アゲアゲ☆サマータイム2025
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水着コンテスト、お披露目会場のステージ袖。
夏の装いに身を包み、|薄羽《うすば》・ヒバリ(alauda・h00458)は着こなしを最終チェック。
「髪よし、メイク良し、着こなし良し……完ぺき!」
姿見を覗き込み、ヒバリは目を輝かせた。
生地にはホログラムをふんだんに使用し、夏の煌めきでヒバリの魅力を引き立て。
猫耳キャップに合わせた、猫のしっぽは彼女の機微に合わせて丸まる。
夏らしいポップさが、義耳の軽やかな雰囲気とよく馴染む。
(「てかてか、周りの子もかわいくない? あのサマードレスとかガチお姫様じゃん、私までめっちゃアガる~~~!」)
お洒落は心の栄養――今は亡き父の言葉は間違っていない。
だって、見ているだけで、身につけただけでこんなに元気が湧いてくる!
そわそわと視線を巡らせるヒバリだが、まもなく自分の番だと気付いた。
心臓が飛び出しそうなほど、強く鼓動する――だが、緊張によるものではない。
(「私が、モデル役……夢なら醒めないで!」)
しかし、義耳に届く大歓声で『これは現実』だと伝わってくる。
ついに自分の番だ――強い日差しがスポットライトのごとく、彼女を照らす。
「わぁ……!」
ランウェイを囲む観衆に、ヒバリは息を呑んだ。
楽しげに笑みを浮かべ、ハイヒールを鳴らしながら歩きだす。
陸上部で鍛えた脚は、シルエットしか見えないものの、健康的で引き締まったモノだと解るだろう。
「ウェーイ! みんな、楽しんじゃってる~?」
客席に手を振れば、オーディエンスも応じて拳を突き上げる。
ビーチから吹き上がる潮風も、噎せ返るような熱気も物ともせず、見目麗しい一夏の妖精に彼らは魅入られていた。
その中には、うっかり紛れこんだらしい一般ギャル達の姿も。
「ちょーかわいくね!? スタイルも良すぎ、同い年くらいかな」
「髪ヤッバ! あんな長くてうる艶とか……つーか、こんなイベやってるとか知らんし!」
憧憬の眼差しを向ける彼女達にヒバリが気付くと、
「そっちもエンジョイしてるか~!」
ポージングしてシャッターチャンスを演出。
無数のシャッター音が飛び交う中、慌ててスマホで撮影した姿を見届ける。
そして、折り返してからスマートに歩を進め――脚を止め、キャップの鍔に手をかけ振り返った。
「お洒落☆サイコー!」
しっぽが上向き、満面の笑みを浮かべるヒバリに『サイコー!』と観客も声を大にする。
ヒバリがステージ袖に戻った直後、
(「……やっぱ、お洒落しか勝たーん!!」)
家の外では肯定されなかった反動か――拳を握り締め、歓喜に打ち震えていた。
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ステージ出演後、興奮も冷めやらぬままビーチに繰り出す。
ヒバリは弾むような足取りを止め、空を見上げた。
「めっちゃ楽しかったぁ! バイブスあげみざわでヤバすぎ、後で写真送ってもらお」
スマホをいじりつつ、海の家はどこかと探し始めたとき。
「あ、さっきの人じゃん!」
迷いこんだ一般ギャルはヒバリを見つけると、頭の先から爪先まで観察し、
「っぱ顔面エグいわ、強すぎー。ねえ写真いい?」
うさ耳付きのスマホをヒバリに向ける。
過半数は困惑するか、不快感を示しただろう――だがそうでない者もいる。
ヒバリがその一人だ。
「えーマジマジ!? ガチ気合いれてきたからさぁ、自撮らなきゃ損損~的な? 一緒に撮ろうZE☆」
快く承り、ヒバリと一般ギャルは海辺を背景に、ハンドサインをキメ♪
レギオンを飛ばして空撮も始めると、賑やかな様子に目を向けた者達も、ヒバリがステージにいた一人だと気付きだす。
「あ、あの! わたしも写真撮りたいのですが……!」
「じゃああーしも撮りたーい! コーデ参考にさせてっ」
あっという間に人集りができてしまい、ヒバリは目を丸くさせる。
それだけ、自分の“お洒落”が認められたことでもあり、
「なにこれ!? ハリウッドセレブ緊急来日みたいな? とりま順番、順番に撮ろ!」
大勢の来場者と撮影する間、心の底から楽しい時間を過ごせた。
自分らしさを貫く、というのも大変なのだ。
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昂揚した気分が落ち着いて、気疲れが出てきたのか。
海の家を見つけるや、自然と足が向く。
店内は80年代のマイアミをイメージした、大胆な色使いによるレトロポップな内装。
色合いがゴチャついているようで、不思議と統一感のある空間になっている。
カウンター席へ通される途中、テーブルに並ぶ料理がヒバリの視界に映りこむ。
(「電球にジュース? 色もめちゃケミカってるし、パフェもきれー……気になりすぎる!」)
席につくと、メニュー内から特定すべく、料理名をじっくり観察していく。
どうやら電球ソーダと、シーブルーパフェなるものらしい……注文を済ませてから、店内に視線を巡らせはじめた。
√ウォーゾーンなら実用性を優先し、機械部品に再利用されそうな代物ばかり。
「じゅーくぼっくす、だっけ。置き場所に困るけどめっちゃイイ、ネオンも雰囲気あるし……なんか“カッコイイ”かも?」
上手く言葉にできなかったが、この空間には魅力がある――それさえ解ればいっか、とヒバリは店内BGMに耳を傾けた。
数分して、ヒバリのオーダーが目の前に並ぶ。
電球ソーダは、ハート型に曲がったストロー付きで、オレンジソーダが透けて目でも楽しめる。
シーブルーパフェは、オーツ麦で砂を再現し、グラデーションがかった青いクラッシュゼリーと、生クリームで層を作っている。
塩バニラと一緒に添えられた、お口直しのクッキーは、海の仲間のシルエット。
「これ、店長からサービスです」
揚げたてのフライドポテトを出されたが、理由も解らず首を傾げると、
「うちの良さが解るなんていいセンスだ、って」
店員がこっそり打ち明け、そのまま厨房へ戻っていく。
呆気にとられるヒバリだが、イイものをイイと思っただけ。
折角のご厚意は受けておこうと、スマホを取りだす。
まずは電球ボトルを頬に添えて、小顔効果を狙いつつ自撮りを一枚。
ソーダの水色を肌が反射し、より白さを際立たせた。
「んん~~~~めっきゃわ! ボトルを電球っぽくするとか、映えの天才か~?」
不思議に思いつつ、シーブルーパフェにもレンズを向ける。
魚のクッキー、美しい海を思わすゼリー、波打ち際を思わす断層。
ああ、こんな夏もあった――写真を見返したとき、記憶の海から思い出が浮上してくるだろう。
「食べるのがもったいないって、よく解んなかったけど……今ならちょー解る。崩したくないけど、写真は撮れたかんね」
意を決して、パフェスプーンでひとすくい。
塩みの効いたアイスと、蕩けていくゼリーが口いっぱいに広がる。
(「美味しー! 夏コーデで海の家に来られるとか、数年前の私が聞いたらびっくりするよねー」)
緩む頬を手で押さえると、肘に小皿が当たる。
熱々のフライドポテトから湯気が立ち、ほのかなコショウの香りが、食欲をそそってきた。
「これも撮っとかないと、だよね~。お皿もイケてるし!」
――パシャ!
画像フォルダに収めた写真は、今日だけで何十枚になっただろう?
お洒落をひたすら楽しむだけの一日。これ以上ないほど、贅沢な日。
「こんな楽しいイベなら、来年も参加するっきゃないっしょ!」
次の夏に思いを馳せつつ、お腹も心も満たしていく。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功