Walking around
楽園の形を未だ知らぬのです。
「この景色は」
何処の景色だったか。そちらの裂け目は。
「あそこから覗いて見えるのは」
そこの路地裏の入り口は。ここは先程も通ったような既視感。次に別の世界の入り口。ゴミ箱の蓋を開けた先――。
見るのです。
視るのです。
そして後にして歩くのです。
「……そこじゃない。私の故郷は、ここでもない」
ふらふらぶらぶら一人旅、仲間も地図も持たぬまま、世界を渡り歩き続ける女が在ったのです。頭の片隅にあったのが故郷の景色でして、存在するかも分からぬというのだからまあ困った。あてにするものも殆ど無いしで、あったかもしれないからと旅をするのです。シンシア・ウォーカー、苗字に宿す旅人のミーニングが動かし続けてもいたのです。どうでしょう、セレスティアルの|古代語魔術師《ブラックウィザード》の探し物、きっと一筋縄では見つからぬのでしょう。第一に怠惰なのです、注意深く探すことが叶うのでしょうか――旅路で注意ともなると急ぎ足か。
さて好奇心が駆けずり回っていたのです脳内。まことに旺盛なものです、いつの間にか彩りが深かった都会の景色、やはりどこか見慣れぬというのです――だって空を見てみて、こんなにも多くのインビジブルたちが平和的にふよふより。こんな数を見たことがありましょうか、とても弱く幸せな世界を表現する光景であったのです。
はて、知性持たぬ魚共に問うのです。
「ここは、私の故郷?」
返ってくるわけでもない答えを空に溶かして――
「多分絶対違う」
「てかお前誰」
「コスプレ派手だね……」
|Shut the fuck up《たよりになります》.
「……分かったわ、|答えてくれて《・・・・・・》ありがとう」
肝心なところでこの有り様なのです、困ったものです。小さな羽根のセレスティアル、今日も生きるのです人間社会(溶け込めてない)。
では後をどうしましょうと考えるのです、食べ物はとりあえず要るでしょう、何か役立つアイテムも要るでしょう。特に道具がそれなりに揃いやすい場所がいいと目星をつけるお店の類。目に留まってよーく見てみると雑貨屋だったのです。
「ちょうどいいところに」
これです。入るのです旅人よ、中はそれほど広くはないけれど。
「……あら、結構いい感じね」
例えば木製テーブルの上に小洒落た木製の棚、洗練されたデザインの時計やカラフルなマグカップを飾っていたのです。
「この時計にマグカップも、綺麗な色をしていて……」
大変旅路の疲れに優しいものであったのです、こうして色々な物を見ることというのは、景色や故郷のことのみならず、見ることによる癒しの力すらあるのですから。つまるところ大変、
「刺激的ね」
そういうこと。あまりにしっくり来る幸せな楽園、幸せ過ぎて故郷みを感じることが出来なかったのです。きっと別世界なんでしょう、或いはこの世の何処かであれば――近い方が良くはあるのですが!
結局故郷の場所が宙ぶらりんです!
「ここも違いましたか……ふふっ、明日はどこへ行きましょう?」
見つからぬのですこれからも、延々と続いていく旅路の途中。シンシアという女が歩くのはそのものが彩られし旅路だったというので。
ざっくり、|歩道《アスファルト》を踏み締めて一歩ずつ征くのです。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功