涼風
「やあ。隣、よろしいかな? ちょうどよく『空いている』ようだが」
初手がこの言葉から入るのはどうなのだか。
たまたま入った甘味処で知った顔に居合わせる。可能性無きにしもあらず。
白色の、見覚えのある男。あれはそう――最近だと衣類に塩もみをした記憶がある――『それ』に関わる。
「あー! いつぞやの!」
指差す先、サイダーとぜんざい片手に白い者。返事を待つことなく矢神・疾風の隣に座り、長椅子を軋ませるは略・メルクリウスである。長いからね。
「此度も奇妙な事件に巻き込まれたと聞いた。お疲れ様だ」
厳密に言えば案内したのは彼ではなく、同僚の『胡散臭さ同等の|オッチャン《・・・・・》』だが、疾風を労る気持ちは十分にあるようで。……毎度、自分とその同僚が妙なことに巻き込んでいる自覚はあるのだ。
人間態だが特徴ある姿。脚を組めばベンチがぎしっと音が鳴ったがまだ大丈夫だろう、たぶん。男性二人が並んで甘味を食べているというのは外から見ればどうだかな話でもあるがそれはそれ。
「その後どうかね、叱られはしなかったか」
「あはは。しばらくぬめぬめと塩はごめんかも――家族に白い目で見られたな!」
それに、塩が傷に滲みたし。からから楽しげに笑う彼と、甘味に舌鼓。この店名物のもちもちの白玉ぜんざいを口に運び、その甘さとほんのりとした塩気を楽しむ。ようやく陽が荒ぶる事を忘れてきたこの頃、日除けされていればそこそこの涼しさ。それに足す、よく冷えた甘いもの。
「アッハッハ。それはすまない。そのうち、また世話になるかも知れん」
「またぁ? どんだけ穴空いてるんだよ!」
「空けられているのを詠むのが得意なのさ」
もちろん、冗談ではあるが。二度あることは三度、仏の顔もなんとやら、ついでに言えば長く続けば『お決まり』となるわけだ。「n回目」という表記で誘われなければいいなとぼんやり思う疾風である。
「ともあれ報酬は確りと。生憎金運がないもので、品で済ませて申し訳ないが」
そう言い差し出されたのはサイダーの瓶だ。そういえば先程、二本手に持っていたような。最初から、疾風の姿を見て店に入ってきていたのだろう。用意周到と言うべきか、ともあれ受け取らぬ理由なし。
「乾杯」
秋の始まりのサイダーだ。からんと打ち付けての乾杯、炭酸のはじける音に、中でビー玉が転がる音……目前を薄らと横切る、規則正しく並ぶ鱗。涼風を運ぶにはああ、ちょうどよい。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功