囀り悪疾
手を繋ぐ必要はない。殴り合いをするには早い。
サイクラノーシュを舞台とする所以はなく、集結を試みるのであれば、
やはり煙の如く。
天蓋――明るさと暗さの狭間にて――オレンジ色の思考の最中、まるで、銀色の河を覗き込むかの如くに、宇宙の演技がお上手な者どもは何か。たとえば、この世には、数多の√には様々な毒物が存在するものだが、おそろしい事に、この場には決して|殺《なお》せない、甘ったるい悪夢だけが蔓延っている。成程、彼等にとってあまねく邪悪などお遊戯に等しく、横たわっている病人ほどに『つまらない』沙汰なのかもしれない。如何様な因縁があろうとも、如何様な過去があろうとも、現、彼等は|怪人《●●》でしかなく。そう振る舞う事しか赦されていなかったのか。哀れなほどに、おぞましいほどに、神話を模倣すると同時に、冒涜する有り様は――わざとらしく――愉しげに、面白そうにしてみせたのか。引っこ抜くのか、引っこ抜かないのかの瀬戸際、際の際に立たされて尚、胸を膨らませている|魔術師《●●●》が如く。さて、犬と猫と鳥のキメラ。最初に囀りを始めたのは起立し、規律を崩さんとする、|離叛者《オマエ》であった。それで……十二神は結局、集まってきているのかね。生き残りどもだ。ばさりと、目の玉を隠している真っ白さは、己が真っ白ではない事を、堂々と、見せつけている。バチバチと騒がしい【メルクリウス】を冠しながらも、ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイはひどく冷たい血の色を地獄のように裏切ったのか。まあ、わたくしの予想が当たっているのであれば、あの、悪辣な|梟《おんな》は生きているとは思うのだがね。ちら、と、盲目な演技をする事だってお上手だ。パラペットに坐して嗤笑するもうひとつの影は、さて、如何様な熱量を孕んでいるのか。兎も角、質問には同じようなもので返すと良い。ディー・コンセンテス・アポローン・アルケー・へーリオスに『その気』はない。お前にそれを話す義理はあるのか? 全くないとも。集まっていようと、わたくしが叩き潰すのみだ。哄笑する摩天楼、その中のひとつ。天蓋へと――薄暗さへと――手を伸ばすかのような、不穏と、その真逆の混在。敵対の意識は常に漂っており、されど、犬と猿はお互いの餌を奪い合おうとはしなかった。呼吸をしても、酸素を欲しても、底には腹立たしくも――魔物の死体のような世界が落ちているだけ。
伏魔殿――パンデモニウム――を彷彿とさせる精神、それらを盤面に並べていくのか。英雄も悪役も、今では|仮面《マスク》をするかのような世の中だ。中々に、濁りとやらを、汚れとやらを、拭う術など見つからない。……わたくしの方は人生なるものを謳歌する事で手一杯でね、何せ奪われた数年間、娯楽もなく過ごしてきたのだから。痺れもしない脳味噌など、狂いもしない精神など、成程、人のような怪では、怪のような人では、味わう事すらも難しい休息なのかもしれない。解体は娯楽だったのではないか。お前こそ、私のように『その気』になれば、幾らでも『娯楽』を錬金できたと謂うのに。多少はね。酒金女には勝てやしない。翼を啄むのは、翅を千切るのは、至上のお遊びではなかったのか。リモンチェッロに添えられたナンパの文字。蠢動し続ける軟体動物の掌の上、破壊し尽くした己の殻の残骸を如何様に調理してやったのだ。お前の|欠落《金運》で楽しめるのか? 嗤われた。鼻で笑われた。胡乱をやるのが大得意な太陽とやらも、頓死の化身とやらも、これには滑稽さを湛えずにはいられない。……わたくしは、これでも、けっこう本気なのだが……。本気だからこその反応だ。時が『時』であれば戦争のきっかけとされていたに違いない。
弟は目覚めたか――? 太陽が地上に向けて放った言の葉は……強烈なまでの一矢は……初手から、脳天とやらを貫いてくれたのか。漿液の代わりをしてくれた水銀は、さて、俗っぽさをより強固にしてしまう。あなた……分かっているだろう。わたくしが、それを、引っこ抜く事など、最早ないのだと……頭の中だ。バチバチ、バチバチ、心地の良い【メルクリウス】からのご挨拶。何度目かも解せないご挨拶だったが、まさしく、今のような状況にこそ啼くべきだ。は……! 結局あの英雄どもは、お前を救えなかったわけだ。ああ、お前。もしかしたら、お前こそ、救いようのない怪人だったのかもしれんが……。そもそも、前へ、前へと吶喊するような|能力者《タイプ》ではないのだ。裏方が愉快さを得物として、獲物の前に姿形を現すなど――それこそ、お約束に対しての嫌がらせなのかもしれない。あなたこそ、家族とやらは見つかったのか? ひどいカウンターではないか。いや、カウンターをさせたのだ。殴り合いというものは、実に、太陽にとっての『あくどい』の象徴なのだ。己の|得意《●●》に対象を引き摺り込む――まったく、素晴らしい魔性ではないか。見つかっていれば、|簒奪者《√能力者》など辞めているさ。ふたつの脳内に蔓延っている憂いの交換。虫唾が走るほどの諦観に苛まれつつ、グロテスクの意味を改めておいた。
きっと、いつか、理解する――などと。そう信じるのは、そう考えるのは、やめた方がいい。お互いにね。それこそ、首が回らなくなる。
志が同じだとしても、同じ穴の狢だとしても、最早、異なる道だ。袋小路に迷い込んでしまったとしても、嗚呼、助けなど、蜘蛛の糸ほどにも無いのだから。それでは――。失せようとした瞬間に、去ろうとした刹那に、飛び込んできたのは銀色の一矢。太陽ではなく北風の如く、只、ヘーリオスは怪人らしさを散らかしたのだ。しかし、嗚呼、相手は成程、同じ穴の狢である。メルクリウスは【メルクリウス】のバチバチを舐りながら、翼を広げ、【金の斧】の正体に――にじり寄った。アッハッハ! 怪人らしさには怪人らしさで応えると宜しい。幹部級の怪人に躊躇は要らない。さっさと退散をすべきだ。そうだろう。
くやしい……くやしいが、しかし、太陽にとっては。
爆発オチよりかは上等なエンディングである。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴 成功