甘辛く煮つめて

作者：にゃあら

●いらっしゃいやがりましたねご主人様
　√汎神解剖機関――世界の片隅――世間一般とやらを、常軌とやらを、撥ね退けるかのような雰囲気のお店がひとつ。その店では数多のメイドを雇っており、その一人一人が誰かのAnkerであった。しかし、如何やら、今回、外星体『サイコブレイド』に狙われているのは一人だけのご様子で、成程、その所以は、狙われているメイドが騒がしいからの一点だ。ぺこりと、ご挨拶からして雑さ加減が窺える。
「いやですね、おとなりちゃんを指名するのは良いんですよ？　良いんですけどね？　他にも色んなおとなりさんがいるんですよ。わかってます？　え？　わかってて尚、おとなりちゃんが良い？　正気ですかテメェ？？？」
　兎にも角にも、このような有り様だから、このような騒々しさだから、引っ掛かったのだと考えられよう。抹殺計画のターゲットとしては少し、いや、かなり、関わり合いたくはないものだが。……赦されざる悪として、全うせねば。あれが、犠牲者として『役目』を果たしてくれるなら、俺も全力を尽くしてみせよう。

●病的かつ冒涜的な禍々しい混沌とした作戦
「ふぅむ……君達、面倒な事になった」
　星詠みである暗明・一五六は、まったく、面倒臭そうな顔をせずに、君達へと声掛けした。いや、顔がそもそも本なのだから、表情など判りはしない。
「うちのメイドがねぇ、サイコブレイドに狙われるって見えたのさ。ま、とりあえず。ターゲットになるだろうメイドは『別の店舗』に異動ってカタチにしといたさ。つまりは、囮のようなものだねぇ。何？　メイドに話はしたのか？　アッハッハ！　あれは君達が思っているよりも肝っ玉なのさ」
「ま、狙われてるAnkerがメイドってだけで、それ以外は通常の抹殺計画さ。君達はこれを阻止すれば宜しい。ところで……我輩からひとつ、謂うべき事があったねぇ。何も出来ずに、何も見えずに、只、殺されるのは、嫌なものさ」

第1章 日常 『個性的な飲食店』

●狂った独楽のように爆速で回転する椅子はサービスです
　おや……おやおやおやおや……？
　おとなりちゃんが此処にいるって如何してわかったんですか、テメェら。まあ、此処はメイド喫茶みてぇなモンですのでとっとと｜席《●》に座りやがれください。何？　メニューがないですって？　そりゃあるわけねぇですよ。此処にあんのはインスタントラーメンとインスタントコーヒーくらいですからねぇ？　お酒？　ああ、お酒！　お酒なら、まあ、幾らでも提供できますが。あ、未成年はノンアルだかんな？？？
　マシンガンな――饒舌な――メイドのようなものに｜歓迎《●●》された。アナタは、簒奪者がメイドを抹殺しようと試みるまで、お戯れをされると宜しい。
　で？　テメェらは何しに来たんでやがりますか、ご主人様？　メイドさんと遊びたい？　そいつはご愁傷様！　此処にはおとなりちゃんしかいませんよ！　アッハッハ！　あ、おまわりさんしたいってんなら付き合ってやりましょう。ご主人様！
　ああ、お通し！
　お通しを出さなきゃいけねぇって事ですね！
　今日はコイツです。蝗の佃煮！！！

　落ち着いた雰囲気の店内――ある種の、お約束の気配に塗れたカウンター――夢魔にでも誑かされたのかと錯覚するほどに、台無しにしてくれたのは他でもない、メイドであった。ゲラゲラと、アハアハと、正気なのか狂気なのかも不明な儘に、メイドはご主人様とやらに声を掛けた。いらっしゃいやがりましたね、ご主人様！　なんとも無礼なご挨拶ではあったのだが、如何やら、鬼灯・睡蓮、人間災厄「白昼夢」には刺激でしかなかったらしい。ふにゅ……変わったお店なのです……メイド喫茶……？　騒がしいメイドを前にしても眠たげなのは流石と謂うべきか。兎にも角にも、此処は一種の『夜の店』でもあり、何方かと謂えば、オマエの権能とは真逆の類か。……ここは……お昼寝を、する場所では……なさそうです……。おうおうおう、其処のテメェ！　おとなりちゃんを前に居眠りたぁ良い度胸してやがりますね。さっさとお通しを愉しみやがれください。ドサッ！！！　山と盛られた蝗の佃煮。……ふにゃ……変わった、メニュー……お喋り……色々あるのですね……？　得意でなくとも話題を振ってくれ。何かを振ってやらないと、おそらく、目の前のメイドは暴走する。詩……歌……一曲、如何です……？　捻り出した回答としては上等か。ふぅん？　おとなりちゃんに聞いてほしいって事ですかね？　まあ、好きにしやがれってんですよ。駆け抜けるは、時の夢……。夢の中であれ、現実であれ、いつだって、誰かは誰かでしかない。
　浮かんでいたのは影であった。いや、影のような幻影であった。音符を吐き散らかすと同時に、少年、ひとりで何処までも伸ばすというのか。……やるじゃねぇですか。メイドが傾聴してくれるほどには出来が宜しい。まるで、無聊を慰めてくれるかのような、甘さを際立たせる美酒。……如何やら、上手に、できたようです。拍手の勢いそこそこにメイドはスッと立ち上がった。テメェにはちゃんとしたものを出してやりますよ。
　美味しそうなエビフライだ。


　綿の色については最早、描写の必要もなく。
　殻があるのか、殻がないのか、或いは両方なのか。テディベアの魔法を引っ提げて、不意打ち、可愛いが物理的に存在していた。具体的に言の葉とするならば、視よ、騒がしいメイドの背後だ。簒奪者にすらも悟られない、まったく怪異的な登場は――心臓――狂わせるほどの大きさであった。うおっ！？　な、なんですかテメェ！　おとなりちゃんを驚かせようったってそうは烏賊の塩焼きですよ！　……『たこ焼き』にｼﾃ……ﾘｻﾁｬﾝ、『ご主人様』……ﾘｻﾁｬﾝｻﾏ、『萌え萌えキュン』を『所望』ｽﾙ……。物部・リサちゃんは今日もふわもこ。マイフレンドを嫉妬させるほどの執着に、嗚呼、メイドはひっくり返ってしまうのか。だ、だだ、誰がそんな事しやがるんです？　おとなりちゃんはメイドですが、誰かに媚びたりはしねぇんですよご主人様！　燃え燃えしやがれ！　……『ご主人様』の『命令』は『絶対』……『佃煮』と、ﾐｯｸｽｼﾞｭｰｽに……『萌え萌えキュン』ﾔｯﾃ……。圧が凄い。じりじり、じりじり、迫ってくるテディベアに、愈々、メイドは屈するのか。しゃ、しゃーねーですよ。テメェが満足するまで『萌え萌えキュン』してやります。
　繰り返した。反芻した。しかし、リサちゃんが満足するにはもう少し『何か』が必要らしい。『萌え萌えキュン対決』……『所望』ｽﾙ……。はあ！？　テメェ何言ってやがりますか。ﾖﾘｶﾜｲｲ『萌え萌えキュン』……『勝者』……『ぐるぐる回って☆萌え萌えキュン』……。ほ、ほほう……？　テメェ、こっち側でしたか。良いでしょう！　テメェが綿散らかすまでやってやりますよ！　七色を湛えた軟体動物に万歳！　これが『決して負けられない戦い』！　ﾘｻﾁｬﾝ、『更なる高み』をﾒｻﾞｽ……。両者、椅子に座って開始の合図。歯車よりも滑らかに、ケーキよりも甘ったるく。レッツ・ゴー・サイクロン！！！
　ｸﾞﾙｸﾞﾙｸﾞﾙ……『萌え萌えキュン』……。
　ご主人様、此方のソフトクリームもご一緒に召し上がりやがれください。
　ｸﾞﾙｸﾞﾙｸﾞﾙ……『萌え萌えキュン』……。
　ソフトクリームでは物足りない？　なら何が良いってんですか！
　ｸﾞﾙｸﾞﾙｸﾞﾙ……『萌え萌えキュン』……。
　くっそ！　ネタがなくなってきやがりました。それに、そろそろ、おとなりちゃんは限界……うっ……。スプラーッシュ！！！　綺麗な🌈！！！
　ｸﾞﾙｸﾞﾙｸﾞﾙ……ｸﾞﾙｸﾞﾙｸﾞﾙ……ﾘｻﾁｬﾝ、『圧勝』……。


　前夜祭のようなものだ。
　メルヒェン――メイドとテディベアの回転が終わる頃――惨事の｜音《●》を覆すかの如く、騒がしさの追加とやらをしてくれた。まるで、時計仕掛けの神が如くに、チクタク、凄まじい速度で針は踊るのか。どうもーベリル運輸でーす配達に参りましたー！！！　配達だなんてありえない。メイドも、店長も、一切を頼んでいないのだから。そんな事よりも扉がぶっ壊れそうなほどの｜バァン《！！！》が問題だ。て……て……テメェ！　それはちょっと流石に困るんですけどぉ！？　もしやこのメイド『ツッコミ』の適性も有しているのか。それなら、嗚呼、√能力者に振り回される運命に在れ。っと、ルールは『ご存知』、俺に見覚えだってあるかもね。こんにちはこんばんは口数だけなら負けないぞぅ！　それに、おやすみは要らないからね。張り合うところじゃあないけれど！　メイドは頭を抱えたくなった。いや、頭を抱えたくなる所以は治まらぬ眩暈にあったのだが。あ、配達？　はい、これお荷物ですー。お披露目すべきは『頼んですらいない荷物』の全貌。さあて、今夜｜も《●》無礼講！　はあ？　無礼講？　テメェらはいっつも無礼講しているんじゃあねぇですかね。おとなりちゃんの前で堂々とキャッキャウフフしおってからに。
　――皆様、素直になりやがれください。
『お憑かれさま』！
　小さな、小さな爆弾を肚に抱えて、真っ黒い全てをぶち撒けてくれ。あとは混沌、愉しむまでだよ。俺も素直に愉しむし、これ以降、入店してきた誰かも『そう』だよね。って、ことでここから俺はお客さん～。っっっ～……ご主人様っ！！！　観察するのは結構ですが、テメェ！　おとなりちゃんを暴いたんですよ？　こりゃもう駿河問いもんですわ！！！　面白そうなら『回って』やるとも！　あはは！　いっそシャンデリアの代わりになってくれ。ぶおん、サーカスが如く。おまけに爆弾を降らせてやれ。
　しっかし蝗の佃煮かぁ！　終端の始まりを感じる～。
　むしゃむしゃ、咀嚼に時間が掛かるが、悪くはない。これ未来で食べた気がする。故郷の味かも。もしかしたら故郷の味かも！！！　噛めば噛むほど味が出る。ちょっと反芻気味なのは『気の所為』だ。……テメェ、やけにトリックスターしてやがりますね。


　うーん、テメェの反応は不可説不可説転点ってとこです。
　蛞蝓のように這ってくれ。
　正直者も嘘吐きも――中途半端な人々も――メイド喫茶のようなもの、戸口を叩けば皆奈落か。少年少女の夢見がちな日々とやらも、ああ、すっかり、大人達へと感染していく。おとなりちゃんが回してくれるの！？！？　回されたい回されたい回されたい！　蛙よりも、蝗よりも、ぴょんこぴょんことお上手な「少女の偶像」。あぁ゛？？？　今忙しいってのがわからねぇのかよテメェ！　それと、テメェは酒が飲める年齢じゃあねぇですか！　まさかの『少女ではない』とのお言葉だ。これにはイリス・フラックスも吃驚で、改めて『定義』をしておかなければならない。わたしは『少女』よ。もっと謂うなら『回されたい少女』なのよ。みんな『回されたい』はず！　すくなくとも、わたしは！！！　畳み掛けるかのように『定義』された。最早、メイドに逃げ道などない。ええ、ええ、そりゃあもう、嘔吐するまで回してやりますとも。🌈で隠す気もなくなったらしい。おとなりちゃんも回したいよね？　やっぱり、当然なことを訊いてしまったわ！！！　わんこそばよりも、お寿司よりも、健やかにぐるぐるしてくれよ、少女。いや、勿論、この拘束されての高速回転は不健全極めた『お遊び』なのだが。……ということで、わたしはお客様です。ちょこん。椅子に座る姿はまさしくドール。つまりは玩具。洗濯待ちのゴシック・アンド・ロリータ。
　待機時間は数秒ほど。メイドが背もたれに手を置いたなら、いざ、尋常に。よろしくおねがいしま――ピャッッッ――小さな悲鳴。初っ端からハイスピード。狂った独楽なのか回されている少女なのかも判別できないぐるぐるだ。まわっまままままわっっっすごいことになってるきがするのぐるぐるぐるぐるぐぐｇっっっ……。言葉が言葉をしていない。脳味噌がひどく片寄っているかのような感覚だ。ぴっっ。追い打ちの急停止！　少女は鳥になった。正確には、少女の脳味噌だけが鳥になった。鳥になって、巣立ったかのような喪失。おっ？　テメェ、起きやがれ！　テメェのおめめぐるぐるはこっからですよ！！！
　気つけ！！！　それが齎すのはプリンの再生に近い！
　はっ……いま、わたし、なにを……？
　めを、まわしてた、ような……？
　目を回す――別の意味で――だ。もっかい。もっかい……わかんなかったからもっかい！　もっかい！！！　少女の偶像はすっかり『目を回すこと』に夢中だ。【スイカ】が仰天するほどの『定義』である。あ……そだ、お通し……席料……蝗ちゃんはあとでね。あとで、たべ……。目玉がぐるぐる、脳味噌べちゃべちゃ、胃袋ひくひく。そんな不快感に襲われているのだから……。
　けぽ。🌈


　すっかりのびてしまった。
　意味するところは不明だが、ひどくスープを吸っている。
　天蓋を見ているのか、真面に見えていないのか。
　メイド喫茶――飲食物を提供するとは思えないほどの――筆舌に尽くし難い、つんと、鼻に憑くかのような臭いに不快さを覚えた。いや、勿論、アーシャ・ヴァリアントに『この臭いの原因』を筆舌する能力はしっかりとあるのだし、その為、刹那だけ、もらいそうになったのは墓場まで持っていく事にした。騒がしいだけどか、基準がはっきりしてるというか、適当っていうか……まぁ……いいわ。一般人？　狙うような奴はいつか｜義妹《サーシャ》を狙うかもしれないから、ぶっ飛ばしておかないとね。二度とそんな気起こさないように、ガタガタにしてやるわ。ああ、しかし、メイドといい義妹といい、もう少し、狙うべき相手を選ぶのが吉ではなかろうか。む、今、サーシャを莫迦にされたような気がするわ。今、出てきたら半殺しですませてあげる。おっと、テメェ、おとなりちゃんを忘れてるんじゃねぇですよ！　如何ですかご主人様、この、七色に煌めくパーティーとやらは！　……ほんっとうに騒々しいわね……腹ごしらえ……この状況で？　正気？　正気で肚は膨れない。何せ未曾有、ぐるぐる混沌なのだ。……なんでインスタントラーメンしかないっていうべきか、インスタントラーメンあるのよっていうべきかしら。ま、そんなことは気にしないから、とにかく辛いの頂戴。辛いの、普通のしかないっていうなら唐辛子でもぶち込めばいいでしょ。もごもご、もごもごもご。なんかメイドがガスマスクしてる。心霊テロリストよりもテロするつもりか。……他の客が目を回してもしらないわよ……後、椅子を爆速で回すサービスとかいらないから……フリじゃないからね、フリじゃ。んなもんフリでしかねえでしょテメェ。インスタントラーメン出来上がるまでの三分間、一秒一回転でしっかりぐるぐるしやがりください。フリじゃないって言った筈よね？？？？？？
　お約束を喰らったのか如何かはご想像にお任せします。


　死屍累々――生き地獄の最中――転がっていたにゃんこは、ようやく覚悟を決めてくれた。嫌だ嫌だと謂いながらも、頭をひどく抱えながらも、クラシックな格好でお決まりなまでの介抱か。何処かの誰かが解放し尽くした結果の苦くて酸っぱい世界観。嗚呼、回されてもいないのに、叩きつけられてもいないのに、眩暈がするかのような感覚に苛まれていく。で？　テメェは随分と、自分で自分を抑圧しているようにも見えますが、テメェもしっかり回してやりましょうかね。🌈ハラなんて言葉が出来てしまいそうだ。ま、テメェの場合は？　回したって面白くもねぇんですがね。何かに『気付かれた』のだろうか。いや、まさか。この先輩メイドは――√能力者ではないのだから。
　四之宮・榴が清掃業務に追われる数十分前――和田・辰巳は惨事の中で、より強い｜惨事《●●》に遭いかけていた。僕も……店員として、料理のお手伝いはできますが……。まるでお代官様に引っ張られた町の小娘。勿論、和田・辰巳は男の子だし、精神だってそのまんまだ。そのような状態で、ああ、無理やり『メイド』にさせられたなら、萎れる以外の道はなし。……め、メイド服じゃないといけない、だなんて……こ、殺して……！　新鮮な『くっころ』をいただいた。これには『おとなりちゃん』もご満悦なご様子。くるりん。気を取り直しての一回転。見せつけたお相手は、やはり、にゃんこの目玉をしていた。似合います？　辰巳様……お、おいたわしや……。せっせとインスタントラーメンを運んでいくメイド男子。すい、と、目を回して倒れているお客さんを、縫うかのように。……ひ、人手が、足りない。むしろ、本店よりも、お客様が多い気が……うぅ゛……。化けてやったのは666の内の一。先輩っぽさを醸してやれば、中々、馴染んでいるかもしれない。
　……なんか、スースーします。｜長髪《かつら》を靡かせつつ、ふと、目に入った椅子。ぐるぐるバットとはまた違った｜体験《●●》が出来そうだが、さて、飛んで火にいる夏の虫。……手が空いたので、折角なので座ってみましょう。擬態が上手に出来たとしても『回す』相手が悪かった。可哀想は可愛い、お約束は女性男性と関係がない。
　た、辰巳様……！？　それは……座ったら……っ……！
　手遅れである。どれほど手遅れなのかと問われれば、比喩が見つからないほどに手遅れだ。アハハハハハハハ！！！　テメェ！　テメェのような奴にゃあ拘束しての高速回転も物足りねえってやつですね！　おとなりちゃんの全力を以て三半規管ぶっ壊してやりますよ！　台風だ。最早、小型の台風だ。台風の目が回るほどの悪夢である。
　う……。無理だ。冷汗が止まらないし、目を瞑っていてもぐるぐるしている。ぺたんと床に座りながら｜猫《●》を撫でたり、撫でられなかったり。……サラサラ、してる。顔面が蒼白としていて、サァ、とオノマトペ。気配……？　探れる？　無理だわ……。辰巳様、辰巳様、あの、大丈夫――？　ダメそうだ。死屍累々の一人として数えておこう。
　エチケット袋は人数分ちゃんとありますのでご安心ください。

第2章 集団戦 『堕ちてしまった改造人間達』

　蝗曰く――爆発オチは最低だが、お約束を忘れるつもりはない。
　メイド喫茶――🌈まみれの店内――へと、奇襲を仕掛けてきたのは秘密結社『プラグマ』の魔の手に『堕ちた』者達であった。脳髄まで改造を施されたのかは不明だが、奇襲を仕掛けてきた彼女等は、人間らしく、顔色を悪くしてくれた。
　……な、何よ、この状況……まさか、あの｜怪人《ひと》、私達にこの中で戦闘をしろって謂うの……？　これも、長い戦いに終止符を打つため。だけど……ちょっと、気分が……。
　あまりにも可哀想だ。秘密結社『プラグマ』が全ての√を支配すれば、戦いは終わる。そう｜洗脳《●●》させられた彼女等が、このような場所に配置されるなんて。
　……任務を遂行する。
　今回のターゲットはあのメイド、さっさと抹殺して、帰るだけ。
　君達はメイドを守りつつ――目を回してぐったりした状態だとしても――改造人間どもを倒さなければならない。頑張れ！！！！！

　誰も彼もが患いを抱えている。
　それを蔓延させている者にこそ、怪人の二文字が相応しい。
　空想の中で彼等は、彼女等は何人殺してしまったのか。
　蝗の佃煮からエビフライへと――和食から洋食へと――反復横跳びするサマは、まるで、子供と大人の中間地点。透き通るかのような、眠気を催すかのような、ゆったりとした歌とやらに、さて、如何様な意味の｜詩《●》を湛えるのか。ふにゃ……守りながら、戦う……。前に出るのか、後ろへと除けるのか。何方にしても、この戦闘を長引かせるわけにはいかない。そうですね、美味しいものを出していただきましたし、やれる事はやりましょう……。あん？　テメェ、おとなりちゃんを守るって、本気で言ってんですか？　おとなりちゃんはこれでも666人のメイドの中で一番……？　覆い被さったのは｜護霊《カダス》だろうか。勿論、騒々しいメイドには見えていないのだろうが、しかし、手を伸ばせば其処に在る。それでは……僕は僕で、戦う為に動くとしましょう……それと、メイドさん。これが終わったら、一緒に、お昼寝がしたいのです……。おっと、テメェ。それは「断って」おきますよ。おとなりちゃんは皆のおとなりちゃんですからね。……そう、ですか。では、この場を切り抜けたら……もう一度、誘ってみると、するのです。駆け抜けるは、時の夢……。いったい何度目の疾駆であろうか。或いは泥のように、総てが昏迷へと墜ちていく。
　店の中で――壁の中で――齧歯が如くに、縦横無尽と。撹乱を仕掛けたオマエの最優先は、嗚呼、メイドの五体満足であろうか。……疲れている、筈、です……僕が、触れなくても、今にも、眠って、しまいそう。催眠を施す事に躊躇はなく、連中、己の｜腕《●》を枕と認識し始めた。ちょっと待ちやがれくださいご主人様。店内は火気厳禁ですからね。成程、確かに。焼却するのは諦めて、霊力、叩きつけてやると宜しい。
　改造されているのか、されていないのか、脳の脆弱さはそのままに。


　じっと、じっと、目を合わせてやると愉しい。覗き込んで、観察して、限界寸前まで弄んでやったなら、愈々エチケット袋とやらの出番である。あははっ！　知り合いどんどんノビててウケる！　当人からしてみれば、目を回している死屍累々からしてみれば、たまったものではない。溜め込んだ――蓄えた――朝か昼か夜の散々である。再起不能になってなーい？　大丈夫？　どっかの少女はおそらく復活するのも可能だろうか。その他大勢については、いやはや、早まっているとしか考えられない。俺はこの有様、地獄めいててだぁいすき♡　ともあれ『お掃除』しなくちゃね？　大丈夫任せて手伝うさ！　手伝うの一言が｜正直《●●》、胡散臭い。勿論、この胡散臭さも吐物の所為で薄れるものだが。🌈も引き寄せたらごめーん♡　御免ですまない『結果』である。これには、改造されている彼女等も蒼々と染められた。……急いで奴を叩け！　全員で殴れば、抑える事くらいは――？　近づいたのではない。近づけられたのだ。より、正確には、覗き込まれているのだ。
　それも一緒に｜Watching you《見てるよ》！　意識をするよりも素早く、勝手にぐるぐるする目玉よりも苛烈に、過熱蒸気波――哀れな仔羊どもを招き入れた。ところで、最近の女の子はサウナに嵌まってるって聞いたことあるよ。一斉に掃射されたのは｜蒸気《なまり》の地獄だ。地獄に熱が籠ったのであれば、じっとり、脳味噌が汗をかくかのよう。蒸し焼きだ！　普通の熱じゃもんじゃ焼きだったかも！　でも、これじゃ……なんだろうな～！！　あははっ！　良いだろう。描写をしてみせようではないか。もんじゃの香りの代わりとして🌈の臭いが蒸気に混じる！　お見せ出来ない状況だ。幾ら、改造を施されていても元は人間。茹だった脳味噌ともらいものの二重苦だ！　いっそ殺してくれ！　偉大なる機械仕掛けに見られているなんて！
　甘受せよ、享受せよ、『アルテスタ』はお掃除も得意だ。ご立派な盾になろうじゃないか――きったねぇ一撃受けたくはないけどね！　如何にか耐えきった改造人間ひとつ。よろよろ、げほげほ、拳を握り締めて――歩を進めてくる。でも、メイドちゃんのためならば～？　｜Leave it to me, folks!《任せたまえよ諸君！》
　可哀想な娘の背中、かるく押してやれ。
　ぽすぽす撫でてやれば、それだけで、再起不能はやってくる！


　逃れられない、このような悪夢。
　眩暈よりもひどい喪失感。
　おそろしいほどの圧が――凄まじい｜呪い《もの》が――物々しく、可愛らしいテディベアより発せられたのだ。この不意打ちには……この、ホラーなお約束には、改造人間たちも驚かざるを得ない。『おとなりちゃん』……『燃える』ﾗｲﾊﾞﾙ……ﾘｻﾁｬﾝのﾗｲﾊﾞﾙ……『抹殺』ｻｾﾅｲ……『抹殺』ﾕﾙｻﾅｲ……。たとえば、カートゥーン。憤怒のエフェクトとして、業々とした真っ黒い背中の炎か。『おとなりちゃん』、ﾘｻﾁｬﾝのｳｼﾛに……ｻｶﾞｯﾃ……。仮に、つよつよな一般人であったとしても、殺されたのなら、おしまいだ。ここはお言葉に甘えてメイド、テディベアの後ろに引っ込んだ。『応援』ｶﾝｹﾞｲ……『萌え萌えキュン』……。いや、してる場合じゃねぇんですよテメェ！　テメェなら、あの程度の連中、モフモフしながらでも倒せるでしょうが！！！　藁に縋るほどの思いだと謂うのに、結構、余裕があるのではないか。兎にも角にも秘密結社『プラグマ』からの刺客、如何にして撃破をすべきか。『プラグマ』……ｸﾞﾏ……ｸﾏ……？　やはりテディベア、其処に反応をしてくれた。ｾﾞﾝｾﾞﾝ……ｸﾏｼﾞｬﾅｲ……『クマ似』ﾃﾞﾓﾅｲ……ﾆｾﾓﾉ……。膨らんでいく。漏れ始めている。いわくつきなお友達の呪力が――店内、隅々にまで行き渡った。ま、待ちやがれくださいご主人様！　これ以上この店を『変な店』にしやがらないでください！　『おとなりちゃん』、ｳﾙｻｲ……ﾆｾﾓﾉ、『ふわぽこ』ｽﾙ……ｿﾌﾄｸﾘｰﾑに、ｽﾙ……。たとえマイフレンドだとしても今のリサちゃんは止められない。ｶﾜｲｲﾃﾃﾞｨﾍﾞｱは……ﾘｻﾁｬﾝﾀﾞｹ……ﾘｻﾁｬﾝ、ｶﾜｲｲ……『萌え萌えキュン』……。
　決意をしていても、諦観を抱えていても、目と鼻の先、『呪い』の塊なのであれば『死なない限り』はむしろ枷だ。『治る』ﾖﾘﾊﾔｸ……『ふわぽこ』……『ふわぽこ』……ﾏﾄﾒﾃ『ふわぽこ』……。そもそも『ふわぽこ』とは何か。ふわぽこ魘魅☆仏恥義理☆萌え萌えキュンパンチの略称だ。なんか文字増えてない？　きっと気の所為だし、それが聞こえたのならば『おしまい』か。ｵﾐﾏｲｽﾙ……ｼﾀ……。改造された躯体を『ふわぽこ』にする。貫通し、臓腑諸共に攫ってやれば――『わるいこ』とされて終うのか。


　焼けているのは胃袋か食道か。
　もしくは、何者かの一部か。
　一秒一回転――しっかり数分ほど――お約束をされたアーシャ・ヴァリアント、粗相の有無は置いておいて残酷なまでのピンチである。いや、勿論、この危機とやらの原因は『おとなり』に存在しているのだが。うっぷ……だから、椅子は回すなといったでしょうが……。言ったとしても言わなかったとしても、見えている地雷なのだ。むしろ、地雷について言及をしてやらない方が『回されない可能性』が高かったのかもしれない。来るのが遅いのよアンタ達、そうすりゃこんな惨状になってないのに……。いつも通りの🌈塗れだ。彼女等にとっては異常でしかないが、ああ、店にとっては日常であれ。まぁいいわ、目が回るけど、アンタ達を楽になる為に使ってあげるから。……それでも英雄？　英雄ではない。もしも、英雄だったとしたならば、義妹だけの英雄であれ。ちょっと待ちやがれください。テメェらおとなりちゃんを無視しておっ始めるたぁいい根性……。良い根性なのはアンタよ。こんな状況でも、まだ、威勢がいいなんて……。眩暈の原因であり頭痛の種、こっちを燃やし尽くしてやりたいと、ほんのり、思っていたのは内緒としておく。
　一斉に群がってきた――襲い掛かってきた改造人間ども。巨躯へと集る羽虫のような有り様で、視よ、突撃が齎すのは惨劇である。この程度で計画に参加したのかしら。あーあ、このままだとアンタら、一人残らず達磨になるわね。怪人お墨付きの身体強化も｜竜《●》の前では塵芥か。見切られ、反撃をされ、ぼとり、最初の｜腕《にく》が落ちていく。それで？　アンタ達、それは意地じゃなくて自棄なんじゃないの。傍から見るならば『やけくそ』なのはアーシャ・ヴァリアント、オマエの三半規管に違いない。倒れるほどの傾きではないが、フラフラ、治まる気配はない。……あんまり食欲は涌かないけど。骨も肉も皮も、オマエのもの。腕の焼き加減はそこそこで、なんとも、人らしさの欠片であった。
　うーん、硬い。焼き入れし過ぎかしらね。
　食いごたえはあるけど、美味しくないし、何より、胃に優しくないわね。


　脳味噌は柔らかいのだ。保護しなければならない。
　繭の中から出現したのは――殻を破ろうとして藻掻いたのは――虚構だったのか、人間だったのか。ある種の迷路のその最果て、掌の上で回されたのかと疑うほどには、嗚呼、人とやらは出来ていない。いや、確実に、ただの人間なのだから、死屍累々、お仲間にされてしまったのだ。三半規管だけが正気ではない。まだ、世界とやらが旋回、錘のように続けていた。……辰巳様、くれぐれも無理は……しないで……お願い、ですからね……？　心の底からの叫びであろうか。脳髄から飛び出た、漿液のような言の葉であろうか。兎にも角にも死屍累々、素早く、自分は大丈夫なのだと安心させてやるといい。ふ、ふふふ……死屍累々の一人ですが、何か？　僕はグロッキーでも、どんな状態でも、戦えるんですよ。男の子ですから……。フラフラしている脳味噌を元の位置に固定しておく。泡の代わりに、🌈の代わりに、煙を吹かしてやったならば、お呪いのように影を伸ばせ。……この隙に……。ふよふよ漂う箱水母に感謝をせよ。まるで、揺り籠のように三半規管を抱擁してくれる。……テメェ、その、揺り籠って表現は余計に目ぇ回りませんかね？　……無理なんてしませんし、僕は、榴の方が心配なんです。それと、今から守りますから、変な事しないでくださいよ？　念には念を入れておけ。念を入れてみたところで、メイドの騒々しさを殺す事は至難だが。……ええっと……今、一番、危ういのは辰巳様なのですが……それに、先輩様は、自分で、自分の身を……いや、そんな不敬な考えは……！　考えている暇はない。怪人に強化を施された改造人間どもがやってくる。さて、彼女等はいったい、何処を滅茶苦茶にされていたのか。答えは――頭蓋骨である。へ……？　なんですか、その、シュールな……。
　女装男子は続いている。構えた盾虫とやらに叩きつけられたのは――ひどく頑丈な頭部であった。体勢を崩されそうな、執念深いほどの一撃一撃。もしも、バランスをやられて、かつらが落ちてしまったら――別の意味での致命と謂えた。……ま、負けられない……恥ずか死するくらいなら、いっそ……。辰巳様！　今回は、挟み撃ちで……。盾虫と恩仇、じりじりと狭められたなら、改造人間、後も前もなくなった。おいおいおいおい、テメェら！　少しは考えるじゃあねぇですか！　殺すならキッチリ殺しやがれください。先輩からの命令は絶対（かもしれない）だ。地獄絵図を現とするならば、今しかない。
　テスカトリポカの倣いとして――大海――眩ませるほどの雷鳴であった。峰打ちされた一人が意識を手放した瞬間、ここぞとばかりに鈍器がうたう。……どうやら、片付いた……？　榴、先輩、無事ですか？　無事なら、返事を……？
　蝗の佃煮が震えている。
　蝗の佃煮が震え――跳躍し――増えるかの如くに。

第3章 ボス戦 『アポローン・アルケー・へーリオス』

　臓物と吐物を餌として――蝗の佃煮――ゾンビめいた復活を遂げた。
　腹を空かせた彼等は一斉に店外へと飛び出し、新たな餌を求め、消え失せる。消え失せ、沈黙となったこの宙とやらに――神威、銀色の悪夢は到来した。たとえば、毒々しい魔性。たとえば、禍々しい殺意。たとえば――胡乱に対しての好奇。
　お前も、お前も、お前も、実に『おもしろ』い余興であった。余興と謂うには些か、いや、かなり、汚らしい『もの』であったが。改めて、英雄ども、私はヘーリオス。ディー・コンセンテス・アポローン・アルケー・ヘーリオス。組織『ディー・コンセンテス』の『十二神怪人』である。これで、名乗りは問題ないな？　名乗りに問題がないならば、速やかに、お前たちを頓死させるとしよう――ああ、お約束には、まだ、早すぎるからな。ついでに、これも訊いておく事にしよう。お前たちは、埋葬を好いていそうな、顔をしている。
　神の名を冠する怪人は『その気』だ。全身全霊で、覚悟を決めて、挑まなければ『頓死』するのは必至である。で、だ。お前たちは『それ』を守らなければ、ダメなのだろう。折角だ。｜アイツ《●●●》お手製の武器を使うつもりだったが、今回は『サイコブレイド』を使い潰してくれる――！
　矢の代わりに剣！　剣からの蠢動！　漆黒の触手が瞬間的に『メイド』を捕縛し、磔の刑！　うおっ？　マジですか！？　て、テメェら、これはちょっと、マズい展開じゃねぇですかね？　ま、まあ、おとなりちゃんの事は置いておいて、そいつを倒せば解決ですからね！！！
　神を殺すのは君だ。

　埋葬する際の棺、横たわる為のマット、その柔らかさ、反撥具合……。
　想像をしてみたならば、中々、悪くはない寝具と謂えた。
　嘲笑う蝗の群れを背後に――｜奈落《アバドーン》を後光として――神は頓死を宣告した。神が宣告をしたのだから、神が絶対としたのだから、最早、覆す事など出来はしない。いや、√能力者よ。たとえ、己の命が不可視となろうとも、無能力者、誰かの行方を守る事こそが最優先なのではないか。んにゅ……改造人間の後は、幹部級、お約束ですか……。まぁ、守りながら……殺させないように……立ち回るのは、先程と変わりませんが……。明らかなまでに熾烈である。苛烈にして熾烈な、列をなす火と硫黄の亜種である。カダス……メイドさんの守護を頼みました……。何処かの聖人サマめいて磔にされたメイド、そのお隣にはぼんやりとした、インビジブルが纏わりついてくれたのだ。僕はもう少し、頑張ることとしましょう……ふにゅ……。無理をするも何も囚われのお姫様だ。叫ぼうが喚こうが、身動きひとつ取れやしない。……ほう。お前は、随分と『変わったもの』を持っているな。しかし、私は思うのだ。夢などと、現などと、騒いでいる時点で鬼が嗤うのだと……！
　駆け抜けるは、時の夢……鬼に、嗤われても、構わない、です……。空へ、宙へ、蝋など不要と脱ぎ去ったイカロスは――見よ――墜落の二文字を殺す事に成功していた。お前は蝗よりも｜羽虫《●●》らしい。まったく、如何してお前は、私の腸を煮つけにしようと、駆けているのだ……！　幻影――たとえば、ありがちな家庭の一頁――ははは、お前はこうまでして、私と遊びたかったのか？　……フィジカルで、負けるつもりは、ないのです。僕の取り柄ですから……底上げも十分に、されています、ですよ。突撃してきた｜人間災厄《もの》を盾で受け止めようとした。しかし、誘導。僅かにズレた状態での｜一撃《●●》だ。城壁を最初に砕いたのは――お布団を探す迷子であった。
　厄介なのはお互い様だ。子守唄の代わりに断末魔を求めよ。


　胡乱を極めていた現状――シュール・ギャグを尽くしていた現状――打破をせんとやってきたシリアスは、果たして、邪悪なまでに｜ロキ《●●》をしている。その身に暴力性そのものを宿した怪人は、ぐるりと、√能力者達を見下してきた。またヘンテコな改造人間が……怪人がやってきたわね……名前長いから弓男で良いわね、良い、良し。むす、と、感情を湛えてやったアーシャ・ヴァリアント、弓男からの評価は上々、うなぎのぼりだ。お前は……ああ、私の『好きな』タイプの人間だ。いや、この場合、人間とは、知的生命体を意味する言の葉で……！　全然面白くないし、アンタに好かれるなんて、それこそ最悪。あと、埋葬を好いてそうな顔ってどんな顔よ、どんな。あまり気にしてはいけない。無視をすべき相手なのだが、如何にも頭痛がしてくるほどのマシンガン。そりゃまぁ死んだり死んだりはしてるけど、最終的には勝ってるし、埋葬なんて無縁だわ、アタシ――「失敗なんてしないもの」――呆然。鳩が豆鉄砲を食ったよう。ふ、ふはは……ははは……ダメだ。おかしくて、おかしくて、お前は私を笑い死にさせるつもりか？　腹を抱えて震えている蝗のひとつ。弓男が七転八倒している間に、さて、メイドの様子でも観察してやると宜しい。ああ……そういやそうだったわね、なんか忘れてたわ。あ゛あ゛？　て、テメェ！　これが終わったら覚悟しやがれください！　さっきの椅子で満足するなんて思わねぇ事ですよ！　あー……はいはい、今回はちゃんと守ってあげるから安心なさいって、見てるしかできないんだし。此処でメイドを見捨てれば目を回す事にはならないのでは？　あ、今、ちょっと躊躇しやがりましたね？？？　気の所為よ、気の所為……。
　銀の弓矢の代わりとしてサイコブレイド――射出された剣の行方についての描写は不要か。小賢しい飛び道具ね。塵芥になるまで砕いてやるわっ。サイコブレイドを砕く事は出来なかったが、十分、仕事にはなった。地に縫い付けてやるかの如くに激震、次の矢に関しては考え通りの末路とやらか。盾なんかで防げると思ってるの。蝗みたいな頭してるわね、アンタ――餌と諸共に焼却してやれ。この吐息こそが太陽だ。


　磔にされているのは罪人か、或いは、只の可愛らしいナマモノか。何方にしても｜お友達《ライバル》を死刑囚が如くに扱われたのだ。テディベアの肚綿はぐつぐつと喧しくなる。ｺﾆﾁﾜ……『ディー・コンセンテス・アポローン・アルケー・ヘーリオス』……。珍しくもハッキリとした名指しではないか。これにはマイフレンドも吃驚してしまうに違いない。ﾘｻﾁｬﾝも……ﾅﾉﾙ。ﾘｻﾁｬﾝは、『物部・リサちゃん』……ｱﾊﾟｰﾄにｽﾝﾃﾞﾙ『萌え萌えふわぽこ』なﾃﾃﾞｨﾍﾞｱ……『おとなりちゃん』の『ライバル』……。随分と意識をしているのではなかろうか。呪物に気に入られてしまったメイドの行方や如何に！　お呪いでも呪いでもなんでも良いですから、お願いだから、さっさと助けやがれください！　ぎゃあぎゃあ、わあわあ、此処まで騒々しくされてしまっては、流石の蝗も食が失せる。お前も、お前も、私を前にして、祭りでもする気なのか？　仕方のない連中だ。私は、お約束をするよりも、奇天烈を狙う方がよっぽど、面倒臭いとは思うのだが……！　サイコブレイドが――剣が――新たな触手を散らかし、メイドの靴を脱がせていく。そうして、おっ始まるのは擽りとやらか。な、なな……何しやが……！　これは『煽り』さ、テディベア！　お前が怒りを抱くと謂うなら、お前の本気を私に見せてみろ。『おとなりちゃん』ｶｴｼﾃ……ﾘｻﾁｬﾝの『萌え萌えキュン』な『戦友』……『抹殺』も『擽り』も『許可』ｼﾃﾅｲ……ﾘｻﾁｬﾝ、ｵｺｯﾁｬｳ……ﾌﾟﾝﾌﾟﾝ……ﾑｶﾑｶ……。物部・リサちゃんは決意した。目の前の神を――簒奪者を、滅ぼさなければならない！
　ﾘｻﾁｬﾝとｵﾄﾓﾀﾞﾁ、『総力戦』……『ディー・コンセンテス・アポローン・アルケー・ヘーリオス』ﾔｯﾂｹﾙ……。有言実行！　いつの間にやら存在していた三輪車へと跨り、きこきこ、可愛らしく突撃する。いいや、これは突撃ではない。跳躍からの急襲だ。たとえ、相手が弓の名手だったとしても――夥しい｜友達《コレクション》、ひとつ、ひとつとは狙えない。『三輪車』……で、ｺﾞｰｺﾞｰ、ﾌﾚﾝｽﾞ……。友の友は友である。友の友の敵は、敵なのだ。敵ならば最早、情けなど要らず。有るのは圧倒的なまでの、呪いじみた質量的悪夢。ﾘｻﾁｬﾝのｶｯｺｲｲｷｯｸで……『おとなりちゃん』……『助けた』……。
　……これだから｜怪異《ぬいぐるみ》は！　お前、覚えておくからな！


　メイドは目を回していた。
　仰天、或いは、朦朧である。幾何学模様でも凝視したのか。
　紳士を名乗る連中は――挨拶をしてくれる連中は――ひとりも残さず、厄介な『もの』であったと四之宮・榴は｜記憶《●●》していた。何処かの、怪異的な紳士は勿論のこと、その他大勢な｜影《●》に対してだって、似たようなものだと、頭痛を覚える以外にない。……正直、面倒です……何故だか、頭が痛くなりそうで……。ならば普段通りなのではないか。ならば、常日頃からの不憫ではないか。奇々怪々に連続して、頭からぶち当たり、何度も、何度も、改めていては『そう』なっても不思議ではない。兎も角、お姫様は少しだけ出遅れた。いいや、男の子の方が動きが早かったのだと、そうやって描写しておくのが正解か。弓矢に神気に竪琴……加えて【サイコブレイド】とは、全く。頭痛が感染でもしてしまったのか。まだ、グルグル気分は抜けていない。抜けずとも、歩を進める事で『依頼が完遂できる』なら、それで宜しい。召喚されたのは――決戦型ウォーゾーン――守護神であり善神である『リタ』――目を回していなければ、あのような紛い物……僕にだって……｜俺《●》にだって……！　かちり、蓋を開ければ……コックピットを開けたなら、手を伸ばす準備をしておけ。榴……手伝って……！　不意を打たれたお姫様の反応や如何に。
　……は……はい！？　驚きの声を隠せない。手伝ってほしいと、助けてほしいと、面と向かって口にされたのだ。これは、ある種の成長であり、階段を上る為の切っ掛けとも謂えよう。……機械と相性は良いですが……もぅ……。まったく猫々と、にゃんにゃんと、待ち望んでいる暇はない。いっそ、此方から飛び込んでいかねば勿体ない状況か。……神経接続……は、｜半身《レギオン》と繋がる感覚で……とても、慣れていますから……。蓮の台の半座を分かつ――仏のように坐するのか、仏のように横たわるのか。解脱している場合ではない。……榴、火器、全部任せるよ。ウェポンフルマニュアル。
　お待たせ――生憎と、神殺しも経験済みでね。
　やれやれ、変身シークエンスの時間くらいは『やれた』と思うが、しかし、お前、神は殺せても怪人は――私達は――ご存知の通り、神よりかは『しつこい』のだ。良い音を奏でながら、良い弱音を聞かせてくれたまえ。その耳障りな音色だけは止めさせてもらうよ。最早、神話の戦いだ。天変地異はインスタントに起こされ、地震に限って謂うのなら、脳内だけで再現をされている。……辰巳様は、神殺ししてそうな……家系ですしね？　さて……貴方様、気分は如何でしょうか……？　シェイクなのか、ジュースなのか。描写としては何方も適切で――されど、神は悦びとやらを湛えている。
　海を割ろうが、神を啼かせようが、振盪を強制しようが――私は負けない！　お前が英雄だと謂うのなら、その意思を、その意志を、私の命に届けてみせろ。アッハッハ！　確か、こうやって嗤うのが、良いのだろう……？
　榴――！　悪神が善神の装甲を穿つなど、赦されない。大型の霊剣を構え、震わせ、目と鼻の先の｜大罪《つみ》を滅ぼさんと――！　……辰巳様、これで、最後です……。殴った！　蹴った！　斬った！　計算し尽くされた一撃一撃が、太陽を落としたのだ。
　成程――しかし、おもしろいものを見た。
　感謝をしてやろう！


　目を回しているメイド一匹。なかなか、お似合いなアフロである。
　気落ちしている場合ではないし、太陽は二度と沈みそうにない。穏やかだった混沌に身投げをしてくれた不穏とやら、病みつきなまでに、憑き物どもと付き合ってくれ。ヒーローは遅れてやってくる。いつもいつも、木偶のように、ヒロインを待たせるとは如何なものか。いや、今回の囚われたお姫様は｜ヒロイン《●●●●》と謂うには、些か、🌈塗れだが。……出たな！　聞いてた通り真面目だ！　真面目に怪人をしている、などと、口にされてしまった日には、そいつを完膚なきまでに叩きのめしてやらねばならない。ディー・コンセンテス・アポローン・アルケー・ヘーリオスは能力者を睨みつけ、こびりついた毒気とやらを刹那の内に把握していく。どうもよろしく根源さん！　｜アイツ《●●●》のダチですよろしくどうぞ！！！　何を宜しくしているのか、何を宜しくされたのか。太陽に翳りあり、滾々と、殺意の類が蝗の如く。お前……アイツの仲良しか。しかし、アイツもお前も、類は友を呼ぶなどとは……腹立たしいこと、未曾有と謂えよう。……ご挨拶はもうOK？　十分だ。十分に言の葉を交わしたのだ。故に、此処からは本気も本気。神話の戦いの再現ではなく、真実――今！　良いだろう。お前が望んだのだ。お前が、望んだのだから、私は文字通り『矢』の如くに『剣』の如くに――音の如くに――頓死をさせよう。
　遠距離も近距離もお手の物だ。厄介だね！　『ソレ』もちゃあんと使いこなしてくれそう！　より、正確に描写をするのであれば『使いこなす』のではなく『従える』だ。振り回し、強制し、成程、蹂躙の為の道具として、冒涜的の具現をしていた。お前は最早、死人も同然だ。死人がお喋りをするなど、馬鹿げているとは思わないか――？　はは、見せてよその剣も君の弓矢も！　ワガママ言ってこそ――そして『見せてこそ』だよね？　漁るべきガラクタに底はなく、其処で最も使えそうなものを拾え。丁度良いのは『照準器』かな！　改めてのメビウスリング――撃ち合いっこで拮抗とは、流石は『ダチ』である。ほう……これでも『殺せない』とは……ならば、より、｜強力《●●》に頓死させてくれる。
　頓死、頓死って、蝗みたいにお腹を空かせてない？　じゃあ、行こう。俺も神の名を騙ってあげる。デウス・エクス・マキナ――機械仕掛けの神――大団円を迎える為にも、先制、仕掛けてやるといい。顕現せよ『クロックワーク』……カミサマは二人もいらない。いや、この場合は12人かな？　アダム・カドモン、人間を模倣しているのか。兎にも角にもこの蒸気の渦巻きの最中――太陽は地球を見失った！　お前……私を『偽物』だと謂うのか。いや、成程、私達にとって『その冒涜』は効果的なのかもしれないが――！　痛いのにゃあ慣れてっからね！　腕一本くらいならあげる！　まあ、その後に何が起きるのかはお楽しみだけどね！　あ、でも、メイドちゃんはあげない。撃ち合いからの接近戦、これに関しては読み通りだ。抱くように、受け止めるかのように、電磁とやらを大鎌とせよ。
　死の神の真似事か……随分と、サマになっている。
　落ちろ太陽、落日だ――こんだけ使えば起きるでしょ？
　運が悪い。否、招き寄せたのだ。照準器は｜消滅《●●》し、今に残るのは『最悪』だけ。お前……お前という奴は……アイツと『盟友をしている』だけの事は……！　言わせてやるよ。それじゃあせーのっ！！！　｜蒸気爆発《おやくそく》！！！
　爆発オチなんてサイテーだ！！！