シナリオ

果花香る夕映え

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 額縁の中で微笑む少女は、果花香り立つ南国の夏を連れていた。からりと晴れた青空の下、風のそよぎにプルメリアとなにか甘酸っぱい果実が薫り、程よい陽射しと熱とに満ちた気持ちの良い夏だ。でも、焼けつくような炎天下はあまり似合わないかもしれないね。肩幅を超える鍔広のストローハットの日陰に小柄なその身を護る真っ白い彼女。たとえどれだけ陽射しへの対策が万全だろうとも、苛烈な陽射しの下を歩かせることなんて、周りが許さないだろうと思えた。陽の上り切る前か傾いた後か、快適な気候の中を周囲の皆に温かな眼差しで見守られながら散策している小さな令嬢、彼女はそんな趣だと思う。
 愛らしいワンピーススタイルの水着は、遠い水平線に沈む夕日を返して燃え上がる、凪いだ海が湛えた橙色。同時、水平線に近く揺蕩う薄雲が薄紅に染まり、水平線で境を失くした海と空とが描き出すグラデーションがそこにある。或いは美しく作ったモクテル、例えばパッションフルーツジュースとハイビスカスティーで層を描けば、こんな彩りを見せてくれるかもしれない。いずれにしても、瞬きをすることが、触れることが躊躇われる様な、ほんの刹那の儚い彩りと言うその印象。真白く可憐な彼女の雰囲気がそれをより濃くしていることには疑う余地がない。そうして彼女のその白ゆえに彩際立つ儚く温かな色の移ろいは、波打つ裾に真白い小花を揺蕩わせ、彼女の年に相応な清楚な愛くるしさを引き立てている。
 それにしても美しい色だ。実際、いつもは深く青い瞳が、水着と同じ色の移ろいと花の揺らぎを映しているあたり、きっと彼女自身がこの色彩を愛おしみ、楽しんでいるように思えた。愛らしくも今日は何処か悪戯っぽく見える笑みを眺めていると、小脇に抱えたビーチボールで遊ぼうと誘われている様な気になってくる。いつもと違ってふたつに結わえた髪の、逸る心を映すかの様に靡く毛先の軽やかさに促される心地で、もし目の前にいたならば了解してしまうかもしれない。白雪の様な彼女が夏の陽射しに溶け消えてしまわぬ様に、見守りがてら、束の間の遊び相手を買って出るのはきっと僥倖だ。
 動ける靴かと足元に目を遣って、小さな踵で確りと結んだリボンを見てふと思う。海の彼方に陽が沈む頃か、或いは空を覆った花火が消え入る頃か、いずれにしても、彼女はきちんと己の刻限までに白い砂浜を後にするのだろう。シンデレラの様に靴を落とすことはなく。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

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