うみらむね

「ラムネ屋さん」
不明点などはおまかせ
・あたたかく楽しい雰囲気
おいしいラムネに惹かれてやってきた少女
はじめて飲むラムネに胸躍らせながらやってきた
・グレーのチンチラ耳と尻尾がはえた少女
眠たげで優しげな顔立ちだが走ったり遊んだりなど子どもらしいことが大好き
きらきらした物と甘いものが好き
・普段は拙い口調、夜間のみ語尾が「〜にゃ」
・お好きに設定など生やしていただいて大丈夫です!
・NGなし
まぼろしのラムネをしっているかい?
ぱちぱちはじけて。
しゅわっとのどの奥をとおりすぎる。
いっしゅんのきらめきを。
太陽が真上から降り注ぐ正午。生暖かい風を身に浴びて、チルチル・プラネットアップル(きらきらひかる おそらのほしよ・h08529)は、大きな耳をしまいこむほどの、大きな麦わら帽子をぎゅうっと両手で押さえては、√EDENにあるどこかの海へと来ていた。
仲間内で楽しむ者が多い中、チルチルは白いワンピースの裾を翻し、ちょっぴり背伸びなお姉さん気分でいた。新しいサンダルは先月、ここにつれてきてくれた人間が誕生日のお祝いだと与えてくれたもの。普段履くようなぺったんこな靴ではなく、3cmほど靴の底が高い。それだけでちょっぴりお姉さんな気分を味わえるのだから、チルチルにとって誕生日というものはお姉さんになれる日でもあった。
首から下げたがま口は、目の前に広がる海の色。これも誕生日プレゼントにと与えられたものである。ふかふかでチルチルの耳のように大きな財布は、さっそく宝物の一つになっている。
「わあ……!」
人ばかりの集う海を見渡し、チルチルは息を飲んだ。こんなにもたくさんの人を見るのは初めてだ。バイト先で同じような仲間を見ることはあるけれど、大小さまざまな人が皆して海に浸かっている様は、何だか不思議で面白い。今すぐにでも仲間に入りたい気持ちを抑え込むように首を振り、チルチルは彼らに背を向け小走りで歩み始めた。
がま口はなくさないように。中身のお金も落とさないように。それから転げないように、迷子にならないように。言いつけは沢山あるけれど、チルチルはお姉さんだ。全部守れるに決まっている。
「……あ、おいしそうなアイス!」
というのは建前で、おいしそうな物があれば寄り道だってしてしまうのも仕方がない。首から下げたがま口を開き、指折りお金を数えてみたがこのアイスを買ってしまうと目的の物が買えなくなると言うことに気付いた。なんたって、チルチルはかしこいのだから。
「お嬢さんアイスを買っていくかい?」
店のおじさんの誘惑に負けてしまいそうになるのを、ぐっとこらえて首を振る。
「わたし、ラムネをかいに来たの!」
「ラムネ?ああ、もしかして幻のラムネかい?」
「そう!まぼろしのラムネ。おじさんも知っているの?」
「もちろんだよ。まぼろしのラムネは、海を右手に見てこの道を真っ直ぐ行った先に出ているからね。」
「ほんとうに?少しまよいそうになっていたから、助かるの!」
アイスは我慢したが、代わりにまぼろしのラムネについて知ることが出来たのだから問題はない。アイス屋さんのおじさんに頭をさげ、再び麦わら帽子を被り直す。日差しも徐々に強くなりつつあるが、今のチルチルには些細なことである。
細い尻尾を引き連れ、おじさんに言われた通りに右手に海を見る。海面が煌き、眩さに海面と同じように瞳を輝かせながら、小走りの足は止まらない。おじさんの足では数分の距離も、チルチルの足では数十分の距離になる。もうどのくらい走ったのかは分からないけれど、海を横目に走っているとひまわり畑が見えて来た。
「ひまわり!」
あ、と声が漏れる。数多の向日葵が咲くその畑の前に、ラムネの文字が見えたのだ。
「……あれは、まぼろしのラムネ!」
履きなれていないサンダルで走ったせいか、足は少しだけ痛む。でもそんな痛みも全く気にならない程に心は弾み、ラムネという単語を何度も何度も口の中で転がしながら歩み寄る。
「こんにちは!まぼろしのラムネをください!」
真夏の太陽にも負けない元気な挨拶。ラムネを売る女性も、チルチルの声につられて綻ぶ。
「元気な子だねえ。こんなにも小さな子までまぼろしのラムネを知っているだなんて、なんだか嬉しいね。」
チルチルはふくふくと幸福そうな笑みを向けると、内緒話と言わんばかりに女性に顔を近付け、周囲を見渡す。
「あのね、じつはね、わたしをここいつれて来てくれた人が、このラムネを飲んだら幸福なきもち?になれたっていっていたの。」
ひそひそと潜めた内緒話はまだ続く。首から下げたがま口を女性に差し出し、大好きなおやつを買うために頑張ってためたお金を女性に差し出す。
「これでかえるかな?」
五百円玉が一枚。チルチルが発電所のバイトで稼いだ貴重なお金である。女性は微笑みを携えたまま頷き、クーラーボックスの中からラムネを一本取りだした。
「今日は暑いからね、ここで飲んで行きなさい。」
「いいの?」
「家まで帰っていたら、ラムネがぬるくなってしまうよ。」
差し出されたラムネは、とっても冷たい。風に合わせて靡いていた尻尾が逆立ち、麦わら帽子の中に隠した大きな耳が思わず飛び出てしまう程には驚いてしまった。
「おやまあ、冷たすぎたかね……。お詫びにこっちのアイスもあげようね。」
「あいす……。」
アイス。確かに女性はアイスと言った。ラムネを買うために我慢をしたあのアイスだろうか?ぴん!と逆立っていた尾が再び風の流れに乗った時、チルチルはクーラーボックスの中から取り出されたアイスに釘付けになっていた。木の棒に刺さった虎柄のアイス。チョコとバニラが混ざり合う一本は、チルチルの心を揺さぶる。
「アイス……!たべたい!」
「はい、どうぞ。」
片手にラムネ、片手にアイス。今日はなんて贅沢な日なのだろう。帰ったらこの事を話してみようか。チルチルは頬を紅く染め、先にラムネを口に含んだ。口の中がしゅわりと弾ける。
「ねえおばさん、なんでまぼろしのラムネなの?」
「ふふ、それはね。」
微笑みを携えたまま、女性はラムネ瓶を翳す。ぱちんと染み入る炭酸の波。透かした瓶の中では夏が広がる。この一瞬のきらめきが、夏の過日を思わせるから幻なのだろう。
「おばさんは海ラムネって呼んでいるけどね。」
「うみらむね!すてきなひびき。」
「そうだろう?」
「とってもすてき……。」
ラムネ瓶を掲げたチルチルは、瓶の中の海を見つめて瞬きを繰り返す。透かした青の向こう側。しゅわりと滲む漣を聞き、瓶の中に今日という日を閉じ込めた。
ねえ、まぼろしのラムネをしってる?
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴 成功