勾玉の記憶
●ある付喪神の遠い過去の夢
遠い昔のある時、ある場所、ある√。
宝石鉱山の採掘現場で落盤事故が起こった。
数人が巻き込まれたその事故で亡くなったのは、一人の若い鉱山夫だった。
彼には、結婚を控えた婚約者がいた。
彼女は、愛しい人の死に、毎日のように涙を流し続けた。
彼がいなくては、生きる意味がないとまで思った。
彼女は、何もすることができず、彼との思い出を毎日思い出し……自分は、もう誰も愛せないと思っていた。
そんな彼女のもとに、彼の友人だと名乗る宝石彫刻師が訪れた。
彼女の生気のない表情に、友人は胸を掴まれるような想いだったが、意を決して、ある白い鉱石を彼女に差し出した。
白く美しい……気品ある色彩の鉱石だった。
「これはアンバーなんですけど、アンバーは殆どがオレンジで、このロイヤルアンバーは見つかることが極稀な、奇跡の石なんです。あいつは、この石を使った指輪であなたにプロポーズするつもりだったみたいです」
その石を受け取り、彼女は嬉しさで泣き崩れた。
やがて彼女は、亡くなった彼の友人に支えられ、そして……結婚した。
あの日のロイヤルアンバーは、指輪やアクセサリーにはしなかった。
夫となった人が“幸運”を運ぶ石だと教えてくれたから、お守りになればと『勾玉』として形作り、磨き上げてもらった。
彼女は、その優しい色の勾玉を常に持ち続けた。
彼女が娘を授かった頃、その勾玉が淡い緑に輝くようになった。
天国の彼が、自分のことを『ずっと見守っているよ』と言ってくれているようだった。
だから、彼女は自分の娘が嫁ぐ時、その勾玉を娘に譲った。
彼女の娘も、さらにその娘も、代々、その勾玉を嫁ぐ娘に渡し続けた。
――そして、長い、そう……長い時が経った。
いつの間にか、その『勾玉』が持ち主のもとから消えていた。
誰も、盗まれたとも、無くしたとも思わなかった。
きっと、天国の彼女のもとに還ったのだと……天国でも彼女が幸福でいられるように旅立ったのだと思っていた。
それは、ある“付喪神”の古い記憶……。
その『ロイヤルアンバー』は、“今”も幸運を呼び、厄を払うために生き続けている。
……わずかに姿を変えて。
優しい光を放ちながら……。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功