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酔っ払いの変化指南

#√妖怪百鬼夜行 #ノベル

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 ある日の夕暮れ、櫃石・湖武丸(蒼羅刹・h00229)は河川敷に立っていた。
「よく来てくれたな」
 腕を組んだまま、湖武丸がそう声をかけると、先日遭遇した者達――タヌキとイタチの妖怪二人は、早速表情を歪めた。
『チッ……やっぱこういうことかよ』
『しょうがねえ、相手になってやる……!』
 眉間に皺を寄せるようにしながら、身構える。二人は先日、酔っぱらって暴れていたところを湖武丸に鎮圧された経緯がある。何の因果か、今そのリベンジマッチを――。
「待て、何の話だ?」
 今にも戦闘が始まりそうなそこで、湖武丸は掌を突き出して妖怪二人を制止する。
『はァ? 今更何だよ』
「誤解があるようだが……今回はお前に頼みがあって呼んだだけだ」
 改まった様子で、彼が口にした、それは。
「俺に、変化の術を教えてほしい」
『……はあ?』
 再度、妖怪達の疑問の声が響いた。
 湖武丸がこんなことを頼んでいるのにはもちろん理由がある。√能力者達を待ち受ける試練は、いつも単純な殴り合いというわけではない、仕事において潜入が必要になった時など、変化の術が活躍するシーンは無数にあるだろう。
「俺はまだ新人ではあるが、警察になったのでな。お前やイタチが捕まらなかっただけよかったと思うことだ」
『知るかよそんなもん……』
 顔を顰めたタヌキが率直にそう答える。教えてやる義理などひとつもないのでは?
 だがそんな態度に対し、湖武丸は双眸を細める。
「お前達が喧嘩で吹き飛ばした俺の刺身。……刺身」
『こいつまだ根に持ってんのか……』『おい、教えてやれよ……』
 ばつの悪そうな様子でイタチもそう促して、タヌキは渋々それに頷いた。

「よし、では教えてもらおう」
 まあ、とにかく話はまとまった。湖武丸は改めて背筋を伸ばす。化ける際に妖力を使うのはわかるのだが、どうしたものかと問う彼に、タヌキは深くため息を吐いてから、コツを伝授し始めた。
「大事なのはイメージ……なるほど、想像し易いのは子供の姿だな」
 まずは第一歩として、自分の過去の姿を頭に思い浮かべる。昔のこととはいえ飽くまで『自分』、根本的な肉体の構造は今と変わらぬのだから、やりやすくはあるはず。タヌキに言われた通り、妖力を流し、イメージを明確に描き――。
 どろんと煙が上がって、湖武丸は子供の姿へと変身を遂げた。
『おお……思ったより筋が良いな』
「ふふん、子供のおれのすがたは可愛いだろう。性別もよくまちえられたものだ」
『コメントに困るんだが……?』
『まあいい、次は別の種族にでも化けてみろ』
 タヌキに言われて、湖武丸が次に思い浮かべたのは猫の姿。なぜなら、そう。猫が好きだからだ。
 そんな呟きはやがて低く濁り、同時にふわりと毛並みが現れ、しなやかな四肢へと変化する。背を反らして伸びを打ち、尻尾をゆらゆらと動かした彼は、にゃあと一つ鳴いてみる。
『ふむ、立派に化けたもんだ』
「問題はなさそう……か? 鏡を持ってくればよかったなあ」
 猫が成功したなら次は、何かと便利な鳥である。偵察に使うなら、サイズとしてはスズメくらいが丁度いいか。ただ、それでももう少しかっこいい方が良い――と、思考を巡らせた湖武丸は、今度は藍色のセキレイへと変化した。
「うまくいったか。だが……これは、練習が必要だな」
 早速翼を振ってみるが、羽で飛ぶ感覚はそうすぐにわかるものではない。だが、まあ、その辺りは努力で何とかなる範囲だ。
「酒が入っていないと随分マトモじゃないか。礼に飯をご馳走しよう」
『ああ……』
『なら焼き鳥が良いな』
 とりあえず目的は果たせた――満足げにはばたくセキレイの様子をじっと見て、妖怪達は思わずそう答えていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

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