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黒猫骨董店とはじめてのお客様

#√妖怪百鬼夜行 #ノベル

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見下・ハヤタ
ねこのおじさん(h06554)との合同ノベルですー、よろしくお願いしますー。
(動物と会話する、技能を持っている相手以外にはただの犬です。しゃべりません。描写は最低限で大丈夫です)

今日もだっそうちゅうです!ふらふらときままにあそびに来ましたけど……。
あれ、ここ、見おぼえがあるばしょですー。
なんか、ごしゅじんと来たことがあるようなー。
ふんふん、かいだことあるにおいもします!よーし、今日はそっちにいってみましょうー。

あ、ねこのおじさんだ!ごしゅじんが、このひとは恩人なんですよーって言ってたから、おぎょうぎよくせっします!
こんにちはーこんにちはー、あれ、このおねーさん、……おねーさん?どちらさまですかー?ねこのおじさんのかのじょさんですか?
うん、ちがうの?なるほど、なかよしさんなんですね。おねーさん、なんかふしぎなにおいとけはいですね??
でも、わるい人じゃなさそうですし、ぼくとも仲良くしてくれると嬉しいですー。

ちょっとぼく、疲れちゃったので、きゅうけいさせてほしいですー。てきとうな時間にかえりますので、おきづかいなく!
あ、おみず!助かります。んーおやつは、ぼくのこの風呂敷のなかに入ってるので、出してもらっていいでしょうか。
おちゃかい?はよくわかんないですけど、のんびりして、たのしーですねえ。

 √妖怪百鬼夜行に存在する雑貨屋「黒猫骨董店」は、此処に看板を掲げてからしばらく経つが未だ準備中の侭、営業している処を見た者は居ない。
 ――と云うのも深い理由がある訳ではなく、店主が自らの気の向く侭に好きなモノを集めて、集めて、集めている内に店内が混沌の様相を見せ始めたからである。
 店主一人で過ごしている内はそれでも良いかと混沌の成長を見て見ぬ振りしていたが、或る日突然昔馴染みの悪友が居候として転がり込んできた。
 悪友自体も何方かと云えば混沌の中で生活していたタイプだが、折角二人で暮らす様になったのだし、少しは〝人間らしい〟生活をしてみても良いのではないか、と相成ったのだ。

 そして、気温も過ごしやすい位に落ち着いた頃、からりと晴れた或る日。

 店主であるイヴォシル・フロイデ(|鷹追い《たかおい》・h06554)とその居候ノイル・S・リース=ロスは、混沌から宇宙が生まれる前に、店の在庫整理のついでに骨董品の虫干しをしていた。
 人の子供程の体格をした二足歩行の黒猫と、毛先だけが白い黒の長髪に服装すらも全身真っ黒の女性がのんびりと店内と店先を行き来している。
 二人共、一般的な『ヒト』と比べて時間の感覚が大らかなので出来る分だけやれれば良いか、の精神である。
「……おや?」
 店の前に布を敷き、古い品を並べる。そんな作業をしている途中、二人の視線が同じ場所で止まった。
 少しの沈黙が落ちた後、視線はその侭にイヴが語り出す。

 ……そういえば昔、商品の買い付けの帰りにね。
 瀕死の女性を拾ったことがあるのだよ。
 その女性は腹部に大怪我をしていて、骨も内臓もボロボロのようだった。
 まあ、幸い√能力者だったので、しばらく安静に休ませたら回復したんだがね。

 ノイルが「それは大変だったね」と視線を動かさない侭頷く。
「何が言いたいかというと、まあ、その女性がたまに、礼と称して季節の変わり目なんかにあいさつに来てくれるんだがね」
 金の瞳と黒の瞳が、もう一つの黒い瞳と見つめ合っていた。
 困惑と、観察と、笑顔。
「こないだ黒い仔犬を一緒に連れていたんだ。……うん、その時の仔犬だと思うんだがなあ。この、今私たちを見上げてしっぽを振り回している犬」
「わん!」
 へっへっへと舌で呼吸しながら知った匂いに顔を輝かせている黒柴の仔犬、見下・ハヤタ(弾丸黒柴号・h07903)が元気よくお返事する。
 警戒心など欠片もなさそうな様子で、巻いた尻尾が左右に揺れていた。
「いやぁ、可愛らしい子だねぇ……普通のわんこだ」
 普通のわんこもいるんだなぁとハヤタの顔を覗き込むノイルと、ハヤタに視線を合わせてしゃがみ込むイヴ。
「普通の……まあ普通か」
 ノイルの言葉に少し引っ掛かりを覚えたが流して、イヴはハヤタに問い掛ける。
「君、飼い主はどうしたんだい、飼い主は?」
「わふ」
「……なるほど、脱走中。名前は……なんだったかな。失礼、首輪のタグを見せてくれたまえ。なるほど、ハヤタ」
「わん!」
 タグを確認するのに伸ばしたイヴの腕の中に嬉しそうなハヤタがびよんびよんと飛びついてくる。
「……なぜ飛びついてくるのかね、君は。抱き上げろと」
 やれやれといった様子でハヤタを抱いて立ち上がるイヴを、にっこにこのノイルが見守っているとそちらにもため息混じりに釘が刺された。
「ところでノイル。口に出さなくても、その『もふもふがもふもふを抱っこしている……!』と視線がにぎやかなのだが」
「えー、バレてる。だってすっごいもふもふだもん」
 ゆるゆるの返事をしながらノイルはハヤタの鼻先に白い手を差し出した。
 初めての匂いに興味津々なのかハヤタは熱心にノイルの手を嗅いでいる。
「君も撫でるかい? 柴犬のわりになつっこいから、噛んだりしないと思うが」
「えっ……!?」
「はっはっは、そんな『どっちを……!?』みたいな顔をされても困るんだがね?」
 柴犬って云ってるだろう、と笑顔で返してくるイヴにノイルも笑顔を返す。
「可愛い冗談じゃないか。黒猫も撫でて良いなら無でるけど」
「はっはっは、今は遠慮しておくよ」
 適当な言葉でじゃれ合った後、ノイルはハヤタに差し出した手でその侭かしかしと顎裏を撫でた。気持良さそうにハヤタの眼が細くなる。
 その間にイヴが腕の中のハヤタに「違うよ」と何某かの否定をしているのを見て、ノイルは首を傾けた。
「イヴ、君もしかしてハヤタくんと会話成立してる? 身も心ももふもふになったの?」
「身はともかくとして心ももふもふとは……? そういう技術があるんだよ。君も習得すれば話せる様になるさ」
 イヴの返答にノイルはぱっと顔を輝かせた。
「そうなの? やったー私も君とお話ししてみたい」
 両手でわしわしとハヤタのほっぺを撫でるノイルを見ながらイヴは眼を細める。
「さて」
 イヴは抱いていたハヤタを地面に下ろすと肩掛け鞄に手を伸ばした。
「ノイル、せっかくだし店の前にテーブルを出して、お茶でもしよう。お客さんも少しお疲れのようだし、もてなそうか」
「お、お茶会だ。賛成。……そうか、じゃあ君お客さん第一号だね。いらっしゃいませハヤタくん」
 地面に降りてふるふると身体を震わせたハヤタの鼻をノイルがつつく。
「わふ?」
「この辺りで良いかな。ノイル、少し商品を寄せてくれないか」
「はいはーい」
 イヴが鞄の口から大きさも容量も見合わないサイズのガーデンテーブルや椅子を取り出しては店先に設置していく。
 ハヤタはどんどん物が出てくるのが興味深いのか、イヴの傍らで手元を見上げた侭すんすんと鼻を鳴らしていた。
 イヴがテーブルの上に茶器をセットするのをノイルも興味深そうに眺める。
「何度見ても熱々のお茶が入った状態のポットが鞄から出て来るのドキドキするねぇ」
 便利だろう、と笑いながらイヴはハヤタを見遣る。
「ハヤタには、水と……」
「何かわんこが食べられる様なものあったっけ?」
「わんわん」
 水差しと陶器の深皿を出した処でハヤタのおやつを思案する二人に、ハヤタ自身が自分の背負っている風呂敷包みを主張した。
「なるほど、自分の食べるものを自分で持参してくるタイプの犬。初めて見た」
「賢い子だねぇ……冒険慣れしているとも云える」
 此の子のご主人大変なのでは、思いを馳せるノイルとハヤタの荷物を確認するイヴ。
「ちょっと失礼するよ、このジャーキーでいいかな」
 イヴが取り出したジャーキーの包みを見せると、「それです!」と云わんばかりにハヤタの顔が輝いた。
「では、どうぞ」
 深皿に注いだ水とジャーキーをテーブルの足元に置いてやると、ハヤタはまず水に口を付ける。
 そしてぺしゃぺしゃとひとしきり喉を潤した後、テーブルの影に伏せって美味しそうにジャーキーを噛んだ。
 その様子を見守って、お客さんが落ち着いたことを確認するとイヴもテーブルに向き直る。
「さて、ノイル、私たちもお茶を飲もう。焼き菓子ならあるよ」
 イヴはそう云って丸いポットから繊細な細工のあるティーカップに紅茶を注ぎ入れた。
 追加で鞄から取り出したバスケットからは豊かなバターと甘い香りが漂っている。
「ふふ、ありがとう。いただくね」
 ノイルはカップを受け取ると、バスケットの中からフィナンシェを摘み上げた。
 涼やかな風がふわりと紅茶の湯気と香りをさらっていく。
 イヴもカップに口を寄せながら微笑んだ。
「ふふ、たまにはこんな珍妙な茶会もいいものじゃないかな」
 奇しくも〝黒〟揃えになったお茶会は穏やかだ。
「そうだね、こんな可愛らしいお客さんならいつでも歓迎だよ」
 ノイルがテーブルの下を覗き込むと黒髪がさらさらと流れ落ちた。
 気配を感じたのか、ハヤタが前脚にジャーキーを抱えた侭ノイルの方に顔を上げる。
 それにひらひらと手を振ってからノイルは姿勢を戻した。
「外でお茶するのも気分が変わって良いね。今は丁度気持ちの良い季節だし」
「特に此処は四季のはっきりしている世界だからね……もう少し秋深くなって来てからも、紅葉や花の香りが趣深いよ」
 それは楽しみだ、とお茶を啜るノイル達の足元で、ジャーキーを食べ終わったのかハヤタが立ち上がる。
 んーっと前脚、後ろ脚を順に伸ばして身体を震わせ、最後に水を一口。
「おや、お帰りかな」
「わん!」
 それに気付いたイヴが声を掛けるとハヤタは応える様に返事をした。
「残念だけど……そうだね、ご主人を心配させると良くないし」
 ノイルがそう呟いてから「あ」と何かに気付いたように立ち上がる。
 ひらめく長いスカートのポケットを探って、取り出したのは手のひらに納まるような小さな黒。
「今日の記念に、持っていって」
 ノイルはそれを見せる様にしてハヤタの前にしゃがみ込んだ。
 つるりと角の取れた滑らかな小石。モノとしては黒曜石だろう、深い黒色をしている。
「ノイル、君ポケットに石を入れているのかい?」
「やめてよ、私を幼児でも見る様に見るのは」
 違いますーと云いながらノイルは小石をハヤタの鼻先にちょんと当てた。
「変なモノじゃないよ。金銭的価値も魔術的価値も大してない、本当に唯の小石さ」
 だから要らなくなったらその辺に捨ててね、とハヤタの風呂敷の中に放り込む。
「くーん?」
 ハヤタは何かを確かめる様にその場でくるくると回っていたが、納得したのかぴたっと止まってイヴとノイルの方を見た。
「わん!」
 そしてその一鳴きが恐らく別れの挨拶。すぐに店に背を向けてたったか駆け出して行く。
「気を付けてねー」
 尻尾の揺れる後ろ姿に声を掛けてノイルは立ち上がる。
「さぁて……お茶飲んだら私達も続きやりますか」
「そうだね、広げた以上片付けなくては」
 二人はテーブルの脇で柔い日光に照らされている古書や木箱を見遣った。
 これをまた仕舞う作業については一旦眼を瞑る。
「また外でお茶したいね。……あ、夜にお酒呑むのも良いかも」
 そろそろ月見の季節だし、と楽しげなノイルにイヴは眼を細めた。
「月見酒か。前に君に聞いた日本酒をゆっくり呑むのにはぴったりかもしれないね」
 探しておこう、とイヴは紅茶を飲み干したカップをソーサーに置いた。


 ――黒猫骨董店。まだまだ秋は抜けられず、春夏秋冬、準備中にて。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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