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秋宵Spooky tale

#√汎神解剖機関 #ノベル #秋祭り2025 #🕯️『インターネット』×『写真』

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 照明を落とした真っ暗な部屋に、蝋燭をひとつ灯して深呼吸をする。
 ぼう、と炎の揺らめきにあやしく浮かびあがったのは、オカルト系チャンネルの配信者である三ツ榊・雪(証さずの27時・h00176)。銀色の瞳を細めて、意味ありげに画面の向こう側へ目を遣ってから、相好を崩した彼は気安い口調でリスナーに告げる。
「……はいどうもね、テキトーにゆっくりしてってよ」
 季節は秋。怖い話と言えば夏が本場かも知れないが、『秋の夜長』なんて言葉もある。
 本日の配信はリスナーとの意見交換を踏まえた雑談で、さっそく常連からの挨拶が画面に並ぶ。
『こっちも部屋暗くして見てるー』
『今度こそ何か出るといいね!』
 機材のチェックをした時に異常は見受けられなかったものの、生配信中に変なものが映ったり、変な音が入っていたりしないかなぁなんて、一応期待はしておく。
「前に百物語耐久やった時は、結局何も出なかったっけな……あ、何か異変が起きたらコメントよろしく」
 すっかり馴染みになった面々に加えて、初めての方の挨拶もちらほらと。
 夏の間にアップした、心霊スポット突撃の動画が好評だったらしい。山奥にある廃病院で幽霊を撮る、という企画だったのだが、詳しくは動画を見てくれたらと思う。ついでにチャンネル登録もよろしく、なんて地の文でもちゃっかり宣伝する雪だった。
「あ、近々第二弾を企画していて、その関連で『病院にまつわる怖い話』を募集してみた訳なんだけれども――」
 と、それはさておき。銀の瞳を輝かせつつ、雪はリスナーから寄せられたメッセージを読み上げていく。実際に自分で体験したという話や、あのネタが好きだとか、オススメの怖い話を聞きたいなどのリクエスト。それに感想を述べたり皆の意見を募集したりしながら、和やかに雑談は進んでいった。
「病院と言えば、怪しい高額バイトの噂も昔からあるよね。やったことある人いる?」
 そんな雪の問いかけには、『あんまり聞いたことない』という者もいれば、『友達の兄がやった』『今更のネタだよな』なんて者もいて、其々のリアクションが違うのも面白い。
 好き勝手に反応しても、雪が楽しそうに聞いている雰囲気が伝わってくるのだ。居心地がいい、と言ってくれる常連さんの気持ちも分かる気がする。
「……と、これはオカルトというより都市伝説だけど」
 ホルマリン漬けの死体を洗ったり、わざと骨折したりするバイトの話に触れながら、話題を幽霊寄りに軌道修正。そうしていると、すぐに視聴者からネタが振られた。
『廃病院からカルテを盗む話とかは?』
「あー、後で病院から“返せ”って電話がかかって来るやつね。実際、変な声とか入ってたら良かったんだけど」
 心霊スポットに突撃した時のことを振り返りつつ、雪が残念そうに呟く。
 と――そこで、一部のリスナーが彼を煽り始めた。
『折角なら、勝手にカルテ盗むくらいはやって欲しかった』
『祠壊した時みたいにさ、期待してたのに』
 いやいや。あそこの廃病院にカルテはなかったし、それで仕込みをするつもりも更々ない。真摯にオカルトを追い求めている雪である、が――たまに情熱が凄すぎて暴走する時があるのは、否定できない。
『でも、手術室の台に寝転んだりしてたよね。ここで亡くなった人とか絶対いるでしょって。……あれはちょっとやり過ぎっていうか、罰当たるんじゃない?』
 そんな訳なので、中には雪の「突撃」に苦言を呈する人もちらほらいる。しかし行動を咎めるというよりは、彼のことを純粋に心配している感じだった。
 そこは画面越しでも伝わってくる、雪の人柄が影響しているのだろう。同じ趣味を持つ同志だという、信頼感や連帯感をふんわり感じるというか。ちゃんと耳を傾けているのが分かるので、相手のほうも雪を気遣ったり、そういったことが自然に行えるのだ。
『お札送ってもいいですか? お祓い用に。うちの近所にお寺ありますんで』
『いや、塩のほうがいいんじゃないの。皆で塩送ろうぜ塩!』
 気がつけば、リスナー間で妙なやり取りが始まっていた。まずい、このままでは自宅に塩の山がどっさりと送られてきてしまう。何だその怖い話。
「いや、別に何ともないし。せめて食塩にして」
『でもまぁ、たまに炎上系狙ってる節があるのがねぇ。……祝われればいいのに』
『祝われろ祝われろ祝われろ』
 それでも大半はネタ混じりだ。コメント欄を見れば「呪う」じゃなくて「祝う」で、それと一緒に投げ銭がぽんぽん飛んできた。いいぞもっとやれ、ということか。
 まぁ、たまに羽目を外すのもお化けに会いたすぎるからで、実際は後でちゃんと、丁寧に丁寧に謝っている。その様子はサブチャンネルで配信していて、結構好評だ。
 と、そのまま話題は、雪の心霊スポット突撃のことになる。そう言えば動画を上げてから、すごく盛り上がっている風だった――違う方向に。

『散々ヤバいと思わせて何もなかったとか、最高にウケた』
『“今度こそ出たかも”って、病室の窓見てはしゃいでる姿が可愛かった』
『幽霊じゃなくてビニール袋だった、っていうオチ込みで最高! そこだけ何度も繰り返して見てるわ』

「お、お前ら勝手なこと言いやがって~……!」
 そう。あの時は、ついに幽霊をビデオカメラに収めることが出来た、と思ったのに。
 その正体は何てことのない、ビニールのゴミ袋だったのだ。
「はは、やった……」からの「うああぁまじか」の表情は、自分で見返してもギャップが酷すぎるなと思う。
 このままだと延々ネタにされて弄られるだろう。が、最後まで配信を続けなければ。
「なんで、あの後に心霊写真も募集してみたんだが――お前ら……、」
 送られてきた画像をモニターに表示する。
 そこにあったのは心霊写真――ではなく、道端でぐだーっと寝そべる猫の写真だった。

「……幽霊じゃなくて、ただのにゃんこじゃねーか」
 誰だ、これ送ってきたのは。可愛いけど。お腹出してるところとか特に!
『ビニール袋撮るよりマシだろw』
 あっ、ひどいコメントがきた。クズ系に憧れている雪だろうとこれは傷つく。
『これ、猫の幽霊じゃないんスか?』
「んな訳あるか。すごくはっきり映ってるよね、カメラ目線で」
『猫を馬鹿にするな。猫を馬鹿にする配信主は祟られろ祟ら祟祟祟たageivfomkbb』
 ついでに気色悪いコメントも湧いた。文字が途中でおかしくなってるのは、猫がキーボードに乗っかりでもしたのだろうか。

 ああ、何故だ。オカルトの話題で盛り上がるはずが、段々変な方向になってきた。
 ちっとも怖くならない。だけど怖い話ってそんな時もあるよなぁ、と雪はふと思う。
「……百物語でもあるよね、気が抜けたようなオチの話って」
 箸休めのような、息抜きのような。「恐怖の味噌汁」や「悪魔の人形」、そんな話がたまに紛れ込んでいても、いいじゃないか。
 強引にそう結論づけて、ふうとため息を吐く。気がつけば終了時間が迫っていて、雪を弄るようなコメントが落ち着いたところで、あるメッセージが目に留まった。
『こういう回もありますよ。とても楽しいです。これからも頑張ってください』
 そう、こんな風に、そっと優しい言葉をかけてくれる視聴者もいるのだ。
「なんだ、その……ありがとな」
『幽霊、会えるといいですね。お待ちしていますね』
 口の端をかすかに上げて、雪が礼を述べる――と、その笑みが、途中で固まった。
 何だかちょっと、文面がおかしいような。あ、もう時間だ。
(――――あ)
 お待ちしている、って……どこで? 何を?


 後日。雪の雑談配信を見ていたリスナーの間で、こんなやり取りがあったという。
『この間の配信、すごく楽しかったんだけどさ、』
『あー……でも最後、ちょっとおかしくなかった?』
『お礼言って終わるところ?』
『あそこ、不自然な間があったよね』
 そう言えば、急にコメントの表示が重くなって、送信もできない感じになった。だけど雪は“誰か”のコメントを見て、それに返事をしているような素振りをみせた――。

『やっぱり、|何もコメントされてなかった《・・・・・・・・・・・・・》よね……?』
 嫌な間が空く。少し時間を置いてから、返事があった。

『あそこ、さ。誰もいないところに向かって喋ってるような、変な感じがしたよ』
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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