シナリオ

特別訓練:水上バイクを(華麗に)乗りこなせ

#√ウォーゾーン #ノベル #夏休み2025

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√ウォーゾーン
 #ノベル
 #夏休み2025

※あなたはタグを編集できません。


 この夏、ヨシマサ・リヴィングストンが勝ち取ってきた仕事――コードネーム「海の家」、正式名称を『フルールビーチ海上基地』とする無人島開拓は、無事に進行していた。
 本格的な運営は来年を見込むが、それはそれで今のうちに遊んでおくチャンス。
 自由気ままにBBQを楽しんだり、隠された無人島の真実を掘り下げたり――と、435分隊の面々は思い思いの夏を過ごしている。

 そんなある日のこと。
「この島もすっかり見違えましたね……!」
 見事なビーチ、宿舎、農地といった光景を、達成感を胸に眺めるスミカ・スカーフ。
「ホントですね~。最初に報告書を読んだ時はどうなることかと思いましたが」
 そう云うヨシマサもこの夏は所狭しと活躍していたはずだが、あまり疲れた様子は見えない。バカンスで予定がぎっちりなデッドリー・スケジュールを(彼なりに)楽しんでいるのだろうか。
「だって面白そうだから」という理由で案件を獲得してきただけに、割と冗談では済まなそうだ。

「ところで、今日はどんな作業を?」
 コロナ・アーメットが、周りをきょろきょろと見渡した。
 見た感じ、これ以上手を入れるべき場所はなさそうだ。あるとしても、それは新人隊員たちに任せておくべきだろう。
「今回は水上訓練です」
 スミカはどこかいたずらっぽい笑みを浮かべ言うと、おもむろに拠点に設置されたビークル収納スペースに遠隔指示を出す。
 港のように海辺に面したハッチが開き、自動運転で現れたのは……。

「――あれは、水上バイクですね!」
 普段より若干ポン……もとい、テンションの高い水垣・シズクが叫んだ。
 そう、滑るように海水の上を自走して出現したのは、四台の水上バイクである。
 さらに水中に潜んでいたスミカのドローンが海面に顔を出すと、何もない海の上に水上バイク用のコースが出来上がったではないか!
「というわけで、水上戦闘に備えた専用バイクの運転技術を磨きましょう」
「……つまり、マリンスポーツ用のコースを作ったから、せっかくだし遊ぼう……と?」
 シズクは存在しない眼鏡(今は水着姿なので)をくいっと指で押し上げる。

「……こほんっ!」
 スミカは少し顔を赤くしてわざとらしく咳払いした。

「……隊長、影でこんなの作ってたんですね~(ひそひそ)」
「水上バイクが運び込まれたのは気付いてましたけど、まさかドローンでコースまでプログラミングしちゃうなんて……(ひそひそ)」
「そこっ! 静かにしてください、訓練の説明中ですよっ!」
 と叱られてしまうが、ヨシマサとコロナは生暖かい笑みを浮かべてまったく懲りていない。
 夏。それは思わず浮かれてしまう季節。それはどちらかといえば真面目なスミカだって同じ。
「いいですね。これは一般人代表として、仮想観光客役を全うさせていただきますよ!」
 人一倍ポン……浮かれているシズクが食い気味に割り込んだ。
「安全性や難易度チェック、SNSレビューを前提としたダメ出し、なんでもお任せください!」
「シズクさん、一応隊長は訓練って名目を用意してくれてるんですから~」
「そうですよ! ロケットパンチとともに乗るしかありません、この遊びのビッグウェーブに!」
「コロナさんも遊びって言っちゃってるし」
「と・に・か・く! 訓練ですよ、訓練!」
 スミカが喚き、三人の会話を中断した。


 四人は並んで水上バイクに乗り込み、改めてコース全景を見渡す。
「コースは自由にセッティング可能です。ドローンの配置を変えればいいだけですからね。
 せっかくですし、各人でコースを作成してその中でランダムに順番を決めましょうか」
 スミカはドローン制御デバイスを慣れた手つきで操作。
「たとえば私の場合だと……」

 海面のドローンが移動し、直線からヘアピンカーブ、次にジャンプ台、さらに緩めのカーブから再び直線に戻り、ゴールというシンプルなコースを作る。

「こんな感じです。他にもプリセットは8の字カーブや障害物も用意してありますよ」
「なるほど! あえて難しくするか、簡単なコースで自分も楽になるよう備えるか……読み合いですね!」
「うーん、じゃあスミカさんのを参考にして、簡単めに……」
「ボクは~、やっぱり失敗と成功がギリギリなやつにしようかな~」
 三人はそれぞれ、ポチポチとコース設定を行う。

 そして、早速レース開始。
 合計で四周し、周回ごとにコースが切り替わる形だ。
 設置されたスタートランプが緑になると、四人はほぼ同時にスタートした!

「まずは、トップは頂きです!」
 スタートダッシュ対決を制したのは、前のめりなコロナだ。
「さすがはロケットパンチの申し子、加速が半端じゃないですね……!」
 最初の直線、コロナに追いつこうとスピードを上げるシズク。
 だが早速ハンドルがブレており、車体が不安定に揺れている。
「ふふ~、最初はリードさせといたほうが抜き去る楽しみがありますからね~!」
「この緩めカーブ……一周目はコロナさんのコースですね!」
 スミカの読み通りだ。カーブを抜けると障害物もとい岩礁が現れ、それを危うく躱すとヘアピンカーブ。
「おっと~? また岩礁ですよ?」
 ヨシマサも若干危うげに回避しながら、先に聳える岩礁地帯を覗き込む。

「ふっふっふ、ここで秘策発動です!」
 不敵な笑みを浮かべるコロナは右手を突き出し……ロケットパンチを射出した!?

 だが、狙いは岩礁の破壊ではない。
 ロケットパンチで後ろから自分を押し、加速させたのである!
「とうっ!」
 ざばぁ! と水飛沫を上げ、迂回せず障害物を飛び越えるコロナ。
 他の面々は回避のためにスピードを落とさざるを得ないので、この時点で大きなリードだ。
「どうですか! これで一着は間違いな」
「こらー! ロケットパンチを使うのはルール違反ですよーっ!」
「ええっ!? そ、そんなの聞いてな(ざぱーん)ごぼごぼごぼ!」
 スミカに叱られ気が逸れた瞬間、コロナは派手に着水した。タイムロスだ!

 コロナがようやくバイク上に戻って復帰した時には、順位は逆転。
 最下位から半泣きで追い上げる一方、二周目に入って先頭を走るのはシズクだ。
「次は私のコースですね……!」
 再びの直線から緩めのカーブ、岩礁を回避して再びの直線だ。
「み、皆さん待ってくださいー!」
「たとえ遊びでも勝負は勝負ですから、待ちませんよ!」
「隊長、遊びって言っちゃってますよ~?」
「こほん……!」
 シズクは後方の会話を一瞥しつつ加速。ゴール前には大ジャンプ台が用意してある。
 一か八か、ライバルが勢い余って失敗するのを見込んで設置したギミックだ。

「それでは、お先いただきますね!」
 ここでスミカが加速、見事なジャンプを決める!
「これは負けてられません!」
 シズクは限界まで加速。だがここで再び車体がブレる!
「あっ」
 そして、冷静になった彼女は気付いた。

 ……シズクは運転センスがあまりよろしくなく、怪異を乗り物に寄生させることでなんとか車を運転していることを!
「あー!! イォド! 助けてくださいイォぶべー!!」
 ざっぱーん!
 残念ながらジャンプしそこねたシズクは、コロナめいて派手に着水した。

「これが「策士策に溺れる」って奴なんですかね~?」
 何気にこれまでのギミックを乗りこなし、先行するスミカに食らいついているヨシマサ。
「やっぱりロケットパンチ使っちゃダメですか!?」
「イォド! もっとスピード上げてください! ずっと夢見ていた優勝なんです!」
 三周目はスミカのベーシックなコースだったおかげで、着水から復帰した二人もそれなりに追いつけている。騒がしいが。

「最終ラップはヨシマサさんのコースですね……!」
 スミカは手応えのあるコースを軽やかにクリアしていく。
「どうですか? これも自主トレーニングの成果です!」

「隊長ってば一人でこっそりテストがてら遊んでたんですね~」
「考えてみれば開発者が有利なのは当然じゃないですか! 客に対する贔屓です!」
「ロケットパンチ所有者に対する配慮をしてください~!」

 後ろから非難(?)の声がぶつかる!
「あ、遊んでません! それになんですかその結構ガチめなお客様の声的な奴!?」
 そこへ襲いかかる8の字カーブ。スミカは慌ててハンドルを切って回避!
「さあ、最後は再び大ジャンプですよ~!」
「! いつの間に……!」
 横に並ぶヨシマサがニヤリと笑った。スミカは意を決し、加速!
 二人は同時にジャンプ台に乗り上げ、水飛沫を散らしながら空を舞った――!

 ……ざぱーん!!
「ぐえー!!」
 結果、ヨシマサは逆さに着水し、ばしゃばしゃとその場で藻掻く。
「あー!!(ざぱーん)」
「ロケットパンチの重量がー!!(ざぱーん)」
 後ろから追走するシズクとコロナも、案の定着水した。
 一方スミカは空中で一回転し、華麗な着水を見せそのまま加速。
 ゴールすると、空中に投影されたゴールテープが切られ、盛大なファンファーレが鳴り響いた。

「どうやら、今回の訓練は私の勝ちみたいですね!」
 スミカはぐるりとターンし、三人のもとへ向かい復帰を助けた。

「う、海で遊ぶの、初めてでしたが……とても楽しかったです!」
「次はイォドをちゃんと事前に用意しておくとして……失敗するのも含めて、最高でした」
「うんうん、皆さんが「ハシャげて楽しかったなー」って思ってくれたら、ボクはそれが一番うれしーですよ」
 ずぶ濡れのヨシマサもへっちゃらな顔で、満足げに頷く。
「それと隊長、おめでとうございます~」
「もう一戦しませんか? 今度はコースを研究して……」
「ショートカットがダメなら岩礁をロケットパンチで破壊してですね……」
「だから、ロケットパンチはダメです! ――まあ、皆さんがよければいくらでもお付き合いしますけどね」
 スミカもまた、三人が熱中している様子にはにかみ、しばらく日暮れまでレース対決に勤しんだのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト