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月夜に目覚めて

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 旧き竜種の血脈が巡る大地、√ドラゴンファンタジー。様々な冒険譚が綴られる世界において、運命的な出逢いを果たすものは少なくはない。
 ――その晩は、うつくしい満月だった。

 静まりかえる森のなか、夜がさざめくように思えた。猟銃を手にした男は、茂みをゆく。
 このところ、近くの村で何物かによる農作物の被害が頻発しており、冒険者と猟師の資格を持った彼は、村民からの依頼を快諾した。
 ただの獣ならまだましで、これが凶暴なモンスターであれば人に被害が及ぶこともあるだろう。そういった依頼には慣れていて、今回もさして困る内容ではない。
 かさり、物音が聞こえる。すぐさま構えた銃口の先、それはちいさなテンだった。
「お前ではないな」
 目を細め、かよわい獣を追い払う。そうして月影にまぎれながら、いつも通りの仕事をこなして生きていく。
 これからも、きっとそうなのだろう。女手一つで育ててくれた老いた母親を看取り、親しい知り合いも少ない。配信によって人気を手にする冒険者も数多く存在するものの、そういったものに魅力を感じることもない。
 ただ、いのちを必要な分だけ狩り、必要な分だけ他者に助力し、そうして死んでいく。そのことを、むなしく感じたりもしなかった。
 ふと、男は視界がひらけていくのに気づく。月光を映す湖が広がっていて、標的に見つからぬよう注意深く身を潜めれば――なにかが居る。

 月のひかりに照らされたそれが、獣でも、ましてやモンスターでもないことは明白だった。ぺたんと座りこむかたちはヒトのそれで、男はそっと近づく。
「……大丈夫か」
 声をかければ、ちいさな存在は男を見上げる。ましろのながい髪はふんわりとくせがついていて、薄青の双眸にしろい三日月が浮かんでいた。その頭上には、月と星々がきらめく金冠が踊っている。
「だあれ?」
 小首をかしげて不思議そうに尋ねかえした少女の全身を、男は端的に確かめる。すっかり薄汚れたワンピースを身に纏っただけで、怪我はしていないようだった。
「俺はただの冒険者だ。……君は、ここで何をしている?」
「うーん、リュネ、どこからきたんだろう?」
 あどけない唇は、ぼんやりと聞き馴染みの良い声をもらす。獣に襲われかけたか――あるいは人か。記憶障害の理由はわからないが、このままにしておくわけにもいかない。
「リュネは、君の名前か?」
「なまえ。リュネは、|五十の月姉妹《メーネ》のリュネール……わからない、それしか」
「そうか――リュネ、この森には、危険な生き物が出る。近くの村まで送るから、俺についてきてくれないか」
 きょとんとした表情で、リュネと名乗った少女は男を見つめる。それから、こくりと頷いて。
「あなた、なまえは?」
 ひとまず村へと連れ帰るだけの関係で、それ以上の情報を与える必要は感じなかったものの。
「ああ、こちらが名乗らないのは失礼になるか。俺はアンブル、さっき言った通り、ただの冒険者だよ」
 名前を告げれば、ちいさな唇が男の名前をくりかえす。
「アンブル、アンブル。すてきななまえ。きっと、すてきな人からもらったなまえね」
「ああ、そうだな」
 リュネの言葉に、男は琥珀の彩をした瞳を愛おしんでくれた母親を、ふっと思い出した。

 ――月夜の湖畔での出逢いから、ひと月。
 身元がわからないまま、ゆくあてのない少女人形を引き取って、男は彼女と暮らしている。
 それは彼にとってはじめてのことばかりで、少女のために買うお菓子のひとつすら迷ってしまう。
 けれど、このあたらしい日常は、彼にとってけっして悪いものではなかった。
 夜ごと童話と子守唄を奏でられる生活が、どうか彼女にとっても、穏やかなものであってほしいと、願っている。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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