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雪華荘の夏休み―海と花火と香る煙

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 夏の日差しが輝きと眩しさを増し始める、朝の雪華荘。
「じゃ、行こうかねぇ。夏ってやつを、楽しみにさ」
 細雪・紫苑が車のドアをパタンと閉めてニヤリと笑う。綺麗に洗車された大型ワゴン車に、荷物と住人たちがぎゅうぎゅうに乗り込んでいく。

 ――思い返せば前日。
「叔父さん、今年の水着はビキニが流行なんですって。千葉の海水浴場なら見放題かもですよ」
「……なんだって?」
 甥っ子である細雪・真白に唆され、二つ返事で送迎を引き受けたのだった。
(別にやましい気持ちは無い、流行を確かめたいだけ……いや、あるな。あるに決まってるな)
 と心の中でごまかしつつ、今こうしてハンドルを握っている。

 助手席には志藤・遙斗。運転する大家――紫苑に目をやって、控えめに口を開く。
「車を出していただいてありがとうございます。もしお疲れになったら、途中で代わりますから」
「若いのが気を遣うと、おじさんは張り切っちゃうなぁ。ま、無理はしないようにするよ」
 軽口を交えた大人同士の会話。その後ろの座席は、既にわいわいと盛り上がっていた。
「海だぜ~! 地球の青い部分だぜ~☆」
 両手を突き上げて叫んだのは物部・武正。助手席の背もたれをポンポンと叩きながら、真白の履く水色のビーチサンダルを指さす。
「いいね~! 足元も海意識してんじゃーん☆」
「えへへ、似合ってるかな?」
 真白は照れくさそうに笑って、パーカーの袖をぎゅっと握る。

「……あの。煙草、買ってきてもらえますか」
 車がパーキングに入ると、遙斗がぼそっと武正に目配せした。
「ウェ~イ☆ お任せあれだぜ~!」
 武正は小走りで売店へ。三分後、戻って来るなり派手な袋からカートンで煙草を差し出す。
「はいよ!」
「いや多いな!?」
「カートンて!」「一泊だよね?」「吸い尽くす気か?」
 一同から一斉にツッコミが飛ぶが、しかし当の遙斗は無言で受け取り、膝に袋を乗せる。真顔。
(……あ、本気で吸うやつだ)
(わりと洒落になってねえな)
 そんな視線がちらほらと遙斗のカートンへ注がれる。
 後方では、壱藤・三鷹が笑顔でぼそり。
「煙草の話題だけでここまで盛り上がれるとは、さすがですねえ~」
 そして、車は再び海へと向けて走り出す。道の先には夏のはじまりを告げる、青空が広がっていた――。


 千葉の内房、某海水浴場。賑わう浜辺を横目に、雪華荘の一行は海の家へと到着した。

「真白君、来てくれたのかい。助かるよ」
 出迎えたのは海の家の店主、真白の祖父母の友人だという年配の男性。
「お久しぶりです、よろしくお願いします」
 慣れた様子で頭を下げる真白。
「今日は僕の住んでいるアパートの皆さんにお手伝いをお願いしました」
 人懐っこい声で住人たちを紹介して回る姿に、店主もにっこりと頷いた。
「では早速、厨房と配膳に分かれてお願いします。給仕は任せてくださいね」
「喫茶店のバイト、だっけ?」
 そんな真白に声を掛けてきた紫苑の手には、既に塩ゆでの枝豆が。
「デカい車と人様乗せた運転は神経使うねぇ。……お仕事は若い子達に任せて、あ、ビールくださぁい!」
「大家さん!?」
 真白の小言が飛ぶが、運転疲れたーとわざとらしくぼやく紫苑は、枝豆をつまんですでに上機嫌である。

 真白はエプロンを締め直し、背筋を伸ばしすぎるくらいの所作で客席へ。
「いらっしゃいませ、本日はご来店ありがとうございます」
 ビシリと揃えられた両手の指先。優美な一礼によるお出迎え。海の家に執事が降臨してしまった――!
「んも~管理人サン、やりすぎじゃね?」
「でもまあ、悪いことではないですよねえ~。お客さんも嬉しそうですし」
 ニヤリとしつつの武正の囁きに、三鷹がのんびりと返す。

 こうして海の家での奮闘が幕を開ける。真白の真剣さ、武正のノリ、紫苑のユルさ――三者三様の姿に、店主も目を丸くしながら「……賑やかな助っ人が来てくれたなぁ」と呟いたのだった。


 昼下がり。照りつける日差しと共に、客足はさらに増していく。
「焼きそば二つに、かき氷三つ追加でー!」
「ウェ~イ! 承ったぜ~☆」
 武正は汗だくになりながらもノリノリで注文を受け、威勢の良い声を響かせていた。

「いらっしゃいませ、本日はありがとうございます」
 真白は変わらず執事のように一礼。少し肩が上がりすぎているのはご愛嬌だ。
「……やっぱり過剰じゃない?」
「ああいう誠実さは悪くないですよ~」
 三鷹の柔らかな言葉に、武正は「確かに☆」と笑って追加の皿を抱えて走る。

 一方、紫苑はじっとビーチを見ている。黄昏て――は居ない、なんせ視線の先は浜辺のキャッピキャピなビキニの女の子たち! 「デヘヘ」とでも擬音が付きそうな、緩みきった表情である。
「叔父さん! 仕事してください!」
「してるさ、真白くん。ほら、応援だよ。がんばれー!」
 軽口の裏で手にはビール。すっかりご満悦の大家さん。――真白による財布没収まで、残り10秒。
 しかし、没収したとて彼はへこたれないだろう。なんたって今回助っ人に駆けつけた雪華荘の一行は美形揃い。女性客が増え始めている事で、店主からこっそりと袖の下を収賄しているのだ。――|遙斗《カミガリ》さんコイツです。

 その頃、厨房の奥では國崎・氷海風が真剣な表情で鉄板を覗き込んでいた。
「へぇ~、こういう焼き方なんだねぇ。勉強になるよォ。……スパイスは少し効かせても大丈夫かな?」
「好きにやっとけ。客がうめェって言やァ、俺様たちの勝ちだ」
 ニヤリと口端を上げるのは、厨房に入ったトパーズ・ラシダスだ。腕を組み、食い入るように鉄板を見張っている。
「はァ……こういう細かい作業は性に合わねェな。おいタッケ、配膳サボってンじゃねーぞ!」
「サボってねぇぜ~☆ 今ちょうど休憩ってやつだヨン!」
 配膳から逃げてきた武正に鋭いツッコミ。

「いやぁ……俺も少し休みたいところですね」
 裏口から顔を覗かせたのは遙斗。笑顔を浮かべながらも、手にはしっかりとタバコが。
「ちょっと裏の様子を確認していただけで……今から戻ろうと思っていたんですよ?」
「カートン抱えて裏に行くのは確認じゃなくてガチ喫煙だろ!」
 トパーズの鋭い突っ込みに、厨房の面々は一斉に苦笑した。

 海の家の外では、真白がひたむきに客を案内している。
「こちらの席にどうぞ。枝豆はサービスです」
「おおっ、ありがてぇな」
 その様子を遠目に眺めながら、氷海風が肩をすくめた。
「まぁ、ああやって真面目に働くのも人間らしいけど……サボるのもまた人間らしくていいと思うよォ」

 笑顔とツッコミとユルさが入り混じる海の家。それぞれの個性が、忙しさの中でにじみ出てくる。
 真白・武正・紫苑の三者三様に加え、氷海風・遙斗・トパーズの色が少しずつ濃く混ざり始め――海の家はますます賑やかさを増していく。


 ガラッ――厨房ののれんをくぐったトパーズは、数歩の間で空気を変えた。
「ぃらっしゃいやせーっ☆ 海の家、元気に営業中ッスよぉ~!」
 まさに別人である。それまでしかめっ面で腕を組んでいた青年が、今や爽やかな笑顔でトレーを抱え、店先を軽やかに駆ける。
 キラキラと光る笑顔、まっすぐな接客ボイス。客からの「カッコいい!」「爽やか!」の声に、演技とはいえトパーズはきっちり笑顔で応じていた。

(トパさんが珍しく……というか、初めて? 笑顔……)
 三鷹は手元のコップを拭きながら、ちらりと横目で見やる。
(普段からその顔だと印象も変わるのですけどねえ~。もったいないなあ~……ま、口には出しませんけど)
 思わずにやけそうになるのを抑えて、静かにおしぼりを畳み続ける。

「いやー、今日のトパちゃんはひと味違うぜ~☆」
 厨房の入口に戻ったトパーズを、早速武正がニヤニヤと肘で小突く。――と、トパーズの笑顔がぴたりと固まる。
「うっせーぞタッケ。仕事中だッつってんだろ」
「お、おう……さーせん☆」
 口元は笑ったまま、目だけが本気。そんなドスの利いた圧をチャラりと流すあたり、流石の武正の対応力である。

 一方、厨房前を行き交う客たちは、次々とトパーズの笑顔に釘付けになっていた。
「かっこいいお兄さん」「笑顔がステキ!」
 中には写真を撮りたいという声まで飛ぶ始末。

「……ったく、キャラ違うっつの……」
 ぼやきつつも、トレーを抱えてまた笑顔で外へ向かうトパーズ。
 その後ろ姿に、三鷹がそっと呟いた。
「……でもまぁ、トパさんが笑ってると、いいことが起こりそうな気がしますよねえ~」


 海の家の営業が終わり、日も傾き始める頃。
 砂浜の一角に手際よく組み上げられたバーベキューセットが並んだ。潮風をまとった空気に、肉と海鮮の香ばしい匂いが漂い始める。

「今日は皆さん、お疲れさまでした! 売り上げが良かったとのことで、海の家の方から食材をたくさんいただきました!」
 真白が嬉しそうに声を張る。青い瞳を輝かせ、箱の中から分厚い肉や殻付きホタテを取り出した。
「お肉も海鮮も、たっぷりですよー!」

 蓋を開けた瞬間、豪勢なラインナップに歓声が上がる。
 和牛のサーロイン、分厚いカルビ、タレに漬け込まれた鶏肉の山。さらに新鮮な大アサリ、ホタテの殻焼き、車エビにイカ、トウモロコシやパプリカなどの彩り野菜。
 まだ焼く前だというのに、旨そうな香りが漂ってくるようだ。

「こういうのは俺に任せてくださいね」
 火起こしを引き受けたのは遙斗だ。うちわを巧みに操り、炭の赤が徐々に熾き始める。
「さすが遙斗さん、手際がいいなぁ」
 三鷹がにこやかに声をかけると、遙斗はにっこり笑いながらも煙の向こうでタバコを咥えた。
「……まぁ、俺が一本吸ってる間に、炭もちょうどいい頃合いになりますよ」
 軽く片目を瞑りつつ言い訳めかし、うちわを扇ぎ直す。

「んじゃ、焼くかァ!」
 武正がノリよくトングを構えた。その瞬間、三鷹の眼差しが僅かに変わる。
 のんびりした笑みは影を潜め、眼光が鋭く炭火を射抜いた。
「……トングをお貸しくださいませ」
 声もまた違っていた。柔らかな調子ではなく、張りのある低音。礼儀を纏いながらも、何処か冷徹な響きがある。
 三鷹――否、四扇は無駄のない動作で牛脂を網に走らせた。
「火力がまだ安定しておりません。まずは油を均し、炎の勢いを均一に調整いたしましょう」
 トングを操る手は一切の迷いがなく、動きそのものが武術の型のように研ぎ澄まされている。

 分厚い肉を網の中央へと置くと、じゅうっと力強い音が弾けた。
「厚切りの肉は表面を一気に焼き締め、中に旨味を封じ込めるのでございます。……野菜類は外側で炙る程度にいたしましょう」
 その声音は淡々としていながらも、逆らえぬ威圧を帯びていた。手首を返し、がりがりと粗削りの岩塩を振りかける。炭火に脂が落ち、塩の香ばしさが立ちのぼった。周囲がぽかんと口を開ける中、四扇は無駄なく肉を返していく。
 まるで戦場で剣を振るう指揮官が、淡々と兵を裁くかのようだ。

「……え、なにこれ。三鷹さん、めっちゃキリッとしてね?」
 武正が目を丸くし、トパーズも腕を組んで唸る。
「バーベキューでスイッチ入るタイプだったか?」

「……えぇと、仕事(?)は真面目にやる性格なので~」
 いつもの雰囲気に戻った三鷹が皿に移した肉は、表面が香ばしく焼かれ、中はじわりと赤身の旨味が滴っていた。
 ひと口かじった瞬間、溶け出した肉汁が口いっぱいに広がり、思わず武正が声を上げる。
「うまっ! バーベキュー最高~☆」

「ふふ……壱藤さんって、ワイルドな料理が得意なんだねぇ」
 紫苑はビールを傾け、にやにやと笑う。

 真白は慌ただしく皿を配りながら、嬉しそうに頷いた。
「はいはい、順番にどうぞ。まだまだたくさんありますからね!」


 肉と海鮮を食べ尽くした後、砂浜には火の粉を散らすもう一つの宴が始まっていた。
 花火の箱がどん、と置かれると、武正が目を輝かせて駆け寄る。

「キャーッ! ちょっ、これ持ったら手が焼けちゃうぜ~!」
 火をつけられた花火を恐る恐る掲げる。吹き出す火花がじりじりと下がって来るのを見て、肩をすくめて後ずさる。
「落ちる! 落ちるって! 文明コワいぜ~!」

 しかし数秒後、花火が色を変えながら持ち手を残して燃え尽きると、武正は一変した。
「なにこれイケてる~☆ 文明チャラいぜ~!」
 誰よりもテンション高く、両手で花火を振り回して踊り出す。

「……楽しそうだな」
 トパーズは腕を組んで眺めていたが、氷海風に火のついた花火を手渡される。
「ほらトパーズ君も。こういうのは実際にやらなきゃ分からないよォ?」
「はァ? ……ったく、しょうがねェな」
 渋々受け取ったはずが、隣で真白や武正が笑い声を上げるのを見て、つい口元が緩む。
「……キシシ。バカみてェに楽しそうだな、オマエら」
 言葉とは裏腹に、自分の火花にも目を細めていた。

 その暫く後。砂浜の端では、紫苑と遙斗、それに先程トパーズに花火を渡した氷海風が、並んで腰を下ろしていた。
 夜風に揺れる火薬の匂いの中、三人の手には煙草。氷海風の手元にあるのは、羅宇に龍が彫られた洒落た細身の煙管だ。金属の火皿がちり、と赤く光り、独特の香りが潮風に混ざった。

「……若いっていいねぇ。花火一本であんなに盛り上がれるんだから」
 紫苑が紫煙を吐きながら呟けば、遙斗も小さく頷く。
「ええ……こういう休日も、悪くないですね」
「俺としても嬉しいよォ。こうやって煙草仲間が増えるのも悪くないしねぇ」
 氷海風がにやりと笑い、龍の煙管を軽く振ってみせる。

 火花を追いかけてはしゃぐ住人たちを視線で追いながら、紫苑は口を開いた。
「キミタチも若いんだから混ざってきたら? せっかくの夏だよ」
 遙斗は火先を見つめ、苦笑を浮かべる。
「そうしたい気持ちはあるんですが……俺は煙草がないと少し手持ち無沙汰でして」
 遙斗は火をつけ直し、紫苑と目を合わせて微笑む。
「俺はどっちも好きだよォ。火薬の匂いも煙草の匂いもねぇ」
 氷海風が冗談めかしに肩をすくめ、紫苑と遙斗を交互に見やった。やがて彼は立ち上がり、砂を払う。
「ちょっとお酒、取ってくるよォ。喉が渇いちゃった」
 龍の煙管をくるりと回し、煙草を火皿から灰皿へと落とすと、軽やかに浜辺を離れていった。

 紫苑はもう一口、煙をくゆらせると目を細める。
「……そうそう。今回も真白の我儘に付き合ってくれてありがとね。いい店子が揃ってくれて、俺も嬉しいよ」
 その言葉に遙斗は少し目を丸くし、煙を吐きながら紫苑を見やった。
「いえ。俺にとっても、こうして皆さんと過ごせる時間は……有り難いものですから」
 ほんのりと笑みを添え、再び花火へと視線を向ける。
 ――遠くで火の玉が弾け、砂浜に歓声が広がった。

「――たぁーっ!」
 突如、真白の声。次の瞬間、ねずみ花火が紫苑と遙斗の足元に転がり込む。
「うわっ!?」
 勢いよく火花を撒き散らしながら暴れ回る火輪。紫苑が飛び上がり、遙斗も慌てて煙草を取り落とす。
「ま、真白くん!?」
「……いやこれは洒落にならん!」
 二人の大人が右往左往する姿に、浜辺は爆笑の渦に包まれた。
「えへへっ。叔父さんも遙斗さんも、ずっと煙草吸ってばっかりなんですもん。次はロケット花火ですよー!」
 無邪気に声を上げた真白が、さらに数本を手に構える。
「おいコラ、やめろ!」
「こっちに向けるんじゃない!」
 大慌てで退避する紫苑と遙斗。火を噴くロケットが砂浜を滑空し、派手な音を立てて夜空に弾けた。

 その近くでは、傍らに酒瓶を置いた氷海風が線香花火に火を灯し、目を輝かせていた。
「へぇ……火が落ちそうで落ちない、この感じ。初めてだけど、なんだかクセになるねぇ」
 細い火花がやがて丸まり、しずくのように落ちる。三鷹はその儚さを、柔らかな眼差しで追っていた。
「こういうの、何十年ぶりですかねえ~。たまにはのんびりするのも悪くないですー」
 その声は夜風に溶け、残り火のように柔らかく響く。

 砂浜のあちこちに散らばる歓声と煙の匂い。やがて夜空に手持ちの打ち上げ花火が咲く。赤、青、黄金。眩い光の花が、海面を照らして揺れる。
 こうして七人の夜は、鮮やかな光とともに過ぎていったのであった。
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