある物が飛び込んできた。
(ジュースの素の粉。すごい、初めて見ました)
そこに並んでいたのは色とりどりの小さな袋。水で溶いてジュースを作る昔ながらの駄菓子屋商品だ。
(クリームソーダ味、コーラ味。種類も色々)
テレビ番組で見かけた事があるそれらの商品を目の当たりにし、張り詰めていた|志選《しぇーら》の表情がほころぶ。
中でもひときわ輝いて見えたのは、パッケージにイチゴとクリームがあしらわれたピンク色の袋。
(……いちごパフェ味っ!?)
「こ、これください!」
そして|志選《しぇーら》は思わずそれを掴むと、店番役の少しだけ年上と思われる少年の元に足早に近づき、やや上ずった声と共に粉ジュースを手渡した。
「いらっしゃいませ! これは、えーと……20円です! そこに水と紙コップがあるからね、そこで飲んでね!」
「あ、ありがとうございます!」
「へ、へへ! こちらこそありがとな!」
パッと花が咲いたような|志選《しぇーら》の笑顔に、顔を赤らめつつ感謝を返す少年。
そんな可愛らしいお買い物風景に、その様子を見守っていたクラス担任や周囲の大人達も思わず微笑みをこぼすのであった。
🔵🔵🔵 大成功

アドリブ・アレンジ歓迎。
【琴瑟】
心情
…編隊飛行を|半身《レギオン》で、させるなんて…また、難しいことを…。
…事前に、編隊飛行する映像を見て、学習はしておいて…よ、良かった、です。
……ただ、この全部を一辺に操るのは、僕に負担が…思ったより、掛るのと…リアルタイムで、処理する関係で…気持ち悪くなります…っ…
…辰巳様、あの…休憩、して…いい、ですか?
行動
事前に制服を用意すること
出来るだけ校内を、練り歩くように辰巳様を一緒に行動します
√能力を使用して、レギオンをドローン演出としてわざと目を惹く出し物をする
不審者や、おかしな事は都度、辰巳様に報告します
お行儀は悪いですが、辰巳様の手の物を其の儘、頂きます

アドリブ・アレンジ歓迎。
【琴瑟】
学園近くの服屋さんで学生服を仕入れて潜入します
今回は忘れようとする力で榴をサポート。
榴のそばで能力を使用し、ある程度目立っても誰が使っていたのか忘れさせつつ、回復させる。
榴に編隊飛行の提案をして捜索はお願いします。
……というのはどうかな?
こちらは学生視点から学園祭を回りつつ、榴から離れない様に手を繋いでおきます。
こちらと同様に誰かを探している人というのは目立つもの。
不審な人物がいれば榴と共有します
ごめん、そろそろ休もっか。回ってる間にジュース買ったから一緒に飲んで日陰で涼みながら飲もう
そう言って同じペットボトル飲料を二人で飲みます
……仕方ないので飲ませてあげます
先んじて訪れていた者たちが探索や警戒に力を入れている頃。
時を同じくして、新たな2人の√能力者が学園の門をくぐろうとしていた。
「良い学園祭だね。活気があって」
学園指定の制服に身を包み、辺りを見回すのは和田・辰巳(ただの人間・h02649)。
この学園の制服を仕入れようと持ちかけたのは彼であり、より学生視点で生徒たちの近くに寄り添い、その様子を観察しようという思惑あってのことだ。
「……ええ、本当に」
朗らかな笑みを湛える辰巳に言葉を返したのは、同じく制服を身にまとった少女――四之宮・榴(虚ろな繭〈Frei Kokonファリィ ココーン〉・h01965)。
「……僕は普通の学生生活というには、刺激が強い日々を送っていたから。……少し新鮮です」
言葉を選ぶようなゆっくりとした口調。その目に、どこか憂いのような色が浮かんでいるのは、彼女が|D.E.P.A.Sとして受けた苦難の《普通の少女として生きることの出来なかった》日々を、思い返しているからか。
しかしそんな榴の憂いを晴らすように、辰巳は傍らの彼女の手をそっと握り、校庭に一歩踏み出した。
「さあ、行こう。手筈は大丈夫かな?」
辰巳の手から伝わってくるのは『忘れようとする力』による癒やしの波動。
2人は事前に服屋を巡りながら、学園内を哨戒する方法を打ち合わせしていたのだ。
「……編隊飛行を半身レギオンで、させるなんて……また、難しいことを……。……事前に、編隊飛行する映像を見て、学習はしておいて……よ、良かった、です」
そう言って榴は耳に輝く漆黒のピアスに意識を集中させる。すると彼女の周囲にドローン型の機械群が現れ、さながら航空自衛隊の空中パフォーマンスのような軌道を描きながら学園の空を舞い飛び始めた。
「……感覚の拡張、完了」
「ありがとう。地上の警戒は俺に任せて」
そう言葉を交わす間にも、レギオン達は生徒や訪れた客たちの目を引きながら校庭の空から地上を隈なく監視する。
感覚の拡張とはよく言ったもので、榴が使役するレギオンには須らく超感覚センサーが内蔵されており、入手した情報をリアルタイムで榴に伝えることができるのだ。
しかし編隊飛行と空からの監視、そして入手した複数の視覚情報の処理を同時に行うのはさしものジェネラルレギオンであっても負担が大きいようで、早くも榴は立ち眩みのような虚脱感を覚え始めていた。
そして、それを『忘れようとする力』の回復効果で癒やすのが辰巳の役割だ。
それだけでなく、辰巳には周囲の人々からレギオンについての記憶を即座に忘却させる狙いもあった。これならば、予定にないドローン群のパフォーマンス飛行で学園側がパニックに陥ることもないだろう。
(さて、周囲に不審な人物はいるかな? こちらと同様に誰かを探している人というのは目立つもの。そいつが編隊飛行するドローンというあからさまに目立つものを目にしたら、思わぬリアクションだって見せるかもしれない)
内心で警戒を強めながら、周囲にそれとなく注意をむける辰巳。
しかし地上を行く彼の目には、今のところ際立って怪しい素振りを見せる人物は映らなかった。
一方の榴はというと。
「……うう、さすがに、気持ち悪くなります……っ……」
早くもグロッキーになりかけていいた。
複数のレギオンとの視覚共有だけならまだしも、それら全てが急旋回や急加速をし続けている状況。当然、共有している視界は常に激しく揺れ続けている。
常人ならば目を回し卒倒してしまう程の情報量を、しかし榴は持ち前の並列処理能力でなんとか捌き切っていた。
とその時、榴は旋回するドローンの視界の隅に何か異物が写ったような違和感を覚えた。
(……今の大きな影は、着ぐるみ? いくら規模の大きな学園とはいえ、あんなマスコットの着ぐるみなんて、あるものでしょうか?)
一瞬の困惑。
それに気を取られた榴が足がもつれさせ体勢を崩すが、辰巳が即座に彼女の肩を支える。
「……辰巳様、あの……休憩、して……いい、ですか?」
「ごめん、無理させすぎちゃったね。そろそろ休もっか。周ってる間にジュース買ったから、一緒に飲んで日陰で涼みながら飲もう」
そう言うと辰巳は榴に肩を貸しながら、校庭に備え付けられたベンチの下に向かう。そうして腰を落ち着けると、榴にペットボトルを渡し、自らも買ったばかりのよく冷えたジュースに口をつけた。
「それで、なにか変わった物は見えた?」
「……はい。……クマの着ぐるみ、のような物が複数。学園の周りをうろついているのが見えました。……この学園のマスコットかもしれませんが、それにしては、どこか胡乱げで……」
未だ疲労の残る頭を落ち着けながらゆっくりと言葉を紡ぐ榴。
しかし今できることと言えばそれが精一杯で、受け取ったペットボトルのキャップを開ける力も残っていない。
「……お行儀が悪いのは承知していますが……すいません、辰巳様、飲ませていただけませんか?」
辰巳の肩に頭をもたれかからせながら、躊躇いがちに彼の顔を見上げる榴。
「うっ……」
端から見れば学園に通う生徒同士のロマンスのようにも見える光景であり、辰巳はさっきと違って目立ってしまう事に抵抗を感じてしまう。
しかしその実はガチの体調不良者のガチ看病。それも自身が提案した作戦で疲労した者の救護となれば、無下に断るわけにもいかず。
「……仕方ないな」
そうして辰巳は若干の抵抗を覚えつつも、おずおずと飲みかけのペットボトルを榴の口元へと運ぶのであった。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功
第2章 集団戦 『クマクマパレード』

POW
クマクマパレードのはじまりだクマ!!
先陣を切る(シナリオで、まだ誰のリプレイも出ていない章に参加する)場合、【賑やかなミュージック】と共に登場し、全ての能力値と技能レベルが3倍になる。
先陣を切る(シナリオで、まだ誰のリプレイも出ていない章に参加する)場合、【賑やかなミュージック】と共に登場し、全ての能力値と技能レベルが3倍になる。
SPD
クマクマパレード
【クマクマパレードの良さ】を語ると、自身から半径レベルm内が、語りの内容を反映した【パレード】に変わる。この中では自身が物語の主人公となり、攻撃は射程が届く限り全て必中となる。
【クマクマパレードの良さ】を語ると、自身から半径レベルm内が、語りの内容を反映した【パレード】に変わる。この中では自身が物語の主人公となり、攻撃は射程が届く限り全て必中となる。
WIZ
クライマックスはクマクマキングの登場だクマ!!
10秒瞑想して、自身の記憶世界「【夢の国クマクマファンシー】」から【クマクマキング】を1体召喚する。[クマクマキング]はあなたと同等の強さで得意技を使って戦い、レベル秒後に消滅する。
10秒瞑想して、自身の記憶世界「【夢の国クマクマファンシー】」から【クマクマキング】を1体召喚する。[クマクマキング]はあなたと同等の強さで得意技を使って戦い、レベル秒後に消滅する。
潜入した√能力者達の警戒網が学園内に張り巡らされていく。
ただの一般人であれば何も気に止めるほどのことでもない、ほんの些細な緊張感。
しかし用意周到かつ慎重派な破蛇麻呂は、その緊張の糸が張り詰めていく音を敏感に察知していた。
「……むう。まさか早くも何者かが嗅ぎつけたでおじゃるか? 確証は持てないでおじゃるが、念には念を入れて早めに動いたほうが良さそうかの」
そう即決すると、蛇麻呂は学園の周囲に潜ませていた配下たちに司令を下す。
「クマクマパレード達よ、予定繰り上げでおじゃる。Anker反応がある者の下へと向かい、その周囲の子供ごとを誑かして我らが本拠地に|誘《いざな》うでおじゃる!」
司令が下った瞬間、学園の周囲に現れたのは無数のクマの着ぐるみ軍団。
着ぐるみ達はファンシーな見た目そのままに可愛らしく、しかし機械のように寸分たがわぬ挙動で体を震わせると、一斉に学園に向けて行進を開始した。
「くまっ♪ くまっ♪ くまっくまっくま♪」
どこからともなく鳴り響く賑やかなファンファーレ。
それ目にし、または耳にした子供たちは、クマ達の後を追いかけるようにふらふらと歩き始めるのであった。
しかし√能力者の中には、学園の周辺にも目を光らせ、奴らの暗躍を事前に察知していた者達がいた。
クマクマパレードの出現は直ちに√能力者たちに知らされ、その動向はリアルタイムで共有されることだろう。
どうやら奴らは学園中の様々な場所に向かって行進しているが、中でも小等部の階層に向かう一団が最も数が多い。どうやら『サイコブレイドが狙っていたAnkerは小等部にいる』ようだ。
またとある√能力者は囮を用意するという作戦を選んだ。その狙い通り、クマクマパレードの一部は囮の方へと引き寄せられているようだ。
そしてその他にも学園内に無数に罠を仕掛けた者や、またあるいは小等部の教室の傍に身を寄せて警戒を強めていた者もいる。事前の備えは万全と言えるだろう。
迫りくる怪人達を打倒し、学園祭の平和を守り抜くのだ!

海人親分(h00953)と
親分から変身ベルトを託されるなんて……これぞ我が世の春ってやつっす!
たしか「異変があったらすぐシャッターボタンを押せ」って言ってたっすね。
ヨシ!ばんばん異変を見つけるっすよ~。……お、早速あっちから賑やかな音が。たぶん異変っす。
いや、あれは……かわいいクマちゃんっす~♡
自分、最近クマちゃんのぬいぐるみとかにハマってるんすよね。これは追っかけるしかないっす!
……なんか大事な目的を忘れてるような……?
わあっ!王様クマちゃんまで出て来たっす!
クマちゃんの王様……きっとクマオウって名前っすね。
ちょうど手元にあったカメラ(※託された変身ベルトです)で、記念に一枚パシャリっす。

カナオ(h07809)と
カナオが変身ベルトのカメラ部分のシャッターを切ってくれさえすれば、√能力ですぐに駆け付けられる……。任せたぜ、カナオ。
うおっ!クマさん近っ!でもまあ、これは|シャッターチャンス《攻撃の好機》だな!
目の前に突然瞬間移動してきたことで面食らっているだろうクマクマキングに、がっちりと組みかかる。
クソ重い……けど、この程度……変身しなくても……!
力任せにクマクマキングを放り投げ、硬いアスファルトに叩きつける。
さあ、残りのクマさんも俺の[喧嘩殺法]で相手してやるぜ!
ありがとな、カナオ。おかげでクマクマキングの不意を衝けた。
え?クマさん一体だけでも持って帰りたい?いや、ダメだろ。
楽しげな音楽で子供たちを誑かすクマクマパレード。
奴らが出現した瞬間より、時はわずかに遡り。
カナオはルンルン気分で学園祭を巡っていた。彼の手に握られているのは 海人がヒーローとして戦う為に必要不可欠な|変身ベルト《フォトシューティングバックル》だ。
「親分から変身ベルトを託されるなんて……これぞ我が世の春ってやつっす!」
|海人《親分》の力の象徴を預かったという事は、それ即ち尊敬する人に命を預けられるほど信頼を寄せてもらっている事と同義。腰巾着冥利に尽きるというものなのだろう。
カナオはカメラ型の変身ベルトを見つめると、それを大切に胸に抱えこんだ。
「たしか、異変があったらすぐシャッターボタンを押せって言ってたっすね。ヨシ! ばんばん異変を見つけるっすよ~」
そしてカナオは飛び上がりそうになる気持ちをぐっと堪え、キョロキョロと辺りを見渡す。
と、その時。
「くまっ♪ くまっ♪ Ankerを目指すっくま♪」
「くまっ♪ くまっ♪」
「Ankerどこっくま♪」
耳に飛び込んできた愉快な歌声。
子供たちを引き連れて現れたクマクマパレードの一群が奏でる行進曲だ。
「あれが親分の言ってた異変? いや、あれは……かわいいクマちゃんっす~♡」
実はクマのぬいぐるみ集めが最近のカナオのマイブーム。
ワイルドな男に憧れている事を公言しているカナオにとっては可愛すぎる趣味故に、普段はなかなか表に出してこなかったが、しかし、『好き』の気持ちに嘘をつけないのもまた彼であった。
「これは追っかけるしかないっす!」
思わず反射的にパレードに追従してしまうカナオ。何か大事な目的を記憶の彼方に吹き飛ばした気もするが……。
一方、蛇麻呂の命によりAnker反応を追って校内を練り歩いていたクマクマパレード達は、ふと後ろを振り返ってびっくり仰天。
なにせ探せと言われていた反応を持つ者が、探すまでもなくいつのまにか自分達のパレードに加わっていたのだ。
「わーっ! もういるクマっ!」
「クマの誘惑|力《ぢから》も捨てたもんじゃないクマね~」
心なしかどこか嬉しそうなクマ達。
そのままこの可愛い気のあるAnkerも連れ帰りたい衝動に駆られるが、しかし司令は絶対。
彼らはAnkerを抹殺すべく瞑想すると、夢の国より来たりし巨大なクマの王――クマクマキングを召喚した。
「わあっ! 王様クマちゃんまで出て来たっす! クマちゃんの王様……きっとクマオウって名前っすね」
それを見たカナオはテンション最高潮。
さりとて他の生徒たち同様に誘惑されて自我を失っているわけでもないカナオは、とにかく今を楽しむべく行動を開始した。
「そういえば、自分は今カメラを持ってたっすね! 記念に1枚パシャリっす!」
現れたクマオウ(勝手に命名)は僥倖な事に自分に向けて目線を送ってくれている。このチャンスを逃すものかと急いでシャッターを切り……。
瞬間、世界を渡る光が校舎内を駆け抜けた。
「うおっ!? クマさん近っ!」
√能力『|フィルム・アクセプター ポライズ 参上!《サモンヒーロー》』によってクマクマキングの眼前に降り立ったのは空知・海人。
√能力者の唐突な登場にまたもびっくり仰天するクマクマパレードの面々だったが、それは海人も同じ。まさか、いきなりこんなギリギリの場面に呼び出されると思ってもいなかったのだ。
「でもまあ、これは|攻撃の好機《シャッターチャンス》だな!」
しかし海人もさすがのヒーロー。
状況を即座に理解すると、生身のまま恐れること無くクマクマキングに掴みかかった。
「クソ重い……けど、この程度……変身しなくても……!」
廊下を踏みしめ一気に力を爆発させると、なんとクマクマキングの巨体が宙に浮く。
「どおおおりゃあああ!!」
そして気合の掛け声と共に勢いよく背負投げ。受け身を取る暇もなく地面に叩きつけられたクマクマキングは目を回しながら消滅するのだった。
「ああっクマオウ様が! って親分、どうしてここに!?」
「異変が起こったらすぐにシャッターを切れって言ったろ!」
駆け寄ってくるカナオのリアクションから、どうやら自分とカメラのことはすっかり忘れられていたらしい事を海人はなんとなく察する。
だがそのお蔭で強敵の不意をつくことが出来たのだから結果オーライか、と海人は怒りの矛を収め、彼は大切なAnkerの頭をクシャッと撫でた。
「ありがとな、カナオ。さあ、他の生徒を連れて安全なところまで逃げるんだ。奴らの相手は俺がする」
そう言ってクマクマパレードに向き直る海人の目は、既に戦士のもの。
クマクマパレードはなおも愛嬌のある表情を浮かべていたが、その所作からは獰猛な獣の野生を感じる。
それに対し海人はラフな喧嘩殺法の構えで対峙すると、先手必勝とばかりに勢い任せに飛びかかった。
「わ、分かったっす! あ、でもクマさんにあまり乱暴なことしちゃだめっすよ。あと、できれば一体持って帰りたいっす!」
「いや、そりゃだめだろ!」
そして海人は力強いツッコミと共に、眼前のクマ目掛けて渾身のソバットを叩き込むのであった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

なんか可愛いクマのぬいぐるみが来た!
小等部の子供なら着いていっちゃうのも仕方ないくらい……まぁ私も子供だけど。
でも敵の手先なのは分かってるんだもん、騙されないよ。
それを知ってるとこの可愛さが邪悪なモノに見えてきちゃう。
まずは普通の子供たちに混ざってふらふら着いていこう。
狂気耐性があるから本当に誘き寄せられたりはしない……はず。
後は人が少ない所に行くのを待って、まずレイブンズに牽制攻撃させてそっちに気を引こう。
まずはパレードの良さをなるべく語らせないようにしたいな。
上手く場を整えられたら猫神を呼んで攻撃!
空間引き寄せ能力で、子供達と敵の距離を開けつつ戦うよ!
「現れたみたい……」
屋外を警戒していた仲間から、不審な着ぐるみ軍団の報せを受けた|志選《しぇーら》。
彼女が今いるのは小等部の教室がある1階の廊下。
とその時、視線を巡らせ警戒を強める|志選《しぇーら》の耳に届いたのはなにやら軽快な歌声。
「くまっくま~♪」
「この歌は……どこかのクラスが合唱してるわけじゃ、なさそうだよね」
歌声が聞こえるのは廊下の曲がり角の更に先。下駄箱の方から響いてくるその愉快なメロディは少しずつ大きくなってくる。
そして。
「クマーっ!」
(なんか可愛いクマのぬいぐるみが来た!)
曲がり角から現れたのは、つぶらな瞳とモコモコの毛並みを持つ、大人の背丈よりも更に大きいクマの着ぐるみ。それも1体や2体ではない。
「1階は特にAnkerの反応が強いクマ!」
「でも誰がAnkerかは蛇麻呂様にしか分からないっクマ~!」
「手分けして片っ端から連れていっクマ! 蛇麻呂様に一人ひとり確かめてもらうっクマ!」
「僕らはあっちに向かうクマ! クマックマ~♪」
メロディに乗せてそんな言葉を交わしながら廊下を進むクマクマパレードたち。
「わー! クマちゃんだー! 待ってー!」
「クマックマ~♪」
その姿は異様ながら、子供心に直接訴える魔力のような物があるのだろう。廊下や教室に屯していた子供たちは歓声を上げながら駆け寄って行き、パレードはあっという間に長蛇の列に変わった。
(う、うん、たしかに可愛い。小等部の子供なら着いていっちゃうのも仕方ないくらい……まぁ私も子供だけど)
その光景を眺めながら、|志選《しぇーら》は自分もあのパレードに付いて行きたいという衝動が胸の内から湧いてくるのを感じていた。
(でも敵の手先なのは分かってるんだもん、騙されないよ。それを知ってるとこの可愛さが邪悪なモノに見えてきちゃう)
少しずつ子供たちの精神を狂わせながら列を伸ばしていくクマクマパレード。
初めて見る簒奪者の脅威に対しても臆すること無く、|志選《しぇーら》は静かな怒りを燃やしていた。
(でも、廊下だと狭くて他の子達も戦いに巻き込んじゃう。こ、ここは私もあいつらに誘惑されたふりをして……)
「~~っ! く、クマックマ~♪」
そして|志選《しぇーら》は意を決すると、奴らの歌を復唱しながらパレードの中へと飛び込むのであった。
1階を練り歩くクマクマパレード。
その間にも列はどんどん伸びていき、遂にその人数は100を優に超え始めた。
(これだけ人数がいれば少しくらい変な動きをしても不審には思われないはず。それに、この先には……)
パレードが向かう先。その廊下の脇には中庭への通用口があることを事前の校内探索で把握していた|志選《しぇーら》は、遂に動くことを決意した。
(お姉さん、力を貸して!)
念波で指示を飛ばしたのは|志選《しぇーら》の協力者である謎のお姉さんから授かった|レイブンズ《2体の鴉型ドローン》。
司令を受け取ったレイブンズは待機していた中庭から即座に飛び立ち、窓ガラスを突き破ってクマクマパレードに奇襲をしかけた。
「クマッ!? なにごとクマ!!」
着ぐるみの上を機敏に旋回しながら、その頭を鋭利な鈎爪で引っ掻くレイブンズ。
その隙に|志選《しぇーら》は通用口を通って中庭に脱すると、√能力『憑神九魂儀』を発動させた。
「皆から離れて!」
猫神と融合した|志選《しぇーら》の手が次元を超えてクマ達の腕を掴み、思いっきり引っ張る。
すると次の瞬間には、奴らは空間を引き寄せる能力により瞬きする間もなく中庭の芝生へと引きずり倒されていた。
「皆に怖い思いをさせるなんて、絶対に絶対に許さない。私が、私が皆を守ります!」
子供の身であっても|志選《しぇーら》は戦う力を持つ者の宿命から逃げたりはしない。むしろ堂々とクマクマパレードに向けて啖呵を切れば、彼女の頭部にいつの間にか生えていた猫耳がブワッと逆立った。
「ひっ! まさか子供の中に√能力者が紛れ……クマァッ!?」
最後まで言葉を口にする暇もなく、1体のクマが更なる空間引き寄せの先に待っていた猫爪によって引き裂かれる。
そして鋭利な爪を持つ猫の手へと変化した両手を振り上げながら、|志選《しぇーら》はクマクマパレードに向けて飛びかかった。
更にはレイブンズたちも彼女の奮戦に応えるように合流し、芝生にはたちまち白い中綿が飛び散るのであった。
🔵🔵🔵 大成功

アドリブ・アレンジ歓迎
【琴瑟】
へぇカワイイ熊さん達か
これなら、戦う必要すらないんじゃない?
こうすればさ……
そんなことないよ気のせい気のせい!
全体作戦としてパレード熊さんに学生として近づき、毒で認識を歪めてパレードを乗っ取り、学生達を長めの催し物に誘導します
その時間分だけ連れ去られないようにします
余裕があれば繰り返しつつ目的地を分散させて保護していきます
用が終わった熊さんたちは毒で眠ってもらいます
榴が誘導なら僕は後始末かな
箱水母、頼むよ
パレードに途中から混ざって後ろから箱水母に神経毒を注入させ幻覚を見せる
後は順次毒を注入して誘導する
なんとか誘導できたね。
榴もお疲れ様
(そう言ってジュースを渡した)

アドリブ・アレンジ歓迎。
【琴瑟】
心情
……相変わらず、僕に…負担、多くありませんか!?
…身長的…僕、小等部でも…これ、行けそうなんですが…
…ですので…混ざるのが容易い…(凹)
…さて、熊さん此方…手の鳴る方へ…
行動
事前に、小等部から体育館(又は大きな催し物をしてるスペース)への道を覚える。
小等部の子供達に混ざる。
僕の【侵食と融合と拒絶】で、任意の場所にインビジブル達を配置できます。
予定の場所に、√能力を使用しながら|移動《誘導》する。
この際、散布する毒は幻惑系の毒で、後遺症等は残りません。
辰巳様の作戦で、熊さんも子供達も安全に移動させれるはずです。
一応攻撃を喰らった際は、直ぐにインビジブル融合を。
いち早くクマクマパレードの存在に気づき、その行動に目を光らせていた榴と辰巳。
校内に散っていた仲間に状況報告を終えた2人は、パレードが校舎内に入っていく様子を眺めながら密かに作戦を練り上げていた。
「へぇ、カワイイ熊さん達か」
クマクマパレードの姿は一見すると脅威度はそこまで高くないに見える。子供を誘惑し連れ去るという能力からもおそらく戦闘向けの怪人ではないのだろう、と辰巳は分析を進めていた。
「うん、作戦が決まったよ。これなら、戦う必要すらないんじゃない?」
こうすればさ……と、辰巳はその場に手を掲げ、小さく祝詞を紡ぐ。
「贄たる我が声が聴こえるのなら、その雍護を行使して……」
すると彼の前に出現したのは半透明の触手を持つインビジブル『|箱水母《ハコクラゲ》』。
「箱水母には様々な毒素を調合する力がある。僕はこれからその力で幻惑系の毒を作るから、榴はパレードの中に忍び込んで、誘惑された子供たちの認識をその毒で上書きしてきてもらえないかな?」
「……相変わらず、僕に……負担、多くありませんか!?」
また自分が現場での実行役かと榴はジトリとした眼差しを辰巳に向ける。
「そんなことないよ気のせい気のせい!」
しかし辰巳はどこ吹く風。
彼が手際よく箱水母たちに指示を飛ばせば、幻惑の毒素を蓄えた水母たちはその身を空気に溶け込ませるようにしながら校舎内へと散っていった。
「さあ、賽は投げられたよ。後はよろしく」
「……僕は、匙を投げたい気分です……」
とはいえ始まってしまったものは仕方ない。
榴は箱水母の後を追って校内を進み、先んじて侵入していたクマクマパレードの一団を発見する。
(……既に子供たちを、たくさん引き連れていますね……なら、まずはあの中に紛れるとしましょうか……。……幸い身長的……僕なら、小等部でも……ですので……混ざるのが容易い……)
その小柄な背丈を活かし、誘惑された子供のようなフラフラとした足取りでパレードに合流する榴。事前に学園の制服を仕入れていたことも幸いしたのか、その行動に疑問を抱くクマ怪人は1体もいなかった。
(……本当に、成功してしまいました……疑われもせず……)
若干のショックを受けつつも、榴は周囲に眼を走らせる。そして先程辰巳が校内にばらまいた箱水母の姿を確認し。
「……贄たる我が声が聴こえるのなら、この身を入れ替えて……」
小さく呟くのは辰巳と対になる祝詞。
すると彼女の体は瞬時に掻き消え、その場に残るのは居場所を交換された箱水母。
箱水母は素早く触手を伸ばすと、パレードに誘われた子供たちに次々と幻惑の毒素を注入していく。
「クマっ!? 子供たちが勝手にパレードから離れて!」
「どこに行くクマー!」
先程までは自分たちが先導していたのに、今度はクマ怪人達が勝手に離れていく子供たちの行列を追うことになるという逆転現象。
その様子を背後の物陰から確認しながら、辰巳は静かにほくそ笑んだ。
(生徒たちはこれから体育館で全クラス合同の合唱コンクールに出なければならない。そういう風に洗脳を上書きさせてもらったよ。これで子供たちはコンクールが終わるまで体育館から出ようとはしなくなるはず……)
クマクマパレードが破蛇麻呂から受けた司令は子供たちを攫うこと。ならば子供たちに直接的な危害を加えるようなことはしない筈だと読んだ辰巳は、誘拐の妨害を第一の目標に据えて作戦を立案していた。
現状では時間を稼ぐことしか出来ないが、逆を言えば時間さえあればどうとでもなる。あとは隙を見て忍び寄り、ゆっくりとクマ怪人に神経毒を注入して回れば後始末は完璧だ。
「……ただいま、もどりました……なんとか、バレずに潜入完了……。……多分、瀬戸際でした……」
「……うん、おかえり。おかげで上手く誘導できたよ。榴もお疲れ様」
何か言いたげな榴に対し“優しい”笑みを向け、冷たいジュースを手渡す辰巳。
「さあ、この調子で他のパレードも誘導してしまおうか。学園祭をこれ以上中断させるわけにはいかないよ」
「……やっぱり……人使い、荒いです!」
しかし榴は学園に訪れた当初から、いやその前の準備段階の時から、辰巳がこの学園の生徒たちの時間を大切にしていることは感じ取っていた。
今だって生徒たちに魅せている幻覚は、さも学園祭が通常通り続いているような設定のもの。
生徒たちの楽しい時間を奪わせない。そのためなら辰巳は毒素の調合がどれだけ複雑なろうとその労力は惜しまないのだ。
そんな彼の想いを察してか、榴もそれ以上の泣き言はいわない。ジュースと共に一気に飲み下すと、気合を込め直すように小さく頷くのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功