怒りを食むのです
お茶菓子のいろはを心得ていたのです。
「いってきます」
脳の回り具合が絡繰人形のそれ、誰です施したのは、嗚呼√マスクド・ヒーローの何方さんでしたか、お陰様で逃れる暮らしであったのです、着いた先が和喫茶『いかが』、√妖怪百鬼夜行の商店街の片隅で老夫婦たる二人を護らねばと|思考《おもい》|完了《いた》って|現在《いま》なのです。
「いってらっしゃい――帰ってきたら一緒にお茶菓子作ろうね?」
「待ってるで〜」
「はい、その機会を私も『待機』しています」
Gで始まる三文字の遺産を超えるのです。時代に新しい言葉のスタイル。楽しいを解せないのですが一緒に暮らしてみるとこれがまことに平和的。
齢15の大和撫子の御通りなのです――御機嫌如何?
さて、やや手こずってしまっていたのです。倒してからいつもより遅れたと知った|女子《おなご》、駆け足で行くのです実家まで――そうしたつもりであったのです。
「……?」
一瞬理解が追いつかなかったのです。何処もかしこもぐちゃぐちゃり。大変散乱していたのです色々と、ほら人の形もぐちゃぐちゃり、しまいにゃ大切な人たちの御姿もぐちゃぐちゃり。
「おじいさま…おばあさま」
大切な家族であったのです。練り切りの作り方だって教えてくれていたのです。こんなになってしまって、
「……私は、どうすれば」
回答|思考《さがし》のAIさん。
「何もかもが足りない――不足してる」
声だったのです。絶望を齎した|益荒男《ますらお》みたいな。黒いフード付きジャケット、フードを深く被ってはカラメルみたいに澱んだ焦茶の目を光らせて、金髪で、シャツも黄色くて――まるで|洋菓子《プディング》みたい。
「どうしてこのようなことを」
うろうろ、彷徨う問いがうろうろり。
「『楽しい』からさ」
「『楽しい』――?」
この近辺で戦う異様な存在でもあったのです、聞けば聞くほどに出てくる答え。
「本人でなく関係者を狙うこと――それが『楽しい』からだ」
ニコォっと笑うそれが激しく訴えてくるのです。快楽。渇望。
煮えたぎっていたのです、|脳髄《きかい》。
成る程この『楽しい』は噛んで飲み込むより、脳髄を介さず噛み砕く方が相応しい。
がり、と「敵意」「憎悪」を知らしめてやるのです。すうっとゆっくり立ち上がって。
ああちらちら手が。顔を覆うところ、指の隙間から眼光、煌めいて。
「――変身」
鶴が一声鳴いたように思うのです――バックルが|展開《さい》て花開くならば変わるのでしょうその姿、陣羽織風の特殊スーツ、細部までアクセプター、鶴モチーフの仮面が裁くのです眼前の悪。翻るミニスカが少女の|性質《かけら》――
「移り気な思ひの中で、謡え。『あじさい』」
欠片も残してなんぞやらぬのです、あなたこそが復讐に燃える殺人鬼。飴細工の名を持った飴色の刃、アメザイク・ブレイドを抜き放つのです。究極的に洗練されし居合、花びらひらひら齎して蕾を表現するのです――一刀両断の次に包み込んで。爆ぜていく。
そんな風に受けてしまった益荒男がしかし。
「……もっと楽しくなりそうか」
霧のように消えていくものだから直感するのです。仕留めきれなかった。
宿縁が出来たというのです。
「おじいさま、おばあさま。私は、いつまでもあなた方を愛します」
家族よいつまでも見守っていて、そう願うのです。
「この喫茶店に来て下さったお客様も同じく、死を悲しむ人もいるでしょう。私はそれを悼みます」
教えてくれたことが数あって。たった一つ。
「――『怒り』。脳髄を介せず、得られた感情がこれだとは、私は厭でした」
これこそが人の痛みであったというのです。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功