シナリオ

這いずり回れ、スカベンジャー

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 ぐちゃぐちゃになっている、考えられる筈がない。
 無知を罪とするならば――盲目を罪とするならば――この無聊こそが罰なのだと、早々に、|吸血鬼《おんな》は嗤って魅せる事にした。今日も、昨日も、明日も、明後日も、女のまわりはいつだって幸せで、からからと、木乃伊としての生とやらを享受し尽くしている。尽くしていたのだ、転がっていたのだ、故に、転がり落ちていく事だって本望とも解せよう。いや、仮に、だ。仮に、この世こそが異質なのだとしたならば、如何か。美徳こそを鏡とするなど、やはり、しっかりと映らない方が気楽なのではなかろうか。もっとも、吸血鬼、オマエはオマエの美しさについて、骨の髄までも理解できているのだが……。ふふ~……ナイショよ、ナイショ。お兄様にはもちろん、誰にも、教えてあげないの。教えてあげるとしたなら、そうね、それはきっと、私みたいな性格をしていないと、ダメなのだと思うのよぉ。くるくる、くるくる、まるで夜空を往く蝙蝠のように。街へと繰り出していく姿は霧のように。あら……? さて、軽度の振盪の最中に見つけたのは、大きな、大きな、鵺であった。鵺は如何やら人のカタチを倣っており、文字通りに、似た者同士な気配を孕んでいたのだ。今日は……あの方にしましょう。いいえ、今日は……あの方が『良い』のかしらぁ? 凭れかかるように、触れるように、ご挨拶よりも素早く――百舌を彷彿とさせる妖艶さで。御機嫌よう、お兄さん? 今はお帰りのところでしたかぁ? しこたま酒気にやられた女のように、酩酊、魔物のように熱っぽく。さて、魔物というべきはおそらく、男の方もそうであった。おいしいものに不可欠なのは食器の方だ、そうだろう?
 ある種の退屈とやらに苛まれ――泥濘のような血流に色を求め――今更ながら、怪人は装飾品のような己に無明さを覚えていた。鵺のように正体不明だと、イヌネコトリケモノだと、表現をされてしまう我が身とやらに、さて、何処まで『我が身可愛さ』ができると謂うのか。兎にも角にもウェットは死に絶え、徐々に、徐々に、ドライさへと傾倒していく。何処かの天使であれば、掻っ攫った誰かさんであれば、きっと、何かを察してくれるのかもしれないが、精々、「おもしろ」がない事への愚痴にすぎない。そもそも、街へと身投げをしたのも早贄をするのか、されるのかの、何方かの為なのだ。いっそ梟みたいに、悪辣みたいに、賢しらに振る舞ってやれたならば良かったのかもしれないが、それを知ったところで【メルクリウス】は嗤えない。嗤えないのならば、啼けないのならば、それこそ、舞台を整えてやる必要があった。踊っているのか、巣作りをしているのか、結局のところは――怪異のように蠢いてやるのが一番か。声を掛けられたのか、杖の代わりとされたのか、嗚呼、眩暈。暴力的な花の馥郁とやらに、心地の良い距離感を突き付けられた。……ご機嫌よう。怪人を見上げているお嬢さん。吸血鬼を見下ろしている益荒男。このような運命に、このような偶然に、頭を抱えていそうなのは、きっとヘーラーくらいである。「同じ川に入ることは二度とできない」――故に、この冷たさを現、舐り尽くすのがマナーとも思えた。私、遊ぶ予定だったお友達が来れなくなっちゃって。少し時間を持て余しているの。嘘吐きだ。我ながら、嘘吐きだとは思う。だけれども、こういう嘘の方が、皆、乗り気になってくれるのだ。……暇つぶしの相手でもお探しかね。お綺麗な方の誘いを、可愛らしい女性の誘いを、断るような、無粋な獣ではないさ。面を合わせた時点でお似合いなのだ。お似合いで、何より、狂っているほどに、機械仕掛けなのだ。私……話|は《●》早い方って好きよぉ。
 紳士的に見せかけるも何も――レディに譲る気持ちはあれども――怪人、その本質は大罪であった。珍しい事も『ある』ものだと、じっと、宝石のようなふたつを観察していく。いいや、観察をしていたと、過去形として描写をした方が正しいのかもしれない。何故ならば、最早、其処に双眸とやらは、跡すらも残されていなかったのだ。代わりにやってきたのは小さな、小さな、じんわりとした痛痒。首筋を齧られていた、そうやって、把握したのは数秒後の沙汰であろうか。……わたくしの『それ』をお望みとは……。警戒はしていた。ほんのりとした、一応の警戒だった。そういう雰囲気を孕んでいたのだし、抗ってやる事だって可能なのだが。いや、まさか、わたくしは……これを、歓迎していたのではないか。久方振りの「おもしろ」い情念。成程、酒の泉へと脳天から沈むかのような……溺死一歩手前こそ心地が良いのかもしれない。あ……あら? あなたの血って、普通の方のものと違うのねぇ。素敵な銀色! 牙が、舌が、銀色にやられている。これが所謂、俗的な「映え」なのだろうか。月の光は見えないけれども、銀色に吸血鬼。ああ、それにしても、この相性の悪さが妖艶さを、冒涜を、増幅させてくれるものだ。もしかして、普通の“ヒト”ではないのかしらぁ? 転がしているのか、転がされているのか、舌の上での最後の晩餐。あまり味はしないけれど、咽喉が粘ついているのだけれど、頂けるのだから頂いておきましょう。私、珍しいものってだぁいすき! ねえ、あなたも、私とおんなじでしょぉ? 見透かされている。定められている。ギラギラ、ふるふる、吸血鬼の瞳が震えている。酒の泉ではなく辰砂の沼であった。啜り、舐り、嚥下し、昂揚し――零落するノスフェラトゥ――。
 あ……あら……? 膨れ上がった目眩、眩暈、津波の如くに押し寄せてきた。流水を渡ろうとした結果が、招かれざる結果が、この、転倒であった。視界が……ぐるぐる……揺れて……? 口腔から、蓋にすらなれない唇から、嚥下できなかった水銀がこぼれる。咄嗟に、口元を押さえようと試みたが――如何やら、身体が謂う事を聞いてくれない。手が、震えて……なんだか、頭の中が、軽くなったように……ふわふわ……。宇宙空間、呼吸を気にせずにくるくると踊っているかのような不安定さ。獣に、首輪を付けられたのかと錯覚するほどの逆転の具合。……悪い気はしないわ、意識がとおーくなるみたい。神に縋っているのか、怪異にしがみついているのか、怪人に頭を委ねているのか、オフィーリアよりも艶めかしく。……お礼は、するわぁ……。輪郭すらもわからない。自分が何処に居るのかもわからない。それでも、はだけるように、無明は|無明《●●》の幸せを貫き通してやったのだ。……すきにして、いい、わ……よぉ……? 元から冷たかったと謂うのに冷たくなった。死んでも、死んでも、お家には帰れる。こんなにも便利なシステム、使わないなんて勿体ない。
 鵺を、イヌネコトリケモノを、味見していた女の死体。目眩にやられているのは、眩暈にやられているのは、嗚呼、わたくしも『おんなじ』なのだと、如何して伝えてやる必要があるのか。結局、好きにしていい、なんて宣うのだから『好きにされる』のは道理なのだろう。処理……死体の処理……その前に、処理すべきものが存在しているのではなかろうか。振り回されたのだ、引っかけられたのだ、ならば、装飾品は装飾品らしく――欲望の象徴として――問題など何処にも無いと、啼いてやれば良い。今度は無明が喰われる番。スカベンジャーを銜えてくれ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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