お手伝いの秋
風が秋の香りを運び始めた九月の事。ルイ・ラクリマトイオ (涙壺の付喪神・h05291)の目に、道端で何やら困ったような顔をしている女性が目に留まる。
「あの、何かお力になれますか?」
涙壺として数多の女性の感情を受け止めて来たルイは、その気質ゆえ困っている人を放っておくことが出来ない。
「わたくし、この店の店長をしているのですが……実は猫の手も借りたいくらいに大忙しで。」
「涙壺のルイと申します。良ければ私を使って下さい。」
こうしてルイは店の手伝いをすることになった。
アンティークな外装と同じように、内装もまたどこか懐かしい空気が漂っている。ディスプレイされた帽子の数々は、ファッションに興味のあるルイも良く見かける物たちばかりだ。一つ頷いた所で、早速来店を告げるベルが鳴る。
「いらっしゃいませ。」
店長も他の店員も、帽子作り体験をしている客につきっきりのようだ。だから代わりにルイが、今し方来店したばかりの女性の元へ足を運ぶ。
「こんにちは、何かお探しでしょうか?」
「ええ、実は今度、彼とハイキングに行くのですが……。折角だから新しい帽子を買って行こうと思って。」
「とても素敵ですね。イメージはございますか?」
「あまり可愛すぎない物がいいわ。日焼けも気になるから、対策出来る物。」
店内に置かれている帽子の数々を眺め、ルイも思案をする間があった。
「でしたら、バケットハットはいかがでしょう?」
日焼け対策ならスダレハットが良いだろうが、彼氏とのハイキングデートならある程度ファッションに組み込める物が良いかもしれない。
「はい、バケツをひっくり返したようなデザインで、カジュアルな洋服にも合いますので、ハイキングにぴったりだと思います。」
普段は役に立つことの少ない分野かもしれない。それでも自らの興味のある分野で役に立てることは素直に嬉しいと感じる。
「バケットハットでしたらこちらになります。お色も豊富ですので、ゆっくりご覧ください。」
「ありがとうございます。とても助かりました。」
彼女からの礼を受け止め、ルイは胸を撫でおろす。一人目は無事に接客できたようだ。
それからというもの、次から次に訪れる客の相談に乗り、時にはメイクのアドバイスをしていたルイは、時間の経過をすっかりと忘れていたようで、店長に肩を叩かれて漸く接客の手を止める。
「お疲れ様です。こちらも何とか終えることが出来ました。」
「私もとても楽しませていただきました。」
「最初にお話しした通り、タダ働きとは言いません。良ければうちの店の帽子をいくつか持って行って下さい。」
店長からの申し出に、ルイは下げていた手を胸元に挙げ、何度も振る。
「気が引けるのであれば、私からのプレゼントと言うのはいかがですか?」
「……給金代わりに、いただきますね。ありがとうございます。」
ルイからの返事に安堵の息をこぼした店長は、早速と言わんばかりに棚から帽子を取る。彼女の手には赤いベレー帽と灰色のニットキャスケットが握られている。
「これはベレー帽とニットキャスケット、ですか?」
「はい、秋の紅葉の色のベレー帽。冬の灰色のニットキャスケット。」
「どちらもファッションにも取り入れやすく、ぴったりだと思ったんです。」
どうやらルイと客の話を聞いていたようだ。ルイがファッションやメイクに興味がある事を知り、組み合わせのしやすい二つを選んだのだと話す。
「お話、聞かれていたのですね。少し恥ずかしいですが、ありがとうございます。大切にします。」
秋の気配が濃くなる季節。受け取った二つを大切そうに抱きしめ、ルイは眦を緩めては笑った。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功