たった一つだけ、あればいい。
かつて人は、|天高く《神の国》に届く塔を建てようとした。
神はそれを傲慢と見做し、人々は統一言語を奪い取られたのである。
√EDENに似た歴史を持つ多くの√において、それは共通する事象である。
――しかし、例外が存在した。
神が人の傲慢を赦した√が、あったのだ。
統一言語は、意思疎通の淀みが一切ない人類史を作り上げる。
才能が、技術が、研究が、比類なき速さで発展する。
その果てに人間は、神の力へと到達した。
世界を意のままに変える力、それを手にした人々は、ある一つを願う。
|差《・》を、無くそう。
富や技術は、人を幸せにしなかった。
むしろ差を広げ、嫉妬や羨望、争い、苦しみも加速した。
だから、差を無くしてしまえと人々は合意した。してしまった。
そうして、|全てが《・・・》、|混ざりあった《・・・・・・》。
個人差が消え、人が自他を区別できなくなったのは序の口である。
|電子《マイナス》と|陽子《プラス》の差が消滅し、あらゆる物質が崩壊した。
距離という差が失われ、次元と空間が崩壊した。
時間という差が失われ、時系列と因果律が崩壊した。
|形而上《概念》と|形而下《物理》の差すら消滅し。
人々の魂は文字通りの全てと共に、一つに束ねられた。
√エ・テメン・アン・キ。
かつて存在した√は、このように消滅したのである。
……恐るべきことに、話はまだ続いている。
アカシック・レコードという、|√《世界》全てを記録するものがある。
概念統合により、√エ・テメン・アン・キの全てと同化したそれは、バグを起こした。
全てを記録しようとするが、その|全て《・・》とは|一つ《自身》しか存在しないはずだ。
しかし、|他の√が《・・・・》、|統合されていない《・・・・・・・・》。
神の権能とも思える力は、他の√には影響を及ぼせなかったのだ。
ゆえにアカシックレコードは、観測し、演算する。
全ての|√《世界》を束ねるアプローチは存在するのか?
なぜ他の√は、√エ・テメン・アン・キと異なる道を辿ったのか?
「……?」
とある女子大生が、ふと立ち止まった。
誰かに呼ばれた気がような、そんな気がして。
真っ白な室外機の上に、赤茶けた四角いものを見た。
――それは、魔導書ヴォイニッチ・オリジン。
アカシック・レコードの変生した、統一言語の「種」である。
彼女が崩れ落ちる音と共に、その種は芽吹いた。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功