シナリオ

りんごひめ

#√EDEN #ノベル

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√EDEN
 #ノベル

※あなたはタグを編集できません。

チルチル・プラネットアップル
「帽子屋さん」
客として来店

・あたたかく楽しい雰囲気
 仮装用にと帽子作り体験をしにやってきた
 不器用さんなのでお手伝いいただけると嬉しいです!

・グレーのチンチラ耳と尻尾がはえた少女
 眠たげで優しげな顔立ち
 走ったり遊んだりなど子どもらしいことが大好き
 きらきらした物と甘いものが好き
・普段は拙い口調、お仕事中や偉い人には敬語
・お好きに設定など生やしていただいて大丈夫です
・NGなし

「いらっしゃいませ、小さなレディ!」
「あなたはお客様?それともお手伝いさん?」
 扉を開いて入店をしたチルチル・プラネットアップル(きらきらひかる おそらのほしよ・h08529)は、未だにバクバクと胸の奥で鳴り響く心臓をおさえるように、首から下げた財布をぎゅうっと握りしめていた。
 これがお菓子の家なら迷うことなく扉を開き、大きな声で挨拶を交わしていたのだろう。しかしここはお菓子の家でも無ければ、お菓子の帽子を作る店でもない。
「えっと……。」
 もごもごと口の中で籠もってしまう言葉を吐き出す勇気が欲しい。お気に入りの財布を握りしめると、少しだけ勇気がもらえる気がする。
 すぅ、と息を吸い込み、お菓子の店を訪れた時と同じようにすれば良い、きっと出来る。
「こんにちは!わたしのなまえは、チルチル、です……!きょうは、おきゃくさんとして、来ました……!よろしくお願いします!」
 勢いよく頭を下げると、頭上の帽子が重力に従って床に落ちる。それが何だか恥ずかしくて、チルチルの頬は一気に紅く染まってしまうのだが、頭を下げたままのチルチルの頭上に帽子の柔らかさが降り注ぐ。
「素敵な帽子ですね。お客様のお気に入りが作れるように、わたくしたちもしっかりとサポートを致します!」
「ああ、何も心配いらないさ。店長の腕は確かだからね。ささ、小さなレディ。こちらへ。」
 頭を下げたままだったチルチルが少しだけ顔をあげると、そこには優しい笑みを浮かべる男女の姿があった。頼もしい言葉を聞くと、それだけで前向きになれるような心地になる。
「……はい!」
 羞恥に染まった頬はすぐにおさまり、大きな尾を揺らしながらチルチルは小走りで店員を追いかけた。

 作業場は雑然としており、物で溢れかえっていた。
「ハロウィンのへんしん用に、かわいいぼうし……つくれますか…?」
 不安げに揺れる緑の瞳で彼らを見つめていたが、チルチルを安心させるかのような言葉の数々は、実に頼もしい物ばかりだった。最初は誰もが不安な事、でもやっているうちに楽しくなる事。
「あなただけのお気に入りの帽子が出来たら嬉しいです。」
「はい!がんばります……!」
 こうしてチルチルの初めての帽子作り体験が幕を開く。
「まずはどんな帽子が良いか決めましょう。好きな物を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「好きなもの。」
 好きな物が沢山あるチルチルにとっては、絞ることの方が難しい。あれも、これも、と指折り数えてみたが、ついに両手だけでは足りなくなってしまった。
「きらきらしたもの、あまいもの……。」
 あ、と声をあげたチルチルは、微睡む瞳を大きく見開き、頭上の帽子に手を伸ばす。すると、帽子の中から転がり落ちるように、チルチルの手の中には『それ』がおさめられていた。
「これ!りんごがすきです!」
 過日の漣が聞こえてきそうなほどに青く澄んだ色。林檎の形をした硝子細工は、店内のやわらかい光を反射して薄い橙の光を放つ。
「まあ!それなら帽子は林檎の形が良いでしょうか?ハットのような物もお似合いかと思いましたが、毒林檎の帽子にしましょう!」
「それなら型紙はこちらで、布は深い紅色なんてどうだい?毒林檎だとわかるように、紫をあしらえばハロウィンの雰囲気にもぴったりだ!」
「どくりんご!」
 普通の林檎なら兎も角、毒林檎は口にしない。チルチル一人では到底思いつかなかった案に、先程から瞳はきらきらと輝きっぱなしだ。
「素敵ですね!それならベレー帽はいかがでしょう?ベレー帽は初心者さんでも簡単に作る事ができますよ。」
 女性は棚からアルバムを取り出し、ベレー帽の写真をチルチルに見せる。これならば簡単に出来るかもしれない。チルチルはしっかりと頷き、自らを鼓舞するべく胸元で拳を握りしめた。

 まずは型紙を使って布を裁断する。刃物は危ないからと普段はあまり触らせてもらえないが、今日は大人たちがいるから大丈夫だ。
 元来不器用なチルチルだ。裁断も慎重に行わなければ、すぐに布が波打ってしまいそうだった。型紙通りに裁断するべく、鋏を握る手に力が籠ってしまう。大切な帽子を作るのだから、失敗はしたくない。呼吸を止め、瞬きをすることも忘れ、チルチルは深い紅の布を型紙にそって丁寧に裁断する。
「……ふぅ。」
 横で見守っていた店員の男性を、おずおずと見上げたが、彼の表情は常に柔らかく、チルチルも安心して帽子を作る事ができた。
「素晴らしい!まだまだ小さなレディだというのに、完璧だ!」
「ありがとうございます!」
 今度は帽子が落ちぬようにと片手で押さえ、勢いよく頭を下げる。頭上に隠した林檎も無事のようだ。
「さて、次は縫い合わせる作業だね。ミシンを使った経験は、なさそうだという顔をしているね。」
 不安に曇り始めたチルチルの表情から察したのか、男性はチルチルにも分かりやすいように説明を続ける。針も鋏と同じで危ない物だ。普段から、危ない物を子どものチルチルに持たせるようなことは、誰もしないだろう。初めてのミシンに手が震えてしまうけれど、ここで諦める訳にはいかない。かわいい毒林檎の帽子を作って、素敵なハロウィンにするのだから!

 型が崩れぬようにとまち針で留め、ミシンで縫う。両手で布を押さえないとすぐに布がぐちゃぐちゃとよれてしまうらしい。肩にも力が入るものだ。裁断をした時と同じように、瞬きをすることも忘れてミシンの針を見つめてしまう。一枚、二枚。彼らのサポートを受けながらゆっくりと布を縫い合わせて行く。少々縫い目がずれてしまったが、初めてにしては上出来だ。
 帽子の頂点に茶色いタブを挟み込む。これが毒林檎のてっぺんだ。なんだかそれっぽくなりはじめた形に、チルチルの胸も高鳴りはじめる。不器用な手つきで、ずれないようにゆっくりと裏地を縫い合わせると、何となく形はそれっぽくなったかもしれない。お店に並べることはもちろんできないけれど、初めての帽子作りは大成功と言っても過言ではない。
「できました……!」
 自らが縫い上げた深紅の林檎を店長に掲げて見せる。達成感。両頬も林檎のように紅く染まり、どこか得意げな顔にもなってしまう。
「まあ、素晴らしい!初めてにしては上出来だと思います!」
「毒林檎のアレンジは此方でいたしますので、お客様は受付でお待ち下さい。」
「はい!」
 元気な声で返事をすると、どこかふわふわとした心地でチルチルは受付へと向かう。自分で帽子を作った。それがなんだか信じられなくて、けれども目の前で毒林檎の帽子が包まれて行くのを見ていると、夢心地が少しずつ現実味を帯びてくる。
「お疲れ様でした。」
 茶色いバスケットに入れられた帽子は、紫色のリボンで結ばれており、正しく童話の中の毒林檎のようだ。
「ありがとうございます……!」
 バスケットの中身は毒林檎。深紅に惑わされて囓ったら最後、受け取った誰かは眠りについてしまうのだろう。人間が間違えて食べてしまってはいけない。この毒林檎の帽子は、ハロウィン当日まで、チルチルのお気に入りがふんだんに詰め込まれたクローゼットの中に隠しておこう。

 バスケットを抱えたチルチルは、帽子を押さえて彼らに頭を下げる。
「きょうは、ありがとうございました!」
 あの人はどんな顔をするだろうか。浮足立つ気持ちをおさえることもせず、チルチルは毒林檎と共に日常へと帰るのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト